2012年9月24日月曜日

俳諧武玉川 三篇

俳諧武玉川 三篇
(底本:日本名著全集 江戸文藝之部第廿六巻 川柳雑俳集 )

冬嶺之部(十五点)
1549 牡丹を入れてかしこまる駕籠
1550 浮沓を馬鹿にして居る都鳥 
1551 女の智恵の青い庚申  
1552 鼓打女の肘は乳へ付け 
1553 夫の盆へ残すさかづき  
1554 さられた足で早乙女に出る 
1555 おもひ出したる井戸掘の聲 
1556 耳も歯も浮世はなれて知恩院 
1557 直切た鐘の恥しい聲 
1558 役の行者の行当る市 
1559 遠くから楽しみにする立すがた 
1560 よしのゝ山をかじる小座頭 
1561 鳶を見て居る桶伏の穴 
1562 寺の名の立つ夜の大名 
1563 みんな寐た夢の上行く面白さ 
1564 新地の障子菜の上で張る 

1565 柱ごよみ寐て見る程に春近き 
1566 胴につかれて帰る舟宿 
1567 古河の番所の管簾なる こが、くだすだれ
1568 雪隠を借リた所でほとゝぎす 
1569 帆かけ船何もない日の取ざかな 
1570 夜は鼠のかゝる天秤 
1571 惚ぐすり吝いながらも都にて しわい:けちる
1572 京の異見の届くはつ春  
1573 売つぱな水を二日の仮枕 つばな:茅花
1574 新造の二人前付く奉加帳 
1575 間合を見ては笑ふ連弾 
1576 雲の峰碇の綱に湯気が立 
1577 尻もちはきのふと見える大根引 
1578 手代を付て初の勘当 
1579 むつ言に問ひかけて見る爪の星
1580 砂に育てゝ貰ふ大磯 
1581 吹るゝだけは螺貝へ銭 ほらがい
1582 我ものと思へば遠き三世相
1583 出家にしても末の松山 
1584 傘を廻して通る念仏 

1585 物おもひ葵咲日を見抜きけり
1586 大三十日いらぬ所に灯がとぼる
1587 掌へ貰ふたやうに星が飛
1588 汐汲の男をなぶる肩の上
1589 いき過る比丘尼の顔に腹が立
1590 青物の中に玉子の突出され
1591 死そこなうて辞世仕直す 
1592 藤の使は立て請取る 
1593 あかつきかけて寒い廻状 
1594 ころぶ子の稲妻は目へ這入る也  
1595 塩がまに赤い天窓の姉いもと 
1596 長刀の師匠と聞て寄付かず 
1597 物音へ心々に名を付けて 
1598 雪掻のはじめは片手懐手   
1599 師走にあはぬ御師の顔付 おし 
1600 剃刀に羽子の程の息を懸け はごこ
1601 さればこそ様子有べき普門品 
1602 樽拾ひあやふい恋の邪魔をする 
1603 約束の紀念も後家のもみかへし かたみ
1604 遠くから娘の逃る焚火陰

1605 引舟に連立て行く烏打
1606 馴染が付とかはる取親 
1607 眼の下の物を見くびる崖作リ
1608 飛鳥の先にたゝんと木の葉ちる
1609 取あげ婆々をもどす引汐 
1610 両袖に秋風つゝむ寺小性 
1611 小荷駄の首の正直に行く 
1612 見送て行く蟬の小便 
1613 御幸の牛の物喰ひもよし 
1614 いく度だまして畳むちりめん 
1615 田渋汲たらひは妻のきぬさらき たしぶくむ 
1616 巻紙の二重心は跡へまき 
1617 猿の戻リのみゆる高橋 
1618 石切の火が飛んでから猶寒し 
1619 正平紋に侘る大兵 だいひょう
1620 もしほ焼伊達はなけれど瓦がま 
1621 臍へりきみの廻る堪忍 
1622 庄屋の産にほらの貝ふく 
1623 足軽の鞘鳴リがして電り いなびかり 
1624 気のもめる時はつき出す置巨達 

