「趣向に地と節との差別有て、句作には曲と申事はあれど、節と申事は之なく候。」(口上露川責、支考)
曲: いろいろと変化する面白みやうまみ
節: 旋律の一まとまり 注目すべき箇所 目立つ部分
地: 基となって支えている部分 伴奏
「趣向を遠く句作を近く附くべし。」(俳諧寂栞、白雄)
「発句も付合も我家のさばきには、趣向と句作の差別ありて、趣向を先にし句作を後にすることは、たとえば花の題をとりて、雪かと見るは趣向にて、袖うち払ふと姿をつけ、志賀の山越と詞をさはす、そこを句作の上手とはいふなり。
まして俳諧は一句一句に前句の姿情を見さだめて、たとへば草々の露といふ様を発心と見るは趣向にて、西念の名に姿をつけ散る花の無常に一句をしづめたらん、ここを句作のてづまとしるべし。
ここをもて我家には趣向を定むる法ありて、それを【執中の法】 とはいへり。」(俳諧古今抄、支考)
2010年5月31日月曜日
2010年5月28日金曜日
序破急 5 能 花鏡
『花鏡』世阿弥、能楽論集、小学館
序破急之事
ー 略 ー
「急と申すは、挙句の義なり。その日の名残なれば、限りの風(最終の風体)なり。
破と申すは、序を破りて、細やけて(細やかに)、色々を尽くす姿なり。
急と申すは、またその破を尽くす所の、名残の一体なり。
さるほどに、急は揉み寄せて(体を激しく動かし集中する)、乱舞(格をはずれた自由な舞、速度の早い手の多い舞)・はたらき、目を驚かす気色(けしき)なり。揉むと申すは、この時分(急)の体なり。
およそ、昔は能数、四・五番には過ぎず。さるほどに、五番目はかならず急なりしかども、当時は、けしからず(むやみに)能数多ければ、早く急になりては、急が久しくて急ならず。
能は破にて久しかるべし。破にて色々を尽くして、急は、いかにも(なにがどうあろうとも)ただ一切り(一曲)なるべし。」
序破急之事
ー 略 ー
「急と申すは、挙句の義なり。その日の名残なれば、限りの風(最終の風体)なり。
破と申すは、序を破りて、細やけて(細やかに)、色々を尽くす姿なり。
急と申すは、またその破を尽くす所の、名残の一体なり。
さるほどに、急は揉み寄せて(体を激しく動かし集中する)、乱舞(格をはずれた自由な舞、速度の早い手の多い舞)・はたらき、目を驚かす気色(けしき)なり。揉むと申すは、この時分(急)の体なり。
およそ、昔は能数、四・五番には過ぎず。さるほどに、五番目はかならず急なりしかども、当時は、けしからず(むやみに)能数多ければ、早く急になりては、急が久しくて急ならず。
能は破にて久しかるべし。破にて色々を尽くして、急は、いかにも(なにがどうあろうとも)ただ一切り(一曲)なるべし。」
2010年5月27日木曜日
序破急 4 能
岩波写真文庫『能』
能の序破急と演奏順位
初番目脇能(神能) 神 序
二番目修羅能 男 破の前段
三番目鬘能(女能) 女 破の中段
四番目雑能(物狂能)狂 破の後段
五番目尾能(切能) 鬼 急
「要約すると一日の能は正しく厳かな神能から始め、次第に優雅典麗な演技をもって幽玄の情趣を現す鬘能に移り、見物を堪能させてから変化の激しい賑やかな尾能(きりのう)を演じ、見物の眼を驚かしてサッと手際よく切上げるというのである。」
やはり、急はスピードだけを言っているのではなく、ワーッと激しく盛り上げてストンと終わる側面を持っているのだ。ただスピードを上げて無難に終わるということではない。切能を観たい。YouTubeにないか。
写真は長沢流能面師 長澤重春氏の小面
序破急 3 能 花伝書
『花伝書(風姿花伝)』観阿弥口述、世阿弥編著
第三 問答条々(二)
問ふ。能に序・破・急をば、なにとか定むべきや。
答ふ。これやすき定めなり。一切のことに、序・破・急あれば、申楽もこれに同じ。能の風情をもて定むべし。
まづ、わきの申楽には ... 音曲・はたらきも、おほかたの風情にて、するするとやすくすべし。第一祝言なるべし。 ... たとひ、能はすこし次なりとも、祝言ならば苦しかるまじ。これ序なるがゆゑなり。
二番・三番になりては、得たる風体のよき能をすべし。
ことさら、挙句急なれば。もみよせて、手数をいれて、すべし。 ...
脇能 序 神
二番目 破ノ序 武人
三番目 破ノ破 女
四番目 破ノ急 狂女
五番目 急 鬼
第三 問答条々(二)
問ふ。能に序・破・急をば、なにとか定むべきや。
答ふ。これやすき定めなり。一切のことに、序・破・急あれば、申楽もこれに同じ。能の風情をもて定むべし。
まづ、わきの申楽には ... 音曲・はたらきも、おほかたの風情にて、するするとやすくすべし。第一祝言なるべし。 ... たとひ、能はすこし次なりとも、祝言ならば苦しかるまじ。これ序なるがゆゑなり。
二番・三番になりては、得たる風体のよき能をすべし。
ことさら、挙句急なれば。もみよせて、手数をいれて、すべし。 ...
脇能 序 神
二番目 破ノ序 武人
三番目 破ノ破 女
四番目 破ノ急 狂女
五番目 急 鬼
序破急 2 連歌 筑波問答
class:
連歌論俳論
筑波問答、二条良基
「たゞの連歌にも、一の懐紙の面(おもて:表)の程は、しとやかの連歌をすべし。てにはも浮きたる様なる事をばせぬ也。
二の懐紙よりさめき句(浮き浮きとした賑やかな句)をして、三・四の懐紙をことに逸興ある様にし侍る事なり。
楽(雅楽など)にも序・破・急のあるにや。連歌も一の懐紙は序、二の懐紙は破、三・四の懐紙は急にてあるべし。鞠にもかやうに侍るとぞ其の道の先達は申されし。
連歌の面に、名所・めづらしき言葉、また常になき異物・浮かれたるやうなてには、ゆめゆめし給うふべからず。これ先達の口伝なり。」
「たゞの連歌にも、一の懐紙の面(おもて:表)の程は、しとやかの連歌をすべし。てにはも浮きたる様なる事をばせぬ也。
二の懐紙よりさめき句(浮き浮きとした賑やかな句)をして、三・四の懐紙をことに逸興ある様にし侍る事なり。
楽(雅楽など)にも序・破・急のあるにや。連歌も一の懐紙は序、二の懐紙は破、三・四の懐紙は急にてあるべし。鞠にもかやうに侍るとぞ其の道の先達は申されし。
連歌の面に、名所・めづらしき言葉、また常になき異物・浮かれたるやうなてには、ゆめゆめし給うふべからず。これ先達の口伝なり。」
季語は固定的なものなのか?
class:
連歌論俳論
(再掲)
『俳諧古今抄』各務支考 享保十五年
原文の粗訳:【昔から季語はだいたい一語は一季と定めてきたが、そのように杓子定規でやると、昔の同季五句去りのルール(その後夏冬は三句去り)とあいまって、よい句が出る障害となりやすい。一語が多季(二、三、四季)にわたるもの、一語が季語と無季(雑)で使われる二用のものがある。季に用があるなら一語を季語としなさい。一語を雑と用いたい時もあるだろう。雑とするなら、その理由を尋ねなさい。一座の衆評より、一世の衆議を窺い判断しなさい。】
解釈: 季語とされているものを雑として使うこともできるということであろう。用をなすか用をなさないかが判断の分かれ目か。句の中で季語に季感が感じられないというのは用をなしていない具体例か。季語自体、時代、連歌と俳諧、歳時記/季寄せ、各会派で同じものは一つとしてないので、ある一語を季語とみなすかどうかも一座の衆評より、一世の衆議を窺い判断しなさいと理解する。
『貞享式海印録』
春秋の慥かなる季を雑に用ひたる例
土のもちつく神事恐し 翁
雉笛を首に懸けたる狩の供 翁
・・・
参考文献:『俳諧註釈集 上下巻』佐々醒雪・巌谷小波編 博文館 大正二年
『貞享式海印録』曲齋 安政六年
『俳諧古今抄』各務支考 享保十五年
原文の粗訳:【昔から季語はだいたい一語は一季と定めてきたが、そのように杓子定規でやると、昔の同季五句去りのルール(その後夏冬は三句去り)とあいまって、よい句が出る障害となりやすい。一語が多季(二、三、四季)にわたるもの、一語が季語と無季(雑)で使われる二用のものがある。季に用があるなら一語を季語としなさい。一語を雑と用いたい時もあるだろう。雑とするなら、その理由を尋ねなさい。一座の衆評より、一世の衆議を窺い判断しなさい。】
解釈: 季語とされているものを雑として使うこともできるということであろう。用をなすか用をなさないかが判断の分かれ目か。句の中で季語に季感が感じられないというのは用をなしていない具体例か。季語自体、時代、連歌と俳諧、歳時記/季寄せ、各会派で同じものは一つとしてないので、ある一語を季語とみなすかどうかも一座の衆評より、一世の衆議を窺い判断しなさいと理解する。
『貞享式海印録』
春秋の慥かなる季を雑に用ひたる例
土のもちつく神事恐し 翁
雉笛を首に懸けたる狩の供 翁
・・・
参考文献:『俳諧註釈集 上下巻』佐々醒雪・巌谷小波編 博文館 大正二年
『貞享式海印録』曲齋 安政六年
序破急
class:
連歌論俳論
#jrenga 連歌 俳諧 連句
序破急の言い出しっぺはわかりませんが、論として最初に書いたのは、連歌の二条良基(『筑波問答』1372年)で、観阿弥と世阿弥(『風姿花伝』1400年〜)はそれを参考に能に適用したようです。連歌では序破急の区分にゆれがみられます。
1(序)、2(破)、3−4(急)
1(序)、2−3(破)、4(急)
能でも区分が時代で変容があるようです。雅楽とか音楽関係では、急とはスピードと解釈している向きもみられますね。能のある区分けでは、以下のようになっていて急ではシテが狂女と鬼で、内容ともかかわっているようです。破の中にまた序破急が入れ子になっているとは恐れ入りました(^^;)
脇能 序 神
二番目 破ノ序 武人
三番目 破ノ破 女
四番目 破ノ急 狂女
五番目 急 鬼
だれもが疑わない序破急と思っていたら、支考は『俳諧十論発蒙』の中で、「昔しの俳諧は、始中終(序破急)の法の三つをもて、鼎の如く(三鼎の喩え)尻をすえたると也。始終の二は不會底の人もあらん。」と述べ、いつもいつも始め静かに中ぱっぱ終わりは急か静か?にかのやり方は鼎のようで面白くないと疑問を呈しているようです。
芭蕉出座の作品を見てもいきなり始めからすったもんだや最後まですったもんだしているのも見受けられ、流石すべてから自由自在の芭蕉さんだと思います。
序破急の言い出しっぺはわかりませんが、論として最初に書いたのは、連歌の二条良基(『筑波問答』1372年)で、観阿弥と世阿弥(『風姿花伝』1400年〜)はそれを参考に能に適用したようです。連歌では序破急の区分にゆれがみられます。
1(序)、2(破)、3−4(急)
1(序)、2−3(破)、4(急)
能でも区分が時代で変容があるようです。雅楽とか音楽関係では、急とはスピードと解釈している向きもみられますね。能のある区分けでは、以下のようになっていて急ではシテが狂女と鬼で、内容ともかかわっているようです。破の中にまた序破急が入れ子になっているとは恐れ入りました(^^;)
脇能 序 神
二番目 破ノ序 武人
三番目 破ノ破 女
四番目 破ノ急 狂女
五番目 急 鬼
だれもが疑わない序破急と思っていたら、支考は『俳諧十論発蒙』の中で、「昔しの俳諧は、始中終(序破急)の法の三つをもて、鼎の如く(三鼎の喩え)尻をすえたると也。始終の二は不會底の人もあらん。」と述べ、いつもいつも始め静かに中ぱっぱ終わりは急か静か?にかのやり方は鼎のようで面白くないと疑問を呈しているようです。
芭蕉出座の作品を見てもいきなり始めからすったもんだや最後まですったもんだしているのも見受けられ、流石すべてから自由自在の芭蕉さんだと思います。
2010年5月24日月曜日
切れ字のある発句の型紙
class:
連歌論俳論
上5 中7 下5 例句
1 ◯◯◯◯や 〇〇〇〇〇〇◯〇〇〇〇◯ 名月や男がつくる手打ちそば
季語(名詞) 名詞止め / 応用:名詞以外の止め
2 ◯◯◯◯◯〇〇〇〇〇〇や 〇〇〇〇◯ 寄せ書きの灯を吹く風や雨蛙
季語(名詞)/ 応用:名詞以外の止め
3 ◯◯◯◯◯〇〇〇〇〇〇◯ 〇〇〇かな 金色の佛ぞおはす蕨かな
季語(名詞)/ 応用:中7句末の切れなし
4 ◯◯◯◯◯ 〇〇〇〇〇〇◯〇〇〇けり 初嵐佐渡より味噌のとどきけり
季語(名詞) / 応用:をり、なり、たり
「基本型ー>応用型ー>その応用型というふうに、基本型から遠くなるにしたがって型の恩寵は少なくなる。このことを忘れてはいけない。それを忘れると、ひとりよがりの自己陶酔の、読者にとっては意味不明、鼻もちならぬという作になってしまう。」(藤田湘子『新20週俳句入門』)
1 ◯◯◯◯や 〇〇〇〇〇〇◯〇〇〇〇◯ 名月や男がつくる手打ちそば
季語(名詞) 名詞止め / 応用:名詞以外の止め
2 ◯◯◯◯◯〇〇〇〇〇〇や 〇〇〇〇◯ 寄せ書きの灯を吹く風や雨蛙
季語(名詞)/ 応用:名詞以外の止め
3 ◯◯◯◯◯〇〇〇〇〇〇◯ 〇〇〇かな 金色の佛ぞおはす蕨かな
季語(名詞)/ 応用:中7句末の切れなし
4 ◯◯◯◯◯ 〇〇〇〇〇〇◯〇〇〇けり 初嵐佐渡より味噌のとどきけり
季語(名詞) / 応用:をり、なり、たり
「基本型ー>応用型ー>その応用型というふうに、基本型から遠くなるにしたがって型の恩寵は少なくなる。このことを忘れてはいけない。それを忘れると、ひとりよがりの自己陶酔の、読者にとっては意味不明、鼻もちならぬという作になってしまう。」(藤田湘子『新20週俳句入門』)
2010年5月23日日曜日
春秋二句
class:
連歌論俳論
2007年12月27日
Just FYI.
