俳諧武玉川 二篇
(底本:日本名著全集 江戸文藝之部第廿六巻 川柳雑俳集 )
冬嶺之篇(十五点)
718 あんばいのよい朔日の空
719 陽炎やとかく何ぞに倦た時
720 口洗ふ馬のくはへるかきつばた
721 紙漉のたま〳〵よめてかこち草
722 雑司谷駕から顔が二つ三つ
723 親父が見ては済ぬからかさ
724 去られてもさられても未だ美しき
725 鰒の師匠の駒下駄で来る
726 四十から老曾の森へ飛んで行(おいそ)
727 さし上て見る縫紋の出来
728 眼薬をさして大事に起あがり
729 病上り工夫して居る遊び所
730 年忘何ぞ降のを待て居る
731 隅田の渡しの夕暮を骨
732 物買て背筋のゆがむ小侍
733 河竹の本のこゝろは女也
734 赤子は膳で見えぬ正月
735 井戸掘の心覚えに蛙啼
736 一分くはへて内へ引く息
737 九つは禿の消える鐘の聲
738 朝顔を粉にして歩行く男の子
739 春寒く廻り人のない法輪寺
740 子を持妾観音を引
741 奥に娘の光るかざり屋
742 やもめがらすに張のない風
743 切賃は金のなくなる始なり
744 足で鼠をおどす万歳
745 薮入の田の近道をうち忘れ
746 うまい事言うた師走に助け舟
747 一葉づゝきたなびれずに散る柳
748 似ぬ顔を産んで我が身も疑はれ
749 掟が有て同じ黒髪
750 隣の顔も飽るくすり湯
751 はね馬に逃込む顔の久しぶり
752 札配リ遠くも来ぬる角田川
753 日向で灸をすゑる四阿
754 あぶない義理の届く吉原
755 富士を見て田植の髪をゆり直し
756 更るほど気の若くなるとし忘
757 辛子が利て時過た声
758 物ぐさひ瞽女に引るゝ糸ざくら
759 鹿聞の淋しい足をうち違
760 犬死の側で妾に成リおほせ
761 鳥屋の前でおりる遠乗
762 榊来て鱠の山は低く成
763 投れば切る枚方の銭
764 東路は仕舞仕事に風の神
765 袷着て新地は寒い赤蜻蛉
766 婆々が死んで中垣がとれ
767 節句前文も五尺のあやめ草
768 あふひの上の袖に護摩の香
769 身のうちに帯がふえると芥川
770 入相に向ふ姿の膝をたて
771 田楽がみじかく成と冬籠
772 かんこ鳥江戸の暑さはしらぬ也
773 若菜に揃ふ桶川の君
774 角万字屋で折るゝ稲妻
775 出代の門四五間はかけて行
776 しかられた日の分けて夕ぐれ
777 宵闇の夜のしまる行燈
778 尖に毛抜もありがたき物
779 うそがかうじて上下で来る
780 蕣にあついきせるの打違
781 をどりを押てはいる蓬生
782 たいこの年の星をさゝれる
783 聞捨にしてはおかれぬ梓弓
784 をとこのほしい勢田の真中
785 蜘の巣ぎりで戻る売居(うりすえ)
786 ふすまを覗く太郎国経
787 我たつ杣のしらぬ年号
788 曳たび袖のみえる罔両(かげぼうし)
789 行燈にまだ気のつかぬ暇乞
790 浪人の羽のぬける元日
791 妾の智恵も河竹の風
792 虫の命の燃るあさぢふ
793 他人の足に負る鳥辺野
794 雲の行衛の住吉で散る
795 嵯峨より深きあみ笠の奥
796 雉子鳴て震か〳〵と撥を留
797 鏡にせいてかゝる庭鳥
798 けふ九重を裸にて立
799 入墨を消す気に成れば夜が明
800 紅裏のないも笑止な土用干
801 心ある酒とはしらぬ従弟間
802 三人傘にうたがひはなし
803 様と云ふ名で来る時は忍ぶ草
804 神風に吹消れたるもみぢの火
805 吾妻くだりの青いからかさ
806 不沙汰の顔に合ふ面がなし
807 つまみ洗ひの手を振て置
808 あり甲斐なしの笙吹の鼻
809 陰間の声の二筋にたつ
810 四十二の子の親が沢山
811 ほとゝぎす皆出来合の葉也けり
812 三味線の跡を因果と引かぶり
813 朝みれば御油赤坂の家計(ばかり)
814 宵のうらみの二段目が出る
815 女房も只取るやうに通り者
816 夏野に家のつまむほど出
817 降ものゝおのれを諷ふ板庇
818 酔狂の翌は浮世に突あたり(あす)
819 明がたの戸をたゝく高声
820 情しらずの笑ひ大きし
821 看病に薬のやうな顔一つ
822 座頭はなせば文のうへ行
823 鰒買て余所の流しへ持て行
824 夫婦喧嘩の外で小便
825 倒れ序でに住よしの市
826 松風の裾わけをする萩の上
827 帆かけ舟先が直てたはいなし
