『現代川柳ハンドブック』
日本川柳ペンクラブ 尾藤三柳監修 1998年
現代川柳作品一〇〇
寝転べば畳一帖ふさぐのみ 麻生路郎
飲んでほしやめても欲しい酒をつぎ 麻生葭乃
もの書きの刃を研ぐ喉のうすあかり 飯尾麻佐子
天井に棋譜を浮かべて鬼才病み 池田秋の月
筍もみな竹になり寺しづか 池田可宵
白足袋の白というのも色のうち 伊志田孝三郎
何も願わじ水の流れを見ていたり 石原伯峯
津軽地吹雪新墓ひとつ呼応せり 伊藤律
国境を知らぬ草の実こぼれ合い 井上信子
通夜の酒月は頭上を通過せり 海地大破
或る危機の予感に光る春の潮 卜部晴美
地球儀に愛する国はただ一つ 近江砂人
肝臓に会って一献ささげたい 大木俊秀
八重桜散らぬ男を迎えけり 大森風来子
門標に竹二としるすいのちかな 大山竹二
ああ家があったと夫婦旅帰り 奥美瓜露
胃袋のかたちしてねむる都営住宅12の5 奥室数市
相擁く和紙の折り目を深くして 尾田左桐子
馬鹿な子はやれず賢い子もやれず 小田夢路
妻をかくに汚れた指を見る 加賀破竹
人を焼く炉に番号が打ってある 柏原幻四郎
膝を抱くだけの手にして人去れり 柏葉みのる
風鐸に風がある日の法隆寺 片岡つとむ
今日と言う幕が台本なしで開く 片倉沢心
冬の序曲か演技の風に舞うすすき 加藤翠谷
枯尾花霧の中なる声さがす 花岡井可
生きていなされ何度でも悔いなされ 唐沢春樹
河童起ちあがると青い雫する 川上三太郎
永住と決めて東京空っ風 河村露村女
雪に死ぬとき乳房に似たる山ありき 岸本吟一
標札は岸本とある旅帰り 岸本水府
小糠雨やにわにおどり出す兵士 北野岸柳
辯證の諸君見給え無精卵 北村雨垂
莫迦と違うのか俺と歩けり 草刈蒼之助
地吹雪に噫と吐く息持ち去らる 工藤寿久
駄馬なりに矢印があり明日を追う 黒沢かかし
荒縄をほぐすと藁のあたたかさ 後藤柳允
うるさいのは世間ではなくお前だよ 酒井駒人
啄木が泣いたかこんな蟹一つ 坂本一胡
にんげんのことばで折れている芒 定金冬二
子らの子に伝えるジョークなど探し 佐藤良子
いい人のままで定年きてしまい 塩見草映
妻と佇つ庭のさくらも散るばかり 清水米花
スケールの大きな恋がある神話 白井花戦
目出度目出度と貧しい村の唄 白石朝太郎
旅烏心を空の色にする 杉野十佐一
皆咲けば百花繚乱妻の庭 椙元紋太
風りんの音色を金の鈴と聞く 鈴木可香
舟あしの何と重たい別れだな 田頭良子
上ばかり見て歩いても墓へ来る 高木夢二郎
乞食にもなれず強盗にもなれず 高須唖三昧
時の立つ早さにおびえ老いて行く 高橋春造
兄弟が寄るとお袋生きている 竹本瓢太郎
なぐさめてくれる火鉢の火をひろげ 田中空壷
人間を掴めば風が手にのこり 田中五呂八
すでに遠きまなざし独り蜜柑むく 田辺幻樹
電光ニュース政治は闇に消えるのか ちば東北子
手と足をもいだ丸太にしてかへし 鶴彬
風呂敷の米どうしても米に見え 土橋芳浪
川底の石を生涯ひとつ持つ 外山あきら
モンロー忌聖なるものは遠くなる 中尾藻介
悠遠を斬る一瞬の流れ星 中島國夫
浮き草は浮き草なりの花が咲き 中島生々庵
独り寝のムードランプがアホらしい 永田帆船
パチンコ屋オヤ貴方にも影が無い 中村冨山人
志ん生を笑い直して下足札 西島○丸
手術記念日鰯の味が舌にある 西山金悦
燃えやすい冷めやすい身のかすり傷 野口初枝
運つかむときどの指も競わない 橋爪まさのり
生まれては苦界死しては浄閑寺 花又花酔
基礎知識大根おろしにして食べる 速川美竹
火の女もろくも母の名に屈し 林ふじを
はじめに言葉ありてよごれつづける 尾藤三柳
通り抜けあの頃ポンポン船が見え 広瀬反省
孫の写真に俺の顔が半分 福永清造
子の着く日弾むでもなく菊をきり 房川素生
いくさあればふつふつと湧く土下座の血 藤井比呂夢
政治家と比較にならぬ僕の嘘 藤沢岳豊
定期券モシモシ君も亀ですか 藤沢三春
むくむくむくむくまさしく青年の雲よ 藤本静港子
島の地に母のさいはてわがさいはて 細川不凍
録音にはっきり僕の出雲弁 本庄快哉
音もなく花火があがる他所の町 前田雀郎
馬鹿さ加減がゆらゆらとある洗面器 前田夕起子
また弾丸になる鉄塊と人夫の糧 松本芳味
眼にさぼてんを植えてあきらめる 三浦以玖代
老来の妻に黙すること多き 三浦太郎丸
一本の葦を小さな笛にする 宮本紗光
家に居て飲んでればいゝ星廻り 村田周魚
舌を咬む事の痛さに今日も負け 森田一二
まだ言えないが蛍の宿はつきとめた 八木千代
ためる金たまった金にたまる金 矢野錦浪
ふぐりころころ僕を殺しにどこへ行く 山崎蒼平
いい話妻にも受話器替わらせる 山崎凉史
ふりむけばがんじがらめの老眼鏡 山本克夫
胸襟を開くくすりを酒という 山本翠公
むかし海ありき僕の青春を刻む 山本卓三太
だからさああのさあ子等の善後策 山本半竹
青空を吊して眠るダリのヒゲ 脇屋川柳
太陽に問えば明日があると言う 渡辺銀雨
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