この春はどぎゃんかせんといかんとて 春
知恵もつきたる月の朧夜 春
手水鉢なかに浮かぶる偽の花 雑
■発端
たとえば、上の「偽の花」を「作り花」に準じて、雑の正花とした場合、
春の句数は二句となる。名残の裏の挙句前に春花を詠んで春二句で終わ
るというのはあるが、それ以外で春二句というのは、ありなのだろうか。
■調査
たまたま手にした小学館『新編 日本古典文学全集 連歌集・俳諧集』
をながめてみた。連歌が7つ(すべて百韻)、俳諧が10(百韻6、歌
仙4)。連歌の救済・良基から俳諧の蕪村までを網羅している。ただし
芭蕉門は別冊で入っていない。
○ 文和千句第一百韻『名はたかく』 救済・良基ほか 秋二句
30 わかれのこりてなほ秋のくれ 御(良基) 秋
31 露よりもげには命のきえぬほど 素阿 秋
32 契りたのむはおなじよのうち 家伊 恋
○ 宗祇独吟百韻『限りさへ』 春二句
29 桜咲く峰の柴屋に春暮れて 春
30 薄く霞める山際の里 春
31 月落ちて鳥の声々明くる夜に 秋
○ 貞徳独吟百句『哥いづれ』 春二句
97 稲茎は鷹場にわるき花の春 春
98 雪間をしのぐ辺土さぶらひ 春
99 百姓と富士ぜんじやうに打交 夏
○ 宗因独吟百句『蚊柱は』 秋二句
60 傾城屋よりいづる三ヶ月 秋
61 思ひ草矢たての筆でかく計り 秋恋
62 道行ぶりに一句うかふだ 雑
驚くべきことに、この連歌俳諧史上の大立役者が軒並み、春秋の句数二句
をやらかしていた。今、春秋の句数は最低三句〜最高五句というのが常識
になっているようであるが、先達の連歌師、俳諧師の常識とは違うようで
ある。
■式目による分析
その当時使われたと思われる式目ではどうなっていたのだろうか。『連歌
新式』に間違いないだろうが、増補改訂版が存在する。芭蕉も『新式』を
座右に持っていたらしく遺品にも名があるが『連歌新式』のことだろう。
だが以下のどの版かはわからない。しかも各版それぞれに異本が存在する
ようだ。
二条良基『連歌新式』(応安新式) 1372年
一条兼良『連歌新式追加並新式今案』1452年
肖柏『連歌新式追加並新式今案等』 1501年
『連理秘抄』、『応安新式』と『連歌新式追加並新式今案等』の句数の記
述を抜き出してみる。
●二条良基『連理秘抄』1345〜1349年
一、句数
春 秋 恋 以上五句 夏 冬 神祇 釈教 旅 述懐 懐旧無常在
此内 祝言 山 水辺 居所 以上三句連之
●二条良基『連歌新式』(応安新式) 1372年
一、句数
春 秋 恋 以上五句 夏 冬 旅 神祇 釈教 述懐 懐旧無常在
此内 山類 水辺 居所 以上三句連之
●肖柏『連歌新式追加並新式今案等』 1501年
<天理図書館蔵卜部兼右自筆本ほか>
一、句数
春 秋 恋 以上五句 夏 冬 旅 神祇 釈教 述懐 懐旧無常在
此内 山類 水辺 居所 以上三句連之
<太宰府天満宮本、寛政十年写本近思文庫山内潤三蔵ほか>
一、句数
春 秋 恋 以上五句 春秋の句不至三句者不用之 恋句只一句にて
止事無念云々
夏 冬 旅 神祇 釈教 述懐 懐旧無常在此内 山類 水辺 居所
以上三句連之
天理本は、肖柏『連歌新式追加並新式今案等』の正式な決定稿(肖柏の自
筆本)が、三条実隆の手許にあったときに兼右が写したものという証明が
ある。太宰府本はその後、肖柏自身が手を入れたものと考えられている。
<春秋の句不至三句者不用之>の意味は、春秋の句数は最低三句で三句未
満は駄目ということである。このルール(春秋三〜五句)の最初の出所は
ここだった。
<春 秋 恋 以上五句> この意味は自明だろうか。これは春秋恋の句
は最高五句まで連続で読むことができるという意味である。ちなみに最低
の句数は指示されていない。これを春秋恋の句は五句続けよと紹巴は解釈
したらしい(紹巴『歌新式』)。
結論:
春秋の句数二句は、『連歌新式』の正式本のルールからみて間違ってはい
ない。
■参考文献
(1)『連歌新式の研究』木藤才蔵著、三弥井書店、平成11年4月
(2)群書類従 第十七輯 連歌部物語部 巻第三百六『連歌新式追加并
新式今案等』
(3)水無瀬三吟百韻 湯山三吟百韻 本文と索引 付 連歌新式追加并
新式今案等、 笠間書院
Just FYI.
この春はどぎゃんかせんといかんとて 春
知恵もつきたる月の朧夜 春
手水鉢なかに浮かぶる偽の花 雑
■発端
たとえば、上の「偽の花」を「作り花」に準じて、雑の正花とした場合、
春の句数は二句となる。名残の裏の挙句前に春花を詠んで春二句で終わ
るというのはあるが、それ以外で春二句というのは、ありなのだろうか。
■調査
たまたま手にした小学館『新編 日本古典文学全集 連歌集・俳諧集』
をながめてみた。連歌が7つ(すべて百韻)、俳諧が10(百韻6、歌
仙4)。連歌の救済・良基から俳諧の蕪村までを網羅している。ただし
芭蕉門は別冊で入っていない。
○ 文和千句第一百韻『名はたかく』 救済・良基ほか 秋二句
30 わかれのこりてなほ秋のくれ 御(良基) 秋
31 露よりもげには命のきえぬほど 素阿 秋
32 契りたのむはおなじよのうち 家伊 恋
○ 宗祇独吟百韻『限りさへ』 春二句
29 桜咲く峰の柴屋に春暮れて 春
30 薄く霞める山際の里 春
31 月落ちて鳥の声々明くる夜に 秋
○ 貞徳独吟百句『哥いづれ』 春二句
97 稲茎は鷹場にわるき花の春 春
98 雪間をしのぐ辺土さぶらひ 春
99 百姓と富士ぜんじやうに打交 夏
○ 宗因独吟百句『蚊柱は』 秋二句
60 傾城屋よりいづる三ヶ月 秋
61 思ひ草矢たての筆でかく計り 秋恋
62 道行ぶりに一句うかふだ 雑
驚くべきことに、この連歌俳諧史上の大立役者が軒並み、春秋の句数二句
をやらかしていた。今、春秋の句数は最低三句〜最高五句というのが常識
になっているようであるが、先達の連歌師、俳諧師の常識とは違うようで
ある。
■式目による分析
その当時使われたと思われる式目ではどうなっていたのだろうか。『連歌
新式』に間違いないだろうが、増補改訂版が存在する。芭蕉も『新式』を
座右に持っていたらしく遺品にも名があるが『連歌新式』のことだろう。
だが以下のどの版かはわからない。しかも各版それぞれに異本が存在する
ようだ。
二条良基『連歌新式』(応安新式) 1372年
一条兼良『連歌新式追加並新式今案』1452年
肖柏『連歌新式追加並新式今案等』 1501年
『連理秘抄』、『応安新式』と『連歌新式追加並新式今案等』の句数の記
述を抜き出してみる。
●二条良基『連理秘抄』1345〜1349年
一、句数
春 秋 恋 以上五句 夏 冬 神祇 釈教 旅 述懐 懐旧無常在
此内 祝言 山 水辺 居所 以上三句連之
●二条良基『連歌新式』(応安新式) 1372年
一、句数
春 秋 恋 以上五句 夏 冬 旅 神祇 釈教 述懐 懐旧無常在
此内 山類 水辺 居所 以上三句連之
●肖柏『連歌新式追加並新式今案等』 1501年
<天理図書館蔵卜部兼右自筆本ほか>
一、句数
春 秋 恋 以上五句 夏 冬 旅 神祇 釈教 述懐 懐旧無常在
此内 山類 水辺 居所 以上三句連之
<太宰府天満宮本、寛政十年写本近思文庫山内潤三蔵ほか>
一、句数
春 秋 恋 以上五句 春秋の句不至三句者不用之 恋句只一句にて
止事無念云々
夏 冬 旅 神祇 釈教 述懐 懐旧無常在此内 山類 水辺 居所
以上三句連之
天理本は、肖柏『連歌新式追加並新式今案等』の正式な決定稿(肖柏の自
筆本)が、三条実隆の手許にあったときに兼右が写したものという証明が
ある。太宰府本はその後、肖柏自身が手を入れたものと考えられている。
<春秋の句不至三句者不用之>の意味は、春秋の句数は最低三句で三句未
満は駄目ということである。このルール(春秋三〜五句)の最初の出所は
ここだった。
<春 秋 恋 以上五句> この意味は自明だろうか。これは春秋恋の句
は最高五句まで連続で読むことができるという意味である。ちなみに最低
の句数は指示されていない。これを春秋恋の句は五句続けよと紹巴は解釈
したらしい(紹巴『歌新式』)。
結論:
春秋の句数二句は、『連歌新式』の正式本のルールからみて間違ってはい
ない。
■参考文献
(1)『連歌新式の研究』木藤才蔵著、三弥井書店、平成11年4月
(2)群書類従 第十七輯 連歌部物語部 巻第三百六『連歌新式追加并
新式今案等』
(3)水無瀬三吟百韻 湯山三吟百韻 本文と索引 付 連歌新式追加并
新式今案等、 笠間書院
連歌百韻『蚊柱を』の巻
class:
連歌俳諧

座・ツイッター連歌 @zrenga 2010.5.17〜5.23 #jrenga 連歌 俳諧 連句
アバターrenga.heroku.com 式目
発句 蚊柱を三つ四つ抜け散歩かな 夏 ふない
脇 水かさ痕を残す五月雨 夏 私
第三 橋桁の影は流れにゆらゆれて 不夜
4 タイムトラベル否応もなく 細葉榕
5 手帳には消化しきれぬスケジュール リュウ
6 いつしか気付く秋の夜は更け 秋 草栞
7 新月の百鬼夜行の見えぬ脚 秋月 百
7 ジョギングの家路を月も右左 秋月 氷心
8 芋煮準備に気をとられつつ 秋 彼郎女(7の両句に)
ウ
9 東京さ行ったわがいしゅあがぬげて 私
10 ベンツ転がすアスコットタイ 不夜
10 ガ行鼻濁音耳朶を虜に リュウ
11 都都逸を習ってみるかと工学士 玄碩(10の両句に)
12 打ち上げ延期朝寝朝酒 細葉榕
13 指呼点呼もんじゅ臨界なゐ怖し 百
13 屁をひればおうそうかいと応へ有り リュウ
13 三尺の玉に秘策を込めたるも 不夜
14 刹那の内に闇へ返れり ふない(13の全句に)
15 月煌々写経に励む冬安吾 冬月 リュウ
16 墨の香りに雪の降り初む 冬 不夜
17 お歯黒をしたみたいねと君が言う 恋 彼郎女
18 身八つ口から忍ばせる指 恋 リュウ
18 恋の修験も険しからずや 恋 栞
19 生贄の姫に恋するをろちかな 恋 不夜
19 写真家のアシスタントに得多く 氷心(18の両句に)
20 引き立て役になるも一興 リュウ
21 みちのくの花をあるじに連座して 春花 私
22 共は日記をつける春宵 春 不夜
二オ
23 履替る腰に草鞋と蓬餅 春 百
24 同行二人護摩の灰でも リュウ
25 仏法は悪人さへも救ふとや 私
25 清濁を併せ持ちたるひととなり 氷心
26 もはや童のままでいられぬ 彼郎女(25の両句に)
27 迫り来る社交界へのデビューの日 不夜
28 眠りを覚ますは鹿の鳴く声 秋 細葉榕
29 おののきて肥える身計るデジタル計 秋 海霧
30 はじかみの茎赤く染まりぬ 秋 ふない
31 裏木戸の輪鍵をとめる太い釘 百
32 御簾を透かして白き手招き 恋 私
33 名の立つをはばかる身こそ悲しけれ 恋 不夜
34 堪えしのびつつ丈くありたし 恋 栞
35 炎ゆる月告げたきことば投げ上げて 夏月恋 リュウ
36 夕凪の砂君のなを書く 夏恋 百
二ウ
37 切符きる制服の目に薄笑ひ 不夜
37 南海の島に遺骨を探す旅 私
38 マヒマヒといふ魚を喰らふ 細葉榕
39 丁髷が外ツ国人に気に入られ ふない
40 「コノ印籠ガ目ニ入ラヌカ」 彼郎女
41 筋トレに仁王立ちして鉄アレー 海霧
42 ゴールキーパー北風の中 冬 不夜
43 なる前も後も厳しいプロの道 私
44 モツ煮屋台に説教の声 ふない
45 番記者につきまとはれて捜査官 不夜
45 生臭の宗旨いまいち不明なり 私
46 月の眉さへすうと上がりぬ 秋月 彼郎女(45の両句に)
47 喉越しの水のごとくに新走り 秋 百
48 ふくべぶら下げ霧雨の街 秋 不夜
49 花衣濡れて佇む様もよし 春花 栞
50 仔猫拾うか捨てておこうか 春 氷心
三オ
51 ちちこのむくさつみははにたのまれて 春 私
52 私はおかか彼はツナマヨ 恋 氷心
53 片恋の隙間に心盗むひと 恋 リュウ
54 画家のたまごのどこがいいのか 恋 不夜
55 長髪にサンダル履きの日もありき ふない
56 背負ひ歩くやおのが十字架 私
57 にんげんのいまだ帰らぬピカの夏 夏 リュウ
58 いともたやすく落ちる空蝉 夏 氷心
58 輪になり踊れぬばたまのよる 夏 細葉榕
59 射的場まっすぐ飛ばぬコルク弾 不夜(58の両句に)
60 円周率をみんな言えるか リュウ
61 小数点以下を省いちゃまづいだろ 私
62 溜め息をつく3割バッター 彼郎女
63 月冴ゆる契約更改ならずして 冬月 不夜
64 先生走るつごもりの路地 冬 リュウ
三ウ
65 待望のベルリンフィルのマチネ待ち 海霧
65 ヘヤーダイあまり濃すぎ老けて見え 百
66 ロビーの窓に襟をつくろふ 不夜(65の両句に)
67 やごとなきお方ぞなもしお相手は 恋 リュウ
68 デートに誘ふまではよけれど 恋 彼郎女
69 泣き黒子思い思われ振り振られ 恋 不夜
70 文滲むるをつつむ虫の音 秋 細葉榕
71 戦場へ轍の続く月の下 秋月 リュウ
72 糧にもせよと供す新米 秋 氷心
73 落柿舎に去来偲びて念仏す 秋 栞
74 同じ紅葉を見しやかのひと 秋 私
75 岩走る水を集めて青き淵 不夜
76 化粧直せば笑う貌鳥 春 氷心
77 ぬらりひょん一反木綿も花の宴 春花 リュウ
78 復刻本をめくる春風 春 不夜
ナオ
79 炎天下遺跡発掘しゃがみこみ 夏 細葉榕
80 雷起こるナイル源流 夏 百
80 骨折りに出すぶっかき氷 夏 氷心
81 挑戦も三度目生きた化石釣る 不夜(80の両句に)
82 アクアリウムに魅了されたり 彼郎女
83 うつとりしついうつかりとうんといい 恋 私
84 舌の根乾く前に初キス 恋 栞