828 隠居の小判うごくあつかひ
829 子の口吸うて音頭分れる
830 立ながら見て帰る金元
831 紙燭の反りを土器で摺(かわらけ)
832 海馬もらへば背中たゝかれ
833 生酔の次第〳〵に丸く寝
834 瑞軒を見た杣の長命
835 利そうに思ふは銀のくすり鍋
836 鯲の中へはかるうの花(どじょう)
837 めぐろの犬も冬がれに成
838 検使にこ〳〵下帯に金
839 旦那へさして逃るさかづき
840 向ふ木挽の揃ふ鼻息
841 浅草も上野もなりて郭公(ほととぎす)
842 三疋ではねれば馬も詠あり(ながめ)
843 早乙女の笠は裏から日があたり
844 醫者に二度まで積らるゝ顔
845 二つ重なる囁きの傘
846 後家のやうなる牛若の影
847 くやしい声で横顔へ向
848 下戸ふたり起して廻る司召(つかさめし)
849 通りの傘へあたる豆蒔
850 物思ふ相手がなさに幮を釣り(かや)
851 うしろ姿はしれぬ関守
852 狩衣は茶を呑たびに腕まくり
853 肩へかけると活る手ぬぐひ(いきる)
854 むだ書をして梶の葉をかむ
855 雨だれ越にかるい相談
856 朝日のあたる盗まれた窓
857 掌を死所にするきりぎりす
858 鳥辺山送り出して耳が鳴
859 工夫してきのふへ返る紺屋形
860 美しい顔で咄が長く成
861 誘ひに来ると見えて割膝
862 へん〳〵と扣く御寺の大工小屋
863 母の自慢は錦木の数
864 ながらへて新地にすたる真桑瓜
865 向ふへ鑓のしづむ長橋
866 いつ逃て樒に光る飼蛍(しきみ)
867 弟に余つた乳の水くさき
868 鐘の音計黒き雨乞(ばかり)
869 銀のちろりの通ふ紅閨(こうけい)
870 京町のやりての声で猫の真似
871 土埃うしろへ請けて梅の花
872 長い祈に割れる勝山
873 両陣をすくひ仕廻て勧化帳
874 取楫は畳のうへで成仕事
875 巻くのも手間のとれる国状
876 泊客主の口が辛くなり
877 金に勝のは只ならぬ顔
878 売家を隣に持て淋しがり
879 雪やくそくは雨性の伊達
880 直のなつた跡の祭にはつせ山(ね:値)
881 鶯は谷へ戻してかたみ分
882 夜は老そめる九つの鐘(ふけ)
883 人のくすりに燈す峰の火
884 書置に引くらべたりあづさ弓
885 蚊屋一重向ふに人をあやまらせ
886 言訳のくらい男へ飛ぶ蛍
887 傾城と見たはひが目か竹の奥
888 をどり子下地しぼり出す声
889 腹だちの手元へ見える鳴子引
890 水を女の怖そうに掃く
891 我物に師走は戻る貸座鋪
892 精進落に大判を見る
893 さし合を抜けば聞へぬ願書(ねがいがき)
894 ゆく〳〵は蛍にならん草の菴
895 痞の毒を知りてかむふみ(つかえ)
896 鏡から崩れそめたるおさな顔
897 畳んだ物の見へぬ独身
898 人形に惚れて禿はしばられる
899 後藤が馬の帰る夕陽
900 雨あられ雪と替りて日がつぶれ
901 楼船と聞てぞつとする冬(やかた)
902 針仕事手がるく成て夏近し
903 勘定づくの馬でよめ入
904 塩気の抜る蜑のおとろへ(あま)
905 ふつた所がけいせいの禅
906 我身ひとりのやうな神託
907 ういた浪とやむかし人乗
908 山科や集るうちによいをとこ
909 奢かへしておごる逗留
910 夕顔咲て井戸掘の帯
911 飯入て少賤しきあま小舟
912 初老のまだ竪縞をはなれ兼(はつおい)
913 夜に飽く初は奥の紙きぬた
914 凩も生れのまゝの材木屋
915 五人に問へば五色な墓
916 哀れさは千両箱に鰹ぶし
917 六はらにしくじりさうな顔計(ばかり)
918 帆を揚てから咄なくなる
919 ちぎれ〳〵に石燈篭つく
920 草履打片々足を洗ひけり
921 汐曇はれて主なき桶二つ
922 青物や玉子の色の目にかはき
923 こよりと聞て起る狸寐
924 伐られぬ卯木九日にさく
925 唐扇の自慢をしたる通り雨
926 橋守の煙の高きわかれ霜
927 かる焼の忍び心はしめり合
928 帆におそはつて傘は売行
929 烏帽子計で生て居る顔
930 惚られた事を思へば気が抜けて
931 地紙うり笠着る時は物詣
932 さまざまに世はかはる呑喰
933 咄しにも千人切は多過て
934 病人の手へしつとりと秋袷
935 大江の岸を浮て行く下駄
