2010年5月13日木曜日

かるみとは何か

『座の文学 ー 連衆心と俳諧の成立』尾形仂、講談社学術文庫

メモ その2:かるみとは何か

○中村俊定
 一句の仕立て方の上でのかるみ、ものの見方の上でのかるみ。後者は猿蓑のさび・しをりからの脱却。

○潁原退蔵
 用語、句体、詩境にわたる平明卑近。ひさご・猿蓑の句境の打破。

○能勢朝次
 老いの訪れに伴う淡白さへの嗜好のもたらした老年の芸境。

○荻野清
 芸境の深化と手帳(作為)になずむ時弊(悪習)への憂慮から発せられた素朴性、真率性の強調。

○小西甚一
 風雅の誠にもとづく「俗」(いまだ拓かれざる表現領域)の開発の努力の中から老年の訪れとともに滲み出た「無碍(むげ:何ものにも妨げられないこと)」ともいうべき心の味わい。

著者の尾形仂や島津忠夫らは、猿蓑以前から芭蕉門の俳文・書簡などに"かるみ"やその逆の"おもくれ"の言葉が存在してきたことに注目し調査研究。その結果、尾形仂は、ひさご・猿蓑の新風"さび"の根底にはすでに"かるみ"への志向・胎胚が存在していたする。

そして結論として、芭蕉のかるみへの歩みは、三つの段階に分けることができるとする。

○尾形仂
 第一段階は、天和以来の模索の果てにかれの技法の確立を見る『おくのほそ道』期における"古び"への反省である。その時点ではまず、趣向・観相のまといついた表現の"おもくれ"への反省から、自然の感情の流露によるやすらかな表現が庶幾(こいねがう)される。

 第二段階は、"景気"を標榜する元禄俳壇の興隆の気運と対応しながら"新しみ"をめざした『猿蓑』期で、その時点では、"景気"をこしらえ巧む(理屈や作為で自然風物を詠むことか)風潮への反撥も加わって、無心のうちに内心のリズムがそのまま句形に定着するような、内外合一・無作為・無分別の工夫がこらされる。

 第三段階は、以後、最晩年にかけ、点取り俳諧の手帳の弊への反撥をてことして、日常性の中における詩の創造をめざした時期である。

感想:
 かるみ論だけで本を読んだ甲斐があった。俗語の俳諧で正風連歌のような風雅の誠を目指した芭蕉ならではの苦労だったのかもしれない。枯淡・閑寂・隠逸に惹かれ、わび・さび・しおり・ほそみなどの美的理念を打ち出しつつ、ともすれば古び重くれてしまいがちな句境をその都度、これはいかんと、軽く、新しくしていったのであろう。重くならなければ軽くする必要はない。其角は器用で師の新風についていったが最後のかるみでは見放した。また多くの弟子もついて行けず離反した。ついて行った弟子間でもかるみの解釈はまちまちであった。其角にしてみれば生来自分はずっとかるみだと言いたかったのかもしれない。

参考:
芭蕉の「軽み」の付け方
芭蕉の軽み(情報収集)  

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