2012年11月13日火曜日
誹風柳多留 初篇
柄井川柳の前句付け万句合より川柳と呉陵軒可有が選句し編纂、1765年刊行。
誹風柳多留初篇
序
さみだれのつれづれに、あそこの隅こゝの隅より、ふるとしの前
句付のすりものをさがし出し、机のうへに詠むる折ふし、書肆何
某来りて此侭に反古になさんも本意なしといへるにまかせ、一句
にて句意のわかり安きを挙げて一帖となしね。なかんづく当世誹
風の余情をむすべる秀吟等あれば、いもせ川柳樽と題す。
于時明和二酉仲夏 浅下の麓呉陵軒可有述
1 五番目は同じ作でも江戸産れ
2 かみなりをまねて腹掛やっとさせ
3 上がるたびいっかどしめて来る女房
4 古郷へ廻る六部は気のよわり
5 ひよひよのうちは亭主にねだりよい
6 番頭は内の羽白をしめたがり
7 鍋鋳掛すてっぺんから煙草にし
8 人をみなめくらに瞽女の行水し
9 米つきに所をきけば汗をふき
10 すっぽんに拝まれた夜のあたたかさ
11 斎日の連れは大かた湯屋で出来
12 入髪でいけしゃあしゃあと中の町
13 百両をほどけば人を退らせる
14 じれったく師走を遊ぶ針とがめ
15 九郎介代句だらけの絵馬を上げ
16 使者はまづ馬からおりて鼻をかみ
17 梅若の地代は宵に定まらず
18 投入の干からびてゐる間の宿
19 鞠場からりっぱな形でひだるがり
20 初物が来ると持仏がちんと鳴り
21 こはそうに鯲の枡を持つ女
22 唐紙へ母の異見をたてつける
23 捨てる芸始める芸にうらやまれ
24 新発意はたれにも帯をして貰ひ
25 内にかと言へばきのふの手を合はせ
26 美しい上にも欲をたしなみて
27 四五人の親とは見えぬ舞の袖
28 天人も裸にされて地者なり
29 いつとても木遣の声は如在なし
30 身の伊達に下女が髪まで結うてやり
31 菅笠の邪魔になるまで遊び過ぎ
32 片袖を足す振袖は人のもの
33 お初にとばかり姑楯にとり
34 銅杓子貸して野呂松にして返し
35 七草をむすめは一ツ打って逃げ
36 赤とんぼ空を流るる龍田川
37 饅頭になるは作者も知らぬ智恵
38 取揚婆屏風を出ると取り巻かれ
39 呵ってもあったら禿炭を喰い
40 水茶屋へ来ては輪を吹き日をくらし
41 ふんどしに棒つきのいる佐渡の山
42 主の縁一世へらしれ相続し
43 親ゆゑに迷うては出ぬ物狂ひ
44 よい事を言へば二度寄り付かず
45 初会には道草を喰ふ上草履
46 喰ひつぶすやつに限って歯をみがき
47 子が出来て川の字形に寝る夫婦
48 取次ぎに出る顔のない煤払ひ
49 煮売屋の柱は馬に喰はれけり
50 療治場で聞けばこの頃おれに化け
51 足洗ふ湯も水になる旅戻り
52 まま事の世帯くづしが甘えて来
53 朝めしを母の後ろへ喰ひに出る
54 弁天の貝とは洒落たみやげもの
55 三神はなぶるとよみし御すがた
56 いただいて受けべき菓子を手妻にし
57 緋の衣着れば浮世が惜しくなり
58 太神楽ばかりを入れて門を閉め
59 付木突腰におどけた拍子あり
60 馬かたがゐぬと子供が芸をさせ
61 水かねで胸のくもりを磨いでおき
62 袴着にゃ鼻の下までさっぱりし
63 習ふよりすてる姿に骨を折り
64 無いやつのくせに供へをでっかくし
65 国ばなし尽きれば猫の蚤をとり
66 藪入の綿着る時の手の多さ
67 武蔵坊とかく支度に手間がとれ
68 勘当も初手は手代に送られる
69 五六寸かき立てて行く寝ずの番
70 新田を手に入れて立つ馬喰町
71 どこぞではあぶなき娘ゆふべやり
72 仕切場へ暑い寒いの御挨拶
73 紅葉見の鬼にならねば帰られず
74 お内儀の手を見覚える縫箔屋
75 泣がけも尊氏已後はもうくはず
76 しばらくの声なかりせば非業の死
77 伊勢縞のうちは閻魔を尊がり
78 役人の子はにぎにぎをよく覚え
79 女房があるで魔をさす肥立ぎは
80 鑓持は胸のあたりをさし通し
81 白魚を子にまよふ頃角田川
82 帯解は濃いおしろいの塗り初め
83 灯籠に甚だくらい言訳し
84 逆王を貰ひに出たる料理人
85 花守の生れかはりか奥家老
86 あかつきの枕に足らぬかるた箱
87 出てうせう汝元来みかん籠