936 新地の間夫に蚊柱がたつ(まぶ)
937 元服に又改て言かはし
938 おつぼねの名に近い子卸
939 ゆるひ黒木に笋をさす(たけのこ)
940 栄花な腹を医者は怖がり
941 呼声を母のにくがる李売(すももうり)
942 うそのない旭を戻る小松原
943 死ねば煙ではひるよしはら
944 誰植ゑて人に淋しき峰の松
945 けいせいの親に逢ふ日は雪が降
946 糸遊のたんごに早きうつの山
947 寐姿がよくて哀なすまふ取
948 放し鳥とまれと思ふ木を過て
949 事納着かへる程の日ではなし(ことおさめ)
950 朝顔に追立らるゝさしむかひ
951 背中へしれる猫の腹立
952 雪の日はころげた侭の樒桶(しきみおけ)
953 闇のとぎれるうどん屋の前
954 須磨寺に夜着きて寐るぞ怖しき
955 角力とりめと撫る子の尻
956 母も哀と思ふほど惚れ
957 夜かぐらやつめつた前へ廻りけり
958 洛外へ出して目にたつ拂物
959 若党をだいなしにする初蛍
960 死だ和尚を誉るとうふ屋
961 机ではたく梶の葉の虫
962 直切ころして歩行く巡礼(ねぎり)
963 葉桜に成つて気の減る銭の音
964 指櫛が網に懸つて人だかり(さしぐし)
965 馳走に竿を添る柹の木(かき)
966 夜着の日陰に臼の目を切る
967 いらたかを投ればしばし湯気が立
968 段々に音のなくなるとろゝ汁
969 みどり子に膳をとられて茶漬くふ
970 竹植る日を主の聞捨
971 脇の下から寒い羽ごの子
972 送り火は他人の手にて燃上リ
973 初奉公のこりるくらやみ
974 よいおとこにも二通り大つゞみ
975 買人の手でつまゝせる薺草(なずな)
976 凩に買物使あはれなり
977 恋しい時は猫を抱上
978 つむじ風格子の前で二つ巻
979 疱瘡にうどんの桶も出して見せ
980 郷侍の名を付る神
981 あみ笠の鼻につかへるむかう風
982 座頭が出るとこぼす居風呂(すえふろ)
983 娘から手代の間は紙一重(あい)
984 よい日和子守をなぶる松の影
985 従弟夫婦の両方に伯父
986 町のはづれで仕舞ふ錫杖
望楼之篇(二十点)
987 吉次が供のしたい事する
988 狼の命拾ひは寒のうち
989 今がよいとは言ぬ後添
990 燃る間を柄杓で扣く八重葎
991 給仕の顔の遠い住吉
992 辛崎は狐火までも朧にて
993 人の物着て夜の岩倉
994 そむけて糸を結ぶ綻び
995 酒買時に灯のうつる川
996 阿部川で人と思はぬふとり肉(じし)
997 高野聖も金の明るみ
998 遊び尽した人を後見
999 伽藍の雨戸昼過にくり
1000 朝顔くらく馬の髪結ふ
1001 噛む爪も極つて居る物思ひ
1002 庵の主聞へる方の耳を出し
1003 我家へ漏をあてゝ雨乞
1004 寺の余情に匂はせる蓮
1005 烏帽子の跡の伏見まで見え 京都宝泉院の血天井
1006 門口へ野分の届く住居也
1007 初雪のつまみ心もなくてよし
1008 撫子に火の出る鍬の夕河原
1009 我智恵で逃げた心の放し鳥
1010 質に直のせぬ寶久しき(直:ね)
1011 石をおろせばゆれる四阿
1012 礫を拾ふうちに小舅
1013 重着の数をあらそふ冬籠
1014 放下遣ひの来ると見渡す
1015 合羽の下の痒い志賀越
1016 妻の小袖の尽る七種(ななくさ)
1017 面白さうに振廻す幣
1018 赤子の顔の似ても水物
1019 夕顔が宿取人の眼にとまり
1020 遠い思案に蚊屋を出て居
1021 笈摺を縫ふ母の野心
1022 憎い女を誉る薙刀
1023 道成寺人のかけ出す雲が出る
1024 拵すます殿のあけぼの(こしらえ)
1025 下前にさゞ浪よせる志賀の浦
1026 きりぎりす踊の足を間違せ
1027 手数が入て返る羽衣
1028 参宮とおもひ立にも身を忍び
1029 こんにやく桶をこぼす弔ひ
1030 八十七は手をあてる年
1031 外を見ながら這入る乗もの
1032 市迄は桶屋の夫婦身をちゞめ
1033 葉薑も笹の雫の振心(はしょうが)
1034 総領は土蔵へ向てものおもひ
1035 直きに妹と見える人代(にんだい)
1036 律義に宿へ帰る節分
1037 船の喧嘩の棒が流るゝ
1038 一つはちすのもめる後添
1039 ぐみがくばつて目鼻ちゞまる
1040 むぐらの宿へ夜々の客
1041 山茶花を折て左官はしらぬ振
