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2012年11月2日金曜日

付けにくい句

   宗祇『吾妻問答』 日本古典文学大系 連歌論集 俳論集、岩波書店

問 付けにくき句とて当世嫌ふ事侍るは、いかやうの句に候哉。
答へて云はく。
吉き句も前より事つまりて更に了簡なき時も侍り。又、難句も様によりて、中々それにひかれて、上手の一興を付け出だす事も侍れば、必ず嫌ふべからず。砌公などは更に前の善悪を申さざりし人成。前句を嫌ふは、かなはぬ方よりの事成。但し、又取り込みて理聞こえず、或はてには違ひなどして、付けにくき事もおほく侍るべし。さ様の句には、砌公も付けずして、詞の字などにてやるもあり。

意訳:
一句としてみて良い句でも、前からの関係で行きづまって、それにどう付けたらよいか、少しも思案の浮かばない時もある。また、付けにくい句でもその句のあり様によっては、その付けにくい点が、かえって手ががりになって上手な者は面白い付句を詠出することもある、(そういうふうになれるように修行をすべきであって)付けにくい句をくれぐれも嫌ってはならない。宗砌師などは一度も前句の付けにくさで文句を言ったことがない人である。前句が付けにくいと言って嫌うのは、それにうまく付けることができない(修行が足りない)から、そういうことを言い出すのである。ただし、一句のうちに、さまざまな素材を盛り込んで意味が通じなかったり、あるいは、てにをはの用い方が間違っていたりして、付けにくいことも多い。そのような時は、宗砌師も付けないで言葉の字面だけであしらうこともある。

感想:
付けにくい句は自分も乱造している。他人の句に付けたあと自分の付句に練習で付けてみようとしたときにわかる。上手は後続の人が付けにくい句を付けないのかもしれないが、上述であれば、これからは安心して付けにくい句を付けよう。そして、他人の付けにくい句を逃げず逆に修行できるチャンスだと思い喜びながら付けよう(^^)

2011年5月17日火曜日

連歌と俳諧はなにが違うのかー常識のウソ

 蕉風俳諧の発端となったと言われる、冬の日「狂句こがらし」の巻には、俳諧師芭蕉が敬慕する連歌師宗祇が出てきます。宗祇は連歌を完成させたと言われています。同様に芭蕉は俳諧を完成させたと言われています。

 一般に「連歌は景句ばかり詠んでいる」、それに対して「俳諧は人情句ばかり詠んでいる」と思われているようです。両者とも長い歴史があるのでそういう時期もあったことでしょう。

 俳諧の代表として「狂句こがらし」の巻、連歌の代表として宗祇らの「水無瀬三吟何人百韻」を見て実際の所どうなのか明らかにしてみました。

 人情句か景句かの判断は微妙な領域ではありますが、私の独断(同じ基準)を両者に公平に適用するということで。

●俳諧 冬の日「狂句こがらし」の巻 芭蕉他
http://www.ese.yamanashi.ac.jp/~itoyo/basho/shitibusyu/huyunohi.htm

   人情句   景句
表   4    2
裏  10    2
名表  9    3
名裏  5    1
ーーーーーーーーーーーーー
計  28    8
   77、7% 22、2%

●連歌 水無瀬三吟何人百韻 宗祇他
http://www.h6.dion.ne.jp/~yukineko/minase.html

   人情句   景句
表   2    6
裏  10    4
二表 13    1
二裏 13    1
三表  7    7
三裏 12    2
名表 12    2
名裏  6    2
ーーーーーーーーーーーーー
計  75   25
   75%  25%
  
 この結果、連歌と俳諧を景句と人情句の多寡によって特徴付けることは無理だということが判明しました!!

 水無瀬三吟の表八句は序なので神祇釋教述懐恋旅など人情の入りやすいものが御法度で景句が多いのだと思います。これだけを見て連歌って景句ばっかりと思ってしまう人もいるでしょう。

 また俗語がなく雅語ばかりなので人情句を読んでも景句のように感じる向きもあるかも知れません。人情をものに託したり譬えたりする向きも見受けられ、表向きは景句のように見えるでしょう。

 二折や三裏、名表など破の部分はほとんどが人情句で、自他場論の北枝におこられそうです。でも芭蕉さんにはおこられないと思います。芭蕉さんもこの点に関して執着がなかったようですから。

 俳諧はもともと俳諧之連歌で俗語を使った連歌の一種(部)でした。俳諧が連歌から独立したあとも両者の違いは一点、俗語を使うかどうかに絞れると思います。俗語を正すのが俳諧だと芭蕉さんが言った意味の一端もここにあろうかと思います。

おわり

2006年08月22日21:51

2010年2月28日日曜日

萱草第六 雑連歌(十三)完




2007年05月29日10:50

京都大学附属図書館所蔵 古典籍 宗祇『萱草』(わすれぐさ)

 
 かくれても仏や人をすくふらんのこす御法の末の世のなか

 絵にうつすすがたはかりの仏にてまことの色はおもふにぞある

 法の花はじめは遠くひらけきていつくしみこそ四方にみちぬれ


* * * * * * * *


君をいのる此宮川のゆふはらへ

  神祇の連歌のうちに
 月日やうけむ君がことの葉
雲きゆる天津神路の山はれて

 たちもはなれぬ此法の庭
枯し木もめぐむ日吉の神遍(あたり)