88 二箇国にたまった用の渡りぞめ
89 鼻紙で手を拭く内儀酒もなり
90 病み上がりいただく事が癖になり
91 橙は年神さまの疝気所
92 合羽箱どろどろどろとかしこまり
93 定宿を名乗ってひどい場を逃れ
94 井戸替に大屋と見えて高足駄
95 立臼に天狗の家をきりたふし
96 禅寺は彼岸の銭にふりむかず
97 たそがれに出て行く男尻知らず
98 隣から戸をたたかれる新世帯
99 うりものと書いて木馬の面へ張り
100 むかしから湯殿は智恵の出ぬ所
101 神代にもだます工面は酒が入り
102 盃にほこりのたまる不得心
103 跡月をやらねば路次もたたかれず
104 指のない尼を笑へば笑ふのみ
105 鉢巻も頭痛の時は哀れなり
106 ぼた餅の精進落はゐのこなり
107 穴ぐらで物いふような綿ぼうし
108 急度して出る八朔は寒く見え
109 傀儡師十里ほど来た立ち姿
110 鶏は何か言ひたい足づかひ
111 手拭にきんたま出来る一さかり
112 杖突の酔はれた所は盛り直し
113 婚礼を笑って延ばす使者を立て
114 すっぽんを料れば母は舞をまひ
115 椋鳥が来ては格子をあつがらせ
116 振袖は言ひそこないの蓋になり
117 せめて色なれば訴訟もしよけれど
118 葭町へ羽織を着ては派が利かず
119 壁のすさむしりながらの実ばなし
120 国の母生れた文を抱きあるき
121 塩引の切り残されて長閑なり
122 江戸者でなけりゃお玉が痛がらず
123 お袋をおどす道具は遠い国
124 菅笠で犬にも旅の暇乞ひ
125 飯焚きに婆アを置いて鼻あかせ
126 後ろから追はれるやうな榊かき
127 上下で帰る大工は取り巻かれ
128 前あれで手をふく下女の取り廻し
129 跡乗の馬は尾ばかり振っている
130 疝気をも風にしておく女形
131 塗桶はいっち化けよい姿なり
132 寒念仏みりりみりりと歩くなり
133 衣類までまめでゐるかと母の文
134 向うから硯を遣ふ掛人
135 迷ひ子のおのが太鼓で尋ねられ
136 脈所を見せて立板申すやう
137 上下を着て文盲な酒をのみ
138 半兵衛雛の頃から心がけ
139 喰積がこしゃくに出来て壱分めき
140 捨子ぢやと坊主禿をなで廻し
141 藪入をなま物知りにしてかへし
142 流星のうちに座頭はめしにする
143 禿よくあぶない事を言はぬなり
144 客分といはるる女立のまま
145 正直にすりゃ橙は乳母へ行き
146 護国寺を素通りにする風車
147 雪見とはあまり利口の沙汰でなし
148 寒念仏千住の文をことづかる
149 松原の茶屋はいぶかる景になり
150 ぼた餅を気の毒さうに替えて喰ひ
151 孕ませた詮議はこれで山をとめ
152 落ちて行く二人が二人帯がなし
153 親分と見えてへっつい惣金具
154 日傘さして夫の内へ行き
155 縫紋を乳をのみのみむしるなり
156 藪入にうすく一きれ振舞はれ
157 根ぞろへの横にねじれて口をきき
158 庵の戸へ尋ねましたと書いて置き
159 隅ッこへ来ては禿の腹を立て
160 小座頭の三味線ぐるみ邪魔がられ
161 舌打ちで振舞水の礼はずみ
162 義貞の勢はあさりをふみつぶし
163 関寺で勅使を見ると犬がほえ
164 乳貰ひの袖につっぱる鰹節
165 これ小判たった一晩居てくれろ
166 琴やめて薪の大くべ引き給ふ
167 状箱が来ればよばれる太夫坊
168 飯焚に百ほど頼む豆腐の湯
169 迷惑な顔は祭りで牛ばかり
170 桶伏をはじいて通る日和下駄
171 親類が来ると赤子の蓋を取り
172 江の島を見て来たむすめ自慢をし
173 明星が茶屋を限りの柄ぶくろ
174 御自分も拙者も逃げた人数なり
175 還俗をしても半分殊勝なり
176 細見の鬼門へなほる遣手の名
177 袖口を二ツならして娵をよび
178 幽霊になってもやはり鵜を遣ひ
179 羽織着てゐるお内儀にみな勝たれ
180 権柄に投げ出して行く質の足し
181 おびんづる地蔵の短気笑ってゐ
182 弐三歩が買ふとうるさい程はなし
183 お袋は不器な姿に雁を書き
184 あんまりな事に一人でふせて見る