1042 起々は女の顔が大事也
1043 損もなく遊んで歩行く屋形舟
1044 行水こぼす先を皆飛ぶ
1045 何ぞ鳴らして見たい護摩壇
1046 虫干に仕舞ひ残して貸小袖
1047 広げた所怖しい夜着
1048 柏の虫の台所這ふ
1049 短い袖に娘出で兼ね
1050 棒の中行く外科の挑灯
1051 新尼のことばのはしに貸しなくし
1052 鵜舟の掃除子が付て来る
1053 蜑も恵方へ潜る身祝(あま)
1054 先づ媒のなびく吉日(なかだち)
1055 風車外山の松の吹あまり
1056 隣へ行も鶴の粧ひ
1057 疱瘡の後に仲人の寄付かず
1058 娘にあてゝ誉る水仙
1059 山伏のなぶられて越す日高川
1060 広々と物を思へと留守に置
1061 座頭の下駄の知れぬ五月雨
1062 大釜へ投込む薪のうはの空
1063 軒をはなれて杖の商
1064 江戸の起請を見せる島原
1065 小声にて暇をさはぐ草履取
1066 関取の巾着に行く若旦那
1067 一日をきれいに歩行く藁草履
1068 鹿聞の都へ出ても耳が痩せ(しかきき)
1069 江戸見物の怖さうに寐る
1070 河がつぶれて亭の捨うり(ちん)
1071 黙礼の中を流るゝ割下水
1072 三味線の次第に憎き年と成
1073 姉の礫の届く蓬生
1074 音のつめたい夜神楽の銭
1075 くらい心に智恵は借し損
1076 せきれいの尾のうごく筆癖
1077 子心にさへ嫌ふ半襟
1078 鏡売日に成て女気
1079 衣々に木辻の鹿を追廻し(きぬぎぬ)
1080 揚屋でつらのにくい伽羅利き(きゃらきき)
1081 鶯や我罔両に啼ならひ(かげぼし)
1082 舞子の親の橋へ来て居
1083 椀へなみだのかゝる松山
1084 鳴ながら身を振ほどく朝烏
1085 南湖の銭の一両はなし(なんこ)
1086 むすめに智恵を付る雷
1087 金剛杖でありく闇の夜
1088 ひだるい猿の桃色に成
1089 隣の蔵が涼風を蹴る
1090 闇のうち曾我へ片身は届けり
1091 なぶつた舟の一所へ着く
1092 請られてから産んで見たがる
1093 鎌倉で嫌らひに成し夕間暮
1094 我膝を見て笑ふ病人
1095 乗掛へ伸上る茶はいとま乞ひ
1096 ひやうきんな人の仕当る汐干狩
1097 元結の入らぬ女となりにけり
1098 身をさまざまにひねる霜解
1099 衣紋の顔の矢に付て行
1100 泉水を挑灯で見るいとま乞
1101 手代まで蚊を疵にして内に寐ず
1102 来た先を聞けばあはれな拂物
1103 そとば小町も言懸りなり
1104 検校の咄の下卑る年忘
1105 橋を限りに帰る抱守
1106 出る恋に内へ来る恋摺違ひ
1107 ついへな顔の多い正月
1108 つまむほど寐て明るはつ春
1109 気のつかぬうち通るのり物
1110 鏡研顔に飽れば日がくれる
1111 日本の金のうごく晴天
1112 妾のふりにこまるふり付け
1113 なぶりついでに聟の弟
1114 洗粉の身を逆様に摺みがき
1115 夜泣の屋根を見舞ふて寐る
1116 鮎くへとさそひ人もなく鶉鳴(うずら)
1117 出舟へ見廻住吉の祢宜
1118 枇杷の花千畳敷はねかし物
1119 又降る雪に鮟鱇を吹く
1120 天秤棒に遣ふ手はなし
1121 蛍が好きで気の抜けた昼
1122 所化うき〳〵と九十台射る(しょけ)
1123 むらさきに合ふ江戸の根性
1124 下女は男をほめる小つゞみ
1125 握りこぶしは母の奥の手
1126 二親有て夢を忘るゝ
1127 三味線引に山下の埃(ちり)
1128 飛脚の膳は目の前で盛
1129 呑めと計は主の和らぎ(ばかり)
1130 立のまゝにて遠い約そく
1131 庭のたき火も知て居る顔
1132 嗅いで退く人を見限る肴売(のく)
1133 かゝり舟鷗の中に銭の音
1134 紬から上のすくなき奈良の京
1135 峠の家の尾も鰭もなし
1136 首途の草鞋履かせてうち詠め(かどいで)
1137 供を呵つて這入る検校
1138 日蓮記よむ聟は入智恵
1139 船は捨るに乗物の恥
1140 又一度十六七で人見知り
1141 逆おもだかが質の始り
1142 有馬筆鰒と言ふ字に顔を出(ふぐ)
1143 しやぼんの玉の門を出て行
1144 乞食の壁もあたり狂言
1145 よい中は人形よりも静也
1146 めつたにはねる五奉行の馬