1625 百万遍にゆれる蓬生  
1626 灯籠に手間を入れてもあぢきなし
1627 朝夕の間も大工の遅ざくら
1628 母の心へひとつ合鍵 
1629 臍の緒は松坂に有リ若だんな
1630 気違を淋しく通す京の町
1631 桜川西瓜の皮も流れけり
1632 うき秋を焚て紛るゝ八王寺
1633 女が勝て捨たる光陰 
1634 内侍といへば聞惚がする 
1635 箔代の雨の舎りも手向草 はくしろ やどり 
1636 帯した妾明るみへ出る 
1637 ゆるさぬ路次の夏に破られ 
1638 もたれた壁のほめく立聞  
1639 根津のやき物今にすめかね 
1640 背中で蠅の遊ぶ腰ぬけ 
1641 旅を哀にしたる順礼 
1642 聞出して無理に買せる惚ぐすり 
1643 基佐を取残す大原 もとすけ 
1644 百度参の跡を掃出す 

1645 郭公思ひ〳〵に漕出させ  
1646 初午の裏はかけ菜に気が腐リ 
1647 娘が逃て追人なくなる おって 
1648 過去帳に惜しい男をとめて遣る 
1649 落馬を恥に立ぬ意地張 
1650 追人の腰の抜るはし詰 
1651 六ツと六ツとが鐘のおもいれ 
1652 蚊ばしらの顔へ崩れる半太夫 
1653 とし忘夫婦で仕舞ふ八重むぐら 
1654 牛盗人の棒で仕かける 
1655 浅草に舅が出来て歩行かね 
1656 鍔の鳴る刀の売れる八王寺 
1657 命あるものを残して汐干がた 
1658 苦いきせるをはふる鹿聞  
1659 鶯が能けれは籠に欲が出来 
1660 まだ捨切らぬ神へ言伝  
1661 鵜遣ひの流につれて身のひねり 
1662 鰒といふ奴が出てより面白き 
1663 幡に隠るゝ衣屋の嫁 はた  
1664 篠懸を這ふぼんぼちの虫

1665 物思ひ蝕の盥へ寄つかず 
1666 面打の振向方にかゞみ立 
1667 娘の意地を立る負公事 
1668 気のながい遣手へ猫の行当り 
1669 能なし猿を居ゑる摂待 
1670 仮名を書せてなぶる金剛 
1671 かき立る手も真青に石燈籠 
1672 たいこが顔にすり付る伽羅 
1673 本陣のはるか奥より針の銭 
1674 うまい息子のあそぶ朔日  
1675 天の川淋しい幮に若旦那 かや 
1676 抱付て明るく成リし恋の闇 
1677 裄丈の揃はぬ内が誠なり ゆきたけ
1678 引出の走リ過たる噂言ひ 
1679 いつ見た儘かけいせいの夢  
1680 うき世絵書へ隣から膳  
1681 めぐるいんぐわのはやい銭箱 
1682 妾の親の見飽く人参 
1683 開帳に下る仏を小笹ばら
1684 鰹の罪は酔て顕れ 

1685 泣く子をば乳母に預けて立姿
1686 だうらくで痒い所へ手が届き
1687 うき秋をたき付て行く黒木うり
1688 鰯ある日の空に知らるゝ 
1689 声を立るといふが奥の手  
1690 蓬生に左まへなる風の神 
1691 昼顔も溜息をつく小名木沢 
1692 双六に片手のきかぬ五月雨 
1693 生ながら何にあはれて常念仏 
1694 燈籠の火を細々と梅寒し 
1695 青いもの着るかるい疱瘡 
1696 新造のわつかな願をかけながし 
1697 強飯の訳も知らずに目出度日 めでたい 
1698 かい敷の笹に手を引く稲びかり 
1699 入智恵に口の揃はぬ恋衣 
1700 念者に似合ふ大づゝみ打 
1701 文盲な駕は寐て行くかゞみ山 
1702 須磨とあかしは曠な知行所 
1703 野守の鷹の水底を飛ぶ 
1704 晦日ほど人の心にあかれけり みそか 

1705 行脚の夢の顔へふろしき 
1706 口留をして出す庵の小さかづき 
1707 夕顔咲て汁が喰れる 
1708 身の代もつて這入る蓬生 
1709 寺にさへふしょう〳〵な午まつり 
1710 明後日とかるく請合ふ水浅黄 
1711 赤蛙国主の腹へ這入けり 
1712 大黒の吝い所をゑびす講 しわい
1713 寄つてかゝつて憎む六波羅 
1714 座頭の口で止る売居ゑ 
1715 能い顔をさがしに出たる朝がすみ  
1716 死で願ひの叶ふ書置  
1717 及の笑ひのうまければ降 ぎゅう
1718 帯といふものは日本の後ろつき
1719 色々に夜着を着て見る翌る晩
1720 分別ざかり北面の武士
1721 物干へ鳶の蹴落す蟬の聲 
1722 下戸の差出を責る盃 
1723 紅紙燭夫から先は御意次第 べにしそく 
1724 涅槃像あらゆる泪こぼしけり 

