連句の発句は立句とも呼ばれる。芭蕉の立句は軽さと挨拶性があるとされる。連句に使われない独立したものを地発句と呼ぶ。地発句は後の俳句に近く重厚で主情的とされる。必ずしも両者の境は明確ではなく微妙と思われるが、連句の発句を詠む時は、座を意識しくれぐれも重く主情的な地発句(俳句)を詠まないようにせよと芭蕉は言っているのかも知れない。 参考:芭蕉の発句について 井本農一
芭蕉の立句 脇句
あら何ともなきのふは過てふぐと汁 寒さしざつて足の先まで 信章 延宝天和
此梅に牛も初音と鳴つべし ましてや蛙人間の作 信章
見わたせば詠れば見れば須磨の秋 桂の帆ばしら十分の月 四友
鷺の足雉子脛ながく継ぎ添て 這句以荘子可見矣 其角
旅寝よし宿は師走の夕月夜 庭さへせまくつもる薄雪 一井 貞享元年
花咲て七日鶴見る麓かな おぢて蛙のわたる細はし 清風 貞享三年
破風口に日かげやよわる夕すゞみ 煮茶蠅避煙 素堂
粟稗にまづしくもあらず草の庵 薮の中より見ゆる青柿 長虹 貞享五年
生きながらひとつに氷るなまこ哉 ほどけば匂ふ寒菊の菰 岱水
かくれ家や目だゝぬ花を軒の栗 稀にほたるのとまる露草 栗齋 元禄二年
あづみ山や吹浦かけて夕すゞみ 海松かる磯に畳む帆むしろ 不玉
ぬれて行く人もをかしき雨の萩 薄がくれにすゝきふく家 亨子
残暑しばし手毎に料理れ瓜茄子 みじかさまたで秋の日の影 一泉
いさ子どもはしりありかん玉霰 折敷に寒き椿水仙 良品
何の木の花ともしらず匂ひ哉 こゑに朝日を含むうぐひす 益光 元禄三年
皷子花の短夜ねぶる昼間哉 せめてすゞしき蔦の青壁 奇香
白髪ぬく枕のしたやきりぎりす 入日をすぐに西窓の月 之道
半日は神を友にや年わすれ 雪に土民の供物納る 示右
ひらひらと揚る扇や雲の峯 青葉ほちつく夕立の朝 安世 元禄四年
月見する坐に美しき顔もなし 庭の柿の葉蓑虫になれ 尚白
やすやすと出ていざよふ月の雲 舟をならべて置わたす露 成秀
その匂ひ桃よりも白し水仙花 土屋薬屋のならぶ薄雪 白雪
こんにやくにけふは売りかつわかなかな 吹揚らるゝはるの雪はな 嵐雪 元禄五年
うぐひすや餅に糞する掾の先 日は真すぐに昼のあたゝか 支考
芹焼やすそ輪の田井の初氷 拳るも寒し卵うむ鶏 濁子 元禄六年
秋ちかきこゝろのよるや四畳半 しどろにふける撫子の露 木節 元禄七年
松茸やしらぬ木の葉のへばりつき 秋の日和は霜でかたまる 文代
秋の夜をうち崩したる噺かな 月まつほどは蒲団身にまく 車庸
白菊の目に立てて見る塵もなし 紅葉に水を流す朝月 園女
この道や行人なしに秋の暮 岨の畠の木にかゝる蔦 泥足
鹽にしてもいざことづてん都鳥 只今のぼる波のあぢ鴨 春澄 延宝貞享
げにや月間口千金の通り町 爰に数ならぬ看板の露 二葉子
色付くや豆腐に落て薄紅葉 山をしぼりし榧の下露 杉風
わすれ草煎菜につまん年の暮 笊籬味噌こし岸伝ふ雪 千春
夏馬の遅行我を絵に見る心かな 麦手ぬるゝ瀧凋む瀧 麋塒
海暮れて鴨の声ほのかに白し 串に鯨をあぶる觴 桐葉