1147 神鬮にあたる聟は不器量(みくじ)
1148 聞干た跡のつまらぬ丙午
1149 雪さへふれば女房ぬからず
1150 冬のすがたへ戻る人の日
1151 彼岸ざくらを後家の喰物
1152 先見た物の帰る引汐
1153 軽業へ残リすくなく日があたり
1154 九十九両は駕舁の損(かごかき)
1155 生洲の魚の耳が聞える
1156 俄分限の我顔に倦く(成金)
1157 身のうちつれて後家の足早
1158 船頭の闇をつかんで蚊遣り草
1159 身請の顔を村の眼ざまし
1160 我内で評判に合肘まくら
1161 匂ふ物皆追詰て菊の花
1162 二度子おろしに逢ふではなし
1163 別霜人の奉公の跡を行
1164 梅咲て手心かろき鉢たゝき
1165 まだ惚た気で追善の歌
1166 瘧のうへに乗て居る母(おこり=マラリア、経験あり(^^;))
1167 雛形に最う手の切る枯野原
1168 娘は尾羽のかれぬ顔付
1169 ゑびす講から嫁のしこなし
1170 六人の子のうちに玉川
1171 金の減たもしらで本服
1172 夜はしらじらと生残る下戸
1173 小僧の仕落舌をちらりと
1174 眉毛から算へ覚える若狐
1175 投出す財布うそにない音
1176 柔取此度の店も追出され(やわらとり)
1177 誉ちぎられた笛で歯がなし
1178 後家若々ときりぎりす飼
1179 煉供養笑ひそうなを跡に立
1180 瀬戸物鄽に余念なき尼(みせ)
1181 雨やみを行聟のだいなし
1182 あばら屋のとう〳〵松に寄懸り
1183 笠から先はしらぬ生霊
1184 玉の緒のぐる〳〵巻に五十両
1185 曳舟の引かぬ時にも荻の風
1186 三念仏へ引ける銭さし
1187 日陰〳〵とすいかづら売
1188 膝抱てうらみの泪あつくなり
1189 伊達を残して戻る奉公
1190 弁慶ふたり貰ふ五月雨
1191 田は寒く夫婦烏の口を明
1192 三嶋のもぐさ夜計うれ
1193 我恋の人の恋まて眼に懸リ
1194 最う似た顔の出来る元服
1195 汁粉の使戸も明ぬ家
1196 同じはちすの夜着を踏さく
1197 紙燭の反リの出来合で済
1198 雁金の棹の先には鈴鹿山
1199 女房にくれぬ戸板へ夜入道(よにゅうどう:ヘマムシヨ入道の落書き)
1200 看病へ突出して遣る忍冬酒(にんとうしゅ)
1201 春に似た日も十日ほど八手咲(やつで)
1202 言せて置けば傾城はなし
1203 くぼく見られてづぶぬれて行
1204 よいをとこ悪い男に逃かくれ
1205 手代へ錠をおろす高聲
1206 反橋を先へ渡て口を利き
1207 三味線免す親のあやまり
1208 母も内證は知て寐る金
1209 質屋の口をとめる束帯(くげが質)
1210 門跡へ向く大舟の尻
1211 生れた事は誉ぬ晴天
1212 二親も背中へは手の届きかね
1213 衣着て見る孫のよめ入
1214 朝顔のかき廻さるゝ奈良の町
1215 妻のゑくぼの段々に減
1216 居つただけの低い口よせ(すわった)
1217 若衆の髢を辷る雨だれ
1218 二三畳雀目の闇は日が残り(とりめ)
1219 湯治からひよつと気のつく内普請
1220 法印の早合点で闇になり
1221 引摺おとす御油の近付
1222 只有體に瞽女の手まくら
1223 住持代リの味に若やぐ
1224 地頭の智恵の出ると夜が明
1225 初午にむす子の供の口が過
1226 翌といふ紺屋の女房美しき
1227 心ほど言かねて居る袖だゝみ
1228 もとの京から通ふ棚経
1229 寺に寐たのも吉原のうち
1230 新しくなる九日の釈迦
1231 堪忍はくらい所へ連れて行
1232 まだ塗箸に逢ぬ正月
1233 聟は大事のうは言をいふ
1234 うつくしい意趣を柱に寄かゝり
1235 機嫌直しの夜着に三人
1236 夜中ふまれて大坂へ着く
1237 胸の火は拵へ物の奉公人
1238 音羽の瀧にぬれる乗もの
1239 三味線を弾く斎日の嫁
1240 日本の伊達に筑た耳塚
1241 野郎に成て帰る浜荻
1242 男自慢の誉めぬはつ雪
1243 ほんに泣時地女のこゑ
1244 辷た時に悪心はなし
1245 裸で歩行く海士の貰乳
1246 遣唐使青海原に口を明き
1247 泣止まぬ子に蔵の戸が明く
1248 先も女で恥る借り物
1249 寐せる心で我も手枕
1250 祝日の持料ほどは美しき
