2011年6月12日日曜日

『醒睡笑』連歌に関係する話


『醒睡笑』安楽庵策伝著  鈴木棠三訳、東洋文庫

1 宗祇と宗長

    めともいうなりもともいうなり 宗祇
   引連れて野飼の牛の帰るさに   宗長

    めともいうなりもともいうなり 宗祇
   よむいろは教ゆるゆびの下を見よ 宗祇

    ヒント:ゆめみしえひもせす

2 連歌月並会
  宗匠が朝ぼらけを褒めた。 それで初心者が夕ぼらけ、
  昼ぼらけを乱発。

   我はしてひとのぼらけや嫌うらん  初心者

3 宗長は近江の進藤という武士の養子になったが生まれは
  駿河島田の鍛治の子

   ひん抜きは進藤ごには似たれどもよくよく見れば島田鍛治なり

4 堂守 新しく造り立てたる地蔵堂哉 ー 字余り(かな)
  宗祇  物までもあきらめにけり  ー 字足らず

5 月次の連歌の会

   かま鶯は山の途中に飛びおりて

   本歌  うつり行く雲に嵐の声すなり散るか/まさきのかつらぎの山

6 連歌の会で執筆が舟が近いと注意

      舟でなし中くりあけた木にのりて

7 謎かけ
      ちゃんきのもんき なに? ある人
      富士の雪         宗祇

8 宗長ある家に下帯を忘れる

   思いきやおとすたづなの浜風に浪より高き名の立たんとは 宗長
 
9   子をはごくむは親のあわれみ  ある人
   狭莚のぬれたる方に身を寄せて   雄長老

10 貧乏な坊主が半分の餅を児ちごに与えた。

    十五夜の片われ月はいまだ見ぬ   児
        雲にかくれてこればかりなり  師の坊主

11 尾張の笠寺

    さるち児と見るより早く木にのぼる 宗長
      犬のようなる法師きたれば   ち児

12 連歌月次の会
    弟子が句を詠んで師の宗長の方に向かって、聞こえまい
    らせたか(よい句)かときいた。宗長は聞こえた聞こえた
    そこからここまでは聞こえたと返事。

13 村の庄屋が堤の祈祷連歌興行
    宗養に点を付けてもらったら99句にぺけマーク。発句に
    はマークがなかった、良い句だからかと聞いたら、切れ
    字がない、本当はぺけだが、堤は切れない方がいいとの
    返事。

14 連歌に身をやつした人、夜住まいの軒下に小便の音。
    夜分に居所へ来たって水辺を下すは人倫か生類か。植物
    をもって打擲せよ。

15 連歌師に奉公していた人が町人に住替え。友達が早起きし
   ないでもいいし宵から寝られ気楽だろうと言ったら、今の
   主人もぼんやり空を眺める癖があり、連歌師になるつもり
   じゃないか案じられるよ、と。

16 連歌会初心者、ふるえながらやっている。あんちょこを暦
   の裏に書いてやったら、暦の方を読み、かのとのひつじ、
   かまぬるによし、とやらかした。

17 宗長が紫野にいた頃延暦寺の坊から発句を所望された。

    猿の尻木枯知らぬ紅葉かな

   ちごも同席と知って、猿の面と変更した。

18 宗長の連歌の席に初心らしい座頭、一句申しましょうかと
   いうので、宗長は、連歌がすぎてからにせられよと言った。

19 三井寺を宗祇と宗長が見物。

    宗長   掃除もたらぬ三井の古寺
    宗祇  坂くだりくしゃぼうぼうと生え茂り

20 周桂は入江殿尼寺に馴染みあり。朝帰りを宗牧が見つけ、

    かつぎ出る青苔色の頭巾こそ入江のあまのしわざなるらめ

2011年6月6日月曜日

百番連歌合(三十三)




97     此浦よりやあかし成らん
     灯のとをきひかりの明て後       侍
     月出て嶋がくれなき浪の上       周
     くらき夜の舟にしるしの火をみせて   心