185 御一門見ぬいたやうな銭遣い
186 このしろは初午ぎりの台に乗り
187 祭り前洗ひ粉持って連れて行き
188 隣へも梯子の礼にあやめ葺き
189 天人へ舞とはかたいゆすりやう
190 御后のわる尻をいふ陰陽師
191 歩と香車座頭の方は付木でし
192 御勝手はみな渇命におよんでゐ
193 黒文字をかぎかぎ禿持って来る
194 源左衛門鎧を着ると犬がほえ
195 仲人へ四五日のばす低い声
196 傾城も淋しくなると名を替へる
197 深川の土弓射習ふ草履取
198 黒木売り大事に跡をふりかへり
199 駕籠賃をやって女房はつんとする
200 煤掃きの下知に田中の局が出
201 棟上を名代の乳母の尻へ投げ
202 柏餅妹の乳母は手伝はず
203 箱王が料の袂に蝉の声
204 横町に一ツ宛ある芝の海
205 茸狩は紅葉狩より世帯じみ
206 蚊を焼いた跡を女房にいやがらせ
207 長屋中手ごみにはかる田舎芋
208 岡場所はくらはせるのが暇乞ひ
209 花娵のあました平へ札をいれ
210 太神楽ぐるりはみんな油虫
211 冠を踏み違へたる見倒し屋
212 壱人者飲まぬかはりに弐朱がつき
213 降参が済むと一度にひだるがり
214 おさらばを障子の内でたんと言ひ
215 秋がわき先づ七夕にかわきそめ
216 中川は同じあいさつして通し
217 踊り子のかくし芸までして帰り
218 忍び駒なんぞいひたい姿なり
219 四日から年玉ぐるみ丸くなり
220 小力があるで若後家じゃれになり
221 日本の狸は死んで風起し
222 芝居見の証拠は女中先に立ち
223 銭なしのくせにいつでも采をふり
224 新世帯何をやっても嬉しがり
225 初雪に雀罠とは恥知らず
226 雨宿り額の文字をよく覚え
227 荒打ちを遠くへ寄って目出たがり
228 江戸へ出る日には手作の髱を出し
229 斎日に危なくほめる海おもて
230 屋敷替へ白い狐の言ひおくり
231 蟻ほどに千畳敷の畳さし
232 見知りよい頭は御所の五郎丸
233 腰帯を締めると腰は生きて来る
234 糠袋持って夜伽の礼に寄り
235 四辻へ来ると追人の気がふえる
236 降参の顔をなぐさむ白拍子
237 山の芋うなぎに化ける法事をし
238 五ツ月を越すと近所へ義理を欠き
239 白いのにその後あはぬ寒念仏
240 返事書く筆の軸にて王を逃げ
241 嬉しい日母はたすきでかしこまり
242 袂から口ばしを出す払ひもの
243 医者の門ほとほと打つはただの用
244 稲妻の崩れやうにも出来不出来
245 張物を上手にくぐる高足駄
246 夜が明けて狩場狩場へ外科を呼び
247 恐悦を水と樒で申し上げ
248 こそぐって早く受けとる遠眼鏡
249 大黒の好きは大根のぶん廻し
250 江の島で一日雇ふ大職冠
251 上輿の当てにして置く地主の子
252 よしなあの低いは少し出来かかり
253 関取のうしろに暗い按摩取
254 大門をそっと覗いて娑婆を見る
255 煤掃きに装束過ぎて笑はれる
256 両替屋のっぴきのない音をさせ
257 寝ごかしはどちらの恥と思し召す
258 竃祓ひたいで鈴をふり納め
259 馬島での近づきならばうろ覚え
260 乳の黒み夫に見せて旅立たせ
261 盗人にあへば隣でかなるがり
262 歌一首あるで噺にけつまづき
263 駿河町畳のうへの人通り
264 八幡は堪忍ならぬ時の神
265 岡場所は遣手と女房どんぐるみ
266 手拭ではたいて女衒腰をかけ
267 裏門と家中の乳母は首ツ引き
268 聞いてくりゃ命があるといふばかり
269 清盛の医者は裸で脈をとり
270 才蔵は呑みかねまじき面っつき
271 金の番とろとろとしてうなされる
272 お歯黒を俄につけて科が知れ
273 よみの場へ筆添へて出す奉加帳
274 小間物屋箱と一所に年が寄り
275 太神楽赤い姿に見つくされ
276 鼻紙を口に預けて手を洗ひ
277 どっち風少しはすねた道具なり
278 総領は尺八をふく面に出来
279 翌日は店を追はるる年忘れ
280 今暮れる日を傾城におちつかれ
281 梓弓下女の泪は土間へ落ち