85 東都にてメゴチの味を覚えけり 夏 ふない
85 うたかたの恋といわせぬ抱擁を 恋 百
86 白球飛翔天までとどけ 細葉榕(85の両句に)
87 秒読みに緊張NASAの指令室 不夜
88 引きたわめたる弓は震えて ふない
89 秋潮に馬乗り入るる若き武者 秋 不夜
90 皇統系譜唱ふひやひや 秋 リュウ
91 姉たちの喧嘩横目に寝待ち月 秋月 彼郎女
92 俯瞰している屋根のおそ鳥 リュウ
ナウ
93 捨てたあとちらり見返るごみ捨て場 私
94 白内障が人形の目に 百
95 霊験はあまねく人に隔てなく 不夜
96 一隅照らす灯のあり 栞
97 夕食を終えれば暗き山の宿 ふない
98 しりとり遊び佐保姫も居て 春 リュウ
99 てにをはのなやましげなる花の下 春花 氷心
100 早苗饗祝ふ酒と肴を 夏 百
※同じ番号の句は、ことわりがなければ最後の句に次の番号の句が続いたことを示す。
写真提供はフォト蔵さん
2010年5月22日土曜日
世の宗匠と芭蕉の違いの一端
(再掲) #jrenga 連歌 俳諧 連句
捌き不自在の宗匠は、不安ゆえ式目をかき集めそれを金科玉条とし、その僕べとなる。捌き自在の宗匠は、式目を目安と考えそれを僕べとする。前者は貞門や芭蕉没後の田舎蕉門系。現代連句会の大半は前者か。後者は芭蕉のみ。真似すべきは芭蕉流だ。
不夜庵「式目は変化を生成させる手段であり連歌の目的とするところではない。」全く同感。芭蕉翁二十五箇条には【一句の好悪を論じて、指合は後の詮議なるべし。】とある。一句の好悪とは作がいいかわるいかということではなく、前句から付句がどれだけ転じ変化しているかということである。
前句から転じた好い付句をしていれば、たとえば打越に猫が居るとき付句で鼠を詠んでも生類の打越を咎めない。反対に前句の情に引きずられた悪い付句は、趣向がいくら打越とかけ離れていて式目的に問題なくても付句を咎める。
世間一般の宗匠はいきなり式目からみて打越をとがめ面白い付句を没としてしまう。 前句から転じた好い付句であれば、式目は吹っ飛ぶということである。
真の芭蕉門においては、前句を転じる妙法(余情付け、疎句付、見立て替えなどを指すか)により、機械的に変化をつけようとする式目は吹っ飛ぶ。要するに式目による他力から、自分の付け方による変化自在という自力への昇華である。
三冊子【格は句よりはなるる也。はなるるにならひなし。】
捌き不自在の宗匠は、不安ゆえ式目をかき集めそれを金科玉条とし、その僕べとなる。捌き自在の宗匠は、式目を目安と考えそれを僕べとする。前者は貞門や芭蕉没後の田舎蕉門系。現代連句会の大半は前者か。後者は芭蕉のみ。真似すべきは芭蕉流だ。
不夜庵「式目は変化を生成させる手段であり連歌の目的とするところではない。」全く同感。芭蕉翁二十五箇条には【一句の好悪を論じて、指合は後の詮議なるべし。】とある。一句の好悪とは作がいいかわるいかということではなく、前句から付句がどれだけ転じ変化しているかということである。
前句から転じた好い付句をしていれば、たとえば打越に猫が居るとき付句で鼠を詠んでも生類の打越を咎めない。反対に前句の情に引きずられた悪い付句は、趣向がいくら打越とかけ離れていて式目的に問題なくても付句を咎める。
世間一般の宗匠はいきなり式目からみて打越をとがめ面白い付句を没としてしまう。 前句から転じた好い付句であれば、式目は吹っ飛ぶということである。
真の芭蕉門においては、前句を転じる妙法(余情付け、疎句付、見立て替えなどを指すか)により、機械的に変化をつけようとする式目は吹っ飛ぶ。要するに式目による他力から、自分の付け方による変化自在という自力への昇華である。
三冊子【格は句よりはなるる也。はなるるにならひなし。】
正風芭蕉流準拠の作法式目
class:
連歌論俳論
■ 作法
正風芭蕉流準拠十カ条
1、二句で短歌になるように詠む。
俳諧は上下取り合わせて歌一首と心得べし。(芭蕉翁二十五箇条、支考)
2、一句単独で意味が通じること。短歌の詠み掛けのような句は詠まないこと。
3、二句で意味が通じること。これが付くということである。
4、三句の間で転じ変化していること。打越と同趣・同想にしないこと。
5、前句に付け過ぎないこと、ただし脇は除く。付け過ぎにならないよう、見立て替え、余情付け、疎句付けによる二句の転じも活用する。
去來曰。附句は附ざれば附句にあらず、附過るは病なり。蕉門の附句は前句の情を引來るを嫌ふ。ただ前句は是いかなる場、いかなる人と、其事・其位を能く見定め、前句をつきはなして附べし。(去来抄、去来)
前句にいひのこしてあるものから趣向を遠く句作を近く附くべし。(俳諧寂栞、白雄)
6、春秋3〜5句 5句去り、夏冬1〜3句 2句去り、花は折に一つ、月は面に一つだだし名残裏は除く。(貞享式海印録、曲斎)
7、同趣・同想のものはなるべく避け、詠む時は十分に離して詠む。この類いは芭蕉流準拠で臨機応変の沙汰。(貞享式海印録、去来抄、三冊子などから芭蕉翁の生の声、作品から総合的に判断)
差合の事は時宜にもよるべし。先ずは大方にて宜し。格は句よりはなるる也。はなるるにならひなし。(三冊子、土芳)
8、短歌として、語呂・リズムを損ないやすい、短句下七の四三は避ける。
結の句の七は必ず三四ならざるべからず。万葉には四三なるもの往々之あれども苟も重きを調べに置くを知りてよりこの方古今然り金葉然り。四三にすれば自然に耳立ちて諧調を得ず。(井上通泰)
9、付句で特に避けるべき作法
(1)前句の一部の言葉や言葉尻をとらえ、前句とはそれ以外関係のないことを詠む。結果、二句一連で支離滅裂、意味が通らない。しかもこれが芭蕉門の余情付け、匂い付けだと大いなる勘違いをしている。
(2)付け過ぎは初心者だと言われるので、はじめからまったく前句と関係のないことを詠みベテランのふりをする。無心所着歌、はいかい鉄砲は駄目。(去来抄、去来)
(3)前句に引きずられ単なる前句の説明、言い換え。前句の続き、これを昔から前句の噂(うわさ)、前句の断(ことはり)と呼び嫌う。(俳諧十論發蒙、支考)
10、心構え ー 連衆心
連句は、その一句としての価値を完全に発揮するためには、
・必ず前句を生かさなければならないこと、
・前句を生かすには、前句の中に潜在的にひそむところの余情的な世界に着目して、それを別趣の映像として発展させることによって、前句に新生命を与える手段が取られていること、
・その生かし得たものによって付句の作者は自己の作を創造し、これを発展させるものであること等が、おおよそに理解せられたかと思う。他を生かすことによってのみ自己が生き、自己が生きることは同時に他を生かすことであるという消息は、ここに明らかにみられるのである。(連句芸術の性格、能勢朝次)
人の付け方が自分の気に入らぬ時でも、それをそのままに受納してそうしてそれに付け方によって、その気に入らぬ句を気に入るように活かすことを考えるのが非常に張り合いのあることのように思われます。これはもちろん油臭い我の強いやり方ではありますが、そういう努力と闘争を続けることによって芭蕉の到達した処に近づくことができるのではないかという気もします。甚だ非凡なことではあるが適切にそういうことを感じましたから申し上げます。(寺田寅彦と連句、榊原忠彦)
■ 式目
【百韻】
初折表 123456月8 (1〜8)
初折裏 12345678月012花4 (9〜22)
二折表 123456789012月4 (23〜36)
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)
三折表 123456789012月4 (51〜64)
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)
名残表 123456789012月4 (79〜92)
名残裏 123456花8 (93〜100)
1、四花七月 花は折に一つ。月は面に一つ(名残裏除く)。定座は任意。
2、春秋は、三句から五句まで。五句去り。夏冬は、一句から三句まで。二句去り。
3、恋は、一句から五句まで。二句以上がベター。三句去り。
【千句における百韻】
初折表 12345678 (1〜8) 花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678901234 (9〜22) __________
二折表 12345678901234 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678901234 (37〜50)__________
三折表 12345678901234 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678901234 (65〜78)__________
名残表 12345678901234 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 12345678 (93〜100)_________
1、千句を構成する十の各百韻は四花四〜七月とする。定座は任意。
2、千句一座にわたる一座一句物は、鬼、龍、狼、血、屍、幽霊、天狗などの類のみとし、その他の一座一句物は、従来通り各百韻の範囲内で適用することとする。
その他のこまごました式目については、正風芭蕉流準拠、臨機応変の沙汰。芭蕉翁(永遠の宗匠)は、連歌新式以降の後世の式目書はすべて信用しがたしと断じ自身では式目書を残しておりませんので、『去来抄』『三冊子』『貞享式海印録』など信用のおける俳書にしたがうことといたします。
以 上
正風芭蕉流準拠十カ条
1、二句で短歌になるように詠む。
俳諧は上下取り合わせて歌一首と心得べし。(芭蕉翁二十五箇条、支考)
2、一句単独で意味が通じること。短歌の詠み掛けのような句は詠まないこと。
3、二句で意味が通じること。これが付くということである。
4、三句の間で転じ変化していること。打越と同趣・同想にしないこと。
5、前句に付け過ぎないこと、ただし脇は除く。付け過ぎにならないよう、見立て替え、余情付け、疎句付けによる二句の転じも活用する。
去來曰。附句は附ざれば附句にあらず、附過るは病なり。蕉門の附句は前句の情を引來るを嫌ふ。ただ前句は是いかなる場、いかなる人と、其事・其位を能く見定め、前句をつきはなして附べし。(去来抄、去来)
前句にいひのこしてあるものから趣向を遠く句作を近く附くべし。(俳諧寂栞、白雄)
6、春秋3〜5句 5句去り、夏冬1〜3句 2句去り、花は折に一つ、月は面に一つだだし名残裏は除く。(貞享式海印録、曲斎)
7、同趣・同想のものはなるべく避け、詠む時は十分に離して詠む。この類いは芭蕉流準拠で臨機応変の沙汰。(貞享式海印録、去来抄、三冊子などから芭蕉翁の生の声、作品から総合的に判断)
差合の事は時宜にもよるべし。先ずは大方にて宜し。格は句よりはなるる也。はなるるにならひなし。(三冊子、土芳)
8、短歌として、語呂・リズムを損ないやすい、短句下七の四三は避ける。
結の句の七は必ず三四ならざるべからず。万葉には四三なるもの往々之あれども苟も重きを調べに置くを知りてよりこの方古今然り金葉然り。四三にすれば自然に耳立ちて諧調を得ず。(井上通泰)
9、付句で特に避けるべき作法
(1)前句の一部の言葉や言葉尻をとらえ、前句とはそれ以外関係のないことを詠む。結果、二句一連で支離滅裂、意味が通らない。しかもこれが芭蕉門の余情付け、匂い付けだと大いなる勘違いをしている。
(2)付け過ぎは初心者だと言われるので、はじめからまったく前句と関係のないことを詠みベテランのふりをする。無心所着歌、はいかい鉄砲は駄目。(去来抄、去来)
(3)前句に引きずられ単なる前句の説明、言い換え。前句の続き、これを昔から前句の噂(うわさ)、前句の断(ことはり)と呼び嫌う。(俳諧十論發蒙、支考)
10、心構え ー 連衆心
連句は、その一句としての価値を完全に発揮するためには、
・必ず前句を生かさなければならないこと、
・前句を生かすには、前句の中に潜在的にひそむところの余情的な世界に着目して、それを別趣の映像として発展させることによって、前句に新生命を与える手段が取られていること、
・その生かし得たものによって付句の作者は自己の作を創造し、これを発展させるものであること等が、おおよそに理解せられたかと思う。他を生かすことによってのみ自己が生き、自己が生きることは同時に他を生かすことであるという消息は、ここに明らかにみられるのである。(連句芸術の性格、能勢朝次)
人の付け方が自分の気に入らぬ時でも、それをそのままに受納してそうしてそれに付け方によって、その気に入らぬ句を気に入るように活かすことを考えるのが非常に張り合いのあることのように思われます。これはもちろん油臭い我の強いやり方ではありますが、そういう努力と闘争を続けることによって芭蕉の到達した処に近づくことができるのではないかという気もします。甚だ非凡なことではあるが適切にそういうことを感じましたから申し上げます。(寺田寅彦と連句、榊原忠彦)
■ 式目
【百韻】
初折表 123456月8 (1〜8)
初折裏 12345678月012花4 (9〜22)
二折表 123456789012月4 (23〜36)
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)
三折表 123456789012月4 (51〜64)
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)