1251 来ると鸚鵡の日本物言(ものいい)
1252 精進を落て目出度人に成
1253 戸へとりつくと地震ゆり止
1254 吉原見せて伯母を立せる
1255 衣にたすき蕎麦奇妙なり
主寿昌之篇
1256 初めて青し十月の猪口
1257 きのふけふ翌は見捨る小松原
1258 寄合て解く牛若の帯
1259 傘を外れて歩行く若殿
1260 ふるへば塩の落る行平
1261 やはぎは橋のうちで大名
1262 鎌倉の代に喰ぬ鰹ぶし
1263 菅笠の加賀を通れば田うゑ笠
1264 互に笑ふそも〳〵の文
1265 寒い所の多い義経記
1266 沈んではうく質の行末
1267 雨風にかき廻されて十二月
1268 合歓の葉の涼しい夜を握詰
1269 大名戻リさびしがる蓑
1270 子の口をふさいだ窓へ顔二つ
1271 通すと眉の下る関守
1272 家督の祝義仰向に寐る
1273 鯨のうそを七村がつく
1274 黒小袖どちらへ出ても口が合
1275 銭提て大津を帰る山法師
1276 親孝行の蓑を着て泣く
1277 有し世の一つ残リし釘隠し
1278 面白い人と言れて草の庵
1279 莚帆の恥を思はず岸を行
1280 駕に乗たは弔のまゝ
1281 友達のひや〳〵おもふ誉詞
1282 冬からのうそが溜つて鯛を買ひ
1283 林間の今焼付と又しぐれ
1284 猟師の妻の虹に見とれる
1285 四も五もくはぬ下戸の関守
1286 佃の休み貝で髭ぬく
1287 いつの間に喰ふ神子の弁当
1288 せちがらい都で歌をよみ習ひ
1289 尻も結ばず神無月降
1290 書たい事の多い去リ状
1291 都の雪の鱛ほど降る(なます)
1292 落すがいやで廻る雪の戸
1293 石の地蔵の清い唇
1294 瞳すわらぬ四辻の顔
1295 親に奢て見せる籔入
1296 恋風も思へば四季に替へて吹き
1297 物縫の誉られはじめ衣がへ
1298 腕づくの女房見に行く交肴(まぜざかな)
1299 人を呼ぶ鉦に我子を膝へ上げ
1300 泊客言訳過てうたがはれ
1301 題目おどり顔も手も筋
1302 度々壁を拝む門前
1303 酔て戻つた妻を見上る
1304 天下に知れた愚癡な吉原
1305 誠皆うそに消さるゝ落し文
1306 うたれた瀧の末に膏薬
1307 つまぐつて帰る昔のしのび道
1308 酸いもの並ぶ小梅梅若
1309 年明の心にしづむ灯篭の火
1310 抜身を軽く思ふ高縄
1311 草の中にも傘は三本
1312 朝顔が咲と蛍は馬鹿に成
1313 もはや男に成果し後家
1314 風呂敷の度々主を取違ひ
1315 膏薬の二重心は穴を明け
1316 干鰯の仕切見ても眼が覚(ほしか)
1317 記念の琴になみだかき交ぜ(かたみ)
1318 五月雨に肴の顔を見忘れる
1319 六畳敷へ無理な藝呼ぶ
1320 蒸薬息を吹のが癖に成り
1321 口のうちで言ふ念佛がほんの事
1322 客夜着に土蔵の鍵をのせて出
1323 十月の霞のかゝる本願寺
1324 古い屋敷で椶櫚の葉を買(しゅろ)
1325 黒雲かゝる焚出しの飯
1326 ぬれずに戻る傘にうたがひ
1327 看病の一間隔てころもがへ
1328 小判へも鏡の息のあいしらへ
1329 旅だちの跡の座敷へ日が当リ
1330 塩鳥のおよいだ形に堅く成
1331 だまつて瞽女をすゑる明るみ
1332 燕より一月はやきつばめ口
1333 珍らしく見る旅のからかさ
1334 こらへ〳〵て鐃鉢に泣(にょうはち)
1335 藤の花最う此うへは日も延びず
1336 見附の屏風盃を見ず
1337 蜊鳫木に汐の見合せ(あさりがんぎ)
1338 縮緬も繻子も仏の道しるべ
1339 昼寐の顔へ掃かけて見る
1340 木馬に似たりうどん屋の音
1341 寒念仏鳥屋の門も野辺の数
1342 手の届くだけはたふして松囃子
1343 わさびおろしに日の残る留守
1344 挑灯が消ると直に突あたり
1345 脇から見える公事の近道
1346 吉原近く尖るからたち
1347 松風や関の障子の喰違ひ
1348 格子から禿の髪へあやめ指し
1349 碁うちの見出す宵の明星
1350 かつがれて初会へ上る枝紅葉
1351 気の勝て居る品川の猪牙
1352 伴頭の異見に下る春の空
1353 浄るりで殺した声を鉢扣き
1354 桑の杖おもへば遠きはかりごと
1355 水かゞみ見る舟の退屈
1356 焼塩を削る女房の膝せまき
