2008年7月7日月曜日
みだれ髮(抄)
みだれ髮
鳳晶子
やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君
たまくらに鬢のひとすぢきれし音を小琴と聞きし春の夜の夢
牧場いでて南にはしる水ながしさても緑の野にふさふ君
ゆあみする泉の底の小百合花二十の夏をうつくしと見ぬ
くれなゐの薔薇のかさねの唇に靈の香のなき歌のせますな
春の夜の闇の中くるあまき風しばしかの子が髮に吹かざれ
わかき小指胡紛をとくにまどひあり夕ぐれ寒き木蓮の花
みだれ髮を京の島田にかへし朝ふしてゐませの君ゆりおこす
紫の紅の滴り花におちて成りしかひなの夢うたがふな
乳ぶさおさへ神祕のとばりそとけりぬここなる花の紅ぞ濃き
ひく袖に片笑もらす春ぞわかき朝のうしほの戀のたはぶれ
なにとなく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな
ゆあみして泉を出でしやははだにふるるはつらき人の世のきぬ
小傘とりて朝の水くむ我とこそ穗麥あをあを小雨ふる里
うながされて汀の闇に車おりぬほの紫の反橋の藤
ゆふぐれを篭へ鳥よぶいもうとの爪先ぬらす海棠の雨
かたみぞと風なつかしむ小扇のかなめあやふくなりにけるかな
小百合さく小草がなかに君まてば野末にほひて虹あらはれぬ
こころみにわかき唇ふれて見れば冷かなるよしら蓮の露
おもひおもふ今のこころに分ち分かず君やしら萩われやしら百合
むねの清水あふれてつひに濁りけり君も罪の子我も罪の子
みなぞこにけぶる黒髮ぬしや誰れ緋鯉のせなに梅の花ちる
くろ髮の千すぢの髮のみだれ髮かつおもひみだれおもひみだるる
夏やせの我やねたみの二十妻里居の夏に京を説く君
舞姫のかりね姿ようつくしき朝京くだる春の川舟
春みじかし何に不滅の命ぞとちからある乳を手にさぐらせぬ
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