名残表 123456789012月4 (79〜92)
名残裏 123456花8 (93〜100)
1、四花七月 花は折に一つ。月は面に一つ(名残裏除く)。定座は任意。
2、春秋は、三句から五句まで。五句去り。夏冬は、一句から三句まで。二句去り。
3、恋は、一句から五句まで。二句以上がベター。三句去り。
【千句における百韻】
初折表 12345678 (1〜8) 花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678901234 (9〜22) __________
二折表 12345678901234 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678901234 (37〜50)__________
三折表 12345678901234 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678901234 (65〜78)__________
名残表 12345678901234 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 12345678 (93〜100)_________
1、千句を構成する十の各百韻は四花四〜七月とする。定座は任意。
2、千句一座にわたる一座一句物は、鬼、龍、狼、血、屍、幽霊、天狗などの類のみとし、その他の一座一句物は、従来通り各百韻の範囲内で適用することとする。
その他のこまごました式目については、正風芭蕉流準拠、臨機応変の沙汰。芭蕉翁(永遠の宗匠)は、連歌新式以降の後世の式目書はすべて信用しがたしと断じ自身では式目書を残しておりませんので、『去来抄』『三冊子』『貞享式海印録』など信用のおける俳書にしたがうことといたします。
以 上
2010年5月19日水曜日
2010年5月16日日曜日
連歌百韻『人垣を』の巻
class:
連歌俳諧

座・ツイッター連歌 @zrenga 2010.5.10〜5.15 #jrenga 連歌 俳諧 連句
アバターrenga.heroku.com 式目
発句 人垣を問はば牡丹と答へたり 初夏 不夜
脇 ラムネあきなふねぢり鉢巻 夏 私
第三 大道にギター爪弾く音のして 不夜
4 ささやく声に夜は更けるとも 草栞
5 相部屋の名前も知れぬ者どもが ふない
6 持ち物に皆名前を書いて 百
7 真夜中の月に瞼を擦りつつ 秋月 彼郎女
8 うち揃い聴く虫のかそけき 秋 細葉榕
ウ
9 霜降に古い手紙を火にくべて 秋 リュウ
10 君への思ひ消すに消されぬ 恋 不夜
11 転校で恋の端緒に別れとは 恋 私
12 枷あればこそ想い深まる 恋 リュウ
13 窓からの眺めさえ断つ深夜バス ふない
14 神の旅路とすれ違う夢 彼郎女
15 軍用機嘆きの壁の上空を 不夜
16 飛べど荒地に平和もどらず 玄碩
17 竈猫見守る月の光ゲやさし 冬月 リュウ
18 風呂釜ぬくき柚子の残り湯 冬 ふない
19 ゆだるごと風なき道を駆け抜ける 夏 細葉榕
19 移り香にけふの疲れの和らぎて 不夜
20 小粋な柄の手拭いひらり 彼郎女(19の二句に)
20 今宵限りはともに褥を 恋 栞
21 市松の不安を秘する花の雨 春花恋 細葉榕(20の二句に)
22 嵯峨念仏へいとはんの供 春 私
二オ
23 竹の秋鼻緒が切れて難儀やな 春 百
24 外つ国人の日本好むも 不夜
25 夏場所に小兵探すは難しき 夏 栞
26 競泳水着サイズきつめに 夏 リュウ
27 開発のデータ分析出る答え 不夜
28 神田で受ける厄除の札 ふない
29 金髪にネイルアートの三代目 リュウ
29 銭形の子孫悩ます難事件 不夜
30 けふもおけらで月に溜息 秋月 私(29の二句に)
31 やむを得ぬ露時雨見つワンカップ 秋 細葉榕
32 また間違えた秋鯖の数 秋 リュウ
33 村芝居終はつてみればトレビアン 秋 栞
34 パントマイムの化粧を落とす 不夜
35 公園に烏の帰る大樹あり ふない
36 ブルーシートは早い夕餉か 私
二ウ
37 かあちゃんのぬくもりまとうかっぽう着 細葉榕
38 三角巾のやや恥ずかしき 不夜
39 本堂の廊下ひたひた忍び足 海霧
39 アルバイトお化けチーフは美形なり 私
40 閻魔大王張りぼてなのね 不夜(39両句へ)
41 げに恐ろしきは廿の無分別 恋 ふない
42 一つ違えば甘えに似たり 栞
43 草食に姉さんにょうぼが増えてゐる 私
43 蟇穴の上にマンション幟立つ 春 百
44 遠足に行く高尾山口 春 細葉榕
44 山村水郭水も温めば 春 不夜(43両句に)
45 盃の光と染めし酒旗に風 春月 私
45 夕闇に浮かぶ花影朧月 春花月 栞(44両句に)
46 星にヨットもうつらうつらと 夏 細葉榕(45両句に)
47 光進丸若大将も健在ぞ 不夜
48 蛇をおどかす松の枯枝 ふない
48 古希になっても冒険心を 百
49 老木の花につぶやく「元気です」 海霧
50 「落ち込んだりもするけれど」とも 0chika
三オ
51 One Ofに加へてもらったモテをんな 恋 私
52 ゼムクリップで留めた恋文 恋 氷心
53 かびくさき箪笥のネガを掘り出せば ふない
54 ブリキのオモチャ新品同様 不夜
55 明けはやし紫煙くゆらす妻の留守 夏 百
56 テッペンカケタカ時鳥鳴く 夏 リュウ
57 富士の山何度も噴火繰り返し 不夜
58 やどれる神の怒りなるらん 私
59 磔刑を描くルオーのミゼレーレ リュウ
60 我がうるわしの国、今いずこ 彼郎女
61 様々に明るさ求むLED 海霧
62 月読男たたく鍵盤 秋月 リュウ
63 爽やかにリズムを刻むハイハット 秋 不夜
64 えのころ草もスゥイングしてる 秋 百
三ウ
65 すすき野に猫をお伴に宵待す 秋 細葉榕
66 座れば軋む千円の椅子 ふない
67 現実は独立リーグ火の車 不夜
68 夫婦別姓家計折半 百
68 苦しくたってドリームガールズ 栞
69 触れ合った炬燵の中の足の先 冬恋 リュウ
70 君のマフラーうまく編めない 冬恋 彼郎女
71 前略の愛あみむめも溶けている 恋 リュウ
72 ひとめをしのぶやどのあはゆき 春恋 私
73 春陰の秘めたる日記母の恋 春恋 百
74 待ち侘びたるは月よりの使者 春月 細葉榕
75 懐メロにマイクとりあふ花の客 春花 私
76 初の馳走を仔犬喜ぶ 氷心
77 目を細め迷子泣き止む路傍かな 栞
77 電話せず喰つて帰れば鬼の顔 私
78 実はやさしき酒呑童子ぞ 不夜(77両句に)
ナオ
79 夕さりの風に日焼けをまかせをり 夏 氷心
80 夏銀河へと白き航跡 夏 不夜
81 貴婦人等タイタニックと運命を 海霧
82 思い起こせる鳴き砂の浜 ふない
83 きずなありて入り江に集う亀の列 細葉榕
84 舫の舟を揺らす寒風 冬 リュウ
85 使い捨てカイロ封切り散歩道 冬 彼郎女
86 手をつなぎたりポケットの中 恋 私
87 占えばこの恋吉と出ましたよ 恋 百
88 思ひかねつつ新宿の母 恋 不夜
89 屋根裏にちびっ子ギャングの秘密基地 リュウ
90 飛ぶ教室も未だ彷徨ふ 栞
91 並びゐるテールランプへ夏の月 夏月 不夜
92 梅雨なき街の出張は赤 夏 私
ナウ
93 整ひし書類揃へて紙封筒 不夜
94 自転車降りて二度ならすベル 栞
95 ひげ生えてちゃん〜で呼ぶのも恥づかしく 私
96 床屋行くにもたそがれを待つ 氷心
97 貴種流転花の枝垂れる勅使門 春花 百
97 貴種流転何時開かれる勅使門 百
98 都大路は春のにぎはひ 春 不夜
99 蜃気楼追ひつ追はれつゴールへと 春 栞
99 宴の中花ひとひらも客となり 春花 海霧
100 尉と姥とのダンスのどらか 春 リュウ
※同じ番号の句は、ことわりがなければ最後の句に次の番号の句が続いたことを示す。
写真提供はフォト蔵さん
2010年5月13日木曜日
かるみとは何か
『座の文学 ー 連衆心と俳諧の成立』尾形仂、講談社学術文庫
メモ その2:かるみとは何か
○中村俊定
一句の仕立て方の上でのかるみ、ものの見方の上でのかるみ。後者は猿蓑のさび・しをりからの脱却。
○潁原退蔵
用語、句体、詩境にわたる平明卑近。ひさご・猿蓑の句境の打破。
○能勢朝次
老いの訪れに伴う淡白さへの嗜好のもたらした老年の芸境。
○荻野清
芸境の深化と手帳(作為)になずむ時弊(悪習)への憂慮から発せられた素朴性、真率性の強調。
○小西甚一
風雅の誠にもとづく「俗」(いまだ拓かれざる表現領域)の開発の努力の中から老年の訪れとともに滲み出た「無碍(むげ:何ものにも妨げられないこと)」ともいうべき心の味わい。
著者の尾形仂や島津忠夫らは、猿蓑以前から芭蕉門の俳文・書簡などに"かるみ"やその逆の"おもくれ"の言葉が存在してきたことに注目し調査研究。その結果、尾形仂は、ひさご・猿蓑の新風"さび"の根底にはすでに"かるみ"への志向・胎胚が存在していたする。
そして結論として、芭蕉のかるみへの歩みは、三つの段階に分けることができるとする。
○尾形仂
第一段階は、天和以来の模索の果てにかれの技法の確立を見る『おくのほそ道』期における"古び"への反省である。その時点ではまず、趣向・観相のまといついた表現の"おもくれ"への反省から、自然の感情の流露によるやすらかな表現が庶幾(こいねがう)される。
第二段階は、"景気"を標榜する元禄俳壇の興隆の気運と対応しながら"新しみ"をめざした『猿蓑』期で、その時点では、"景気"をこしらえ巧む(理屈や作為で自然風物を詠むことか)風潮への反撥も加わって、無心のうちに内心のリズムがそのまま句形に定着するような、内外合一・無作為・無分別の工夫がこらされる。
第三段階は、以後、最晩年にかけ、点取り俳諧の手帳の弊への反撥をてことして、日常性の中における詩の創造をめざした時期である。
感想:
かるみ論だけで本を読んだ甲斐があった。俗語の俳諧で正風連歌のような風雅の誠を目指した芭蕉ならではの苦労だったのかもしれない。枯淡・閑寂・隠逸に惹かれ、わび・さび・しおり・ほそみなどの美的理念を打ち出しつつ、ともすれば古び重くれてしまいがちな句境をその都度、これはいかんと、軽く、新しくしていったのであろう。重くならなければ軽くする必要はない。其角は器用で師の新風についていったが最後のかるみでは見放した。また多くの弟子もついて行けず離反した。ついて行った弟子間でもかるみの解釈はまちまちであった。其角にしてみれば生来自分はずっとかるみだと言いたかったのかもしれない。
参考:
芭蕉の「軽み」の付け方
芭蕉の軽み(情報収集)
メモ その2:かるみとは何か
○中村俊定
一句の仕立て方の上でのかるみ、ものの見方の上でのかるみ。後者は猿蓑のさび・しをりからの脱却。
○潁原退蔵
用語、句体、詩境にわたる平明卑近。ひさご・猿蓑の句境の打破。
○能勢朝次
老いの訪れに伴う淡白さへの嗜好のもたらした老年の芸境。
○荻野清
芸境の深化と手帳(作為)になずむ時弊(悪習)への憂慮から発せられた素朴性、真率性の強調。
○小西甚一
風雅の誠にもとづく「俗」(いまだ拓かれざる表現領域)の開発の努力の中から老年の訪れとともに滲み出た「無碍(むげ:何ものにも妨げられないこと)」ともいうべき心の味わい。
著者の尾形仂や島津忠夫らは、猿蓑以前から芭蕉門の俳文・書簡などに"かるみ"やその逆の"おもくれ"の言葉が存在してきたことに注目し調査研究。その結果、尾形仂は、ひさご・猿蓑の新風"さび"の根底にはすでに"かるみ"への志向・胎胚が存在していたする。
そして結論として、芭蕉のかるみへの歩みは、三つの段階に分けることができるとする。
○尾形仂
第一段階は、天和以来の模索の果てにかれの技法の確立を見る『おくのほそ道』期における"古び"への反省である。その時点ではまず、趣向・観相のまといついた表現の"おもくれ"への反省から、自然の感情の流露によるやすらかな表現が庶幾(こいねがう)される。
第二段階は、"景気"を標榜する元禄俳壇の興隆の気運と対応しながら"新しみ"をめざした『猿蓑』期で、その時点では、"景気"をこしらえ巧む(理屈や作為で自然風物を詠むことか)風潮への反撥も加わって、無心のうちに内心のリズムがそのまま句形に定着するような、内外合一・無作為・無分別の工夫がこらされる。
第三段階は、以後、最晩年にかけ、点取り俳諧の手帳の弊への反撥をてことして、日常性の中における詩の創造をめざした時期である。
感想:
かるみ論だけで本を読んだ甲斐があった。俗語の俳諧で正風連歌のような風雅の誠を目指した芭蕉ならではの苦労だったのかもしれない。枯淡・閑寂・隠逸に惹かれ、わび・さび・しおり・ほそみなどの美的理念を打ち出しつつ、ともすれば古び重くれてしまいがちな句境をその都度、これはいかんと、軽く、新しくしていったのであろう。重くならなければ軽くする必要はない。其角は器用で師の新風についていったが最後のかるみでは見放した。また多くの弟子もついて行けず離反した。ついて行った弟子間でもかるみの解釈はまちまちであった。其角にしてみれば生来自分はずっとかるみだと言いたかったのかもしれない。
参考:
芭蕉の「軽み」の付け方
芭蕉の軽み(情報収集)
2010年5月12日水曜日
座の文学 ー 連衆心と俳諧の成立

『座の文学 ー 連衆心と俳諧の成立』尾形仂、講談社学術文庫
メモ その1:座の文学
芭蕉にとって座とは、その詩情を誘発し、増幅し、普遍化する、いわばかれの詩の成立・定着にとっての不可欠の媒体であった ...