98     夢もあだなる手枕の露
     うき人のきかねば風も身にしみて    侍
     月かげの入野の旅ねあくる夜に     周
     うたゝねをいさめがほなるさ夜時雨   心


(跋文)

此前句にて救済周阿句を
合(あわせ)侍りて二條太閤御墨
など申給へる頗金玉也 一見感
情に堪かねて瓦礫を付侍り
且はかたはらいたき事に侍れども
田舎の冷然の心をやしなひ又
聊(いささか)の稽古にもと思ひ侍るば
かりなり 殊(ことに)両賢既(すでに)前句の心
詞の髄脳をば毎句とり尽し
給侍れば一塵も残べきにあら
ず候 上古風躰までに大様大
どかにしてありがたくこそ見え
侍給 しかあれど時代遥かに過去
侍れば此頃古人の風雅のまゝ
にてあそび侍らばいまの世の耳
には事ふりたる成べし 唐の

文も世々に替るとなれば時代
うつりかはり侍る 風躰の用捨
簡要たるべく候哉 此前句しな(品)ゝく
えん(艶)にをくれことごとく心つた
なく難句どもに候哉

 応仁貳年六月廿五日
   桑門釋 心敬


参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(三十二)


94     ほそきも道の末は有けり
     里ちかき山のこなたの雪消て      侍
     さと見ゆる麓の雪のうす煙       周
     里つゞくかた山かげの一ばし      心

95     聞しにかはる松風の声
     川浪はしほひのうらにながれきて    侍
     よひは雨あかつきは又雪ふりて     周
     山里にこよひの雪やつもるらん     心

96     たつ杣山のしげきめぐみに         
     さき草に花もかげをやならふらん    侍
     朽木まで君がみかけやたのむらん    周
     木をきざむ世には心もすなをにて    心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(三十一)


91     思ひなぐさむ末のはかなさ
     我老をしばし忘るゝあらましに     侍
     山ざくら嵐の隙にしばしみて      周 
     一花を身のうつほ木に猶まちて     心

92     夢より後に夜こそ明ぬれ
     鳥もなき鐘も聲して又もねず      周
     きのふぞと思ふ別もむかしにて     侍
     送り捨帰る野もせに鐘なりて      心

93     さびしくなるね山かけの庵
     わが捨し世にはたれ又のこるらん    周
     そむく身のかくてあらんと思きや    侍
     うたて身に捨し心やよはるらん     心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(三十)


88     かげうつるこそかゞみなりけれ     
     花の咲木ずえしらるゝ月出て      侍
     山鳥のをのへに出る月みえて      周
     まことには神やかたちもなかるらん   心

89     かりにおもふやいのちなるらむ
     うづら鳴野原の草に露をみて      侍
     夏草の露よりよはき身をもちて     周
     捨る身はとらふす山もうとからで    心

90     はかなくみゆるうらの釣舟
     後の世にしづみはつべき身をしらで   侍
     海士人は後の世ありとよもしらじ    周
     風浪の此世にしばし身をかけて     心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(二十九)


85     一木にのこる松風のこゑ
     こほる夜は志賀の浦浪長閑にて     周
     遠き野の末みゆるまで草枯て      侍
     きりつくす杣山道は野原にて      心

86     我住山ぞしる人もなき
     雲かゝる峯の庵はかつ絶て       周
     朝夕は雲のかゝれる峯たかし      侍
     かゝる身を見るも岩木は物いはで    心

87     よする浪まにひろふ貝あり
     みつ汐に磯山桜ちりかけて       周
     みがゝずば玉も光はよもあらじ     侍
     袖ひぢてしほせにおるゝ海士小舟    心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(二十八)


82     馴て聞つるすまのうら浪
     海士人のしほ波衣ひるまなし      周
     鳴千鳥我物思ふ友なれや        侍
     かたるにや人も袂をぬらすらん     心

83     雲のかゝるはおきつしら浪
     遠嶋や舟のとまりと暮ぬらん      周
     ながめやる千里の外に雪降て      侍
     野を遠み尾花が末や時雨らん      心