何とはなしに何やらゆかし菫草 編笠敷て蛙聞居る 叩端
磨直す鏡も清し雪の花 石しく庭のさむきあかつき 桐葉
おもひ立木曽や四月の桜狩 京の杖つく岨の夏麦 東藤
牡丹蕊深くはひ出る蝶の別哉 朝月凉し露の玉鉾 桐葉
古池や蛙飛びこむ水の音 蘆のわか葉にかゝる蜘の巣 其角 端物
花に遊ぶ虻なくらひそ友雀 猫和らかにゆるゝ緒柳 岩松
旅人と我名呼ばれむ初しぐれ 亦さゞん花を宿々にして 由之
星崎の闇を見よとや啼千鳥 船調ふる海士の埋火 安信
京まではまだ半空や雪の雲 千鳥しばらく此海の月 樸言
杜若我に発句のおもひあり 麦穂なみよるうるほひの末 知足
初秋や海も青田の一みどり のりゆく馬の口とむる月 重辰
麦はえてよき隠家やはたけむら 冬をさかりに椿咲くなり 越人
ためつけて雪見にまかる紙衣哉 凍ゐる土に拾はれぬ塵 昌碧
箱根こす人もあるらしけさの雪 舟に焚火を入る松の葉 聴雪
紙ぎぬのぬるとも折ん雨の花 澄てまづ汲水のなまぬる 乙孝 元禄元年
其かたち見ばや枯木の杖の長け 千鳥来て啼よし垣の池 夕菊
皆拝め二見の七五三を年の暮 篠竹はこぶ煤掃の風 岱水
かげろふの我肩に立かこみかな 水やはらかにはしり行おと 曽良
秣おふ人を枝折の夏野かな 青き覆盆子をこぼす椎の葉 翠桃
風流のはじめやおくの田植歌 覆盆子を折て我もうけ草 等躬
五月雨をあつめて涼し最上川 岸に蛍を繋ぐ船杭 一栄
ありがたや雪を薫らす風の音 住みけん人の結ぶ夏草 露丸 元禄二年
めづらしや山を出羽の初茄子 蝉に車の音添る井戸 重行
文月や六日も常の夜には似ず 露に乗せたる桐の一葉 左栗
すゞしさを我やどにしてねまる也 つねのかやりに草の葉を焚 清風
しほらしき名や小松吹萩薄 露を見知りて影うつす月 コセン
あなむざんやな胄の下のきりぎりす ちからも枯し霜の秋草 享子
早く咲け九日も近し宿の菊 心うきたつ宵月の露 左柳
黄鳥の笠落したる椿かな 古井の蛙草に入聲 乍木 元禄三年
種芋や花のさかりに売ありく こたつふさげば風かはる也 半残
木のもとに汁も膾もさくら哉 明日来る人はくやしがる春 風麦
牛部屋に蚊の聲よはし秋の風 下樋の上に葡萄重なる 路通 元禄四年
水仙やしろき障子のとも移り 炭の火ばかり冬の饗応 梅人
両の手に桃とさくらや草の餅 翁に馴し蝶鳥の児 嵐雪 元禄五年
初茸やまだ日数経ぬ秋の露 青きすゝきに濁る谷川 岱水
打よりて花入探れうめつばき 降りこむまゝのはつ雪の宿 彫棠
寒菊や粉糠のかゝる臼の傍 提て売行はした大根 野坡
からかさにおしわけ見たる柳かな わか草青む塀の築さし 濁子 元禄六年
篠の露はかまにかけし茂り哉 牡丹の花をおがむ広場 千川
重々と名月の夜や茶臼山 肌寒しとてかり着初る 立圃
十六夜はとりわけ闇のはじめ哉 鵜舟のあかをかゆるさび鮎 濁子
いさみ立鷹引居るあられ哉 ながれのなりに枯る水草 沾圃
柳小折片荷はすゞし初真瓜 間引捨たる道中の稗 洒堂 元禄七年
秋もはやはらつく雨に月の形 下葉色づく菊の結ひ添 其柳
升かふて分別替る月見かな 秋のあらしに魚荷連立 畦止