「師の曰く、其角は、同席に連なるに、一座の興に入る句を言ひ出でて、人々いつとても感ず。師は一座そのことなし。後に人の言へる句はあることもあり、となり」(三冊子)という芭蕉の述懐は、其角との比較に触れて、詩の当座性への埋没の危険を指摘したものにほかならない。
其角が ... 座を離れた連句一巻の作品としての完成にはさして意を払わなかった、無頓着だったということになる。”座の文芸”を”書かれた文芸”に定着させようと願った芭蕉の努力は、座の文脈を作品の文脈に転位することにかかっていたといっていい。
芭蕉の旅は、座の閉鎖性から脱出し、... 積極的に新しい座との触れあいを求め、いくつかの座との交響をかさねる中で、詩の普遍性を獲得することをめざしての旅にほかならなかったともいえはしないか。
感想:
芭蕉は、其角という俳諧の座の申し子のような弟子には、座では叶わないと思っていた。芭蕉は其角とは違うことで自分の存在価値を示す必要に迫られた。芭蕉が誠の風雅や色々な美的理念を模索し続け、江戸を離れ地方の座で実験しつつ旅をし続けたのも、この奇才の弟子の存在が大きかったのではないか。すなわち大人気の其角がいる江戸には芭蕉の居場所がなく、旅をせざるをえなかったのだ。(I think)
芭蕉 —「かるみ」の境地へ

田中善信『芭蕉 —「かるみ」の境地へ』中公新書
副題に惹かれ読んでみた。かるみとは俗談平話の平易な表現とするだけで、かるみについての考察の深さや新しさはなかった。
知らなかったことでは、「荘子」は談林俳諧にバイブル的に読まれ引用された。しかし自分たちの荒唐無稽さの正当性を「荘子」の寓意的な話に求めたに過ぎないとする。
一方、芭蕉は談林の俳諧師のときは同じだったが、仏頂などから禅の手ほどきを受けてからは、「荘子」を禅(大乗仏教)の教えをわかりやすく説いたものとして接したとある。なるほど。
発句 詩あきんど年を貪ル酒債哉 其角
脇 冬湖日暮て駕馬鯉 芭蕉
・・・
16 芭蕉あるじの蝶たたく見よ 其角
17 腐レたる俳諧犬もくらはずや 芭蕉 両吟歌仙「詩あきんど」
23歳の新進気鋭の其角が仕切った『虚栗』にある芭蕉との両吟歌仙「詩あきんど」。この詩あきんどとは誰のことか、腐れ俳諧は誰の俳諧かを考えると面白過ぎる。著者の解釈は、詩あきんどは杜甫のこと。腐れ俳諧は芭蕉の卑下で芭蕉の俳諧としている。
私は、詩あきんどは芭蕉、腐れ俳諧は其角や其角が傾倒する西鶴の俳諧のことで、其角と芭蕉はつい本心が出て歌仙でやりあっているのだと思う。
16の蝶とは「荘子」の胡蝶の夢の蝶のことで、「荘子」を象徴している。この句の意味は芭蕉庵の主、芭蕉は、禅をたしなみ今や「荘子」の教えは会得し切っていますよと言っている。表面的には持ち上げているが、心は逆で、其角の芭蕉への皮肉だと思う(^^)
2010年5月8日土曜日
俳諧武玉川 初篇
俳諧武玉川 初篇
(底本:日本名著全集 江戸文藝之部第廿六巻 川柳雑俳集 )
冬嶺之部(十五点)
1 納豆に抱れて寐たる梅の花
2 夕立に思ひ切たる舟のうち
3 嘘をつけとの大三十日来る
4 祭が済でもとの明店
5 冬籠独口利く唐本屋
6 取分て鞠は男のよいが能
7 雫の伝ふさほ鹿の角
8 放れ馬跡の女に桜の香
9 二人してたけた娘を打詠め
10 四谷から目黒の間を歌枕
11 犬張子二見にわかれ雲の峰
12 取付安い顔へ相談
13 夢で居る子を入れる誓文
14 入もせぬ声の能く成る寒念仏
15 取揚婆々をしらぬ追分
16 物忘れあぢな所を横に見
17 神輿洗つて辷る拝殿
18 関二つ有ともしらず出来心
19 目へ乳をさす引越の中
20 夜は蛍にとぼされる草
21 正直に大工の通ふ寶寺
22 舞台から飛ぶを傘屋は觸れ歩行き
23 丈くらべ手を和らかに提て居る
24 昼はたはげな陸奥の玉河
25 宵の謡の通る寒聲
26 皿砂鉢欲はなけれどあぶながり
27 毛見の艸履に二人取つく
28 説教の上手が島に生て居
29 相図にするをしらぬ看経
30 柏もらひの下手な木登リ
31 智恵のない顔が揃うて扣き鉦
32 家内の留守をねろう鶏飯
33 売喰の丁子頭は無念なり
34 尋て歩行く穴蔵の声
35 記念届けて元の奉公
36 古骨買の辛崎へゆく
37 低く言ひ高く笑ふはおもしろき
38 勘当させた挑灯の施主
39 朝顔の思ひ直して二つ三つ
40 四月の紺屋立波にあく
41 不食の給仕飛石を行く
42 鳶までは見る浪人の夢
43 貴人の方へ曲る罔両(かげぼし)
44 鰒はいやかとたつた一筆
45 六月しれる娶の身代
46 恥かしい目に島台を能く覚え
47 三めぐりは蛙の聲に煙立
48 掃下を段々逃て棚の下
49 合羽に尖る船の若党
50 夜討の跡にけいせいの帯
51 羽衣を鮮い手て皺にする(なまぐさい)
52 雪駄では通りかねたる三日の原
53 門松の穴も心の置所
54 眼薬の貝も淋しき置どころ
55 後家で目を突く今の角町
56 夜のめかりに借金を逃
57 利口になって飛ばぬ清水
58 梟に昼中くらき十二神
59 一日の機嫌も帯の締めごゝろ
60 峠の宿の浅い居風呂
61 をどりが済で人くさい風
62 白鷺のひだるいうちは水鏡
63 宿下の侭で雪駄は干からびる
64 面打を呼ぶ一世一代
65 台笠振つて這入る出女
66 淋しい舟の五十嵐へ着く
67 正直に独づゝ寝るたから船
68 今出た海士のあらい鼻息
69 能い頃を鶉の起す草枕
70 間夫の命拾ふて蚊に喰れ
71 棒を潜つて供へ茶を出す
72 夜のしまひもはやい斎日
73 草も輪に成て涼しき御祓川
74 旅衣脊中へ蝶を浴びて行き
75 松脂匂ふ清見寺前
76 ちら〳〵と池の蛙のうしろ紐
77 子をまたぐらへはさむ中剃
78 盃出して伯父をしづめる
79 薮入の物あり貌な銭を買
80 我一生とおもふ河越
81 牡丹に馬鹿の狂ふ身代
82 十九が過てやりぱなし也
83 湯立をうめて通るむら雨
84 順見のもたれ懸ればまつの風
85 買人を突付て見るゐもり売
86 四月八日ありがたい日は暮にけり
87 鳴らして捨る葉に残る月
88 黒木のうへの初雪を喰ふ
89 飛騨の内匠もやはり切筆
90 たばこ入家内へ隠す松の内
91 柴の戸を大根で扣く霜の花
92 足の淋しき下馬の六尺
93 御端下までは行かぬからかさ(おはした)
94 呑喰も四十と言ふが先へ立
95 雪ころばしへ登る垣間見
96 うき世はあぢに着なす上下
97 鴛の除け物になる雲のみね
98 衣紋坂出家の提る土大根
99 湯舟の煙黒い六月
100 付ざしを渡すと直にあちら向
101 夜の雪駄のひゞく木がらし
102 秋風に山伏のうつ火がこぼれ
103 薬にも毒にもならず年男
104 情しらずの筑波見て居
105 ぴつしやりと被つぶれる山颪 (かぶり)
106 三人寄れば毒な夕ぐれ (吉原、どんなところかしらw)
107 合点で居てもあぶない暖め鳥 (ぬくめどり)
108 安弔ひの蓮の明ぼの
109 雀子の可愛がられて逃て行
110 折ふしは棒も降る也さくら狩
111 淋しい茶屋のしれるかやり火
112 志賀は小言の種にぞ有ける
113 捨ものにして抱ついて見る
114 居風呂へ明てはかへる松の風
115 銭ほどに盛あてがふさくら草
116 うまい事書いた文見る鼠の巣
117 山帰来干す辻番のうら
118 狐に恋を見せて化され
119 鎧を着ると側の巻物
120 千鳥をば鷺にして置遠めがね
121 水かねを吝く振出す鏡研 (しわく:けちくさく)
122 前巾着に枕する猫
123 蛍の先へ間に合ぬ傘
124 湯立の通リはやる振出し
125 声きいて笠を名残の檜原
126 世はからくりの福寿草咲く
127 凡夫さかむに猪牙へすばしり (ちょき:吉原行きの舟)
128 住居の智恵は越てから出る
129 外科はその名も付けず別るゝ
130 首さへ出れば窓の通い路
131 暑き日に娘ひとりの置所
132 青い葉は律儀にしらぬ立田姫
133 鐘つきに引はなさるゝうしろ神(吉原帰り、やはり吉原は文藝の中心地w)
134 張合のなき盃はさし向ひ
135 土産の一駄前の日に着
136 子を誉て居る船の真中
137 師走の猪牙に裏白が舞
138 雀へ酒のかゝる鳥さし
139 夜着の栄花の眼が明て居る
140 ひよんな字を問て家内に疑はれ
141 廿ちの思案聞に及ばず
142 わさびおろしに寒い袖口
143 高く聞へる闇の口上
144 麻刈の一鎌づゝに笠が鳴
145 物書は寺中で憎む掛人 (かかりうど:居候)
146 塔を見て思へば人も怖い物 (スカイツリーは驚くべき工法)
147 行水廻す根夫川のうへ
148 切れ盃を供が見て居る (離縁)
149 取扱いも寒いから鮭
150 悋気の屋根を廻る夕立 (夫婦喧嘩中)
151 面白く反る四ツ手引かな
152 主のない扇を遣ふ渡し守
153 煩ふ馬を沢瀉へひく
154 けぶいもの喰ふ木がらしの月
155 仕送リをうまくだまして足拍子(仕分け人w)
156 泥のつく物とは見へぬ御所車
157 二階から心の人へ咳ばらい
158 若衆は声に出づるうら枯
159 六月キはたらく霊山の柚子
160 元結紙も粘の世の中
161 湯女の情も一まわりづゝ
162 をかしがらるゝ衛士の有明
163 双六の戻る箱根に櫛が落ち
164 白粉も袂につけばたゝかれる
165 時鳥近く見られていとま乞
166 柳と路次へ這入る節季候
167 水ものにして田を質に取
168 食傷は覚悟のまへの遣唐使
169 蓋明てあいその尽る御菜籠 (ごさいかご)
170 三下リころせ〳〵と人通リ
171 蒸籠の湯気を抱へて奥へ行
172 馬の尾のふり負て居る水車
173 廿日亥中に上を行うぞ
174 足跡は親子と見へるかきつばた
175 口留をしても忘れるめうがの子
176 上り馬乗る寺の若党
177 祭もなくて人近い神
178 転んだ跡の青い淡雪
179 出入座頭の誉る新道
180 見しらぬものを拾ふ左義長
181 常世が馬の畳まで喰ふ
182 相談のしまらぬ所ひがし山
183 かな谷泊の一日の運
184 人目の隙に妻の行水
185 緋おどしに惚れて戻リし白拍子
186 捨物にして遣る文に花が咲
187 乳母が在所の赤蛙来る
188 鑓が降ても武士の衣々
189 小松曵あぶない所で手を握り
190 かぶろへ親の通ふ疱瘡
191 蛍は空に闇は麓に
192 紫蘇漬にして戻す引臼
193 下戸一人恋の證拠に頼まれる
194 気違を見に物干が込む
195 山伏も木の端ならず梳あぶら(すき)
196 牛一つ花野の中の沖の石
197 醤油にと気侭はさせず杉の口
198 吉田を乗つた聟にくり言
199 帰リには疝気の発るくすり掘
200 入歯のぐあひかみしめて見る
201 連歌師の江戸へ下れば花の春
202 色茶屋はつぶれて寒き広小路
203 助太刀は念者と中のよい男
204 金剛杖に立並ぶうそ
205 行平の寐所替る月二夜
206 寐て出る智恵に世も捨リ行
207 後生気が出て極のつく女形
208 命とはあたりまかせな言葉也
209 這ふ子の口に人形の舟
210 草履取面白がらぬ数寄屋河岸
211 隙かして拍子の揃ふ紙ぎぬた
212 用に立たを聞かぬ突棒
213 初鰹死だ隣でそつと呼ぶ
214 息杖のうち掃かけて待つ
215 歌でいかねばべつたりと文
216 御符もらいの行あたる駕
217 貰いざかなのさがるうたゝ寐
218 身のうちは眼斗り出して玉霰
219 何かにつけてをとこ兄弟
220 深くはいれば法の吉原 (吉原で悟りw)
221 財布てぶつて直に勘当
222 安い薬のまわる木食
223 傘をさす手は持ぬけいせい
224 祈が利て宮芝居隙(雨ごいで雨、ひま)
225 季吟にたかる人も月花
226 小つゞみにぽつ〳〵降は淋しけれ
227 此反リ橋にほしき牛若
228 松茸も喰ぬ物なら小間物屋
229 筏さし畳の上へ世をのがれ
230 牛に乗る日は遠い鎌くら
231 駕から水を貰ふ六月
232 海士の子の頬を舐れば塩はゆき
233 坊主と中のわるい煩ひ
234 はげしい親の呵そこなひ(しかり)
235 禁酒して何を頼の夕しぐれ
236 烏も二つ雪のぬり下駄
237 かもじを抜てかゝる関の戸
238 太神楽男日照の下へ来る
239 婆々が昔は指折の海士
240 主従が裸にされて雉子の聲
241 みな仇事のぼた餅が来る
242 ふり付の心の届く衣がへ
243 長刀で腰元ぐるみ弟子に取
244 手を握られて顔は見ぬ物
245 更け行く春に禿苦になる (かむろ)
246 都のうつけ赤貝に泣く
247 砂糖のやうな京へ縁組
248 笠の雪崩れぬやうに脱いで見る
249 そう笑つては辷る反り橋
250 仕着の不足下に着て出る(しきせ)
251 朝寐する町は鳥居の右左
252 母はとり込む雨の錦木
253 時雨と雪と二度に逢ふ瀬田
254 醫者の口から洩れる隠れ家
255 金掘の佐渡へふり向天の川
256 のれんの外へ口上の尻
257 正客をつぶす積リにずつと立
258 揚屋九軒で可愛がる馬鹿
259 あわれ也狂ふ時には男声
260 琵琶がなるとは親類の花
261 枡で喧嘩を分る住吉
262 むかし〳〵の聟に高札
263 呑やうに水のなくなるちらし書
264 日にやけた娘を誉る宇治の春
265 異見の側を通るぬき足
266 鳴子曵恋には売れぬをとこ也
267 うらやまれたる山人の脈
268 一日の奉公納に床をとり
269 新造の恨に骨はなかり鳧(けり)
望楼之部(二十点)
270 薮入の顔は濃くなり薄く成り
271 三世相にも水はつめたき
272 下闇に火の恩ふかきうつの山
273 吉原に實が有て運の尽
274 文が届て替る夕ぐれ
275 から鮭の眼へ節分の豆
276 弘法の惜しい事には細工過ぎ
277 うそつきに来た傾城は寄掛リ
278 鰹売呼で家内の顔を見せ
279 誓文に立る刀はまくら元
280 西瓜の水も遠いたしなみ
281 無理なまくらで大坂へ着く
282 冬籠我も昔は尻しらず
283 をとこの眼にも凄い子おろし
284 ひよくの鳥も顔が見らるゝ
285 世の誉事の晴天に死
286 真四角に突出し物の神楽堂
287 幾度か盗まれ死なれ歌枕
288 孕む稲かはつた物を夫に持ち
289 ひよこの咽の乾く若竹
290 呵られた夜の夜着はきせ捨
291 二の替リ台所から口を利
292 踏れる恋もをおとこ一疋
293 両隣娘の咎を知て居る
294 捨鐘聞いてあとは推量
295 後の追人に二親の聲
296 袖留て師走の闇に突放し
297 旦那の髪が出来て騒動
298 気違もはやされてから藝が殖え
299 検校は手を敲く産聲 (たたく)
300 うき世の下卑に揚屋丁さび
301 明る戸へつめたく障る氷室守
302 日頃の意趣をはらす芋虫
303 散る花を乗物の戸へあふぎ込み
304 隣の耳へあたる言訳
305 目いしやの顔が見えて手を打
306 紅葉の中へ幅な入相