1726 蕣に狐を馬の草履とり あさがお
1727 一盛リ二人の親を淋しがり 
1728 蘇生の隠居人に見らるゝ 
1729 枕の数を持たぬ獨リ寐 
1730 そといふ文字を嬉しがる婆々
1731 喰摘にことしの物はなかりけり 
1732 水に寄るわが黒髪も二つ折 
1733 瀧の調子の狂ふ荒行 
1734 酒にする気でぬるい雩 あまごい
1735 言たてに一つもならぬ恋の闇 
1736 漸々と臍の緒落る雛の主
1737 奇麗な京に高い小便 
1738 退た狐の急に餲ゑる のいた かつえる
1739 礫のやうな法の返答 
1740 小姓の棹で水門を出る 
1741 暖な咄して行く鉢たゝき
1742 蘆芦分舟のいたいめをする あしわけぶね
1743 嵐の巻て通る小むしろ 
1744 佛より先に言るゝ毘首羯磨 びしゅかつま 

1745 かばやきの煙の中に善の綱 
1746 三味せんは乞食の膝へ作り付け 
1747 角力取髭人参に助られ 
1748 きしむ戸を踏放されて雲の峰 
1749 残らず紅絹のわたる看病 もみ 
1750 破軍の下を歩行く傾城 
1751 三条へ出て元の気違ひ 
1752 勘当された一周忌来る 
1753 合口の友に成るなら御納戸茶 
1754 棒を習つて憎い口聞く 
1755 翌京と言ふ近江路の心持 あす 
1756 茅の輪を抜ける不拍子な顔 
1757 髪際に無理の残る墨染 
1758 おもひ錆付くお物師の針 
1759 むかしの事を思ひ切る親 
1760 去年のけふ逢ふたまゝなる紋所 
1761 初嵐広い通りを横に行 
1762 三十に成ると女の世がすたる 
1763 また針指の出来る囲れ かこわれ
1764 両方の目のいそがしき中の町 

1765 誓文を立る若衆の聲高く 
1766 遊行の札をさがす綻び ほころび
1767 かはらの煙リ白髭へ行く 
1768 木馬の側にかゞみ見て居る 
1769 土器師ともに鶉を誉て居 かわらけし
1770 にはたづみ夜も鳴鳥の水かゞみ 
1771 百日法華また杖をつく 
1772 寒聲の仲間はづれは物おもひ 
1773 太鼓へあたり曠な散銭 はれ
1774 灌仏の湯気に隠れて一二町 
1775 だかれて来たる鶏の身振ひ とり
1776 大屋も知らず玉のこし来る 
1777 御物語に低い手まくら  
1778 凩に向て奴の反かえり やっこ
1779 梓にかゝる若衆さびしき 
1780 うき時の丁子頭に唱へ事 
1781 風巾を貰ひに吉はらの屋根 たこ
1782 薬いぢりのうゑる桑の木 
1783 結納にあたりのわるい若手代 
1784 寐入られぬ心につかふ有つたけ 

1785 枕かや見て吹かぬ山ぶし 
1786 洗つた馬のかはく松かぜ 
1787 小僧が智恵は飛ながら出る 
1788 何所やら匂ふ新御所の雨 
1789 関守に時宜をして行く傀儡師 
1790 明暮に糸ゆふを汲む油うり 
1791 家守の耳を鳴つぶす蟬 
1792 物ぐるひ関の清水に聞惚て 
1793 幮を振つて枕見出され かや 
1794 本阿弥に星をさゝれて跡しさり 
1795 乞食寐て居る売居ゑの門 うりすえ 
1796 焚火に塩の落る腰簔 
1797 雨乞に力を添へる尾長鳥 
1798 こせ〳〵と何ぞ言たい念者の気 
1799 二日つゞいて買かつぐ夢 
1800 通れと声の尖る関もり
1801 小さい手からうまい小つゞみ 
1802 はらを立とき黒髪は殖えて見へ 
1803 孕器用も尻知らずなり はらみ きよう
1804 夜はほのぼのと古市の文