1357 地紙売我物好も言うて見る
1358 蚊屋越にゆり起されて早合点
1359 他人の目からしれる一生
1360 逗留の二晩めから能く寐入
1361 抱つくまでが恋の道行
1362 大工の智恵を寐ころんで見る
1363 猪牙のふとんを撫る椎の実
1364 真顔に成て武士の付ざし
1365 さくらを浴る馬の横面
1366 大根馬ふしょうぶしょうに引廻し
1367 気の軽ひ母は見て居る水浴せ
1368 淋しさは巨燵やぐらのゆるく成
1369 まがらぬ心瞽女の手を引
1370 母は箸にも楊枝にも栗
1371 沈んで乳を隠す居風呂(すえふろ)
1372 鳥屋の見世のくらい年越
1373 畑の鶴をみせに遣る雪
1374 須磨の浦雛も柄杓に汲込れ(ひしゃく)
1375 明星がくるりとふれて淀へ着く
1376 恥かしの火燵の出来る煤拂
1377 半夏生隣も合ぬ井戸の蓋
1378 むかしの通り念仏て起
1379 四ツ谷の埃に伊達染が行
1380 負た子の目ばたきをする葭簀編(よしずあみ)
1381 生男も琴柱に落る中の町
1382 髪かたち笠もかたちの内に入
1383 鬼と言るゝ後家の革足袋
1384 富士の夢見てまめに成る母
1385 女ごゝろに見たい竜宮
1386 かんこ鳥啼く庵に鳶口
1387 ひとりで飯のにえるかみなり
1388 二百十日にあぢなよめ入
1389 石の井筒を母の念願
1390 手品きれいに紙燭よる妻
1391 袂で銭を遣ふ墨ぞめ
1392 鏑木を内から立て縁遠き
1393 松明を結ふ村の葬礼(ゆふ)
1394 俤の夜の障子やたばこ鄽(店)
1395 小つゞみに恋を仕まける大つゞみ
1396 糊立のせぬ衛士の顔付
1397 清書は障子に残りたゝき鉦(きよがき)
1398 五箇村すくふ主の有る池
1399 降ぬ日の勅使を誉る角田川
1400 人礫うつ浪人の夢
1401 立聞にやり手は鍵を握リ詰
1402 大僧正も材木を問
1403 棹ぬく跡にきり〳〵とうづ
1404 懸乞帰る向うから春
1405 なみだぬぐうて袖の片ゆき
1406 子の扱いの下手な連歌師
1407 五条の橋で安い主従
1408 久しい先の奉加帳出る
1409 水仙の舟は入日を漕流し
1410 田の中を蝶々も飛文も飛
1411 名もしらで何かうれしき生肴
1412 横平に念者の手紙むつまじき
1413 始からはづす合点のとしわすれ
1414 篠をつく降に戸板の年が知れ
1415 梅に向て歯を鳴らす妻
1416 詫言に若衆の母も手を合せ
1417 娘が逃て髪結はぬはゝ
1418 二羽鳴雁も極月の聲
1419 与力町一人か二人よいをとこ
1420 くらい所で笑ふあやつり
1421 一逃にげて口を吸せる
1422 袖の梅きかぬは妻の心也
1423 泣子の口へしたむさかづき
1424 浅い新地に朽るがつそう(合総=総髪)
1425 行合せねばしれぬ達磨忌
1426 山帰来かならず城の落る時
1427 たからの市で聟は倒れる
1428 草履とりまで息杖の息
1429 明地が出来て新らしい棒
1430 合点の上で遠い寐所
1431 宇治にちらばふ殿の紋所
1432 夜更て人を遣ふいんぎん
1433 そば切は投込ほどが馳走也
1434 たゝらの中へ薬鍋かけ
1435 相人が瞽女で恥をかゝせる(あいて)
1436 小野が曇てほとゝぎす降
1437 下戸の鼻にはうまい木犀
1438 二代とは続ぬ下戸の蔵を買ひ
1439 めくらむす子の乳を長く呑み
1440 仙台へ歯の立ぬ稲虫
1441 気の強い女の落るあまの川
1442 飼ねずみ来るよし町の屋根
1443 むつくり起た醫者の横平
1444 名代の狐白い飯喰ふ
1445 向うの顔をふさぐ蘆刈
1446 葉ほど世間をしらぬ茶の花
1447 夜はほのぼのと通り者散る
1448 染風呂敷の美しい供
1449 かぼちやを抱て下るさし茅
1450 無念なりけり山伏の餅
1451 是切の布子着て買ふはつ鰹
1452 昼を大事に遣ふ十月
四季混雑 紀逸述
法楽
1453 裏なきは神のこゝろぞ夏衣
1454 鶯の聲かけて割る氷かな
1455 我が年をかぞへて寒し冬籠
1456 名月や茗荷の鶴も生のこり
1457 あくる日に家の床しき碪哉
1458 樹に寐るとおもへばやすし渡鳥
1459 二夜啼一夜はさむしきりぎりす
1460 菜の花や庵のうちに曾我の母
1461 はつ雪や牡丹のごとく手の如く
重九