 おひかはれるや住よしの松
神がきに杉の木たかき八幡(やはた)山

 言の葉は我身はなれぬ契にて
たのむ心に住よしの神

 げにあだなりや今はたのまじ
後の世をいのれと神や思ふらん

  釋教の連歌のうちに
 つもれる罪をなににけたまし
貝かねもきかぬ栖に明くれて

 舟よる汀人かへるなり
川めぐり山さしおほふ寺ふりて

 うらやむ人よ身をもあはれめ
住わぶるいほりのうへの嶺の寺

 をろかにきけば法ぞかひなき
我いほもおなじ野寺の松の風

 夕さびしき露のふるみち
人かえるあとに野寺の松をみて


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0091.html



人かえるあとに野寺の松をみて

 草木をさらに仏とぞみる
ふる寺は露のみ玉のかざりにて

 ながらの山のうちかすむころ
たれかその心の月を三井の水

 世をいとふ人のやどりか谷の奥
しきみながるる山の井のすえ

 のこす御法(みのり)の末の世のなか
かくれても仏や人をすくふらん

 まことの色はおもふにぞある
絵にうつすすがたはかりの仏にて

 すむかくれがにいそぐ彼の国
一聲を鳥もすすめよ山の奥

 後の世までもつらかりし人
身をつくし心をくだけ法の道

 いかでかふるき罪をけたまし
我うくる法は一葉の露なれや

 ほるとみえてぞ土はうきたる
法の水ちかづく袖のうるほひて

 心はそらにうかれてぞゆく
鷲の山御法の庭もうつろひて

 いつくしみこそ四方にみちぬれ
法の花はじめは遠くひらけきて


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0092.html
http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0093.html







萱草PDF版
□春夏秋冬
http://homepage.mac.com/metrius/wasuregusaall.pdf
□恋雑
http://homepage.mac.com/metrius/wasuregusazou.pdf

萱草古典籍画像
http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/kichosearch/src/tani3755.html

萱草第六 雑連歌(十二)




2007年05月29日09:32

京都大学附属図書館所蔵 古典籍 宗祇『萱草』(わすれぐさ)


をこなひ人のかくる大みね

 かくれがもさすが煙をたてぞせん
なからむあとをたのむ法の師

 人のこころのかはる世中
うき身さへいまはの時やおしからん

 見ればのがれぬあみのうろくつ
射る矢をもねたる鳥には心せよ

 □□□いづれかやすき身のはて
猿さはぐ心の窓をおぼはばや

 むかふ日かげもしらぬ山もと
夜いでてゆくゆくねぶる馬の上

 をそきまなびは人もをしへず
牛の子の親のあゆむに行つれて

  付やうの誹諧躰連歌に
 人につくすはあだのこころか
おれば花あるじをさへや恨むらん

 おもひかねつつねの四(よつ)はうし
ほととぎす又二こゑもききあかで

 はるかに飛やいつみなるらむ
杣人のおのにくだくる木は散て

 いまさらおもひよはるべしやは
さとちかく山の薪を持わびて


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0088.html



 かへらじ色はかちの衣手
すみつきて今はとたのむ山の奥

 あしむらむらの真砂ぢの末
あとさびし聲みだれつる鞠の庭

 いつかほとけを夢にだにみん
夜(よな)々のかねの御嶽は聞ばかり

 御祓(みそぎ)や夏をたよりなるらん
むまれつるけふの仏のあととめて

 貝ふくときのうつるほどなさ
たきものの袖のした風うちかほり

 あひ見むまでとおもひてぞ行く
まつ人のおぼつかなさに立出でて

 はかせのみちはいかがたかはん
こゑを引く法のをこなひきかまほし

 いひちらしなばそれもはづかし
おち髪のしろきに老を猶知りて

  北畠大納言家にえらび給し
  百句の連歌のうちに
 あくれば雲や立わかるらん
  といふ句に
年をへし身をうら嶋が玉くしげ

  千句のうちに
 されども夢はつれなからずよ
きけばそのよはひぞ遠き天津人


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0089.html



きけばそのよはひぞ遠き天津人

 袖のせはきは玉もかくれず
から人の身を花やかにかざりきて

 おらぬこころぞ劔(つるぎ)なりける
武士(もののふ)は名をたびたびにあらはして

 心やかへる我かたのみち
もののふは文より弓をわざにして

 末にたれ法の始をしたふらん
あしよは車をくれてぞ行く

 ただにぬるをや風もいさむる
しら浪の夜の聲きけとのゐ人

 ぬる夜はあれど夢も結ばず
宿直する時のかはれば鳥なきて

 親よりも子をはぐくみぞまず 
君やしる代をかさねてのつかへ人

 君をおもふに身をぞわするる
つかふるを我しろ髪にはぢもせで

 この世ならでも忘れやはせむ
年たけて君がめぐみをうくる身に

 いにしへよりの住よしのまつ
此君の代こそ長井のうら遠み

 ちたひ(しだい)おもふもおなじあらまし
君をいのる此宮川のゆふはらへ


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0090.html

萱草第六 雑連歌(十一)




2007年05月28日18:05

京都大学附属図書館所蔵 古典籍 宗祇『萱草』(わすれぐさ)