1805 雨の祈の光る山ぶし 
1806 大造に可愛がられて長恨歌 
1807 呼屋の婆々のうか〳〵と老 
1808 先達の棒を集めて宿を取 
1809 どつかりと寄る牢人のとし 
1810 道具鄽ほど頃日の髪かたち てん:店 このごろ  
1811 寡のおもひ念佛て消す   やもめ 
1812 らうそくに力くらべの緋縮緬 
1813 焙烙売のだます村雨    ほうろく
1814 病人が看病人を連れて逃げ 
1815 石の様なる名ぬし派が利く 
1816 借筆に言訳くらき恋の山
1817 子宝に喰立られて歌まくら
1818 烏の子一雨づゝに羽の光り
1819 暮六つまへに大またな武士 
1820 乳母乗て動かぬ池の捨小ぶね
1821 七曜へ吐く船頭の息  七曜:火星・水星・木星・金星・土星・太陽・月
1822 針箱へ額が付とかんこ鳥
1823 常念仏声が替れば近くなり
1824 隠す事なくて女房の老にけり

1825 物悦びのよごれもの着ず
1826 妾の尼の言いじらけ也 
1827 灸のすゑ人を持たぬ墨染 
1828 吉はらの恥もおもへば一周忌 
1829 縄代に夕べころんだ下駄が浮 
1830 幾度か聞く何がしの寺 
1831 上戸のぶんは残る子の刻 
1832 糸細工人の気を置く当麻寺 
1833 春の野や飯粒をふむ山かづら 
1834 恋風の横からあたる涼ぶね  
1835 座頭の噺飛々に行 
1836 清瀧迄はかつぐ挑灯     
1837 湯どうふの有ゆゑ人の二日酔 
1838 子には噺のあわぬふりつけ 
1839 鳴聲は葎の宿のふとり牛  
1840 鉢たゝきたゝき仕舞へば鉦の音 
1841 曲だいこ若い姿のかげぼふし 
1842 目の覚た縞を着て居る名代乳母 
1843 呑たい折に見えぬ丸薬  
1844 子にふろしきを かける日蝕

1845 つげ口は鳥に成つても憎がられ
1846 うれしさの袖も涙の大あぐら 
1847 みのわの言葉問ふに及ばす 
1848 隣の反吐にあはす鶏  
1849 涙の雨は殿をかろしめ 
1850 旦那寺春の道具に遣はれて 
1851 笙の師へちらり〳〵と御扶持方
1852 若衆の肘の袖笠に出る 
1853 一本松のぬれてとし寄 
1854 紙雛の物にかまはぬ立すがた
1855 片折戸立ても内は生ざかな
1856 目がねでも今は暦に歯が立ず 
1857 三輪の山夜の女にふりかへり 
1858 側で口舌も知らぬ夢助 くぜつ
1859 くろもじに足軽の手も香ばしき 
1860 色には出さぬ京の貧乏 
1861 十日ほど覗かぬ様にとうがらし 
1862 浪人の門田を植るやりぱなし 
1863 京を相手にきつい事いふ 
1864 緋の衣眠たい朝の仕事也

1865 谷七郷の魚ひかる也 やつ 鎌倉
1866 隙な日は系図見て居るゑぼし折 
1867 未来の種も捨ものゝうち 
1868 呼子どり青い顔から先へ出る 
1869 悟り尽して元の羽二重 
1870 可愛がらるゝ種の三味せん  
1871 取揚婆々のおどる乗もの 
1872 異見せぬ遊びははやく倦が付 
1873 畳の上の蝶はふり袖  
1874 家督あぶなく器用過たり 
1875 稀に吉田の二階から顔 
1876 桟留を着るもさかりの草履取 さんとめ
1877 山伏の火の草へ来て消へ 
1878 美しい気を捨る三十 
1879 よく似た顔に遠いさゝやき 
1880 光陰の中にも八日十二日 
1881 費な顔の見へる九重 ついえな
1882 鼓も下手に狸老けり    
1883 此日ざかりに昼がほの淡  
1884 茶碗ではあたりの濡る硯ばこ