282 幇問宗旨ばかりはまけてゐず
283 若後家の剃りたいなどとむごがらせ
284 能笛は忘れたやうな勤めかた
285 一門はどぶりどぶりと奏聞し
286 よい小紋着て紺屋までひきづられ
287 病みぬいたやうに覚える四十三
288 年男うまい咄を淋しがり
289 道問へば一度にうごく田植笠
290 羽子板で茶を出しながら逃げ支度
291 逆落しまでは判官ぬけ目なし
292 髪ゆひも百に三ツは骨を折り
293 掛人寝言にいふが本の事
294 ひそひそと玉藻の前を不審がり
295 母の気に入る友だちは小紋を着
296 大勢の火鉢をくぐる禿の手
297 御局はそっとそっとの十三日
298 知盛は喧嘩過ぎての棒をふり
299 四郎兵衛を恐ろしがるが恐ろしい
300 傍輩を寝静まらせて絎けてやり
301 普賢ともならう四五日前に買ひ
302 乳母に出て少し夫を歪んで見
303 ひん抜いた大根で道を教へられ
304 花娵の不粋でないの憎らしさ
305 妙薬を開ければ中は小判なり
306 留守の事唖は枕を二ツ出し
307 よい娘年貢すまして旅へ立ち
308 薬の苦せない親仁は喧嘩の苦
309 屋形から猪牙へ恋路のはしけもの
310 岩茸はぞんざいに喰ふものでなし
311 紫屋これも同じく嘘っつき
312 春まではふみこんで置く女ぶり
313 吉治が荷おろせば馬は嗅いでみる
314 万歳の口ほど鼓はたらかず
315 ごとくなる刀を抜いてせめる恋
316 小便に起きて夜鍋をねめ廻し
317 姑と違ひ舅のいぢりやう
318 相惚れは顔へ格子の跡が付き
319 辻地蔵山師仲間へ抱きこまれ
320 目合見てそっといふほど高く請け
321 供船へお玉の類はえり出され
322 恥かしさ知って女の苦の初め
323 男ぢゃといはれた疵が雪を知り
324 川止めの間太夫も麦をつき
325 清水は費えな銭に譬へられ
326 お歯黒を醤油のやうにあてがはれ
327 木戸木戸で角がもがれて行く屋台
328 新造に砂の降ったる物語
329 角兵衛獅子笛吹ばかり人らしい
330 凱陣の日には生酔五百余騎
331 擂鉢を押へる者が五六人
332 引っ張った茶台は客に持たせけり
333 吉日がここにも居るとこそぐられ
334 寝たふりで一度は埒を明けてやり
335 借りのある家へ桃灯紋尽し
336 霊棚の牛ははたけの鼻まがり
337 人参の親の秤の欲がはね
338 喰ふほどは数えて天狗おっぱなし
339 山寺は祖師に頭巾を脱ぐばかり
340 関取の乳のあたりに人だかり
341 前帯で来ては朝から敵になり
342 紙雛はころぶ時にも夫婦連れ
343 化かされた頭で直に奉加帳
344 大門を出る病人は百一ツ
345 手の甲へ餅をうけ取る煤払ひ
346 新見世といへばわづかな欲を買ひ
347 樽買に無駄足させぬやうに明け
348 銅仏は拝んだあとで叩かれる
349 立臼に芽の出たやうな松飾り
350 昼過の娘は琴の弟子も取り
351 髪置に乳母も強気な髱を出し
352 棟上の餅に汚れぬ育てよう
353 藪入を霞に見そめ霧に出来
354 持ちなさい女は後に老けるもの
355 昆布巻を喰はせておいて伝授をし
356 米刺は舟宿にでも置けばよい
357 堪忍のいっちしまひに肌を入れ
358 初午は世帯の鍵の下げ初め
359 包丁を淋しく遣ふ薬喰ひ
360 言ひなづけ互い違ひに風を引き
361 珍しい神の名を売る宮雀
362 御亭主の留守で鰹を手負にし
363 料理人客になる日は口が過ぎ
364 請状が済むと買ひたいものばかり
365 荒打ちに左官ばかりは本の顔
366 掛暇は暇もくれず目もかけず
367 大屋をば尻にはさみし論語読み
368 大名は一年置に角をもぎ
369 別当は馬や狐で茶をわかし
370 生り初めの柿は木にあるうち配り
371 藪入の二日は顔を余所に置き
372 御年貢を大部屋へ来てなし崩し
373 歌かるたにも美しい意地があり
374 匙で盛るものとは見えぬ薬種船
375 初鰹家内残らず見たばかり
376 弁天を除けると跡はかたはなり
377 大は小兼ねると笑ふ長局
378 神奈川の文は鰹の片便り