我よりもあるべき人の跡とひて

 くるやこずやを露もしらばや
なき人の秋の手向に袖ぬれて

 涙ににたる野べの夕つゆ
秋かぜにきえにし人の跡とひて

 なみだの雨よゆく人にふれ
わたり河かへらぬ水と聞もうし

 涙のみづのすみはいつはり
みそぎにやわかれし袖をわするらん

  俳諧躰の連歌に一句に百句
  付侍しうちに

 人のこころのかはる世のなか
とき過る身こそ六日のあやめ草

 またじとすれど秋のさびしさ
嶺のいほ鹿のわたるも人に似て

 なす罪をくゆるもさすがむくひかは
矢さきにこすは鹿もあだらし

 蘆の夜さむに風おつる聲
すそたらぬ秋のさ衣露けくて

 しのぶ恋路を山にふまばや
あふ坂にやらぬ人めの関はうし

 人のこころのかはる世中
あふさかもはてはなこその関路にて


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0085.html



あふさかもはてはなこその関路にて

 君にまかする命なりけり
世にしばしあれとおもはばわするなよ

 とはれぬままに袖ぞ露けき
君しこばしげくもをかし庭の草

 あかざりし別(れ)の跡の秋の床
夜さむのまくらおもかげもねよ

 ひく心こそおもふかたなれ
いはずとも目くばせてだに憑(たの)まばや

 おろかにまなぶ道ぞはかなき
足ときをこえ行(く)山にうらやみて

 かげ立なれん住よしのまつ
むら雨の笠さすばかりふり出でて

 身のはてしをも誰にとはまし
まよひては心の占(うら)もおぼつかな

 かぎりあれはや雲もきゆらん
いただける我おほぞらのはてもうし

 衣はあるにまかせてぞきん
おりにふれかへぬる袖もわづらはし

 いのちのうちにをくる年なみ
つらき世のすゑの松山こえまほし

 たかねおろしはふきもよはらす
とをくなる人をも冨士や送らん


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0086.html



とをくなる人をも冨士や送らん

 なが雨にこゆるうつの山みち
冨士をさへかくすは旅の涙にて

 石のうへにも時代(ときよ)こそふれ
人はなをいそぐみだれ碁うちかねて

 あれたるさとは(ぞ)道あまたなる
隣より垣のくづれをふみわけて

 おもふそなたにいつかゆかまし
みどり子のあゆみもやらず親をみて

 我につらきをしたふはかなさ
みどり子は後の親をもまたしらで

 いつのまにとをくは人のかはるらん
子ぞつきづきに生れをとれる

 などとふこともいはすなるらん
みどり子は人のうきにも泣ばかり

 道かすかなるさかのふる寺
かへるなとうき世や人におもふらむ

 おもひのかすはいはれざりけり
物うしや年をなとひそ老の友

 えそやすからぬかかる世中
捨がたき命に松の葉をすきて

 及べき山こそなけれ老の坂
をこなひ人のかくる大みね


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0087.html

萱草第六 雑連歌(十)




2007年05月27日17:28

京都大学附属図書館所蔵 古典籍 宗祇『萱草』(わすれぐさ)


 なき人のあとにはうへし忘れ草しのぶこそなをふかき道なれ


 * * * * * * *


 いとどあはれをそふる世中
わびぬるをなげくかうへに老のきて

 ねざめの後の風ぞ身にしむ
うき事も老よりさきはおどろかで

 むかしがたりを誰につくさん
しる事のあるさへ老のうらみにて

 まなびえぬこそ身にくやしけれ
のがるるもある世に老の猶すみて

 へだつるやながき恨と成ぬらん
とを山どりの老のいにしへ

 かろきいのちはまつほどぞうき
老が身は風のうへなる塵に似て

 つれなの人やかすむ明ぼの
老が身の昨日の鐘にはてもせで

 こころまよひの暮ぞかなしき
ともすればあすもと思ふ老のすゑ

 ただかりの世はあるにまかせよ
つれなさもいくほどならん老のすえ

 いかでなみだのかはらざるらむ
老はただ日ごとにあらぬ身と成て

 なにかこころをとむる世中
うき事のなくともすてん老が身に


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0082.html



 われひとりかはよしや世のなか
ゆく水をみるもかへらぬ老のなみ

 いくたびかこえぬる年のはつせ山
世をふる河やわが老のなみ

 心ぼそさぞさらにまぎれぬ
まじはれる人にも老はなぐさまで

 うらむるいのち露ときえばや
かぎりだに老は心のままならで

 うら枯の草葉より身はよはりつつ
老のかぎりや露もをくれむ

 すつるをせめて身にぞまかせん(する)
老ぬれば心にかなふ事もなし

 すごきねざめのあかつきの鐘
ゆくすえの心ぼそくも老はてて

 おもひのこさぬあかつきの空
しるしらずいにしへ人をかぞへきて

 すぎしをしのぶ心はかなさ
先だつはうからぬ世にもむまるらん

 うきをたよりとたのむおく山
とるたびに薪つきなん日を待て

 むまるる道をいまつくさばや
たちかへり迷ふなつゐの夕けぶり


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0083.html



 しのぶることぞせむかたもなき
さきだつをかはりてとめむ道もがな

 心もしらず松かぜぞ吹く
夕暮や苔の下にもうかるらむ

 そはぬ世になど我はすむらん
一日だにあらじと思ふ親のあと

 わすれよとてぞ遠ざかり行く
おほかたの月日もかなしおやの跡

 よそのわかれもうきはかはらじ
よしやただなきをばなきになぐさめよ

  あひしりたる人の身まかりける
  とき独吟の連歌し侍しに

 しのぶこそなをふかき道なれ
なき人のあとにはうへし忘草

 むかしとなるを猶かへさばや
とふあとに七日なのかのうつりきて

  宗砌十三廻に追善の連歌し侍しとき
 つらきかうべにつらき世中
わびぬればとぶらふ跡に事たえて

 みじかきすえをなげけ玉のを
  といふ句に
我よりもあるべき人の跡とひて


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0084.html

萱草第六 雑連歌(九)




2007年05月27日10:47

京都大学附属図書館所蔵 古典籍 宗祇『萱草』(わすれぐさ)