1885 夢に見るつもりで昼も文まくら
1886 灯に向ふ女の顔へ夏の虫 
1887 涙をかつぐ供の乗もの  
1888 人形遣ひの惚どころなき 
1889 貰ふたを扇で分るかきつばた  
1890 はだかな人によける清水 
1891 春の夜を少し買ばや宝ぶね 
1892 巡礼の棒をひくのも気の転じ  
1893 腹立つて着る裄が揃はず 
1894 まだ寐ぬ伏見つゞく売物 
1895 世のまこと忽くろむ善の綱 たちまち 
1896 銀閣寺斗見残す出養生 ばかり
1897 松風ともに質に取る山 
1898 遠くへ知恵を廻す餞別 
1899 仲人を二階の上ではつて居る 
1900 中間一人たよりない恋 
1901 振袖に稲妻よけてやり過し 
1902 瘭疽を病んで起請こはがる 
1903 打れる瀧をにらむ剛力 
1904 仲人が来れば娘は針を取

1905 宝引縄の表奉公
1906 大門で車一輛しかられる 
1907 旅衣工夫を頼む同い年 
1908 有たけの姿を作る願ほどき 
1909 気の付ぬ林の煙をむら時雨 
1910 稲妻這入窓に念佛 
1911 一つ穴からわび言が出る 
1912 よそ目から案じて貰ふ懸リ舟 
1913 鰐口の惣名代にお乳の人 おち 
1914 鳴子引よその宝を守りつめ 
1915 雨まで誉て戻る仲人  
1916 顔上げて空を伺ふ出かし口 
1917 酢があれば生で喰れる春の海 
1918 子共が持て遊ぶ錦木   
1919 なまりぶし若葉の中に哀也 
1920 近付の名のかはる浜萩 
1921 仲人の器量が能て片だより 
1922 鰹の恥の多い日暮里 
1923 袖留てからよく夢を見る 
1924 辛味大根をくばる小原女

1925 鍋ぶたで蚊やり押へる八重葎
1926 住吉は草へはね出す膳の露 
1927 娘の唄の篳篥に合ふ ひちりき 
1928 先徒士の通りに曲る潦 にわたずみ
1929 昼寐して居ても床しき葭簾 よしすだれ  
1930 あほう遣ひに代々の森  
1931 前うしろ陽炎もゆる四十七 
1932 執行者に薪の行衛打抜れ しゅぎょうしゃ
1933 売喰の裏に淋しき捨徳利 
1934 去られた妻の去リ跡へ行 
1935 慈悲有る母をうらむうば玉 
1936 丸山で琴三味せんに合はぬ唄 
1937 大きく這入る昼の忍び路 
1938 薄紅葉人形を塗る九老僧 
1939 あぶない義理の出来る男色 
1940 一人づゝ鏡借リ合ふ松が岡 
1941 盃に追廻さるゝ大をとこ 
1942 日蓮の世も僅十月 
1943 汗かきの命めでたき今朝の秋 
1944 一夜鮓宮と桑名の人ごゝろ

1945 忍べば内も盗人の分
1946 大宮人も蚤を取る顔 
1947 蓬生へ左り前なる風の神 
1948 取リさへて肌入るのを見て帰る 
1949 市の有る日は遠い入相 
1950 豊のあかりに拝人が来る  
1951 水入れて麩も朝顔も遣ひ物 
1952 こゞとの口で燈明を消す  
1953 二度迄はたてかけて見る銅盥 
1954 生玉子いで呑といふ時の事 
1955 経師屋の刷毛は塗師屋の影を行 
1956 一重ほどおとつたやうにならの京 
1957 植かへの内は早苗の男業 
1958 蕣に足跡の有る物がたり
1959 女が減らす八瀬の松風 
1960 夕すゞみつまる所は丸はだか
1961 惚てから遥後也恋の闇 
1962 鉋ばかりが仕舞はれる音 
1963 役者の駕にしぐれ見送る 
1964 うき別れ臂に畳の筋を引

1965 只縫ふて居て額にて見る
1966 傘かりて絵馬の郭巨の長咄 かくきょ 
1967 放し鳥行く黙礼の間 
1968 事ぶれの鼻かむ袖を鈴の音 
1969 四季ともに松虫のある長局 
1970 子の生い立もさくい吉原 
1971 軒から棒の下る夜あらし 
1972 寒念仏呼込内も鉦の音  
1973 此やうな顔してといふ顔は似ず 
1974 奥へ召すのが武士のおとろへ 
1975 草履へ飛んで下る棚経 
1976 解けば妾の気に障るなぞ 
1977 局の部屋へ狐なくなる 
1978 房までもむやつく室の長枕 
1979 あきらめて居る口へ人参 
1980 追詰て見てまだ後家でなし  
1981 棒突は欠びの顔を水かゞみ 
1982 三味せんの隣をうらむ山ざくら 
1983 はたけば匂ふ宇治のさむしろ 
1984 心程行かれぬ年の茶碗うり