84     しほひの河や流(れ)出らん   
     あま人の水汲舟をさしよせて      周
     曙はところどころに山みえて      侍
     朝ぼらけ霞に雪の江は晴て       心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(二十七)


79     なみだわするゝすみぞめの袖
     人ごとの別のあるになぐさびて     侍
     柴の戸はうき世の外の月をみて     周
     うらみある人をも世をも捨はてゝ    心

80     ちかく見えたる杉のむら立
     雪に吹関の嵐に夜は明て        侍
     霧はるゝ山田の原に月出て       周
     あさまだき山本あをき雨晴て      心

81     ほどにしたがふ世々のおもひ出
     あはれみの数にもらさぬ仏たち     侍
     春は花秋は月とて見しばかり      周
     かしこしなさだむる百の司めし     心 

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(二十六)


76     わがねざめなるすまのうら波
     月の夜に関吹こゆる風聞て       周
     夜舟こぐあかしのいその遠からで    侍
     むねをやくもしほの枕明やらで     心

77     をくれ先だちうきは別路
     世中にのこる我身もたのまれず     周
     そふ人に同じ命のきはもがな      侍
     後の世のせめてつれぬる旅ならで    心

78     馴ても山のおくぞさびしき
     柴の戸をたゝく夕の松の風       周
     すつる身になりて住ばや柴の庵     侍
     松風に心ゆるせば袖ぬれて       心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(二十五)


73     朽てあやうきそばのかけはし      (岨)
     この山はえにかきてだにみる物を    侍
     杣人のかよふ山路にこけふみて     周
     旅人も駒引かへすみ山路に       心

74     生れあひてもともに老ぬる
     鴬の此頃なくに花落て         侍
     鳥の子の尾羽とゝのへば巣を出て    周 (おば)
     とりの子もすだつばかりの春の草    心

75     松一村や野中なるらん
     夢さむる嵐の吹に草かれて       侍
     冬がれの荻の上にも風聞て       周
     薄ちるむかしの跡の秋の風       心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(二十四)


70     水を尋て里に来にけり
     此うらに始てと奥津舟         周
     鳥のすむ山をうづみてふる雪に     侍
     山川の末よりうつる夜はの月      心

71     昨日ややがてむかしなるらん
     老ぬればことのほかなる物わすれ    周
     忘れてはうき世の外に成にけり     侍
     一夜とも思はぬ雨のあけやらで     心

72     むかしの友のなにととふらん
     捨しよりあらぬ我身と思ふ世に     周
     思ふべき我身をだにも捨ぬるに     侍
     名をかへて憂身をかくす山里に     心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(二十三)


67     今夜あらしの何と吹らむ        (こよひ)
     近くなり遠く聞ゆる鐘の声       侍
     月みるに又ふりかはる村時雨      周
     くれぬとて帰(り)し花の山里に     心

68     かゝらんとてぞ身はのがれたる
     はごくみしその独子を留置て      侍 (育みし) 
     あかむすぶ雫の苔の袖ぬれて      周 (閼伽:仏に手向ける水)
     みだれたる世にものどけき墨の袖    心

69     をしえとなるは十声一こゑ
     あまたみる鳥は親子の囀りて      侍
     法の師を起ふしおがむ旅ごとに     周
     末の世の御法はしたのうえにして    心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(二十二)


64     道もかはりて旅にゆくなり
     山は雪野は霜さむき暮ごとに      周
     関守も舟をばとめず須磨の浦      侍
     かずかずにこの舟つきを立わかれ    心

65     道絶てこそ山もふかけれ
     いつの間に雪の梢に成ぬらん      周
     此まゝにうき世隔よ峯の雲       侍
     この世より身はうづもるゝ苔の戸に   心

66     又帰るつき世ともおもはず
     法の師のことはりをとく寺にきて    周
     たが跡の苔のしたには残るらん     侍
     いま一目おさめぬ先に見まくほし    心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(二十一)


61     旅のあはれをかたりてぞ行
     うら松の風と浪とのこゑごゑに     侍
     故郷の秋もわすれぬくれごとに     周
     此世にてあふはわかれぬ道もなし    心

