2011年5月17日火曜日

人倫2句去り

■人倫2句去り
原田曲斎『貞享式海印録』は芭蕉が参加した連句と高弟の連句をすべて調査し、人倫と人倫の運びに別ある事を芭蕉門の通則として発見した。曲斎は、人倫(人事、人情)とは何か古来混乱してきたのは、体と用、姿と情を一緒くたにしてきたからだとする。それに対する一つの方策と見られる北枝の自他場論については根本的に無理があるとして退けている。

芭蕉門は人倫を<人倫>と<人倫の運び>に分け、人倫については二句去り、人倫の運びについては打越可としてきたと曲斎は主張する。人倫の運びで打越可とするのは、芭蕉門には前句の意を転ずる妙法(取り成し付け等のことか)があるからだとしている。

■人倫  父母、男女、親子、六親九族、僧名、俗名(人名): 二句去り 
■人倫の運び                      : 打越可
1、噂
1-1主 物を司る人の呼び名 
     官名、神主、坊主、名主、殿、奥様、隠居、庄屋、古人名等
1-2誰 広く他人をさす言葉 
     翁、若僧、尼人、客、友、仲間、連衆、旦那、先生、汝等
1-3身 自分をさす言葉   
     我、己、某、私、拙者、手前、自身、此方、影法師等
1-4独 人数をさす言葉   
     一人、二人、幾人、多勢、群集等
1-5媒 態・芸(仕事)   
     仏師、医師、酒好、関取、馬鹿者、大工、左官、六部、巡礼等
2、姿 体の部位名、病名   身、髪、乳、鼻
3、情 心の感情を表す言葉  つらし
4、用 行いを表す言葉    つくらせて、米を苅る、しぼりすて、なく等


●例1:冬の日                <人倫の分類>        
狂句こがらしの身は竹斎に似たる哉 芭蕉  姿(身) 人倫(竹斎)
 たそやとばしるかさの山茶花   野水  誰(たれ)  
有明の主水に酒屋つくらせて    荷兮  主(主水) 用(つくらせて)
 かしらの露をふるふあかむま   重五  
朝鮮の細りすゝきのにほひなき   杜国
 日のちり/\に野に米を苅    正平  用(米を苅る)

わがいほは鷺にやどかすあたりにて 野水  身(わが)
 髮はやすまをしのぶ身のほど   芭蕉  姿(髪)用(しのぶ)姿(身)
いつはりのつらしと乳をしぼりすて 重五  情(つらし)姿(乳)用(しぼりすて)
 きえぬそとばにすご/\となく  荷兮  用(なく)
影法のあかつきさむく火を燒て   芭蕉  身(影法) 用(焼て)
 あるじはひんにたえし虚家    杜国  主(あるじ)
田中なるこまんが柳落るころ    荷兮  人倫(こまん)
 霧にふね引人はちんばか     野水  用(引)誰(人)姿(ちんば)
たそかれを横にながむる月ほそし  杜国  用(ながむる)  
 となりさかしき町に下り居る   重五  用(下り居る)
二の尼に近衛の花のさかりきく   野水  誰(尼) 用(きく)
 蝶はむぐらにとばかり鼻かむ   芭蕉  姿(鼻) 用(かむ) 

●例2:今年竹
ちりめん山椒の歌仙『今年竹』を試みにこの観点から分析しましたがノープロブレムでした。人倫二句去りは普通にやっていれば気にする必要はあまりなさそうです(^^) 

                           <人倫の分類>
発句  今年竹面妖な皮ぬぎにけり      百 夏  
脇     煮しめたっぷり早苗餐用意  みかん 夏  用(用意する)
第三  この村を何とかしよと集まりて   青波    用(集まりて)
四     元芸人の先生さ呼ぶ      春蘭    媒(芸人)誰(先生)
五   とどのつまり変哲もなき月の客   鉄線 秋月 誰(客)
六     流れ流れて落鮎となり     草栞 秋

一   柿むいて入り日はなやか新所帯   木槿 秋恋 媒(新所帯)    
二     氏神様の前はばからず      亮 恋  用 はばからず
三   寺もたぬ僧の教化は愛語にて     蘭    主(僧)
四     ツーリングして津々浦々へ    百    用 ツーリングして
五   潮騒に誘はるるまま午睡かな     栞 夏  用 午睡
六     あなたと聴いたあのフォービート 鉄 恋  誰(あなた)用(聴いた)
七   手をひかれアイスダンスの輪の中に  み 冬  用 ひかれ
八     マッチ消ゆれば木枯らしの月   槿 冬月
九   紙巻きを葉巻のやうに摘まむガイ   蘭    誰(ガイ)用(摘まむ)
十     石津謙一ジーンズ似合う     百    人倫(石津謙一)
十一  花に雨今日はフランスパン焼いて   亮    用(焼いて)
十二    入学試験の準備OK       波 春  用(準備 )
ナオ
一   始発列車ムーミン谷に春惜しむ    鉄 春  用(惜しむ)
二     アケボノスギの梢遙かに     栞 春
三   ピンボケの写真いまだ棄てきれず   亮    用(棄てる)
四     瓦礫に埋もれた故郷の家     み     
五   やらしいわあどっちにしよう今年の蚊 槿 夏  情(やらしいわ、しよう)
六     草清水までまとわり付いて    百 夏  
七   思い出を断ち切りたいと旅にでる   波    情(断ち切りたい)用(でる)
八     離婚届けはテーブルの上     亮
九   ATM暗証は「サラダ記念日」だ   鉄
十     僕もしらない日本語のゆくえ   槿    身(僕)情(しらない)
      画廊出づれば黄昏る街      槿    用(出づれば)

2008年05月20日 10:31 No.65

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