1985 見立違で夜を長く寐る
1986 蚊がたかる取あけ婆々の足のうら 
1987 舟引の筋違ふ形りに雨が降 
1988 母は半に戻る軽業 
1989 蕣のさきて結れるみだれ髪 
1990 一口の湯も養生のはしとなり 
1991 世捨人むかしの気にて夏を待 
1992 蘭の香に出入心もうつくしき  
1993 掃出せば廻つて這入蝸牛 
1994 むかしのさらぬ人形の顔
1995 池上参り珠数のふり合 
1996 ゆさばりに小僧を乗せて誤らせ 
1997 人みせにせぬ孝行は人が知る 
望楼之部(二十点) 
1998 可愛がられて今に浪人 
1999 犬追ふ物も仕立屋が付く 
2000 連の出る内雞を抱く 
2001 むかしの㡡の余る隠れ家 かや 
2002 いつの間に刀をさして夷講 
2003 待わびのむしられ物に桜草

2004 波風の相応に立男ぶり
2005 見事に濡れて母へ傘 
2006 向うの軒の近い正月 
2007 屋根板の飛ぶ冬の白川 
2008 若葉に成て御鬮隠るゝ  みくじ
2009 見もせぬ文でげぢ〳〵を追ふ 
2010 人知れずこそ面白い科 
2011 俗で拍子のぬける柴の戸 
2012 たゝかれる人も扇も其日切 
2013 わかめの波へ投ふる松明 
2014 あぶなく乗て通る馬医者  
2015 松風に気の付かぬ剛力 
2016 殖ずに仕廻ふ母上の金 
2017 聞よりはやく母は呪  まじない 
2018 萩の上からやせる蚊の聲 
2019 百夜を越して傘が干る 
2020 椽へならべる蛍見の膳 
2021 けふからは帯の短い菊の花 
2022 江戸のぬかりは夜のあみ笠 
2023 山伏の一間置に低く吹

2024 鼬に棒を投る大門  いたち
2025 手を引た女別れるにはたづみ 
2026 西日の町に捨てゝ有る人 
2027 よし原で翌の仏の凄く成 
2028 鶏のなみだのかゝる俎板 
2029 仲人が来て笑ふ神主 
2030 恋にひかれて若いかんきん 
2031 奈良に三日は一生の損 
2032 傾城の住ふ所に夜はなし 
2033 旅でも茶屋は生た物いひ 
2034 純子は繻子の若い兄分  どんす 
2035 鼠の痩に這入る新蔵 
2036 大晦日もうばはうきもの 
2037 志賀のむかしを近く言なす 
2038 今度も女伯母ひとり誉 
2039 平鬠のうごくうたゝ寐 もとゆひ 
2040 河風を串にさゝばや御祓川 
2041 懐の子をゆり起す願解き ほどき 
2042 樹の上で追人の者の小言聞 
2043 警固の杖の黄ばむ六月

2044 強力を先へ押出す丸木ばし
2045 古郷は木綿の強い斗也
2046 桜草にて過る中陰 
2047 馬を呵るに馬士の一声 
2048 関守の手を洗ふ黒髪 
2049 傘提るひより見の伊達 
2050 空也寺へうたんのなる垣を結
2051 糠屋へ来るは聟の本望  
2052 女に垣のゆるい九重 
2053 金剛杖を倒す松風 
2054 干鮭の目もこがらしの道 
2055 哀は上へ知れぬよし原  
2056 尼に成つても乳の張る寺 
2057 問屋の向ひ鸚鵡つたなし 
2058 六十四州眠る元日 
2059 鳥居が立つて夜明新らし 
2060 家内が立つて見たる鮟鱇 
2061 陽炎の中に乞食の物狂ひ
2062 盛上られて動くこんにやく  
2063 雷の落つく後家をあてこすり