379 枕絵を持って炬燵を追ひ出され
380 母の手を握って炬燵しまはれる
381 祐経は椿の花のさかりなり
382 岡場所で禿といへば逃げて行き
383 雀形たたいて雪の注進し
384 日本勢一人は伽羅の目利もし
385 脇差をもどせば茶屋は彼のを出し
386 寒念仏鬼で目を突く切回向
387 大つづみ茶食の胴をぶっ潰し
388 町内の仏とらへて猿田彦
389 はねむしる鴨に手の込む長局
390 つまむ程道陸神に箔を置き
391 お歯黒をつけつけ禿にらみつけ
392 今以て根津の焼物すめかねる
393 四郎兵衛もひやうひゃくまじり暇乞い
394 なんの手か知れぬ夜更の硯蓋
395 佐渡の山検使の前でぶらつかせ
396 紙花もしばしのうちの金まはし
397 喜の字屋は梯子の口で人ばらひ
398 法の声請状までに行きとどき
399 黒礼の札には馬鹿な顔で来る
400 藪入が来て母親は遣手めき
401 家持ちの次に並ぶが論語読み
402 霜月の朔日丸は茶屋でのみ
403 新造のやっかいにする鼠の子
404 桟敷から人をきたないものに見る
405 藪入のうち母親は盆で喰ひ
406 厄払ひ出しなに壱ツやって見る
407 丸薬を貰ふ座頭はちぢこまり
408 霍乱もどうか祭りの罰あたり
409 伊豆ぶしも八代まではだしがきき
410 半分は仕着せで拝む閻魔堂
411 盆山は欠落らしい人ばかり
412 江の島へ硫黄の匂ふはけついで
413 桟敷から出ると男を先へたて
414 人の物ただ遣るにさえ上手下手
415 下駄さげて通る大屋の枕元
416 その手代その下女昼は物言はず
417 竃標のうちは飯焚かしこまり
418 藪入の出がけに物をかくされる
419 死に切って嬉しさうなる顔二ツ
420 土こねは手水を遣ひ幣を立て
421 三囲のあたりからもうぶちのめし
422 大磯は欠落するにわるい所
423 田楽を面白く喰ふ座頭の坊
424 二階から落ちた最後の賑やかさ
425 百合若の弓はつぶしに踏んで買ひ
426 辻斬を見ておはします地蔵尊
427 初旅へ晩はこれぢゃと二本出し
428 雪の夜は糊で付けたる顔二ツ
429 商売も国と江戸とは雪と炭
430 地紙売り目につくまでは指をなめ
431 そろばんを控へたやうな団子茶屋
432 そこ掻いてとはいやらしい夫婦仲
433 下戸の礼者に消炭をぶんまける
434 樽拾ひ目合を見ては凧を上げ
435 あの中で意地のわるいが遣手の子
436 御伝馬で行けばやたらに腹を立て
437 生酔の琴をけなしたとうとう寝
438 ぶちまけた跡は駕籠舁湯気が立ち
439 中宿で先ず初手からの封を切り
440 四里四方見て来たやうな新茶売り
441 労咳に母はおどけて叱られる
442 ちっぽけな桶で鋳掛は手を洗ひ
443 縫物を少しよせるも礼儀なり
444 樽拾ひとある小蔭ではごをしょい
445 双盤のひしげた所で御十念
446 草市はひだるい腹の人だかり
447 浅草の鏡に千の姿あり
448 飼鶴は袴着てゐる人へ行き
449 約束をちがえぬ紺屋哀れなり
450 和藤内一家の義理はかきどほし
451 日の暮れに高輪の戸はをしく立て
452 大滝は一言もないところなり
453 そこら中蓋を明け明け亭主ぶり
454 行燈で喰ふは大工も仕舞の日
455 京町へ来る鬼灯は選りのこり
456 張物に娵は結ばぬほほかぶり
457 昼買った蛍を隅へ持って行き
458 あいあいといふたび締める抱へ帯
459 小枕のしまり加減に目をふさぎ
460 仲人を地者とおもや太鼓持
461 半人で仕舞ふ大工に菰をやり
462 車引き女を見るといきみ出し
463 扇箱鳴らして見ては熨斗を付け
464 いろは茶屋客をねだって富を付け
465 薮入の供へは母が飲んでさし
466 手代ども根太盛りであんじられ
467 めし時といへば塗師屋はにょっと出る
468 親類の持ちあまされは麦を喰ひ
469 夜蕎麦切りふるへた声の人だかり
470 悪筆と仕舞の方へ痴話を書き
471 飛鳥山毛虫に成って見限られ
472 片棒をかつぐゆふべの鰒仲間
473 初鰹薬のやうにもりさばき