1462 朝顔に着せる物なし菊の花
1463 稲づまや椽まで来ては帰る波(縁)
1464 顔みせや狐もひとつ人の中
1465 初雁や結んで投る雲の袖
1466 夏行て誉たる所皆寒し
1467 樽買の二十日めに来る牡丹哉
1468 降そうな三十日をふらで時雨かな
1469 袴着やうしろにおやま二郎三郎
1470 鼠追ふ夫婦の声も夜寒哉
1471 木がらしや眼につけて吹く柳原
1472 あたゝかに猫を寐せるや寒牡丹
上巳
1473 酔ぬとは言れぬ雛のあぐらかな
1474 鹿の恋猶焚つけるもみぢ哉
神明法
1475 正直の種を植るや杉の苗
1476 初午に狐を乗せる遊びかな
1477 根を付て提ればいやし菊の花
1478 海老網の引明さむきもみぢ哉
1479 五月雨や焚ぬ煙の小松ばら
1480 からたちも手の出し安き若葉哉
1481 二日から月も匂ふや梅のはな
1482 ゆかしさよ嫁菜揃へる暖簾下
1483 むら雀躍らば着せん梅の笠
1484 大空に無事と書く字や春の雁
1485 雲雪は跡での事よ花ざかり
1486 眼に白き物のくすりや山ざくら
1487 麦飯にとろゝと啼やきじの聲
更衣
1488 袖笠のかへりもかろし衣がへ
1489 しら鷺の眼にはあぶなし郭公
1490 夕ぐれやさくらに沈む人の聲
はるかにてらせ山のはの月
1491 時花眼の闇のあかりや仏生會(はやりめ)
1492 銭の事わるく言れぬぼたんかな
1493 さわらびや煙をつかむ雨の中
1494 鵜遣ひの躍り見て居る月夜哉
1495 紫に身を投出すや萩の露
1496 宵の雨抜るほどゝは雲見草
1497 松虫の松もどきにも茄子かな(なすび)
五歳に成る愛子を失へる人に
1498 五の字にも油断はならず五月雨
1499 ぽた〳〵と桃の花さく垣根哉
1500 笛吹て啞も遊ぶや花すゝき
1501 魂や鐘に勝つ夜のきりぎりす
1502 はゝきゞや入日の中のいかのぼり
1503 八朔や機嫌の直る風の神
1504 利口には波のしいれる千鳥哉
再会
1505 同じ根は寄り添やすし雪の竹
留別
1506 まあとあるをしほに戻るや川千鳥
1507 大黒の身をうき草やゑびす講
1508 雛の前かしこまりたる雨夜哉
1509 町中に医者の桜の咲にけり
他国の人をいたみて
1510 聞てから寐られぬ夜半や寒念仏
1511 初雪やつまむで付る垣のはな
1512 屋根板を鳶のくはへる野分哉
1513 づぶぬれて芙蓉を出る兎かな
五月十三日首途
1514 簔と笠竹植る日の旅出かな
上野にて
1515 しのばすはことしも花の鏡かな
鉢の木の讚
1516 あたりながら梅に梅田の工夫哉
煙の中に女の顕れし画讃
1517 炭はねて言残したるうらみかな
1518 吸ふてだに鶴の千とせや菊の露
1519 聟に成人うつくしき師走哉
1520 飛ぶ中にありく蛍やみをつくし
再会
1521 二度めには戸の明てある水鶏哉
あはれなる物
1522 子を抱て鶏の丸寐や霜の声
丹五
1523 立並び小褄のかへる幟かな(こづま、のぼり)
看病
1524 火の下に生姜の匂ふ霜夜哉
1525 鳥黒し硯洗ひの橋ばしら
1526 朝顔を朝食にする胡蝶かな
七十賀
1527 その上に三十足さん百千鳥
1528 名月やうき世の隅に念仏講
1529 白瓜に思ひがけなき手綱かな
1530 名月やそれ程もなき雲の帯
1531 よい陰へ放しうなぎや蓮の花
1532 鉢たゝき同じ所の夜明哉
出山の像を拝して
1533 吹度に佛の肉の落葉哉
別荘にて
1534 かんこ鳥見る気はないか上屋敷
1535 薮入のうき世に飽た顔もなし
起出て又何事をいとなまむ
1536 起々の筆にちからや大根引
1537 玉霰鼠の嫁を呼ぶ夜かな
1538 山茶花や障子のうちに尼の聲
1539 鳥さしの振かへりたるやなぎかな
1540 椀久が蒔て花さく菜種かな
1541 年と日のかゝりむす子や太郎月
1542 田作リの鱠は寒し梅の花
1543 万歳や今はむかしの縣召(あがためし)
神農
1544 一日の口に余るを蚊やりかな
1545 はつ霜や湯屋よりあまる水煙
1546 風はなやねぶかに落て入性根(いりしょうね)
1547 秋までは我を張通すかゞし哉
述懐
1548 鬼灯や人は口から年が寄り
俳諧武玉川 二篇 終
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