2064 むかし咄に庵の戸が明
2065 此ごろの銭座つぶれて松の風
2066 色に出て其行末は青あらし 
2067 死んだ女郎を誉る初雪  
2068 都鳥若衆の舟は漕おくれ
2069 六月のひなたにぬかる長まくら 
2070 酔ぬ鰹を草の戸の曠 はれ
2071 本卦がえりも同じ魂
2072 かたみの髪の見る度に減 
2073 鹿を夢見て奈良に落着 
2074 新地に道の殖る優婆塞 
2075 栗の花ほうけて簔も草の音 
2076 京には肌をぬいだ佛閣 
2077 万歳馴し婆々の挨拶 
2078 開帳の江戸に着日は初松魚 
2079 役の行者の松明に酔ふ 
2080 かまくらで寄る勘当の年 
2081 けいせい買の内のなりふり  
2082 双六の賭に夫の顔を見る 
2083 黒焼でした恋も生死

2084 鉋屑ふく若い入相
2085 柄杓のそこをさらす蓬生   
2086 いひ訳済むと元の大聲  
2087 腹たつ顔の坤見る  ひつじさる
2088 さゞ波や古あみ笠の流れ行 
2089 四十八夜は後家の光陰  
2090 臑から灯す今の万灯  
2091 木挽の臍の燃る昼がほ  
2092 高尾が願ひ道哲を見る  
2093 黄檗は障つても鳴る物斗 
2094 ひそ〳〵そゝる伶人の顔 
2095 大工の知恵の凄い唐門 
2096 賃仕事たまる所に草の露 
2097 犬追ふ物に急な元服 
2098 日数経た肴を誉るはまちどり 
2099 今戸の旭煙から出る 
2100 倦はしの手斧はじめは面白き 
2101 鳥甲着た人の百つら 
2102 分別もない夏のふところ 
2103 箱御祓に少し物音 

2104 宵に寐た所の違ふうき寐鳥 
2105 紗綾ちりめんの中に盃 
2106 おつかなそうに踏ならす胞衣 
2107 へうたんを扇に乗せて世を観じ  
2108 妙やくは母の覚えて初がつを 
2109 ひじり窓をば振ぬ錫杖 
2110 高野ひじりを留る大聲 
2111 世に出る乞食瀧にうたれる 
2112 横日淋しく後家の縫物 
2113 琴のうしろをふせぐ母親 
2114 露の身の浮世へ出ると雨が降 
2115 三代先を婆々の大口 
2116 草分の思案のもどる祭リ前 
2117 あぶない茶屋へ蓮の実が飛ぶ 
2118 百稲荷すむ小野の古道 
2119 連添ふた元の起は書はじめ 
2120 中間の綻を縫ふ衣がへ 
2121 双六も灯の来る内の仮まくら 
2122 真木も家老も御国から着く 
2123 思案極て辻駕を呼ぶ

2124 四手に憎いものはふり袖 
2125 付木遣ひのあらい勘当 
2126 ふいご祭りに消へる鍛冶の火 
2127 琵琶の聞人を持たぬ四阿 
2128 ひづんだ家を誉る築しま 
2129 恥しめられて寐入るものゝけ 
2130 剃る気で打か夜半の柴の戸   
2131 赤穂へ送る狂歌案じる 
2132 床へ坐つて直す寐みだれ 
2133 勘当させた人も勘当  
2134 楊弓射も爪はづれもの  
2135 夜の葎をたゝく借り金  
2136 禁酒〳〵も気の知れた人    
2137 むすんだ形りですたる水引  
2138 やつこと言ふもむかし吉原  
2139 高野聖にうそのない年  
2140 面白くせんべいを喰ふゑぼし折   
2141 うつくしい後家を怖がる節句前 
2142 戸の締る音に崩るゝ辻ずまふ 
2143 つゝみかね小間物売をはつせ山 

2144 八重むぐら臼ぬすまれて広く成  
2145 取巻て聞く聟の白状  
2146 帆かけ舟半分はまだ夜が明ず 
2147 つゝまれて浮人形のうき沈み 
2148 昼つる蚊屋に出来た岩倉 
2149 四十二の子の美しい袈裟 
2150 高い手代の九重を出る 
2151 薮蚊追出す夕がほのやど 
2152 灯を掻立に這入る六月 
2153 よく似た顔をふところへ入  
2154 一つ咄の届く難波津 
2155 弟出来て譲る朔日 
2156 隅田のかすみを親子して漕ぐ 
2157 順見送る跡の大聲 
2158 川柳流れしだいに戸を洗ふ
2159 脈のうしろを仰ぐお局  
2160 近く行姿はもたぬ帆かけ舟
2161 赤子拾うて邪魔な物知リ 
2162 あみ笠は今の世にての隠れ笠
2163 犬追ふ物にもたぬ近づき