たれもただおもへば夢のかたちにて

 いづかたも旅の心やうかるらん
身はたのみなやこの世後の世

 しのぶもくるしたえね玉のを
後の世にならば昔の人やみむ

 思ふもかなし迷ふ身のはて
のちの世をなしとだにいふ人もがな

 とはむ人なくなれるふるさと
後の世の事をたのまむ友もがな

 ききてもむかふここちこそすれ
みずもがなわが後の世のますかがみ

 おもふばかりはなにかあらまし
をくれしの後の世とても知ぬ身に

 玉くしげふたりの心ひとつにて
親のそだてし身をあだにすな

 のこるをしへもあればこそあれ
かかる身に猶親なくばいかがせむ

 むかふかがみのつらき後の世
かたちさへ親には生れおとりきて

 よそにちる文をふたりのとがにして
つたへぬをしへ親もうらめし

 むまれぬさきのふるさともがな
しらざりし親のおやさへ恋しきに


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0079.html



しらざりし親のおやさへ恋しきに

 おもひあはする涙こそあれ
  といふ句に
われなくばいかにといひし親もがな

 さだかにもなき面影を身にとめて
むかしわかれし親の恋しさ

 わかれしのちの恋しさぞそふ
おりおりに親しあらばと袖ぬれて

 かへらぬ事のつらきいにしへ
おやになどなをざりにては過つらん

 たのむかげなき身をいかにせん
ひとりだにのこると親をおもはばや

 おどろく時ぞ身のとがをしる
親をさへとをき別れに忘きて

 わびぬるとても身をばくださじ
たらちねやかかる我をも祈らん

 あだに過ぬる身をなたのみそ
子や親にいつもそふべく思ふらむ

 ねぬほどは夜の枕もさだまらず
なけばこころをそふるみどり子

 おどろく時ぞ身をなげきける
みどり子を寒きはたへに猶そへて


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0080.html



 なにによるべき心なるらむ
みどり子の入なん道はしらまほし

 ゆくすゑしらぬ事ぞはかなき
みどり子に年をいそげば身の古て

 うき中にかたみのなくばいかがせん
あはれさきたつあとのみどり子

 ことかはすほど立ならふ中
いとけなき子のおとといのかたらひて

 みをくるうちにきゆる面影
ますかがみせめて昨日の身ともがな

 年へてや水のゆくゑもかはるらん
瀧のよどみのしるきかみすぢ
 
 うきわが心たれにくらべん
霜はいまふりわけかみの遠き世に

 人ををそれぬことはりぞある
しろかみはさらにすくなる道なれや

 きえむのみこそ身はたのみなれ
さりともの望もつきぬ我よはひ

 山にすむ身のいつを待らむ
おさまれる世はありともの我よはひ

 七世すぐるも夢の春秋
むまれしをいはふや老と成ぬらん


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0081.html

萱草第六 雑連歌(八)




2007年05月26日19:02


京都大学附属図書館所蔵 古典籍 『萱草』(わすれぐさ)


 はかなき夢の猶や見えまし
よのなかはよしあしともにとどまらで

 八十(やそぢ)ときくもただ夢のかす
まよひゆくちまたの塵の世中に

 かりのいほりのあるる程なさ
ながらへん物とおもはぬ世のなかに

 しづかにこもるいほりともしれ
人は身を世のさかへにや忘るらん

 などかこころの罪にひかるる
わたる世は賤(しづ)かうみをのあさましや

 人のわざこそみなあはれなれ
いくほどの身とて浮世をわたるらん

 わたる人なき雪のかけはし
たれもただ浮世の道にふりはてて

  独吟の百韻に
 よしやしばしはおもひなぐさめ
身にかぎるうき世なりともいかがせん

 いにしへなれし友ぞ恋しき
  という句に
うき世などみちなき人は残るらむ

 しられずよ猶いかさまにかはらまし
わがみるうちもあらぬ世中


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0076.html



 ゆくえさだめぬ身をいかがせん
ほどもなき一日のうちもかはる世に

 一日の夢の身をなたのみそ
世中はきのふもむなしあすもなし

 おもふ友ある日こそおしけれ
あすはたがなからん事もしらぬ世に

 いかがはせまし身を秋のかぜ
きえわびてうらやむ雲のあだし世に

 心ひとつになげくとし月
あらましや苔むすみちに成ぬらん

 したひとめつるこころくやしさ
捨よとは人をもいはむ世中に

 つらさくらぶる身ともなさばや
みな人のいとふはたぐひある世にて

 音にきくよしのの花をいつかみん
身はすてずとも心あれかし

 おもひもいでしつらきいにしへ
中々のたのみにをそく身を捨て

 かたらふ友もよしやおく山
すつる身は心ありてもなにかせむ

 むかしがたりをいかがつくさむ
身をすてしゆへをば人のとふもうし


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0077.html



 うきかすにのみなれるいにしへ
すつる身はもとのさかへも恨にて

 おもへばむかしただ夢ぞかし
さまざまのあらましつきて捨(つる)身に

  人々前句を十句して付侍し連歌の中に
 なをうき事はおく山もなし
鳥のねもきこへぬばかりかくす身に

  千句の連歌の侍しに
 いかがはすまむ冬のおく山
かくす身はしづが爪(つま)木のつてもなし

 秋は山にもすまれざりけり
松かぜは世のうきばかり身にしみて

 まどに瀧みる雲のした庵
世すて人かへらぬ水をこころにて

 捨はつる身を夢やとはまし
よのなかをおもひ返すな苔ごろも

 やつれぬる身のすがたはづかし
人になど命ながくて見えぬらん

 我身かりやにあるもいつまで
いのちをやしばしかたちのやどすらん

 絵にかくのみかもろこしの人
たれもただおもへば夢のかたちにて


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0078.html

萱草第六 雑連歌(七)




2007年05月26日10:39

京都大学附属図書館所蔵 古典籍 『萱草』(わすれぐさ)


 道あらはれて雪はきえけり
ともし火や文に光を残すらん

 ふみにつれなきほどもしられず
はかなきは今はの老のまなびにて

 いつまでうき身くだしはつべき
老てだにせめて名をえん道もがな

 たがあととしもみえぬふるさと
人はただ名をしらるるもある世にて

  独吟の連歌のうちに
 うることなにぞかりの世中
とどめてもなからん後の名はつらし

 かりなる身とは露やなからん
  といふ句に
生れこし天のみほこの末の代に

 はかなき夢はあともとどめず
物ごとに人とおなじくあらはれて

 しばしの宿や夢のなかみち
かかる身をいづくよりきて受ぬらん

 世をいとふ身の心とはばや
うき事のはじめと何か成つらん

 そなたはさても何をうらみそ
くらふればいにしへはうき事もなし


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0073.html



 秋もおもひの数とこそなれ
うき時やゆかぬ年さへつもるらん

 すまれぬ物と世をなうらみそ
うき事のなくば哀やしらざらむ

 法のこと葉ぞわすれがちなる
うきことをききしは耳にとどまりて

 きえもはてぬは命なりけり
いく千たび身はうき事にあひぬらん

 かしこきや民のうへをも祈(る)らむ
ひとりやすくと身をな思ひそ

 ゆくすゑおもふ子をぞいさむる
をろかなる我心より身をしりて

 あるもかひなしおもひきえばや
つれなきは人のためさへうき身にて

 いまのわかれをのちまでもとへ
又こすはけふを我身のなき日にて

 つま木のしづのうちわぶる暮
石の火の影に此身をわするなよ

 こころをすみにいつかそめまし
手ならひに身のうきふしを書すさみ

 もしやこなたをうらみはつらん
人ごとにわが身の科はわすられて


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0074.html



 くやしく過し涙こそあれ
捨ぬべき身をさりともと憑(たのみ)きて

 へだてはなをやおもひあからん
見し人の時をうるにも身をはぢて

 世にくらぶればうき事もなし
数ならぬ身をもうらやむ人ありて

 うらみむほどにある世ともがな
かずならぬ身はことはりも埋れて

 人にをくるるあらましぞうき
数ならぬ身とこそならめをろかにて

 ことはりしれば涙おちけん
中々の山がつならぬ身はつらし

 いはむとすればなみだおちけり
よしやただ名さへなき身と誰もみよ

 その事となく袖ぞしぼるる
しらず身のかきりやちかく成ぬらん

 ことしもとかくくらしこそゆけ
わびぬれといけるばかりとなぐさみて

 あはれをかけぬ人はうらめし
わびぬれば世をたのむこそならひなれ

 うき身はたのむかげも定めず
世になびき人にしたがふ袖ぬれて


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萱草第六 雑連歌(六)




2007年05月25日10:31

京都大学附属図書館所蔵 古典籍 『萱草』(わすれぐさ)



 ひさかたの天地にしも生れきておもはざらめやことの葉のみち


 * * * * * *


 ちぎりても情のなくばいかがせん
わが山ざとをあらす松かぜ

 まどうつ雨も老の涙か
山ざとに身をうき雲の消わびて

 又いかならむ人のゆくすえ
老ぬればいまはと思ふ山里に

 かくれがとても住はさだめじ
しづかにとおもへばさびし山の奥

 物おもはでもすまし世中
うき事はありとも山の奥なれや

 むかしおもへばなみだこそあれ
しらざりき都にかかる山のおく

 水のみぢかき山もとのさと
大はらやのぼるをひえの嶺たかみ

 おもふことたちゐにつけて見えやせん
おほはら山の雲のした庵

 山路は水をゆくゆくぞみる
あけぬるかうへに鐘なるしがのうみ

 仏ともなるてふことのあるなるに
あはれくち木を三尾のそま山

  北畠大納言家に奉し百句に
 いる月にたれか心をつくしかた


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0070.html



木のまあけゆく箱ざきのまつ

 とをきみちこそ物語なれ
又いつかあこやの松を都人

 ありしむかしぞ見るばかりなる
  といふ句に
大よどや松ものこらぬ浦さびて

  北畠大納言家にあつめ給百句に
 やはらくるうたの詞もあるものを
玉のゆかとふまつ山のかげ

 なみだにわくる宮城ののはら
  といふ句に
松山をわがとしなみのすゑにみて

 けぶりをだにもたやすかなしさ
塩がまを名ある跡ぞとあまもしれ

 とを山もとぞ鐘にしらるる
難波がた紀のうみかけて明わたり

 さす河舟ぞ岸のまへなる
渡辺(わたのへ)やおほ江のにしの入日影

 人はむかしのことの葉もうし
水ならでこゑはながらの橋ばしら

 むかしをのこすさとのふる道
つくれなをながらの橋の跡もおし


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 かかるうき身はいふかたぞなき
橋ばしらくずるもあるにながらへて

 のちにぞ法のこころをばえし
うらみうるをばすて山の月晴て

 雲ものこらぬ夕だちのあと
かげたかき天のかぐ山月すみて

 こふる都にうかぶうみ山
冨士の雪あかしの月もいつかみん

 いやしきも大君の代を初にて
まなべあさかのやまとことのは

 ひさかたの天地(あめつち)にしも生(れ)きて
おもはざらめやことの葉のみち

 しらぬ汀をたどりこそゆけ
和歌の浦あまにはとはん道ならで

 命あらばいかなる名をかのこさまし
またとしなみのわかのうら人

 てふれてかへす文もなつかし
なき親のいさめし道を学ぶ身に

 ほたるのかげの遠き別路
たらちねのをしへをうけし窓古(り)て

 すむ人は我を隣のかひあらじ
をろかなる身はたれををしへん


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萱草第六 雑連歌(五)




2007年05月24日14:30

京都大学附属図書館所蔵 古典籍 『萱草』(わすれぐさ)


 君が車のあとのこれなを
分いづる道に小松のかたよりて

 舟さしいたす春の水うみ
しづかなる時代(ときよ)をさるも心にて

 さてもにぬこころ言葉のおぼつかな
かしこき人はそふもはづかし

 こころにこめておほきいつはり
  といふ句に
おそろしやゑみのうちなる其(その)刀(つるぎ)

 あだの名のみに身をやながさん
かなしきはとがをたださぬ時代にて

 いはばやつつむことの葉ぞうき
すぐ(直ぐ)ならぬ道にもさすがしたがひて

 神と人ともただ心から
すぐならば世ををそるべき道もなし

 まことの色はしたにこそあれ
にごる世も民は中々すぐなれや

 浪よりかよふ袖のした風
ひく人やから琴の名を残すらん

 しる人なくてすめる故郷
緒(絃)をもはやたたばや老のひとり琴

 よへども舟はこたへざりけり
ひく琵琶はむせぶ涙に聲たえて


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 一しきり竹ふきしほる風あらみ
梅さくかげは笛のねもうし

 聲のにほひをふくむ鶯
笛竹の鳥のまひ人うちむれて

 あそぶやいとのみだれたる色
灯に夜はの笛竹こゑふけて

 さえわたる夜ぞ橋に霜ふる
かささぎの嵐にまよふ聲わびて

 秋さはがしく時雨ふる空
からす鳴み山の雲に日は暮て

 ふりわけかみのあだのかたらひ
あげまきのさそふ牛の子帰(る)野に

 今はのときぞ罪ををそるる
いかり猪も矢によはれるは哀にて

 旅人さぞな雪のあかつき
さととをく犬ほふる夜の月さえて

 物かなしかるやどの秋かぜ
蛬(きりぎりす)なくよもぎふに月さえて

 わかれし人ぞ見るばかりなる
あさぢふやふるき都の月のもと

 いづくにすむも身はうかりけり
都にや数ならずともをくらまし


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 身をかくすべき木のもともがな
都にもながらへんとはおもはぬに

 こころにさびし山の松かぜ
宿からに都も嶺のいほりにて

 心を見てはたのまれもせず
すまばやの山は松かぜ瀧の音

 庭あさくなる冬の木のもと
簷(のき)ちかき山に柴かる人見えて

 おくまで山をもしやとひこん
故郷の松風おもふ柴のいほ

 なれてもさびし山の松風
たれきてか心とどめんしばの庵

 松ふくかぜのすみわたる聲
庵むすぶみ山の苔に水落て

 やどりやとらんさくらかり人
すむ月を太山の庵のあるじにて

 雨ふりすさむ暮のさびしさ
山ざとは雲のかへるを軒にみて

 いそぐは人の又やこさらん
やま里に心とむべきゆへもがな

 詞をもかわずばかりにむつまじく
はやしの鳥のなるる山ざと


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萱草第六 雑連歌(四)




2007年05月23日09:19

京都大学附属図書館所蔵 古典籍 『萱草』(わすれぐさ)


 浪にかすめる夜はのいさり火
難波がたあしのかりねに鐘なりて

 たへにあそびのそのぬしやたれ
夕なみの江口の月に舟とめて

 都をいくかへだてきぬらむ
船出せし淀のわたりの西のうみ

 やはたの宮ゐあふかゐはなし
箱ざきや松をゆききの舟にみて

 いたらむにしの国ねがふなり
追風をもろこし舟にまつらかた

 出(いで)やすらひしたびのあはれさ
泪さへもろこし舟のわかれ路に


 夜ふかきみちに舟まよふ也
うき旅をたれしらぬひのつくしがた

 あふさかちかき三井の古寺
たれにそのをしへをまたむ旅の道

 山かぜさむし霜やをくらむ
古郷は草木もいかに旅のくれ

 もしやとをくる文の一ふで
故郷の友をはかなく聞なして

 こころぼそくもこゆる山道
後の世もかくやとひとり旅立て


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 旅は身をしるかぎり也けり
いかにせむ都をいづる老のすえ

 いのちあらばとかたりてぞなく
おもひやれよはひの末の旅の空

  北畠大納言家に奉し追加の百句に
 霞の庭のくれのさびしさ
雨はれて遠山のこる窓のまへ

 こころぼそきはきぬぎぬの空
しののめの山のはうすく雲引て

 一日一日とをくりこそゆけ
ほどもなく入会の鐘に夜の明て


  千句のうちに
 うき身の行ゑいかがさだめむ
ありはてむ故郷にだに住わびて

 そのままなりし別路のすゑ
故郷のほかにおもはすすみつきて

 かきほの松のときはなる色
さとはあれぬさやは契し人もみよ

 くち木のなかにすめる山陰
水あさきふる井のゐげた苔むして

 真砂をうがつ夕浪のあと
生わぶる磯まの小草むらむらに


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 しづかなる湖ごしに野はみえて
船に草かるむらの人こゑ

  専順法眼坊にての百韻に
 柴とりかへる人もこそあれ
のこる日に塩くむ浦の遠ひがた

  ある所の会のうちに
 ほたるのかげぞともし火となる
蘆はらにあまの釣せし舟くちて

 すみぬるさまもかはる家々
庭にせく水のながれを田にうけて


 きのふにかはる世中のさま
人もねぬ市のかりやに夜は明て

 いづくへゆけばほたる飛らん
野にむすぶ道芝くちて人もなし

 ならの葉すずし露こぼるらん
ゆく人のおほぢのうへ木陰ふかみ

 たづぬれば又みちまよふなり
帚木のとをきよそめはさだかにて

  北畠大納言家にあつめ給へる百句に
 君が車のあとのこれなを
分いづる道に小松のかたよりて


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萱草第六 雑連歌(三)




2007年05月22日19:53

京都大学附属図書館所蔵 古典籍 『萱草』(わすれぐさ)


 まくらの露や又しぐるらむ
あかつきの木葉すき行(ゆく)柴の庵

 夕川の月はふたつの影ありて
ゆく水さむく日ののこるやま

 草木をみるも心こそあれ
ふかき野やかり場の鳥をかくすらん

 千どりなきたつ雪のくれかた
野をせばみ御かりの人のさはぐ日に

 文のたよりにいるはりぞある
ともし火とたのむばかりの窓の雪


 いかにして都をおもひはなれまし
春をくらせば又あきの月

 すすむる酒に夜半ぞ深(ふけ)行
あかなくに月はかくれて山もうし

 うちかすむ雲ゐの御階まうのぼり
弓はり月にむかふ山のは

 をよびなき歌に心を猶かけて
月にあはれむあかつきの雲

 春と秋とにうつろひにけり
ほしまつる夜はのともし火影そへて

 涙にみればおほぞらもうし
わが年の星いつまでかめぐるらん


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  旅の連歌の中に
 なげかすはたびのつらさやなからまし
とをき門出の涙おとすな

 世のあはれをもおもふあかつき
しらずこのわかれやかぎり旅の空

 関のひがしの山ぞはるけき
あふ坂やこえていつみむ冨士の嶽

 涙もくももたえだえにして
なぐさめと都の山やみえぬらん

 後のあしたぞいとどかなしき
きのふまで故郷見えし山越て


 わかれのあとの月ぞかたぶく
かりねせし高嶺を今朝は雲にみて

 こころぼそさのまさる夕暮
雲鳥をしる人にする山こえて

 身の行すゑを思ふあはれさ
草木だにしるはまれなる山越て

 たましゐさへに身にそはぬ頃
雲くらき夜の山路に神なりて

 情ある人を親とやたのままし
くれて宿とふかたをかのさと 


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 こころさびしくとまる山みち
すまはやな旅に我とふ柴のいほ

 旅の門出をいそぐこゑごゑ
夜はのやど鶏なけば犬ほえて

 いづみとかやもちかき難波津
鐘はたがたびねの夢にかよふらん

 かすめるさとの人のよそほひ
たびまくらかれ飯(いひ)いそぐ火はみえて

 まなべるみちに人いそげかし
関の戸や鳥のそらねに明ぬらん

 夜ふかき山におもふいにしへ
こえかたき関にそらねの鳥もがな


 思ひやるこそおもかげになれ
かへらずばせめて都を忘ばや

 ものうきみちはゆきもやられず
かへりても都や我はたびならん

 あすのいのちもしらぬ恋しさ
かりそめと都を出し身の古(ふり)て

 ひきつひかれつ袖したふなり
おりのりのかはる舟人綱とりて

 夕かぜあらき川づらのさと
あしそよぐ陰にを舟やとまるらむ


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萱草第六 雑連歌(二)











2007年05月22日13:40

京都大学附属図書館所蔵 古典籍 『萱草』(わすれぐさ)


 けふの日までもおしまれぞする
高野山のこりやよひの花にきて

 軒ばのはやし見るぞ木深き
花ちりし野寺をとへば春くれて

 かかるたよりも旅にこそにあれ
ほととぎす山こえこすはよもきかじ

 とめなば袖のうつり香もあれ
乗駒も水かふ沢のあやめ草

 露はたもとに五月雨の頃
まこもかるよど野のかへさ日は暮て

 見せばやかかる山の下ふし
いる矢をもしらぬ鹿子の哀(命)にて


 すずしき風のすゑのさびしさ
夏の日の夕山がらす嶺こえて

 雲かかる嶺とおもへば風吹て
月をわけ行夕だちの空

 ふく風ふかき松陰のもと
あづさ弓いそべの清水手に汲て

  ある人申侍しにつかはしける連歌のうちに
 法のまなびぞふかきみちなる
水にうく一葉を船のはじめにて

 枕かる野のむらの明ぼの
聲とをきゆふつけ鳥に月おちて

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 ちはやぶる神を衣にやどしきて
袖さへ秋の月よみのかげ

 こころものべぬ秋の夜の床
なぐさめよ月こそしらめ我むかし

 ほのめく月にわたるの(鹿)の音
ゆきてねむ枕しほるな花すすき

 みだるる露の月ぞかくるる
すすきちるすえのの山に雲引て

 うへなる山に月かかるみゆ
小萩ちる野べのさをじか今朝なきて


 うくつらきかりねの秋をいかがせん
鹿なく山のあかつきのあめ

  独吟の連歌のうちに
 もののふのあらきはなさけすくなくて
八十(やそ)うち河のすゑの秋かぜ

 月ぞはかなく袖にやどれる
  といふ句に
露よりや身をある物と思ふらん

 けふもけふもと年ぞくれぬる
あやめひくたもとに菊を又つみて

 世々のすゑには生(うまれ)ずもがな
身を秋の落葉はたれかひろはまし 


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萱草第六 雑連歌(一)










2007年05月21日12:38

京都大学附属図書館所蔵 古典籍 『萱草』(わすれぐさ)



萱草第六
 雑連歌

  伊勢度会のほとりにて侍し会のうちに  
 ただ夢のみの春の一とき 
  といふ句に
世中に布(ふ)れば年さり年こえて

  ここかしこの会の連歌のうちに
 雪ちりまよひ春さむき空
山はまた去年の嵐に月すみて

 まつ人よりも身ぞうらみなる
我いほにさがすは花やとはれまし


 さびしさやげに古寺の松がもと
はなに人なきあかつきの庭

 ときをうるにもあやうきをしれ
世こそただ風まつ花の一さかり

 いるくにつゐに心とめまし
おもひ入山も花ちり鳥なきて

 もみぢも菊もまひ人の袖
ちれば又色なる花をおりかへて

 山ほととぎすなかばなげかし
月のこりさくらちる夜のあり明に

 けふの日までもおしまれぞする
高野山のこりやよひの花にきて


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萱草第五 恋連歌(十二)完










2007年05月21日09:30


 こころのおもひしのびはてめや
我(わが)うらみいはずばなきになりつべし

  千句の連歌のうちに
 いひあはせても世はさだめなし
あだ人をなかだちさへやうらむらん

 やはらぐるこそこころなりけれ
我にうき人とてなどかうらむらむ

 たが身のうへもただ夢のうち
露の世にうらみをいかが結(むすぶ)らん

  藤沢に侍し会のうちに
 おもひすてぬぞこひはかなしき
つくさばや世々のうらみと成やせん


  ある所の会に
 うらみをながくたれにのこさむ
我おもひこん世にせめてつくさばや

 おもひつつけてねをのみぞなく
あぢきなや世々にしつまむ恋のみち

  一句に百句付侍し連歌の中に
 人のこころのかはる世の中
はかなしやはねをならべし鳥部山


          (恋連歌おわり)

参考文献:
京都大学附属図書館所蔵 古典籍 『萱草』 [v.1, pp.112-113]
http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0057.html

萱草第五 恋連歌(十一)










2007年05月21日09:27


 後の世かけてちぎりをくなか
ほどもへずなどめのまへにかはるらん

 すぎにしかたのまことをぞしる
あだ人とききつつたのむすゑ絶て

 たのめし末やたえだえの雲
契うき人ゆへ空もかこたれて

 あさからずとてそひはてむかは
うかれただそれもかたみと成やせむ

 わすれがたみの風ぞ身にしむ
ゆふべのみとはれし秋の空ににて

 月も身にしむ恋しさとしれ
かたみとも人はおもはじ秋の空


  人につかはしける百句の連歌の中に
 うき思ひをも月や残さむ
ながめしようらみにかへる秋の空

 いつあひ見てか袖をほさまし
うき中はさらになき世の別にて

 いつをかぎりに人をおもはむ
ちぎりばや我にはてたる身をしらで

 おぼつかなしたとをきおもかげ
さとはあれてとはれし暮もしらぬ世に

 こころのおもひしのびはてめや
我(わが)うらみいはずばなきになりつべし


参考文献:
京都大学附属図書館所蔵 古典籍 『萱草』 [v.1, pp.110-111]
http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0056.html

萱草第五 恋連歌(十)










2007年05月21日09:22



 恋わぶるとはほのかにもしれ 
  と云句に
見し人は雲ゐの月を名残にて

 うき身ひとつぞたのむ影なき
わするべき涙の月に猶おちて

 あふことはいまを限といひをきて
なを恋しくは身をいかにせむ

 われよりのちは誰をかこたん
ひとりしも人はそのままよもはてし

 おもひにたへぬ身をいかがせん
さりともの人もうらめし世もつらし

 何に契の末をさだめぬ
たのむべき命もしらず人もうし


 いつまでとてか身をばなげかん
そふも夢うときもかりの世中に

 中々に立名もいまはいとはめや
いくほどありて恋もうからむ

 命つれなく見えむさへうし
あとたえて恋ぢにいらむ山もがな

 ふかき恋ぢも人ぞわするる
昨日けふ見そむるかたにうつろひて

 いくほどならぬ身をぞわびぬる
昨日今日かくるちぎりのはや絶て


参考文献:
京都大学附属図書館所蔵 古典籍 『萱草』 [v.1, pp.108-109]
http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0055.html

萱草第五 恋連歌(九)










2007年05月21日07:10


 あふをかぎりのなみだほさばや
夢になせとばかりつらき別(れ)ぢに

 水のひびきもつらきあかつき
千どりなくさ夜の別路月さえて

 ゆくすゑしらぬ事ぞあだなる
とどむるやつゐの別を忘るらむ

 一かたならぬなみだなりけり
今朝のみかつゐのわかれをいかがせん

 わかれていなむかたもおぼえず
さらばそのあふよの夢と成もせで

 むかふ時にはことの葉もなし
かへるさのあとにうらみの又ありて
 

 夕べはいとどうかぶおもかげ
わかれつるかねをおもへばけふもうし

 こころひとつの春ぞかなしき
かすめとてそなたにいたく暮もがな

  北畠大納言家に奉し後の百句に
 とはれんまでの身をなたのみそ
古こんと世のなさけにやいひつらん

 つゐにあふせと御祓をぞする
たのめをくほどは茅(ち)の葉の露の世に

 恋わぶるとはほのかにもしれ 
  と云句に
見し人は雲ゐの月を名残にて


参考文献:
京都大学附属図書館所蔵 古典籍 『萱草』 [v.1, pp.106-107]
http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0054.html

萱草第五 恋連歌(八)










2007年05月19日13:01


 いつあらはれてちぎりむすばん
関守のゆるさぬなかはあふもうし

  北畠大納言家に奉る百句に
 あふとするまに明はつるそら
まれにとふ夜半に岩戸の開(あく)もがな

 はかなやこころすゑなたのみそ
一夜こそうき身にあまる契なれ

 ただ一こゑに事たりぬべし
さのみなとわかれを鳥のさそふらん

  千句のうちに
 はてはなにそのなかのかたらひ
あふ夜しも羽をならぶる鳥鳴て


 われのみものをおもふはかなさ
逢(あふ)よ半に人はかこたぬとり鳴て

 ことはりしるになにうらむらん
したふまの鳥はいこゑにはや成て

 なみだを見てもさらにとまらず
まてしばしさらばなにゆへとひつらん

 いかにともいはれぬほどの中なれや
夢やさむるとおもふわかれぢ

 行かたしらずわかるるはうし
ひかふるとおもへば夢の夜半の袖


参考文献:
京都大学附属図書館所蔵 古典籍 『萱草』 [v.1, pp.104-105]
http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0053.html