307 土産買傘へ時雨の音がする
308 錦木立てゝ菜のうへを行
309 命しらずの戻る岩はし
310 持碁に作て顔の見合
311 しのぶ草夜着を幾つか跨ぎ越
312 當させて心のうごく袴腰
313 高尾が出来てよみ売が出る
314 様々な人が通つて日が暮る
315 子守のもたれかゝる裏門
316 翌る日足の立ぬ池上
317 異見した日の戸が早くたつ
318 七つは人の耳につく鐘
319 駿河の町の吝い初雪(しわい)
320 関守の淋しい日には物とがめ
321 その時を見事に武士の衣がへ
322 ちといたはつて返す羽衣
323 夜伽の客のかた付て居
324 うそが溜て本堂がたつ
325 我髪と思ふ時なき女がた
326 四月八日は葬礼の花
327 蜀漆の虫に親の霍乱(くさぎ)
328 障子越引たい袖はかげぼうし
329 時雨する出雲の空は表向
330 松が岡男をしらぬ唐がらし
331 舟岡を戻る薪屋も五十年
332 不断桜は観音の伊達
333 迄と云ふ心の反リの不奉公
334 あみ笠の赤く成時おもひ知
335 買水をうついやなやつ哉
336 鬼門の方のふとん折込
337 六月のつめたい物に損はなし
338 道心者我も覚えてをとこ山
339 反かへるのを見るやうに鐘の聲
340 不破の大工の一生の恥
341 雪折も千鳥も枕してのもの
342 正直な方がやつるゝ飛鳥川
343 かいどりに隠れて居たる不孝者
344 歯の抜た子の屋根を見て居る
345 黒雲の晴るゝ筑波は有の侭
346 あぶない道で熊野節買ふ
347 帳屋の笹に二度雪が降
348 唐から渡る繻子も空解
349 五月雨袂の下に付木の火
350 寐起にわけて光る金屏
351 けむい所へ這入る袖笠
352 豆腐にむかひ是からの智恵
353 胡葱は初奉公の新まくら(あさつき)
354 晦日のうそに男ぎれなし
355 なぶり殺すを居代てやる
356 金にする聲はあはれな寒の内
357 拍子に乗て長崎の嘘
358 仲人の及ぬ所へたすけ船
359 覗かれる気で瞽女は寐に行
360 笛の上手に身を捨る鹿
361 傘の初荷が着て郭公(からかさ、ほととぎす)
362 悪女へ早く届く手招き
363 津浪の町の揃ふ命日
364 涼しさは男に多き糺川(ただす)
365 萌し物出て生る駒込
366 内に居て顔の淋しき一月寺
367 奈良漬の一舟残る病上り
368 恨もなくて我畳む夜着
369 幟が殖えてなぶられる妻
370 銭金のおもしろく減る旅衣
371 少しづゝ灯のふとく成る新枕
372 御茶の水行く舟にからかさ
373 舞も恨も初ては立膝 (しょて)
374 憎さうに手曳は日向通りけり
375 子の手を曳いて姿崩れる
376 我炭にかじけて歩行く八王子
377 鷹の頭巾を拾ふ買出し
378 煮えあがる湯をだます茶袋
379 辛崎やあたりの松は気も付かず
380 近星を佛御前は知らぬふり
381 淋しい時に蔵を詠る (ながめる)
382 油のはねる忠盛の袖
383 落る事なくて淋しき牛の角
384 百取うちに濡れくさる釈迦
385 朝顔の開き仕舞へばほんの帯
386 死だ妾に絵師の骨折
387 勘当の長崎者に成かゝり
388 一夜明ると馬鹿で目を突
389 殿の禁酒に夜は捨り行(すたり)
390 浪人は娘ひとりを智恵の奥
391 後家しほ〳〵と青物の禮
392 明六ツわたる鵲のはし(かささぎ)
393 鳥にさへ相言葉あるそとの濱
394 顔で死ぬ蚊の兼て合點
395 節季の息子算盤に乗
396 背中から寄る人の光陰
397 百性の身に稀な手枕
398 饂飩の誠初雪が降
399 吉原の屋根かと聞て伸上リ
400 覚へる事は女房が勝
401 ぬるい湯船へ這入る早乙女
402 編笠を着てほんの眼が覚め
403 口上も二人へあてゝ千団子
404 精出して売る顔でなし唐物屋
405 逃ると聞て水がさしたい
406 子どもの色のわるひ築しま
407 浅間はもえて里の朝食
408 十年まへは独をかしき
409 袖笠はしのびに成らぬ紋所
410 番神堂を廻る薙刀
411 庭鳥の鳴ころが奉公
412 子に持せても桔梗淋しき
413 志賀の寺傘畳む音がする
414 きりぎりす顔の重たき院の御所
415 生酔の心は直に道を行
416 さくらが咲て奥の前だれ
417 寒の水棒の師匠に誉らるゝ
418 杜若坊主の手から色がさめ
419 雨雲の時々見世へ茶を運び
420 名古屋からなぶられて来る干大根
421 神無月仏の御代に成にけり
422 台所から影ぼしに惚れ
423 うらむ比丘尼の髪をほしがる
424 闇を躍て帰る屋敷衆
425 御神酒はあれど青い庚申
426 白眼廻して妾の出代り(にらみ)
427 宿下の土産に咄す紋所(やどおり)
428 奉幣のうち氷る侍
429 度々智恵の戻る築島
430 葵が咲いてうぐひすは闇
431 縫ふ人を空からなぶる時明リ
432 大工とさしに引越の椽(縁)
433 旅人立てくらく成る家
434 日本の裾は風ほどに明く
435 桟敷へ坐る母の中垣
436 腕をさすつて狸煮て居る
437 生酔の後通れば寄かゝり(なまよい)
438 榊の穴に鍬の投やり
439 寐て居た前に合す稲妻
440 女房は簾の内で直をこたへ(ね)
441 垢離取の見ぬ振しても楼舟(こり、やかたぶね)
442 浪人にまだ息の有る松囃子
443 おもひ直して三弦を弾く
444 手うつしの闇をいたゞく寒念仏(かんねぶつ)
445 くぼみの家へ蚊遣り草売れ
446 是迄と思ひ極めて総仕舞
447 都鳥けふはきのふの銭を売り
448 先でわかるゝ判取の声
449 返す時機嫌の悪い御鬮本(みくじぼん)
450 うき事のためにちび〳〵呑習ひ
451 又振袖へ戻る孝行
452 一つでも義理の届いた蛍狩
453 六郷ぎりで別る相傘
454 中間の名のある甲斐もなし(ちゅうげん)
455 病ひ程療治尽して捨小舟
456 鳥甲見て帰る弟子入
457 恋が叶ふと分散に逢
458 音頭が付て軽い言訳
459 我からに招く気に成る蔵開キ
460 かつらへも賀茂へも遣らぬ仏の日
461 むかしも今も同じ本膳
462 小野照崎をさしの弔ひ
463 落着顔の堀で三味線
464 約束倒れさらされて居る
465 燈籠の売れた夢みる小道具屋
466 五月雨や仕舞の日には横へ降り
467 松風の和らかに来るひとへ物
468 墨染のちからづくには写し物
469 猫の二階へ上る晴天
470 此世も闇の鵜を連て出る
471 棒を馳走に遣ふ神取
472 宇津の山捨たいやうな鑓に逢
473 遠く日のさす横笛の肘
474 六角堂を乳母がしこなし
475 つまめば淋し金襴のうら
476 惚たとは短い事の言にくき
477 ひよこの付て這入る灌佛
478 烏の歩行く瀬多の元日
479 閏五月のいたづらに降る
480 火の入た酒出盛てほとゝぎす
481 西日の宿の目を細く呼
482 鶯に突放されてほとゝぎす
483 中気に成て亭がつぶれる
484 泊客最う隣から人の口
485 涼しくも男を立る三つがなわ
486 大屋に成りて負る六月
487 蝶々の種を蒔せる貝わり菜
488 窓明た大工を誉る丸はだか
489 雪を喰ふ女の顔へ日のうつり
490 硯の膝を廻るおし鳥
491 取揚婆々の供も飛び〳〵
492 雪ころばしの盛かへが出る
493 役者の草鞋葉の落る頃
494 たけの揃はぬ加多の洗濯
495 きんか天窓を撫る若君
496 紙燭して遣る恩のはじまり
497 咡ばうしろの見たい駕の内(ささやけば)
498 木枕を都から来て匂はせる
499 半年の埃を見て居る硯箱
500 捨子の棒のつくかひもなし
501 子にゆるひ頭巾かぶせて網代守
502 歯の若さ茶漬の中に石の音
503 朝日を供のふさぐ干物
504 娵入となしに抱取て行
505 消炭を人と思はぬ八王子
506 あはう拂の摂待へ来る
507 取持顔でさかもりのめど
508 蔵造夏の噺の怖しき
509 二心内の淋しきゑびす講
510 雀眼も欲にありく棚経(とりめ)
511 一網づゝに亭へ挨拶 (ちん)
512 脱で女に戻る水干
513 松の風少しかたまる置巨燵
514 放馬抱た男に智恵はなし
515 死たいと言ふた師走の恥しき
516 先の家内をあてる進物
517 不機嫌な日は音のない台所
518 青田に成つて乳の見える人
519 何所へ行とも言はぬ雨性
520 淀屋がたいこ長崎で死
521 鳴戸を越て紅絵さめ行
522 下々に見らるゝ顔も初幟
523 荘子の夢の山吹へ来る
524 嘘をつく顔へ時雨の降かゝり
525 飛ぶ傘はくらい買もの
526 内に寐て独をかしき夜着ふとん
527 死際は人形に似てきりぎりす
528 浪人だけはすたる言伝
529 願叶て怖しい町
530 細工が成つてはやい還俗
531 袴着させて乳母の大口
532 傘に寐鳥のさはぐ切通し
533 勘当は蛙に水のかけ納め
534 腹のたつ時見るための海
535 蛍から連に成たる恋の闇
536 女にも心々の誉どころ
537 淋しい宮に穴一の音
538 嵐の川に朝顔が咲く
主壽昌之部
539 派の利く手代面白くなし
540 撞が見えるで伽な入相
541 百性は嵐にうその道が付き
542 死だ家老にしからるゝゆめ
543 目につく乳母へ舞て来る獅子
544 辛崎は商賣じみた雨が降
545 文珠の智恵も三人の分
546 衣で礼に歩行く蜜夫(まおとこ)
547 親指に折らるゝ人は手がら也
548 死だ手際を誉る棒突
549 念者と人の知るを待かね
550 二百十日の屋根に浪人
551 そろ〳〵見える後家のからくり
552 折山損をするも養生
553 大つゞみとは公家の荒事
554 我が田を取られた川で渡し守
555 賤しく老てあつい湯に入
556 夫の惚れた顔を見に行く
557 師匠への旅の土産は物覚
558 鳥辺山最う嘘のない人に成
559 牛王の灰と聞て欠落
560 女房の鏡見た迄で済
561 口が辷つて二度起請書く
562 氷室を開く鍬の手廻
563 松戸の顔は雲やりの先
564 国替の顔が降也かゞみ山
565 物云へば柄杓を遣ふ水鏡
566 追分へ来て下戸を育る
567 遣り手の噺立波がひく
568 赤子の声ののらぬ吉原
569 楽屋みたがる翠簾の正客(みす)
570 越後屋の灯を供がかぞへる
571 あまつて足らぬ女房の知恵
572 化物屋敷誉る虫うり
573 いざよいは少しおどりて小紫
574 要ばかりを下戸の言伝
575 丹誠に桃を咲せて追出され
576 美しい娘の供の反り返り
577 枝からこぼす琴の似せ物
578 負公事の方へ娘は行たがり
579 立並ぶ木々とは言ず松の風
580 うこんがさめて井出の夏川
581 振袖に薬の湯気を曵て行
582 寒い噂に赤く成る笠
583 今度の硯文にふさはず
584 女房の望岸を漕せる
585 遊行の供の口が利き過ぎ
586 喰切て驚かれぬるとうがらし
587 春のあさぢの飯粒を踏
588 後家は嫌いと後家が言せる
589 廿五の暁またぬ五間口
590 馬の姿も出ると戻ると
591 抹香とても爪はづれ物
592 盗でくれた人を正客
593 餞別貰ふ初の勘当
594 妾がとつて廻す祝い日
595 当座のがれの顔へ風呂敷
596 あくらの側に上下の恥
597 老のむかしを咄す台所
598 婆々はわすれて仕舞ふ我顔
599 従弟か連れて帰る桶伏
600 紀の関守の猿にさすまた
601 初會に先の見える七夕
602 いかだ便りに帰る小舅
603 鶴は龜より人をさわがし
604 鰯がとれて闇の人声
605 急ぐ小早の反かへるこゑ
606 隣をば人と思はず年忘れ
607 追分へ出て薬まで分け
608 奢尽して鶴龜を飼ふ (おごり)
609 気違の一日置に通りけり
610 浪人の編笠計むかし物(ばかり)
611 心に無理の残る道心
612 よい男来る分散の礼
613 恥かしい所を湯舟の摺はらひ
614 暮にちらりと後家の積物
615 五月五日も毒の玉川
616 我分別のやうに薬湯
617 踊る時には袖が魂
618 雪の寒を止んで覚える
619 新らし過て凄い売家
620 橙一つなはしろへうく
621 稲葉の雲の中を鑓持
622 降初し日は遠い事五月雨
623 町内の月額青き死光り
624 箸の先から見える光陰
625 まだ主の紋を着て居る草の庵
626 曾我の泪を目黒でも泣く
627 めでたい役は鶴の預リ
628 氷のうへに外科の挑灯
629 死ぬと忽ち人の金蔵
630 肘枕我身代ははなれもの
631 おこりの落ぬうちは丸腰
632 三つ櫛のみつれば欠る十二月
633 菊畑他人の蔵の雨雫
634 寒声も何ぞに腹の立た時
635 凱陣済んで後家の捨売
636 息で重りを付る羽子のこ
637 ゆめの世ながら人は寐道具
638 顔を見て居る琵琶の始り
639 敷金の礼も言たき新まくら
640 玉手箱仕廻ふ時には皺だらけ
641 九年の陣へ見廻ふ女房
642 暦で尻を扣く仲人
643 水干をのれんに掛る八重葎
644 結納の済んだ迄の我せこ
645 寐てか覚てか民の前帯
646 枇杷柊花の寒を言ひ合
647 不足を隠す娵の白粉
648 立身をしてかるい履物
649 夜着や枕は恋の下草
650 歌ぬす人は大がらな人
651 あたつて銭の戻る三絃
652 伊達過て小町はもたぬ緋縮緬
653 神楽のうらへ廻るさむらひ
654 葬礼の翌へ延して欲がしれ(あす)
655 星二つ三つ雨もりの伊達
656 傾城の遠い思案も遠からず
657 うそ兀て後ろ合に夜か明け(はげて、あわせ)
658 和尚の肝を咄す末の子
659 かぐらをのこの細い衿元
660 千鳥は立て残る赤椀
661 埃リをはたく儒者の大声
662 聟へ盃戻る横雲
663 むかふ近江へ見せる稲妻
664 道具屋に逢ふ若竹の道
665 箪笥の多い鍛冶の六月
666 明荷の馬へまわる金剛
667 生延て子に呵らるゝつまみ喰
668 百日紅も通ひ路の数
669 傾城に笑れに行く主おもひ
670 高尾が舌もまわる大年
671 西の河原を親の足早
672 頂戴したる若殿のうそ
673 毒は廻りの早い借金
674 地震の跡の箸も一本
675 五人組から娵を見始め
676 白禿計残る飯台 (しらくも、ばかり)
677 我ほどの茂みの下に八から鉦 (やからがね)
678 かな聾に蛇骨掘まけ (つんぼう)
679 反から先へ習ふ鐘撞
680 ぬすみおほせて初のきのえね
681 御仕着の下駄を親父に盗れる
682 鼻を大事にせいと遺言
683 馬も立派に歩行く朔日
684 二心ないと思へば足の跡
685 十月の空を見て居る物貰
686 影法師にも蔵はよいもの
687 鮓桶のきのふにけふは投出され
688 付ざしも七合入はちから業
689 松明の手元でもえる山かづら
690 あたりの飯のすゑるとぶらひ
691 江戸の余波の山帰来呑む
692 青山からも近いよしはら
693 をとこの中にすたるうたゝ寐
694 赤子の鼻を誉る座のしほ
695 物にかゝりの突出しを買
696 たいこの顔の残る墨染
697 時あかり女心をよろこばせ
698 瘧あげくの損をした顔 (おこり)
699 垣間見に美し同士の湯がこぼれ
700 妻の出立に余所目して居る
701 兵庫の命室へ着く船
702 稲妻にその気の付ぬ門田守
703 焦るゝと云ふ人の夕ぐれ
704 看板を見ても入歯の哀也
705 仮名で書せる鴛の売上げ
706 橘町に夜昼の顔
707 国家老日は赤々と太夫買
708 惣身を耳とおもふ当言
709 刈人の丈も五尺のあやめ草
710 湯屋の二階は侍の物
711 鯲を提て田の中を行 (どじょう)
712 蠅をうつして代る関守
713 冬の牡丹の魂で咲く
714 きのふけふ起請の指の冷えて居る
715 無い歯を鳴らす百日の行
716 あぶながらるゝ商人の衆
717 真向な顔の多い入舟
俳諧武玉川初篇 終
二篇
※推奨サイト:武玉川を歩むさん
(底本:日本名著全集 江戸文藝之部第廿六巻 川柳雑俳集 )
冬嶺之部(十五点)
1 納豆に抱れて寐たる梅の花
2 夕立に思ひ切たる舟のうち
3 嘘をつけとの大三十日来る
4 祭が済でもとの明店
5 冬籠独口利く唐本屋
6 取分て鞠は男のよいが能
7 雫の伝ふさほ鹿の角
8 放れ馬跡の女に桜の香
9 二人してたけた娘を打詠め
10 四谷から目黒の間を歌枕
11 犬張子二見にわかれ雲の峰
12 取付安い顔へ相談
13 夢で居る子を入れる誓文
14 入もせぬ声の能く成る寒念仏
15 取揚婆々をしらぬ追分
16 物忘れあぢな所を横に見
17 神輿洗つて辷る拝殿
18 関二つ有ともしらず出来心
19 目へ乳をさす引越の中
20 夜は蛍にとぼされる草
21 正直に大工の通ふ寶寺
22 舞台から飛ぶを傘屋は觸れ歩行き
23 丈くらべ手を和らかに提て居る
24 昼はたはげな陸奥の玉河
25 宵の謡の通る寒聲
26 皿砂鉢欲はなけれどあぶながり
27 毛見の艸履に二人取つく
28 説教の上手が島に生て居
29 相図にするをしらぬ看経
30 柏もらひの下手な木登リ
31 智恵のない顔が揃うて扣き鉦
32 家内の留守をねろう鶏飯
33 売喰の丁子頭は無念なり
34 尋て歩行く穴蔵の声
35 記念届けて元の奉公
36 古骨買の辛崎へゆく
37 低く言ひ高く笑ふはおもしろき
38 勘当させた挑灯の施主
39 朝顔の思ひ直して二つ三つ
40 四月の紺屋立波にあく
41 不食の給仕飛石を行く
42 鳶までは見る浪人の夢
43 貴人の方へ曲る罔両(かげぼし)
44 鰒はいやかとたつた一筆
45 六月しれる娶の身代
46 恥かしい目に島台を能く覚え
47 三めぐりは蛙の聲に煙立
48 掃下を段々逃て棚の下
49 合羽に尖る船の若党
50 夜討の跡にけいせいの帯
51 羽衣を鮮い手て皺にする(なまぐさい)
52 雪駄では通りかねたる三日の原
53 門松の穴も心の置所
54 眼薬の貝も淋しき置どころ
55 後家で目を突く今の角町
56 夜のめかりに借金を逃
57 利口になって飛ばぬ清水
58 梟に昼中くらき十二神
59 一日の機嫌も帯の締めごゝろ
60 峠の宿の浅い居風呂
61 をどりが済で人くさい風
62 白鷺のひだるいうちは水鏡
63 宿下の侭で雪駄は干からびる
64 面打を呼ぶ一世一代
65 台笠振つて這入る出女
66 淋しい舟の五十嵐へ着く
67 正直に独づゝ寝るたから船
68 今出た海士のあらい鼻息
69 能い頃を鶉の起す草枕
70 間夫の命拾ふて蚊に喰れ
71 棒を潜つて供へ茶を出す
72 夜のしまひもはやい斎日
73 草も輪に成て涼しき御祓川
74 旅衣脊中へ蝶を浴びて行き
75 松脂匂ふ清見寺前
76 ちら〳〵と池の蛙のうしろ紐
77 子をまたぐらへはさむ中剃
78 盃出して伯父をしづめる
79 薮入の物あり貌な銭を買
80 我一生とおもふ河越
81 牡丹に馬鹿の狂ふ身代
82 十九が過てやりぱなし也
83 湯立をうめて通るむら雨
84 順見のもたれ懸ればまつの風
85 買人を突付て見るゐもり売
86 四月八日ありがたい日は暮にけり
87 鳴らして捨る葉に残る月
88 黒木のうへの初雪を喰ふ
89 飛騨の内匠もやはり切筆
90 たばこ入家内へ隠す松の内
91 柴の戸を大根で扣く霜の花
92 足の淋しき下馬の六尺
93 御端下までは行かぬからかさ(おはした)
94 呑喰も四十と言ふが先へ立
95 雪ころばしへ登る垣間見
96 うき世はあぢに着なす上下
97 鴛の除け物になる雲のみね
98 衣紋坂出家の提る土大根
99 湯舟の煙黒い六月
100 付ざしを渡すと直にあちら向
101 夜の雪駄のひゞく木がらし
102 秋風に山伏のうつ火がこぼれ
103 薬にも毒にもならず年男
104 情しらずの筑波見て居
105 ぴつしやりと被つぶれる山颪 (かぶり)
106 三人寄れば毒な夕ぐれ (吉原、どんなところかしらw)
107 合点で居てもあぶない暖め鳥 (ぬくめどり)
108 安弔ひの蓮の明ぼの
109 雀子の可愛がられて逃て行
110 折ふしは棒も降る也さくら狩
111 淋しい茶屋のしれるかやり火
112 志賀は小言の種にぞ有ける
113 捨ものにして抱ついて見る
114 居風呂へ明てはかへる松の風
115 銭ほどに盛あてがふさくら草
116 うまい事書いた文見る鼠の巣
117 山帰来干す辻番のうら
118 狐に恋を見せて化され
119 鎧を着ると側の巻物
120 千鳥をば鷺にして置遠めがね
121 水かねを吝く振出す鏡研 (しわく:けちくさく)
122 前巾着に枕する猫
123 蛍の先へ間に合ぬ傘
124 湯立の通リはやる振出し
125 声きいて笠を名残の檜原
126 世はからくりの福寿草咲く
127 凡夫さかむに猪牙へすばしり (ちょき:吉原行きの舟)
128 住居の智恵は越てから出る
129 外科はその名も付けず別るゝ
130 首さへ出れば窓の通い路
131 暑き日に娘ひとりの置所
132 青い葉は律儀にしらぬ立田姫
133 鐘つきに引はなさるゝうしろ神(吉原帰り、やはり吉原は文藝の中心地w)
134 張合のなき盃はさし向ひ
135 土産の一駄前の日に着
136 子を誉て居る船の真中
137 師走の猪牙に裏白が舞
138 雀へ酒のかゝる鳥さし
139 夜着の栄花の眼が明て居る
140 ひよんな字を問て家内に疑はれ
141 廿ちの思案聞に及ばず
142 わさびおろしに寒い袖口
143 高く聞へる闇の口上
144 麻刈の一鎌づゝに笠が鳴
145 物書は寺中で憎む掛人 (かかりうど:居候)
146 塔を見て思へば人も怖い物 (スカイツリーは驚くべき工法)
147 行水廻す根夫川のうへ
148 切れ盃を供が見て居る (離縁)
149 取扱いも寒いから鮭
150 悋気の屋根を廻る夕立 (夫婦喧嘩中)
151 面白く反る四ツ手引かな
152 主のない扇を遣ふ渡し守
153 煩ふ馬を沢瀉へひく
154 けぶいもの喰ふ木がらしの月
155 仕送リをうまくだまして足拍子(仕分け人w)
156 泥のつく物とは見へぬ御所車
157 二階から心の人へ咳ばらい
158 若衆は声に出づるうら枯
159 六月キはたらく霊山の柚子
160 元結紙も粘の世の中
161 湯女の情も一まわりづゝ
162 をかしがらるゝ衛士の有明
163 双六の戻る箱根に櫛が落ち
164 白粉も袂につけばたゝかれる
165 時鳥近く見られていとま乞
166 柳と路次へ這入る節季候
167 水ものにして田を質に取
168 食傷は覚悟のまへの遣唐使
169 蓋明てあいその尽る御菜籠 (ごさいかご)
170 三下リころせ〳〵と人通リ
171 蒸籠の湯気を抱へて奥へ行
172 馬の尾のふり負て居る水車
173 廿日亥中に上を行うぞ
174 足跡は親子と見へるかきつばた
175 口留をしても忘れるめうがの子
176 上り馬乗る寺の若党
177 祭もなくて人近い神
178 転んだ跡の青い淡雪
179 出入座頭の誉る新道
180 見しらぬものを拾ふ左義長
181 常世が馬の畳まで喰ふ
182 相談のしまらぬ所ひがし山
183 かな谷泊の一日の運
184 人目の隙に妻の行水
185 緋おどしに惚れて戻リし白拍子
186 捨物にして遣る文に花が咲
187 乳母が在所の赤蛙来る
188 鑓が降ても武士の衣々
189 小松曵あぶない所で手を握り
190 かぶろへ親の通ふ疱瘡
191 蛍は空に闇は麓に
192 紫蘇漬にして戻す引臼
193 下戸一人恋の證拠に頼まれる
194 気違を見に物干が込む
195 山伏も木の端ならず梳あぶら(すき)
196 牛一つ花野の中の沖の石
197 醤油にと気侭はさせず杉の口
198 吉田を乗つた聟にくり言
199 帰リには疝気の発るくすり掘
200 入歯のぐあひかみしめて見る
201 連歌師の江戸へ下れば花の春
202 色茶屋はつぶれて寒き広小路
203 助太刀は念者と中のよい男
204 金剛杖に立並ぶうそ
205 行平の寐所替る月二夜
206 寐て出る智恵に世も捨リ行
207 後生気が出て極のつく女形
208 命とはあたりまかせな言葉也
209 這ふ子の口に人形の舟
210 草履取面白がらぬ数寄屋河岸
211 隙かして拍子の揃ふ紙ぎぬた
212 用に立たを聞かぬ突棒
213 初鰹死だ隣でそつと呼ぶ
214 息杖のうち掃かけて待つ
215 歌でいかねばべつたりと文
216 御符もらいの行あたる駕
217 貰いざかなのさがるうたゝ寐
218 身のうちは眼斗り出して玉霰
219 何かにつけてをとこ兄弟
220 深くはいれば法の吉原 (吉原で悟りw)
221 財布てぶつて直に勘当
222 安い薬のまわる木食
223 傘をさす手は持ぬけいせい
224 祈が利て宮芝居隙(雨ごいで雨、ひま)
225 季吟にたかる人も月花
226 小つゞみにぽつ〳〵降は淋しけれ
227 此反リ橋にほしき牛若
228 松茸も喰ぬ物なら小間物屋
229 筏さし畳の上へ世をのがれ
230 牛に乗る日は遠い鎌くら
231 駕から水を貰ふ六月
232 海士の子の頬を舐れば塩はゆき
233 坊主と中のわるい煩ひ
234 はげしい親の呵そこなひ(しかり)
235 禁酒して何を頼の夕しぐれ
236 烏も二つ雪のぬり下駄
237 かもじを抜てかゝる関の戸
238 太神楽男日照の下へ来る
239 婆々が昔は指折の海士
240 主従が裸にされて雉子の聲
241 みな仇事のぼた餅が来る
242 ふり付の心の届く衣がへ
243 長刀で腰元ぐるみ弟子に取
244 手を握られて顔は見ぬ物
245 更け行く春に禿苦になる (かむろ)
246 都のうつけ赤貝に泣く
247 砂糖のやうな京へ縁組
248 笠の雪崩れぬやうに脱いで見る
249 そう笑つては辷る反り橋
250 仕着の不足下に着て出る(しきせ)
251 朝寐する町は鳥居の右左
252 母はとり込む雨の錦木
253 時雨と雪と二度に逢ふ瀬田
254 醫者の口から洩れる隠れ家
255 金掘の佐渡へふり向天の川
256 のれんの外へ口上の尻
257 正客をつぶす積リにずつと立
258 揚屋九軒で可愛がる馬鹿
259 あわれ也狂ふ時には男声
260 琵琶がなるとは親類の花
261 枡で喧嘩を分る住吉
262 むかし〳〵の聟に高札
263 呑やうに水のなくなるちらし書
264 日にやけた娘を誉る宇治の春
265 異見の側を通るぬき足
266 鳴子曵恋には売れぬをとこ也
267 うらやまれたる山人の脈
268 一日の奉公納に床をとり
269 新造の恨に骨はなかり鳧(けり)
望楼之部(二十点)
270 薮入の顔は濃くなり薄く成り
271 三世相にも水はつめたき
272 下闇に火の恩ふかきうつの山
273 吉原に實が有て運の尽
274 文が届て替る夕ぐれ
275 から鮭の眼へ節分の豆
276 弘法の惜しい事には細工過ぎ
277 うそつきに来た傾城は寄掛リ
278 鰹売呼で家内の顔を見せ
279 誓文に立る刀はまくら元
280 西瓜の水も遠いたしなみ
281 無理なまくらで大坂へ着く
282 冬籠我も昔は尻しらず
283 をとこの眼にも凄い子おろし
284 ひよくの鳥も顔が見らるゝ
285 世の誉事の晴天に死
286 真四角に突出し物の神楽堂
287 幾度か盗まれ死なれ歌枕
288 孕む稲かはつた物を夫に持ち
289 ひよこの咽の乾く若竹
290 呵られた夜の夜着はきせ捨
291 二の替リ台所から口を利
292 踏れる恋もをおとこ一疋
293 両隣娘の咎を知て居る
294 捨鐘聞いてあとは推量
295 後の追人に二親の聲
296 袖留て師走の闇に突放し
297 旦那の髪が出来て騒動
298 気違もはやされてから藝が殖え
299 検校は手を敲く産聲 (たたく)
300 うき世の下卑に揚屋丁さび
301 明る戸へつめたく障る氷室守
302 日頃の意趣をはらす芋虫
303 散る花を乗物の戸へあふぎ込み
304 隣の耳へあたる言訳
305 目いしやの顔が見えて手を打
306 紅葉の中へ幅な入相
307 土産買傘へ時雨の音がする
308 錦木立てゝ菜のうへを行
309 命しらずの戻る岩はし
310 持碁に作て顔の見合
311 しのぶ草夜着を幾つか跨ぎ越
312 當させて心のうごく袴腰
313 高尾が出来てよみ売が出る
314 様々な人が通つて日が暮る
315 子守のもたれかゝる裏門
316 翌る日足の立ぬ池上
317 異見した日の戸が早くたつ
318 七つは人の耳につく鐘
319 駿河の町の吝い初雪(しわい)
320 関守の淋しい日には物とがめ
321 その時を見事に武士の衣がへ
322 ちといたはつて返す羽衣
323 夜伽の客のかた付て居
324 うそが溜て本堂がたつ
325 我髪と思ふ時なき女がた
326 四月八日は葬礼の花
327 蜀漆の虫に親の霍乱(くさぎ)
328 障子越引たい袖はかげぼうし
329 時雨する出雲の空は表向
330 松が岡男をしらぬ唐がらし
331 舟岡を戻る薪屋も五十年
332 不断桜は観音の伊達
333 迄と云ふ心の反リの不奉公
334 あみ笠の赤く成時おもひ知
335 買水をうついやなやつ哉
336 鬼門の方のふとん折込
337 六月のつめたい物に損はなし
338 道心者我も覚えてをとこ山
339 反かへるのを見るやうに鐘の聲
340 不破の大工の一生の恥
341 雪折も千鳥も枕してのもの
342 正直な方がやつるゝ飛鳥川
343 かいどりに隠れて居たる不孝者
344 歯の抜た子の屋根を見て居る
345 黒雲の晴るゝ筑波は有の侭
346 あぶない道で熊野節買ふ
347 帳屋の笹に二度雪が降
348 唐から渡る繻子も空解
349 五月雨袂の下に付木の火
350 寐起にわけて光る金屏
351 けむい所へ這入る袖笠
352 豆腐にむかひ是からの智恵
353 胡葱は初奉公の新まくら(あさつき)
354 晦日のうそに男ぎれなし
355 なぶり殺すを居代てやる
356 金にする聲はあはれな寒の内
357 拍子に乗て長崎の嘘
358 仲人の及ぬ所へたすけ船
359 覗かれる気で瞽女は寐に行
360 笛の上手に身を捨る鹿
361 傘の初荷が着て郭公(からかさ、ほととぎす)
362 悪女へ早く届く手招き
363 津浪の町の揃ふ命日
364 涼しさは男に多き糺川(ただす)
365 萌し物出て生る駒込
366 内に居て顔の淋しき一月寺
367 奈良漬の一舟残る病上り
368 恨もなくて我畳む夜着
369 幟が殖えてなぶられる妻
370 銭金のおもしろく減る旅衣
371 少しづゝ灯のふとく成る新枕
372 御茶の水行く舟にからかさ
373 舞も恨も初ては立膝 (しょて)
374 憎さうに手曳は日向通りけり
375 子の手を曳いて姿崩れる
376 我炭にかじけて歩行く八王子
377 鷹の頭巾を拾ふ買出し
378 煮えあがる湯をだます茶袋
379 辛崎やあたりの松は気も付かず
380 近星を佛御前は知らぬふり
381 淋しい時に蔵を詠る (ながめる)
382 油のはねる忠盛の袖
383 落る事なくて淋しき牛の角
384 百取うちに濡れくさる釈迦
385 朝顔の開き仕舞へばほんの帯
386 死だ妾に絵師の骨折
387 勘当の長崎者に成かゝり
388 一夜明ると馬鹿で目を突
389 殿の禁酒に夜は捨り行(すたり)
390 浪人は娘ひとりを智恵の奥
391 後家しほ〳〵と青物の禮
392 明六ツわたる鵲のはし(かささぎ)
393 鳥にさへ相言葉あるそとの濱
394 顔で死ぬ蚊の兼て合點
395 節季の息子算盤に乗
396 背中から寄る人の光陰
397 百性の身に稀な手枕
398 饂飩の誠初雪が降
399 吉原の屋根かと聞て伸上リ
400 覚へる事は女房が勝
401 ぬるい湯船へ這入る早乙女
402 編笠を着てほんの眼が覚め
403 口上も二人へあてゝ千団子
404 精出して売る顔でなし唐物屋
405 逃ると聞て水がさしたい
406 子どもの色のわるひ築しま
407 浅間はもえて里の朝食
408 十年まへは独をかしき
409 袖笠はしのびに成らぬ紋所
410 番神堂を廻る薙刀
411 庭鳥の鳴ころが奉公
412 子に持せても桔梗淋しき
413 志賀の寺傘畳む音がする
414 きりぎりす顔の重たき院の御所
415 生酔の心は直に道を行
416 さくらが咲て奥の前だれ
417 寒の水棒の師匠に誉らるゝ
418 杜若坊主の手から色がさめ
419 雨雲の時々見世へ茶を運び
420 名古屋からなぶられて来る干大根
421 神無月仏の御代に成にけり
422 台所から影ぼしに惚れ
423 うらむ比丘尼の髪をほしがる
424 闇を躍て帰る屋敷衆
425 御神酒はあれど青い庚申
426 白眼廻して妾の出代り(にらみ)
427 宿下の土産に咄す紋所(やどおり)
428 奉幣のうち氷る侍
429 度々智恵の戻る築島
430 葵が咲いてうぐひすは闇
431 縫ふ人を空からなぶる時明リ
432 大工とさしに引越の椽(縁)
433 旅人立てくらく成る家
434 日本の裾は風ほどに明く
435 桟敷へ坐る母の中垣
436 腕をさすつて狸煮て居る
437 生酔の後通れば寄かゝり(なまよい)
438 榊の穴に鍬の投やり
439 寐て居た前に合す稲妻
440 女房は簾の内で直をこたへ(ね)
441 垢離取の見ぬ振しても楼舟(こり、やかたぶね)
442 浪人にまだ息の有る松囃子
443 おもひ直して三弦を弾く
444 手うつしの闇をいたゞく寒念仏(かんねぶつ)
445 くぼみの家へ蚊遣り草売れ
446 是迄と思ひ極めて総仕舞
447 都鳥けふはきのふの銭を売り
448 先でわかるゝ判取の声
449 返す時機嫌の悪い御鬮本(みくじぼん)
450 うき事のためにちび〳〵呑習ひ
451 又振袖へ戻る孝行
452 一つでも義理の届いた蛍狩
453 六郷ぎりで別る相傘
454 中間の名のある甲斐もなし(ちゅうげん)
455 病ひ程療治尽して捨小舟
456 鳥甲見て帰る弟子入
457 恋が叶ふと分散に逢
458 音頭が付て軽い言訳
459 我からに招く気に成る蔵開キ
460 かつらへも賀茂へも遣らぬ仏の日
461 むかしも今も同じ本膳
462 小野照崎をさしの弔ひ
463 落着顔の堀で三味線
464 約束倒れさらされて居る
465 燈籠の売れた夢みる小道具屋
466 五月雨や仕舞の日には横へ降り
467 松風の和らかに来るひとへ物
468 墨染のちからづくには写し物
469 猫の二階へ上る晴天
470 此世も闇の鵜を連て出る
471 棒を馳走に遣ふ神取
472 宇津の山捨たいやうな鑓に逢
473 遠く日のさす横笛の肘
474 六角堂を乳母がしこなし
475 つまめば淋し金襴のうら
476 惚たとは短い事の言にくき
477 ひよこの付て這入る灌佛
478 烏の歩行く瀬多の元日
479 閏五月のいたづらに降る
480 火の入た酒出盛てほとゝぎす
481 西日の宿の目を細く呼
482 鶯に突放されてほとゝぎす
483 中気に成て亭がつぶれる
484 泊客最う隣から人の口
485 涼しくも男を立る三つがなわ
486 大屋に成りて負る六月
487 蝶々の種を蒔せる貝わり菜
488 窓明た大工を誉る丸はだか
489 雪を喰ふ女の顔へ日のうつり
490 硯の膝を廻るおし鳥
491 取揚婆々の供も飛び〳〵
492 雪ころばしの盛かへが出る
493 役者の草鞋葉の落る頃
494 たけの揃はぬ加多の洗濯
495 きんか天窓を撫る若君
496 紙燭して遣る恩のはじまり
497 咡ばうしろの見たい駕の内(ささやけば)
498 木枕を都から来て匂はせる
499 半年の埃を見て居る硯箱
500 捨子の棒のつくかひもなし
501 子にゆるひ頭巾かぶせて網代守
502 歯の若さ茶漬の中に石の音
503 朝日を供のふさぐ干物
504 娵入となしに抱取て行
505 消炭を人と思はぬ八王子
506 あはう拂の摂待へ来る
507 取持顔でさかもりのめど
508 蔵造夏の噺の怖しき
509 二心内の淋しきゑびす講
510 雀眼も欲にありく棚経(とりめ)
511 一網づゝに亭へ挨拶 (ちん)
512 脱で女に戻る水干
513 松の風少しかたまる置巨燵
514 放馬抱た男に智恵はなし
515 死たいと言ふた師走の恥しき
516 先の家内をあてる進物
517 不機嫌な日は音のない台所
518 青田に成つて乳の見える人
519 何所へ行とも言はぬ雨性
520 淀屋がたいこ長崎で死
521 鳴戸を越て紅絵さめ行
522 下々に見らるゝ顔も初幟
523 荘子の夢の山吹へ来る
524 嘘をつく顔へ時雨の降かゝり
525 飛ぶ傘はくらい買もの
526 内に寐て独をかしき夜着ふとん
527 死際は人形に似てきりぎりす
528 浪人だけはすたる言伝
529 願叶て怖しい町
530 細工が成つてはやい還俗
531 袴着させて乳母の大口
532 傘に寐鳥のさはぐ切通し
533 勘当は蛙に水のかけ納め
534 腹のたつ時見るための海
535 蛍から連に成たる恋の闇
536 女にも心々の誉どころ
537 淋しい宮に穴一の音
538 嵐の川に朝顔が咲く
主壽昌之部
539 派の利く手代面白くなし
540 撞が見えるで伽な入相
541 百性は嵐にうその道が付き
542 死だ家老にしからるゝゆめ
543 目につく乳母へ舞て来る獅子
544 辛崎は商賣じみた雨が降
545 文珠の智恵も三人の分
546 衣で礼に歩行く蜜夫(まおとこ)
547 親指に折らるゝ人は手がら也
548 死だ手際を誉る棒突
549 念者と人の知るを待かね
550 二百十日の屋根に浪人
551 そろ〳〵見える後家のからくり
552 折山損をするも養生
553 大つゞみとは公家の荒事
554 我が田を取られた川で渡し守
555 賤しく老てあつい湯に入
556 夫の惚れた顔を見に行く
557 師匠への旅の土産は物覚
558 鳥辺山最う嘘のない人に成
559 牛王の灰と聞て欠落
560 女房の鏡見た迄で済
561 口が辷つて二度起請書く
562 氷室を開く鍬の手廻
563 松戸の顔は雲やりの先
564 国替の顔が降也かゞみ山
565 物云へば柄杓を遣ふ水鏡
566 追分へ来て下戸を育る
567 遣り手の噺立波がひく
568 赤子の声ののらぬ吉原
569 楽屋みたがる翠簾の正客(みす)
570 越後屋の灯を供がかぞへる
571 あまつて足らぬ女房の知恵
572 化物屋敷誉る虫うり
573 いざよいは少しおどりて小紫
574 要ばかりを下戸の言伝
575 丹誠に桃を咲せて追出され
576 美しい娘の供の反り返り
577 枝からこぼす琴の似せ物
578 負公事の方へ娘は行たがり
579 立並ぶ木々とは言ず松の風
580 うこんがさめて井出の夏川
581 振袖に薬の湯気を曵て行
582 寒い噂に赤く成る笠
583 今度の硯文にふさはず
584 女房の望岸を漕せる
585 遊行の供の口が利き過ぎ
586 喰切て驚かれぬるとうがらし
587 春のあさぢの飯粒を踏
588 後家は嫌いと後家が言せる
589 廿五の暁またぬ五間口
590 馬の姿も出ると戻ると
591 抹香とても爪はづれ物
592 盗でくれた人を正客
593 餞別貰ふ初の勘当
594 妾がとつて廻す祝い日
595 当座のがれの顔へ風呂敷
596 あくらの側に上下の恥
597 老のむかしを咄す台所
598 婆々はわすれて仕舞ふ我顔
599 従弟か連れて帰る桶伏
600 紀の関守の猿にさすまた
601 初會に先の見える七夕
602 いかだ便りに帰る小舅
603 鶴は龜より人をさわがし
604 鰯がとれて闇の人声
605 急ぐ小早の反かへるこゑ
606 隣をば人と思はず年忘れ
607 追分へ出て薬まで分け
608 奢尽して鶴龜を飼ふ (おごり)
609 気違の一日置に通りけり
610 浪人の編笠計むかし物(ばかり)
611 心に無理の残る道心
612 よい男来る分散の礼
613 恥かしい所を湯舟の摺はらひ
614 暮にちらりと後家の積物
615 五月五日も毒の玉川
616 我分別のやうに薬湯
617 踊る時には袖が魂
618 雪の寒を止んで覚える
619 新らし過て凄い売家
620 橙一つなはしろへうく
621 稲葉の雲の中を鑓持
622 降初し日は遠い事五月雨
623 町内の月額青き死光り
624 箸の先から見える光陰
625 まだ主の紋を着て居る草の庵
626 曾我の泪を目黒でも泣く
627 めでたい役は鶴の預リ
628 氷のうへに外科の挑灯
629 死ぬと忽ち人の金蔵
630 肘枕我身代ははなれもの
631 おこりの落ぬうちは丸腰
632 三つ櫛のみつれば欠る十二月
633 菊畑他人の蔵の雨雫
634 寒声も何ぞに腹の立た時
635 凱陣済んで後家の捨売
636 息で重りを付る羽子のこ
637 ゆめの世ながら人は寐道具
638 顔を見て居る琵琶の始り
639 敷金の礼も言たき新まくら
640 玉手箱仕廻ふ時には皺だらけ
641 九年の陣へ見廻ふ女房
642 暦で尻を扣く仲人
643 水干をのれんに掛る八重葎
644 結納の済んだ迄の我せこ
645 寐てか覚てか民の前帯
646 枇杷柊花の寒を言ひ合
647 不足を隠す娵の白粉
648 立身をしてかるい履物
649 夜着や枕は恋の下草
650 歌ぬす人は大がらな人
651 あたつて銭の戻る三絃
652 伊達過て小町はもたぬ緋縮緬
653 神楽のうらへ廻るさむらひ
654 葬礼の翌へ延して欲がしれ(あす)
655 星二つ三つ雨もりの伊達
656 傾城の遠い思案も遠からず
657 うそ兀て後ろ合に夜か明け(はげて、あわせ)
658 和尚の肝を咄す末の子
659 かぐらをのこの細い衿元
660 千鳥は立て残る赤椀
661 埃リをはたく儒者の大声
662 聟へ盃戻る横雲
663 むかふ近江へ見せる稲妻
664 道具屋に逢ふ若竹の道
665 箪笥の多い鍛冶の六月
666 明荷の馬へまわる金剛
667 生延て子に呵らるゝつまみ喰
668 百日紅も通ひ路の数
669 傾城に笑れに行く主おもひ
670 高尾が舌もまわる大年
671 西の河原を親の足早
672 頂戴したる若殿のうそ
673 毒は廻りの早い借金
674 地震の跡の箸も一本
675 五人組から娵を見始め
676 白禿計残る飯台 (しらくも、ばかり)
677 我ほどの茂みの下に八から鉦 (やからがね)
678 かな聾に蛇骨掘まけ (つんぼう)
679 反から先へ習ふ鐘撞
680 ぬすみおほせて初のきのえね
681 御仕着の下駄を親父に盗れる
682 鼻を大事にせいと遺言
683 馬も立派に歩行く朔日
684 二心ないと思へば足の跡
685 十月の空を見て居る物貰
686 影法師にも蔵はよいもの
687 鮓桶のきのふにけふは投出され
688 付ざしも七合入はちから業
689 松明の手元でもえる山かづら
690 あたりの飯のすゑるとぶらひ
691 江戸の余波の山帰来呑む
692 青山からも近いよしはら
693 をとこの中にすたるうたゝ寐
694 赤子の鼻を誉る座のしほ
695 物にかゝりの突出しを買
696 たいこの顔の残る墨染
697 時あかり女心をよろこばせ
698 瘧あげくの損をした顔 (おこり)
699 垣間見に美し同士の湯がこぼれ
700 妻の出立に余所目して居る
701 兵庫の命室へ着く船
702 稲妻にその気の付ぬ門田守
703 焦るゝと云ふ人の夕ぐれ
704 看板を見ても入歯の哀也
705 仮名で書せる鴛の売上げ
706 橘町に夜昼の顔
707 国家老日は赤々と太夫買
708 惣身を耳とおもふ当言
709 刈人の丈も五尺のあやめ草
710 湯屋の二階は侍の物
711 鯲を提て田の中を行 (どじょう)
712 蠅をうつして代る関守
713 冬の牡丹の魂で咲く
714 きのふけふ起請の指の冷えて居る
715 無い歯を鳴らす百日の行
716 あぶながらるゝ商人の衆
717 真向な顔の多い入舟
俳諧武玉川初篇 終
二篇
※推奨サイト:武玉川を歩むさん
2010年5月6日木曜日
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夫共に寺に参るや著莪の花 2五月晴起重機二本突き刺さり 3
旅立ちし吉里吉里人や夏兆す 4風薫る吉里吉里人の旅先に
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夫共に寺に参るや著莪の花 2五月晴起重機二本突き刺さり 3
旅立ちし吉里吉里人や夏兆す 4風薫る吉里吉里人の旅先に
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2010年5月5日水曜日
2010年5月3日月曜日
2010年5月1日土曜日
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