2164 夫婦おろかに同じ事泣 
2165 宇津の谷は喰れぬ物に銭の音
2166 愛染はゑくほを守る形でなし
2167 年季が明くと重い着る物 
2168 土産にならぬけふの詫宣 
2169 鬼門に当る枝の我まゝ 
2170 柴の戸をあなづる鶴の下リ所
2171 土蔵を建てゝ家の息継  
2172 精進にうそもつかれず暮遅き 
2173 ふるい日の心がゝりハ合歓の花 
2174 母は命をほめる凱陣 
2175 夏山の汁の枝折はたうがらし 
2176 数珠きるあしたさんごじゅを買 
2177 味噲汁に御意の下たる若たばこ 
2178 薺のつらをふんで行く春 
2179 笋に一夏もめる神宮寺  たけのこ 
2180 捨舟に木食一人雲の峰 
2181 起請の灰もさゆのいきほひ  
2182 暑き日を追廻したる夕河原 
2183 こらへ兼てか清水へ行 

2184 男ひでりの中に長刀 
2185 鶏買ふて夜も見に行 
2186 剃刀の刃へひける光陰 
2187 尾花がもとへ通ふ仲人  
2188 降る雪の明リ程なるたうがらし 
2189 秤に軽き水の本望 
2190 口留をする精進も有リ 
2191 まだ夜は縞を羽折て桑門 よすてびと 
2192 狐にほれる若草の中 
2193 寐かして置ていなのさゝ原 
2194 罾引大きな慾はなかりけり よつでひき
不騫不崩之部(二十五点)
2195 初て雨にぬれるつり鐘 
2196 麻上下の世話も寒だけ 
2197 側のもの見る手枕の夢 
2198 七小町気楽な時もなかりけり 
2199 並んで飛べば憎い人魂 
2200 帆をかけて来る京の分別 
2201 喰ふ雪の降る蒸籠の上 
2202 座当つくねて仕舞ふ横雲 

2203 細工が出来て唇を噛む 
2204 牛馬に喰立らるゝ八庄司 
2205 兜巾押へて舟へ飛込む 
2206 一晩は扇のしめる音頭とり 
2207 高座へ立た女見たがる 
2208 よい事はさせぬ西日のひがし山 
2209 文が届いてかはる夕ぐれ 
2210 男に持つて見れば皆夢  
2211 夜食の喰人殖る宵鳴 
2212 役の行者の立て居て喰ふ  
2213 つれない心羽二重に倦  
2214 内から帯の締るかんにん  
2215 愛宕から見る祝言の家   
2216 ぢろりと見ては通る桶伏  
2217 宵の気で胞衣を埋れば山かづら 
2218 腹立ふりを恋のはたらき  
2219 浪人の心に着せる蓑と笠 
2220 娘のほどく生鯛の糸 
2221 迎揃て下戸のぬき足  
2222 口のはしこい方が村雨 

2223 雨が止んでもくらい中宿 
2224 翌日は気のぬけて居るぬくめ鳥 
2225 律儀に持つてくらい松明 
2226 下女の奢も荒神の荒れ 
2227 三つに成と枕はかなし 
2228 真じ目に成るが人の衰へ  
2229 跡から消える後家の分別 
2230 見合て向ふの家も毒に成 
2231 文を逆さにふるふ瓜網 
2232 気違も春のものとは也にけり  
2233 子の声も鼻にかゝつて紀三井寺 
2234 思ひがけなく比丘尼有る町 
2235 稲妻の大きく這入る金閣寺 
2236 高い物買ふ嫁の相談 
2237 二代目からは常の人間 
2238 恨にも要はたつた一所
2239 若後家の二言迄は聞ぬふり
2240 鳥居からはだしに成つて願解
2241 あぶなく見ゆる名人の年 
2242 江戸の言葉で借リ座敷出る 

2243 無仏世界の行先に寐る 
2244 乞食生るゝ松風の中 
2245 新地の夢の覚る引汐 
2246 旦那に成つて見たる晴天
 
俳諧武玉川 三篇 終

初篇
二篇

※推奨サイト:武玉川を歩むさん

0 件のコメント: