2011年9月8日木曜日

序破急

●序破急
序破急の言い出しっぺはわかりませんが、論として最初に書いたのは、連歌の二条良基(『筑波問答』1372年)で、観阿弥と世阿弥(『風姿花伝』1400年~)はそれを参考に能に適用したようです。連歌では序破急の区分にゆれがみられます。

 1(序)、2(破)、3-4(急)
 1(序)、2-3(破)、4(急)

能でも区分が時代で変容があるようです。雅楽とか音楽関係では、急とはスピードと解釈している向きもみられますね。能のある区分けでは、以下のようになっていて急ではシテが狂女と鬼で、内容ともかかわっているようです。破の中にまた序破急が入れ子になっているとは恐れ入りました(^^;)

 脇能  序   神   
 二番目 破ノ序  武人  
 三番目 破ノ破  女   
 四番目 破ノ急  狂女  
 五番目 急   鬼

だれもが疑わない序破急と思っていたら、支考は『俳諧十論発蒙』の中で、「昔しの俳諧は、始中終(序破急)の法の三つをもて、鼎の如く(三鼎の喩え)尻をすえたると也。始終の二は不會底の人もあらん。」と述べ、いつもいつも始め静かに中ぱっぱ終わりは急か静か?にかのやり方は鼎のようで面白くないと疑問を呈しているようです。

芭蕉出座の作品を見てもいきなり始めからすったもんだや最後まですったもんだしているのも見受けられ、流石すべてから自由自在の芭蕉さんだと思います。


●序破急 2 連歌 筑波問答
筑波問答、二条良基

「たゞの連歌にも、一の懐紙の面(おもて:表)の程は、しとやかの連歌をすべし。てにはも浮きたる様なる事をばせぬ也。

二の懐紙よりさめき句(浮き浮きとした賑やかな句)をして、三・四の懐紙をことに逸興ある様にし侍る事なり。

楽(雅楽など)にも序・破・急のあるにや。連歌も一の懐紙は序、二の懐紙は破、三・四の懐紙は急にてあるべし。鞠にもかやうに侍るとぞ其の道の先達は申されし。

連歌の面に、名所・めづらしき言葉、また常になき異物・浮かれたるやうなてには、ゆめゆめし給うふべからず。これ先達の口伝なり。」 


●序破急 3 能 花伝書
『花伝書(風姿花伝)』観阿弥口述、世阿弥編著

第三 問答条々(二)

問ふ。能に序・破・急をば、なにとか定むべきや。

答ふ。これやすき定めなり。一切のことに、序・破・急あれば、申楽もこれに同じ。能の風情をもて定むべし。

まづ、わきの申楽には ... 音曲・はたらきも、おほかたの風情にて、するするとやすくすべし。第一祝言なるべし。 ... たとひ、能はすこし次なりとも、祝言ならば苦しかるまじ。これ序なるがゆゑなり。

二番・三番になりては、得たる風体のよき能をすべし。

ことさら、挙句急なれば。もみよせて、手数をいれて、すべし。 ...

 脇能  序   神
 二番目 破ノ序 武人
 三番目 破ノ破 女
 四番目 破ノ急 狂女
 五番目 急   鬼


●序破急 4 能
岩波写真文庫『能』

能の序破急と演奏順位

 初番目脇能(神能) 神  序
 二番目修羅能    男  破の前段
 三番目鬘能(女能) 女  破の中段
 四番目雑能(物狂能)狂  破の後段
 五番目尾能(切能) 鬼  急

「要約すると一日の能は正しく厳かな神能から始め、次第に優雅典麗な演技をもって幽玄の情趣を現す鬘能に移り、見物を堪能させてから変化の激しい賑やかな尾能(きりのう)を演じ、見物の眼を驚かしてサッと手際よく切上げるというのである。」

やはり、急はスピードだけを言っているのではなく、ワーッと激しく盛り上げてストンと終わる側面を持っているのだ。ただスピードを上げて無難に終わるということではない。切能を観たい。YouTubeにないか。


●序破急 5 能 花鏡
『花鏡』世阿弥、能楽論集、小学館

序破急之事

ー 略 ー

「急と申すは、挙句の義なり。その日の名残なれば、限りの風(最終の風体)なり。

破と申すは、序を破りて、細やけて(細やかに)、色々を尽くす姿なり。

急と申すは、またその破を尽くす所の、名残の一体なり。

さるほどに、急は揉み寄せて(体を激しく動かし集中する)、乱舞(格をはずれた自由な舞、速度の早い手の多い舞)・はたらき、目を驚かす気色(けしき)なり。揉むと申すは、この時分(急)の体なり。

およそ、昔は能数、四・五番には過ぎず。さるほどに、五番目はかならず急なりしかども、当時は、けしからず(むやみに)能数多ければ、早く急になりては、急が久しくて急ならず。

能は破にて久しかるべし。破にて色々を尽くして、急は、いかにも(なにがどうあろうとも)ただ一切り(一曲)なるべし。」

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