62     深山の道をひとりこそゆけ
     くもる日は我かげだにも身にそはで   侍
     花もなきその梢だに夕にて       周
     見しはなき蓬が杣の露分て       心

63     都の遠き程ぞしらるゝ
     山かくす雲をば跡にかへりみて     侍
     秋風をあづまの関にけふ聞て      周
     露にこそぬれし袂を雪にみて      心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(二十)


58     都わかれていつかきへらん
     此人はひなの長路の旅やつれ      周
     あけにけり月にしぐるゝ峯の雲     侍
     月日をも忘るゝほどの山里に      心

59     旅のたむけにはらひよくせよ
     吹風もあらしその山聲とをく      周
     道しらぬ関を始てこえん日に      侍
     帰べき門出をいはふ此あした      心

60     こえぬる山やはてと成らん
     野を過て此里にふる夕時雨       周
     夕かげのなきむさし野を末にみて    侍
     人のわざすぐれば出る峯の寺      心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(十九)


55     思ひもよらぬたより成けり
     舟いだす時しも友に行あひて      侍
     とを里の梅がゝをくる風吹て      周
     かけ水にみ山の月のつたひきて     心

56     旅にてきけば秋風ぞ吹
     わが見るや故郷人の袖の月       周
     衣をもわがためにとてよもうたじ    侍
     春の夜も宿から月は身にしみて     心

57     みなとも浦も船はゆくなる
     松に吹き浪に聲ある風聞て       侍
     あま人のむらむらにすむ里有て     周
     をくれしと旅人さはぐ夜は明て     心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(十八)


52     故郷なりし人も忘ず
     我なくてひとりや花を惜らん      周
     暮ごとにいづくの宿の霞らん      侍
     ながむらんとおもふ月を形見にて    心

53     山よりいづる道ぞ見えたる
     初雪に跡を思はぬ木こりにて      周
     のがれなば世に帰らじと思しに     侍
     ひと筋の水は雪にも顕て        心

54     われはこえつる嶺の白雪
     ゆくゆくも心はとまる花を見て     周
     つれてこし人は山よりとゞまりて    侍
     をくれぬる旅の初雁いつかこん     心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(十七)


49     朝夕待は旅の音信           (おとづれ)
     山川をいくかの道にへだつらん     侍
     遠くゆく人も月日や隔らん       周
     子をおもふはゝその一木朽やらで    心 (ははそ:柞)

50     つなぐと見えて舟ぞとゞまる
     我はたびすまの関守こゝろせよ     侍
     旅人の馬よりわたす川のせに      周
     しほせにはゆるくばかりの浪もなし   心

51     これを過ても猶旅の宿
     いづくにて都の事を忘れまし      侍
     故郷にいつの夕かかへらまし      周
     たがかたに又世をさらば生(れ)まし   心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(十六)


46     人待我も涙おちけり
     桐の葉に秋の風吹門古て        周
     文もなき使ばかりのをとづれて     侍
     雁が鳴夕の萩の露をみて        心

47     ちぎらずばよも待はならはじ
     有明の月をみる夜のかさなりて     周
     秋の風そなたのかぜはいかが吹     侍
     人ぞうきふけ行(く)かねはとがもなし  心

48     けふは旅にぞをそく出ぬる
     花のある宿なりけりと朝みて      周
     雲まよふ雨の名残の朝日かげ      侍
     足いたむ駒かふ宿に休らひて      心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(十五)


43     身にはしらるゝ人のおもかげ
     別にしその日はいまも遠からで     侍
     夢にゆく我はそなたによもみえじ    周
     たらちねに心のにぬを恨にて      心

44     しられずぬるゝ夜の衣手
     故郷に馴にし友を夢にみて       侍
     夢にただこなた斗の別にて       周 (ばかり)
     過けるかまどろむ閨の初時雨      心

45     涙のしらぬ夕ぐれもなし
     待そめし心こそ猶悔しけれ       侍
     月まつと人には見えていふ物を     周
     忍ぶるをもらす心よたれならん     心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(十四)