474 連れに礼言ひ言ひ生な封を切り
475 口近い化物で先づ一ツ消し
476 線香が消えてしまえば壱人酒
477 付き合ひで行く深川は箸休め
478 のびの手でつかんではなす削掛
479 入王と聞いて火を引く料理人
480 通り者羽織はふるが癖になり
481 油揚を提げたばかりで夜を明かし
482 塗桶へ書いてくどけば指で消し
483 座頭の坊急くと浅黄に目をひらき
484 医心のあるで女房事にせず
485 桶伏のあるで家内が洗足し
486 金谷から臼ひき唄を覚えて来
487 夜蕎麦切り立ち聞きをして三声よび
488 草履取名残の裏と聞きかじり
489 両介は第一飯がうまく喰え
490 仲条は手ばかり出して水を打ち
491 壱軒の口上で済む配り餅
492 景清はお尋ね者によい男
493 綿摘はみかんの筋も肩へかけ
494 生酔はおどかすやうなおくびをし
495 襟元のうっとしさうな田舎馬
496 褌をするが湯治の暇乞い
497 真黒な小刀遣ふ野老売り
498 蝋燭を消すに男の息を借り
499 太鼓の値出来てから出す火打箱
500 船頭の女房よい日に洗濯し
501 猿田彦坂際へ来て嗅ぎ廻し
502 追ひ出されましたと母へそっと言ひ
503 夕立の戸はいろいろに立ててみる
504 金持ちのくせに小粒に事を欠き
505 鰒買って余所のながしへ持って行き
506 女房は蚊屋を限りの殺生し
507 針仕事手の軽くなるほととぎす
508 物申といはるるまでに成りおほせ
509 樽拾ひ危うい恋の邪魔をする
510 御悋気のもう一足で玄関まで
511 若後家に随喜の泪こぼさせる
512 きめ所をきめた弐百はしゃちこばり
513 言ひ出して大事の娘寄りつかず
514 家老とは火を磨る顔の美しさ
515 見世さきへきっかけのある唄が来る
516 薮入はたった三日が口につき
517 かみさまと取揚婆が言ひはじめ
518 奥さまの加勢立臼鍋の蓋
519 腰縄の気で母親は苧を預け
520 不甲斐ない魂二ツ番がつき
521 月ふけて下戸の哀れはひだるがり
522 笑ふにも座頭の妻は向きを見て
523 伸びをする手に腰元はついと逃げ
524 囲はれの何を聞くやら陰陽師
525 指切るも実は苦肉のはかりごと
526 十分一取るにおろかな舌はなし
527 ぶらつくを棹で招いた渡し守
528 棒の中めんぼくもなく酔いは醒め
529 手付にてもう神木と敬はれ
530 上下は我儘に着るものでなし
531 勘当を許すと菜を喰ひたがり
532 奥家老顔をしかめるものを踏み
533 寝てゐても団扇のうごくおやごころ
534 煤掃きの孔明は子を抱いている
535 松の内七ツの星をよく覚え
536 見附から山葵おろしが出て呵り
537 大磯の落馬はすぐに煙草にし
538 唐人を入り込にせぬ地獄の絵
539 日和見の味噌気で傘を下げて出る
540 丸山でかかとの無いもまれに産み
541 松右衛門二言といはず酒をうけ
542 抱いた子に叩かせてみる惚れた人
543 これきりの小袖着て寝る太鼓持
544 網の目を潜ってあるく娵の礼
545 籤取りで遣手が灸を据ゑてやり
546 剃った夜は昨夜の枕きたながり
547 行燈は百と百との結び玉
548 忙しくなると鹿島は襟へさし
549 いっちよく咲いた所へ幕を打ち
550 病み上がり母を遣ふが癖になり
551 五六町銭屋を叩く戻り駕籠
552 これからは行くばかりぢゃと櫛払ひ
553 三人で三分なくなる智恵を出し
554 逃げたときゃ男の中で夜を明かし
555 腰元は寝に行く前に茶を運び
556 三囲を溜め小便の揚場にし
557 猿廻し内へ戻って顎を出し
558 雪隠の屋根は大かた屁の字形
559 除けの歌大屋の内儀持ち歩行き
560 子を抱けば男のものが言ひ安し
561 草津の湯名聞らしい人はなし
562 笑ひ止むまで灸点を待っている
563 桜花兄は莟のあるを取り
564 江の島で鎌倉武士は片旅籠
565 首取ったその日を急度精進し
566 鎌足へ真裸での暇乞ひ
567 若後家の不承不承に子に迷ひ
568 羽子板を預けて帯を締めなほし
569 御身様の聞きあきをする祭り前
