夕暮や蚊が啼出してうつくしき 一茶 夏
すゞしいものは赤いてうちん 一瓢 夏
露しぐれはら/╲松も宝にて 茶 秋
筆一本に秋は来にけり 瓢 秋
月かげの翌日は湖水のなきやうに 茶 秋月
蒲団の下へ草鞋かいこむ 瓢 冬
ウ 西念は願の通りなられたり 茶
雨の相手にかきたてる灯か 瓢
桐のはなしのび車を筋違せ 茶 夏恋
絵かきの袖はひくによごるゝ 瓢 恋
蕎麦切の寝覚の里に年寄て 茶 秋
丸くなくとも八月の月 瓢 秋月
召給へ蛼轡きりぎりす 茶 秋
しびれさましに河岸へふと出る 瓢
肥後米の買そこなひを笑はれて 茶
人にかくして笠に字をかく 瓢
おほとけの花ことごとく咲にけり 茶 春花
蒙古追討このかたの東風 瓢 春
ナ 蛤のもれば崩るゝ大座敷 瓢 春
よい夢見する薬くれたり 茶
ひとりでも馴れば旅は歩行るゝ 瓢
あらことごとしつごもりの雪 茶 冬
膳棚は鼠のものかとばかりに 瓢
二人がふたり京ぎらひ也 茶
碁にまけて詠むる空も青くこそ 瓢
野なら山ならみなころもがへ 茶
押出す七里の船に素湯焚て 瓢
南無観世音ありあけの月 茶 秋月
白露の足はいづれへさし入む 瓢 秋
伐ことなかれ窓の葛華 茶 秋
ナウ 宗旦が末の弟子とも成たれば 瓢
深山しぐれのうれぬ日もなし 茶
をしまれて死るは人のまうけ物 瓢
そのきさらぎのみごとなる空 茶 春
うめぼしの核をはうるも花ごゝろ 瓢 春花
文化八年日暮里の春 茶 春
引用:『一茶の連句』高橋順子
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