40     心ゆるさぬわがなみだかな
     名にたゝばうかるべき身の思にて    周
     しらせねばそなたにとがはなき物を   侍
     忍ぶるは身のしるだにもかなしきに   心

41     此夕ぐれも人ぞまたるゝ
     独きく荻の上風身にしみて       周
     わかれうきけさの涙のそのまゝに    侍
     偽にうたて命のこりもせで       心

42     わかれし人の遠き面かげ
     故郷は花をまちてやとはれまし     周
     夕煙空なる雲に立そひて        侍
     角田川舟まつ暮に袖ぬれて       心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

2011年6月5日日曜日

百番連歌合(十三)


37     杉の木間の雪ぞみえける
     二もとの花はいづれかのこるらん   侍
     月のもる関のし水はこほりにて    周
     明そむるよ川の遠の比良の山     心 (をち)

38     うき夕をばしらで過めや
     荻にふけ涙のよそに秋の風      侍
     契しを忘ねばこそこぬをとへ     周
     さてもわがをはりよねむるごとくなれ 心

39     思ふ心ぞ空にうかるゝ
     故郷の山の名残を雲にみて      侍
     雲を吹み山おろしに花をみて     周
     からす鳴霜夜の月に独ねて      心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(十二)


34     月さむしとや千どり鳴らむ
     霜の夜もこほらぬ浪の声々に    侍
     舟にねて夢のおどろくさ夜中に   周
     雪こほる袖の河原をかへる夜に   心

35     雪にわけ入をのゝかよひぢ
     炭がまの煙を山の中にみて     周
     冬ぎくの枯し頃より里ふりて    侍
     鹿のねも色なる月に夜は深て    心

36     やすく過るは時雨なりけり
     月を見てふりぬと思ふ身の盛    周
     我の身と世にふる事をなげく身に  侍
     雲はまづ瀬戸こす舟に先立て    心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(十一)


31     木のはのふかばくもらざりけり
     秋さむき嵐に松はあらはれて    侍
     山風の月に過つる一時雨      周
     月を吹あらしもしろき山里に    心

32     つらゝとけてぞ月もながるゝ
     舟つなぐねりそのつなやくだくらん 侍
     浦に行舟かすかにやかすむらん   周
     山水の更て聲そふ春のよるに    心

33     ふらぬかたあるけさの初雪
     はま川の氷のきはゝ塩干にて    侍
     山風の末は里にもふく物を     周
     すみかまのあたりは冬の山ならで  心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(十)


28     うちもねられず夜こそ長けれ
     有明の月に砧の声きえて      周
     暁のかねの名残をしたひしに    侍
     身は老ぬはかなや何を思ふらん   心

29     わが涙にぞ月をそむくる
     灯や雨にも消ずのこるらん     周
     うき人に秋の心をならひきて    侍
     手枕のきぬ引かけて忍ぶ夜に    心

30     露の寒きは霜にかはりて
     野にもある草や山にも枯ぬらん   周
     庵ふりぬ此後たれか結ばまし    侍
     秋の花さぞな冬野をいたむらん   心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(九)


25     秋風さむき夜こそながけれ
     月みれば憂独ねをいかゞせん    侍
     山を見よ廿日の月も出ぬらん    周
     思侘行ば雁鳴月落て        心

26     ねざめせよとて秋風ぞふく
     袖ぬらす露や時雨を急らむ     侍
     有明のふけていづるをしらぬ夜に  周
     はだ寒き夕暮かこつ老が身に    心

27     涙になるも月をこそ見れ
     秋更て露だにみえずさ夜時雨    侍
     故郷の荻吹風にさ夜更て      周
     秋きては思ひ捨べき暮もなし    心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

2011年6月3日金曜日

百番連歌合(八)


22     うづら鳴野と庭ぞ成ぬる
     秋さむき里には人のふし侘て    周
     露にふす草の中なる道とへば    侍
     荒行ば尾花が本の里ならで     心 (あれゆけ)

23     心の月もはや深にけり
     独ねてこなたの秋を思しれ     周
     ゆくまゝにこなたは山のかげもなし 侍
     あかでたれ昔がたりを返すらん   心