570 外料を祭りの形で呼びに行き
571 尻持に和尚を持って地紙売り
572 瘡毒に衣を着せる長屋中
573 隙入りと書いて来てのは女房の手
574 男ならすぐに汲うに水鏡
575 犬蓼の心よく這ふ無常門
576 真先でさぐればぐらゐは化かされる
577 長噺とんぼの止まる鑓の先
578 糠味噌にもしかも瓜の百一ツ
579 舟嫌ひ壱人は川のへりを行き
580 太夫職百で四文もくらからず
581 佐野の馬さて首を垂れ屁をすかし
582 浪壱ツあだには打たぬ玉津島
583 狛犬の顔を見合はぬ十五日
584 弁天の前では波も手をあはせ
585 御婚礼蛙の声をみやげにし
586 遣唐使吹き出しさうな勅をうけ
587 舟宿へ内に律儀を脱いで行き
588 蔵の戸が鳴ると盃大きくし
589 家内多留ちひさい恋は蹴散らかし
590 蠅打でかき寄せて取る関手形
591 やはやはと重みのかかる芥川
592 風鈴の忙しないのを乳母と知り
593 鳥刺がかつぐと七ツ過になり
594 あいさつを内儀は櫛で二ツかき
595 女房は酔はせた人をにちに行き
596 傘借りに沙汰の限りの人が来る
597 本降りになって出て行く雨宿り
598 張肘をしてもやうやうよい女郎衆
599 切落とし気の毒さうな乳を飲ませ
600 地紙売り母に逢ふのも垣根ごし
601 舞留を常にくゆらす草履取
602 品川は木綿の外は箱へ入れ
603 姑のつむじは尼になつて知れ
604 欠落もきようにすればをしがられ
605 懐中の杓子を出していたゞかせ
606 見に行つてしめつぽく出る払蔵
607 すゝはきの顔を洗へば知つた人
608 火もらひのふきふき人に突当り
609 旅戻り子をさし上げて隣まで
610 佐野の馬かんろのやうな豆を喰ひ
611 なぎの葉を芝居の留守に掃出され
612 仕事師の飯は小言を菜にして
613 さいそくも質屋のするはゆるがしい
614 猿田彦いつぱし神の気であるき
615 御詠歌に預りものゝ娘あり
616 松が岡ちつとはじくが納所分
617 れんこんはこゝらを折れと生れ付
618 初見世はたんこぶ迄をうたがはれ
619 母おやはもつたいないがだましよい
620 けんぺきを打ち打ち戻る蔵のかぎ
621 生物をかゝへた婆ア不人相
622 湯屋へ来て念頃ぶりは側へぬぎ
623 餅はつく是からうそをつく斗り
624 色男四角な智惠で境へよび
625 腹立てばやぼらしく成る十三日
626 押入の戸やきぬ張で人をよび
627 出女の鏡へうつる馬のつら
628 針ほどを棒とは母の二ばんばえ
629 あたらしくしてもやつぱり親仁橋
630 戻る猪牙だるまもあればねじやか有り
631 江戸を出て姿の出来るぬけ参り
632 花なればこそ稀人の坊主持
633 色事に紺屋のむすめうそをつき
634 信濃へは地ひゞきがして日が当り
635 小腕でも長刀斗り二本しめ
636 ぬけた歯に禿のこぞる片ッすみ
637 貰ひ乳にかはるきぬたのちから過ぎ
638 碁敵は憎さもにくしなつかしさ
639 若後家のこすいでみんな貸しなくし
640 黒犬を挑灯にする雪のみち
641 一門のきなかと頼む能登守
642 迷ひ子が泣けば鉄棒ふつて見せ
643 産籠の内でていしゆをはゞに呼び
644 あだついた客ははしごでどうづかれ
645 さるだ彦角をはやして吸付ける
646 撥貸して見に行けば咽なでて居る
647 汐くみに所望の浪が打つて来る
648 年禮にもゝ引のいる縁を組み
649 うつちやつて看板にする紫屋
650 だきもりのわりなき無心鮒一つ
651 車座に紺の手の出る六夜待
652 桜見に夫は二丁跡から出
653 病み上り日本の人になぐさまれ
654 十露盤へしたむ小原のせはしなさ
655 燈籠の人を禿はむぐつて出
656 子を持つてから三日をやつとぬり
657 居酒屋に馬と車の払ひもの
658 寒念仏ころぶを見れば女成
659 母親の或はおどし手をあはせ
660 鼻声で湯治の供を願ひ出し
661 出格子へ子をさし上げて名をよばせ
662 女房を雪にうづめて炭をうり
663 先生と呼んで灰吹き捨てさせる
664 はやり風十七屋からひきはじめ