初秋や海も青田の一みどり のりゆく馬の口とむる月 重辰
麦はえてよき隠家やはたけむら 冬をさかりに椿咲くなり 越人
ためつけて雪見にまかる紙衣哉 凍ゐる土に拾はれぬ塵 昌碧
箱根こす人もあるらしけさの雪 舟に焚火を入る松の葉 聴雪
紙ぎぬのぬるとも折ん雨の花 澄てまづ汲水のなまぬる 乙孝 元禄元年
其かたち見ばや枯木の杖の長け 千鳥来て啼よし垣の池 夕菊
皆拝め二見の七五三を年の暮 篠竹はこぶ煤掃の風 岱水
かげろふの我肩に立かこみかな 水やはらかにはしり行おと 曽良
秣おふ人を枝折の夏野かな 青き覆盆子をこぼす椎の葉 翠桃
風流のはじめやおくの田植歌 覆盆子を折て我もうけ草 等躬
五月雨をあつめて涼し最上川 岸に蛍を繋ぐ船杭 一栄
ありがたや雪を薫らす風の音 住みけん人の結ぶ夏草 露丸 元禄二年
めづらしや山を出羽の初茄子 蝉に車の音添る井戸 重行
文月や六日も常の夜には似ず 露に乗せたる桐の一葉 左栗
すゞしさを我やどにしてねまる也 つねのかやりに草の葉を焚 清風
しほらしき名や小松吹萩薄 露を見知りて影うつす月 コセン
あなむざんやな胄の下のきりぎりす ちからも枯し霜の秋草 享子
早く咲け九日も近し宿の菊 心うきたつ宵月の露 左柳
黄鳥の笠落したる椿かな 古井の蛙草に入聲 乍木 元禄三年
種芋や花のさかりに売ありく こたつふさげば風かはる也 半残
木のもとに汁も膾もさくら哉 明日来る人はくやしがる春 風麦
牛部屋に蚊の聲よはし秋の風 下樋の上に葡萄重なる 路通 元禄四年
水仙やしろき障子のとも移り 炭の火ばかり冬の饗応 梅人
両の手に桃とさくらや草の餅 翁に馴し蝶鳥の児 嵐雪 元禄五年
初茸やまだ日数経ぬ秋の露 青きすゝきに濁る谷川 岱水
打よりて花入探れうめつばき 降りこむまゝのはつ雪の宿 彫棠
寒菊や粉糠のかゝる臼の傍 提て売行はした大根 野坡
からかさにおしわけ見たる柳かな わか草青む塀の築さし 濁子 元禄六年
篠の露はかまにかけし茂り哉 牡丹の花をおがむ広場 千川
重々と名月の夜や茶臼山 肌寒しとてかり着初る 立圃
十六夜はとりわけ闇のはじめ哉 鵜舟のあかをかゆるさび鮎 濁子
いさみ立鷹引居るあられ哉 ながれのなりに枯る水草 沾圃
柳小折片荷はすゞし初真瓜 間引捨たる道中の稗 洒堂 元禄七年
秋もはやはらつく雨に月の形 下葉色づく菊の結ひ添 其柳
升かふて分別替る月見かな 秋のあらしに魚荷連立 畦止
花にうき世我酒白く食黒し 眠ヲ尽ス陽炎の痩 一晶 虚栗 天和
狂句こがらしの身は竹斎に似たる哉 たそやとばしる笠の山茶花 野水 冬の日 貞享
木のもとに汁も膾も桜かな 西日のどかによき天気なり 珍碩 瓢 元禄三
梅若菜まりこの宿のとろゝ汁 笠あたらしき春の曙 乙州 猿蓑 元禄
青くても有るべきものを唐辛子 提ておもたき秋の新鍬 洒堂 深川
口切に境の庭ぞなつかしき 笋見たき薮のはつ霜 支梁
むめがかにのつと日の出る山路かな 処どころに雉子の啼たつ 野坡 炭俵 元禄七
振売の雁あはれ也ゑびす講 降てはやすみ時雨する軒 野坡