24     ならひに過て夜こそ長けれ
     うき秋に此後いまはひとりねて   周 
     涙そふね覚の時雨心せよ      侍 
     旅ねにや老のなげきもおもるらん  心 (重る) 

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(七)


19     露やなみだのたぐひなるらん
     うきはたゞ荻吹風の夕にて     周
     身にしれば虫の鳴ねも哀にて    侍
     思草胸に色づき野に枯て      心

20     残りて秋をたれに契らん
     老が身の末までみつる袖の月    周
     これぞ此我いにしへのそでの露   侍
     我なくはかれねかたみの春の草   心

21     秋をしれとや鹿の鳴らん
     紅葉せぬその名の松のときは山   周
     まきのはの染ぬ色にも露置て    侍
     高砂や松吹風は色もなし      心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(六)


16     いづくにも吹秋風の音
     我うへによその砧を聞侘て     侍
     此里に遠山みゆる月いでゝ     周
     跡まくら草の原なる故郷に     心

17     いなばの風のをとぞしづまる
     嶺に生る松より雲の時雨きて    侍
     峯におふる松ともみえず雪降て   周
     ふる雨のあしの丸屋は戸をとぢて  心

18     たがすむ里も秋やうかるらん
     荻に吹風はひとりが暮ならで    侍
     あひにあふ月と風との夜寒にて   周
     草がくれのこす思ひの露もなし   心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

2011年6月2日木曜日

百番連歌合(五)


13     火かと見ゆるは蛍なりけり
     いさり舟とまる芦間のくらき夜に  周
     石をうつ浪や涼しく乱るらん    侍
     春ははやすぐろの薄茂るのに    心

14     松ある方に蝉や鳴らん
     山水のながるゝ音は雨ににて    侍
     雨風をもろごゑにきく山がくれ   周
     きなる葉は園の梢に先落て     心

15     山より出る風ぞ涼しき
     月影や氷て水をながすらん     侍
     夕立の過るをかべに月みえて    周
     雪とくる氷室の川の末みえて    心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

2011年6月1日水曜日

百番連歌合(四)


10     うき世しらるゝ春の一時
     さだめなき夢のわかれと花散て   周
     むかし思ふ夕やいとゞかすむらん  侍
     朝がほのあだ花ざくら露にみて   心

11     又あこがるゝ春の別路
     散花のいざとさそふに伴ひて    周
     有明のかすみて残る影をみて    侍
     秋とをく花のゝ宮の霞む日に    心

12     夏木だちとや青葉成らん
     みづがきの賀茂の社をまつる日に  侍
     春の後み山がくれのをそ桜     周
     秋ならぬ露にも花はうつろひて   心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(三)


7      月おぼろなるたびの明更      (あけぼの)
     故郷にわれ待花や咲ぬらん     周
     山遠き雪より鐘の響きて      侍
     舟とをく鐘かすむ江は花もなし   心 

8      いにしへよりもかすむ有明
     花は猶老のなごりや思ふらん    周
     老が身に夢のゝこるもすくなくて  侍
     花にさへそらめかなしく身は老て  心

9      花にさきだつ人もありけり
     跡とへば山の霞にはやなりて    周
     あとかすむ山は昨日のけぶりにて  侍
     桜さく遠山川に舟よびて      心

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵

百番連歌合(二)


4      春にあへるもわれぞふりぬる
     枯ながら猶雪残る庭の草      侍
     雪消る山には鳥のさへづりて    周
     冬がれのおどろのかみ(は)雪とけて 心 

5      このすみかにはたゞ春の草
     かぞふれば年々になる別路に    侍
     年々に見し花もなく里荒て     周
     都だに侘ぬる宿は花もなし     心

6      かゝる折しも月おぼろなり
     舟留る浦より川のさゆる夜に    侍
     大原や山の中なる清水にて     周
     袖さむみ暁起の春の水       心 (あかつきおき)

参考文献
(1)百番合連歌、救済・周阿・心敬 早稲田大学図書館所蔵