665 舞鶴に水をもらせる殿づくり
666 保昌は九條あたりへ迎ひに出
667 髭ぬきの鏡に娘気をへらし
668 雪打をおもの師斗りひたいで見
669 売上は稲こきの歯にくはへさせ
670 此石がそだかといへば最う真似る
671 よし町で客札貰ふ後家の供
672 子の内の支離に譲る水車
673 丸顔をみそにして居るかゐゐ澤
674 指を切るからは九品の浄土まで
675 花婿の馳走にやぶる村法度
676 通盛は寝まきのうへへ鎧を着
677 寝て居るは第一番の薬取
678 国者に屋根ををしへる中たんぼ
679 玄関番くさくさとする下駄の音
680 岡場所は湯の花くさい禿が出
681 粉のふいた子を抱いて出る夕涼
682 新発意の寄ると輪袈裟で首ッ引
683 辻番へもりが差図のかしはもち
684 祝ひ日に疵のついたるねはん像
685 持参金疱瘡よけの守りにし
686 坪皿へ紙とはよほど学が長け
687 根津の客家のひづみに口が過ぎ
688 見のがしにすれば遣手も損はなし
689 狩人の子はそれぞれに雀罠
690 山門を下から拝む気の古さ
691 初がつをふん込みの衆天窓わり
692 引越の跡から娘猫を抱き
693 蝋燭の灯ですひ付けて足袋をぬぎ
694 ちつとづつ能手へ渡る御菜が子
695 新そばに小判を崩す一さかり
696 はごの子の命をすくふ左利き
697 女房と相談をして義理をかき
698 だんぎ僧坐ると顔を十しかめ
699 傾城はとッぱづしても恩にかけ
700 ふし見世は昼食の時尻をむけ
701 居酒屋で念頃ぶりは立つてのみ
702 薬箱初にもたせてふりかへり
703 はたけからせんそく程の日をあまし
704 りちぎものまじりまじりと子が出来る
705 しかられた禿たんすへ寄りかゝり
706 針妙の坐つた形に灯がとぼり
707 百姓は金でせかせるものでなし
708 色男はした斗り産をさせ
709 神楽堂逃げたあしたは母が出る
710 ごぜ斗り一艘につむ渡し舟
711 薮入の何にすねたか六あみだ
712 関守の聲を越えるとまねて行き
713 墓桶を下げて見とれるかくし町
714 腰帯は見越しの松に逃げのこり
715 病犬をちつと追つてはたんと逃げ
716 事納め気をつけられるあら世帯
717 祭から戻ると連れた子をくばり
718 まをとこを見出して恥を大きくし
719 団扇ではにくらしい程たゝかれず
720 髪結が替つてかはるあたま形
721 大磯にきゆうせん筋の地蔵あり
722 ひな棚の樋合ふさぐ楊枝さし
723 寒念仏ざらの手からも心ざし
724 居酒屋を止めた仔細は革羽織
725 検校の供は旦那が片荷づり
726 よめの部屋這入ると漆くさい也
727 丸山へはまつて髭で蠅を追ひ
728 二三間飛げたの有るかざり柿
729 折ふしは小粒もあたる遣手の歯
730 方丈の手から一歩がはがして出
731 小謡で来る浪人は元手なし
732 一網に打たれた禿蚊にくはれ
733 若殿がめせばりゝしい紺の足袋
734 神馬牽市をつッつきつんまはし
735 外科殿の豚は死に身で飼はれて居
736 吉原の鰐が見入れて紙が散り
737 前髪へ白髪の交るうたひ講
738 血の道もてんねき見える長局
739 一さかり身になる顔へ遠ざかり
740 五分々々にして店だてが二人出来
741 留守たのむ人へ枕と太平記
742 若たうに役者の墓をさがさせる
743 綿帽子風をおさへて長ばなし
744 身揚りが来て墨壺をこぐらかし
745 座頭の坊おかしな金のかくし所
746 入れ智恵でていしゆはやぼな腹を立て
747 鏡とぎぬすんだ女郎見出して来
748 歌がるた手ひどく乳母はいじかられ
749 船の子へ蟹なげてやる蜆とり
750 袂からけふは是ぢやと数珠を出し
751 いやうじんのうそを禿が引いて来る
752 寝た形で居るはきれいなりん気也
753 姑の屁をひつたので気がほどけ
754 生娘と見えて薬師を朝にする
755 勘当の訴訟のたしに髭がなり
756 一人者内へ帰るとうなり出し
誹風柳多留初篇終
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