2008年1月19日土曜日

湯山三両独吟『うす雪の』の巻




湯山三吟百韻                
 賦何人連歌             湯山三両独吟『うす雪の』の巻
                         
うす雪に木葉色こき山路かな  肖柏 うす雪のあし跡たどる山路かな  春蘭
 岩もとすすき冬やなほみん  宗長  消えがてにふる思草の上    面白
松虫にさそはれ初めし宿いでて 宗祇 わが屋戸にゆふの紅葉の映えそめて 蘭
 さよ更けけりな袖の秋風    柏  震えるごとき松虫の声     未竿
露さむし月の光やかはるらん   長 秋さびし月耿々とさしをれば    白
 思ひもなれぬ野べの行すゑ   祇  ひとりかりねに思ふ行すゑ    蘭
かたらふもはかなの友や旅の空  柏 ふく風にうつろふ友や旅の空    白
 雲をしるべのみねのはるけさ  長  越すもはるけきみねちかくみゆ  竿

うきはただ鳥をうらやむ花なれや 祇 人はまづ雲井の花をもとむらん   蘭
 身をなさばやの朝ゆふの春   柏  鳥の通ひ路かすみの奥に     白
ふる里も残らずきゆる雪をみて  長 朝ぼらけ雪解の里にたつけむり   蘭
 世にこそ道はあらまほしけれ  祇  民の草葉に埋もるるもよし    白
何をかは苔のたもとに恨みまし  柏 温暖化できることより始めんと   竿
 すめば山がつ人もたづぬな   長  自然のままにさ庭うちおく    蘭
名も知らぬ草木のもとに跡しめて 祇 名にしおふ山川とほく隔るとも   白
 あはれは月になほぞそひ行く  柏  こころあまねく照らす月かな   蘭
秋のよもかたる枕にあけやせん  長 しらしらとあけゆく閨の秋立ちて  白
 思の露をかけし悔しさ     祇  露の逢瀬のあとのむなしさ    蘭
たがならぬあだのたのみを命にて 柏 指切りも口約束もまたも反故    竿
 さそふつてまつ侘人ぞうき   長  されど侘しくさそひまつわれ   白
すみはなれ今はほどさへ雲ゐぢに 祇 たちきれずえにしの糸の忍ぶ摺り  蘭
 入りにし山よ何かさびしき   柏  みちのおくにぞ庵むすばむ    白
二オ
わきてその色やは見ゆる松の風  長 茶釜より松籟これも千の風     蘭
 いづみを聞けばただ秋のこゑ  祇  つくばいあふるすみわたるみず  竿
蛍飛ぶ空によぶかく端居して   柏 甘露水ほたるも知るや方違     白
 もの思ふ玉やねんかたもなき  長  なさけなかけそ数ならぬ身を   蘭
枕さへしるとはしるな我が心   祇 書くほどに想い乱れてあさましき  竿
 涙をだにもなぐさめにせん   柏  したたる涙も墨汁とせん     白
藤衣なごり多くも今日ぬぎて   長 なげかはし世相を偽の一字とは   蘭
 いでんも悲し秋の山でら    祇  いで立て危急存亡の秋      
鹿の音をあとなる嶺の夕まぐれ  柏 法螺の音に鹿の鳴きやむ夕まぐれ  
 野分せし日の霧のあはれさ   長  まてば凪ぎゆく野分の波も    白
静なる鐘に月まつ里みえて    祇 湖みゆる城跡に佇ち月めづる    竿
 行きて心をみたさんも憂し   柏  あだあるひとに添ふる身ぞ憂き  蘭
我ならで通ふや人もしのぶらん  長 頬に笑み胸に合口しのばせて    白
 ふるき都のいにしへの道    祇  新門前の骨董屋ゆく       蘭
二ウ                 ( 易『白川の』の巻 )
咲く花もおもはざらめや春の夢  柏 白川の花や舞子の裾さばき     蘭
 さくらといへば山風ぞ吹く   長  うすくれなゐににほふ春風
朝露もなほ長閑にてかすむ野に  祇 里遠みかすみたち籠む大野らに
 うちながむるもあぢきなの世や 柏  あとつぎなくて思ふ後の世
更くるまで身のうき月を忌かねて 長 更けるまでいねままならず月朧   竿
 今よりいとふながきよの闇   祇  羊何匹数えてもまだ
いさり火を見るもすさまじ沖つ舟 柏 沖つ島影絵きはだつ秋空に     蘭
 夕の波のあら磯のこゑ     長  ひとしほ高き潮騒の音
郭公なのりそれとも誰分かむ   祇 ものおもふ時に来鳴くな霍公鳥
 かへらん旅を人よ忘るな    柏  のぞまぬ旅の宿りわびしも
ありぬやと心みにすむ山里に   長 ふるさとに心はいつも向かふらん
 ならはばしほれあらしもぞうき 祇  馴れては去るをくりかへす身は
つれなしや野は霜がれの思艸   柏 つれなくも霜のころもや枯しのぶ
 いつか心の松もしられし    長  いつか連理の松とならまし
三オ
和歌の浦や磯かくれつつ迷ふ身に 祇 和歌の浦ありなしびともうたふらん
 みちくる汐や人したふらん   柏  みちくる汐に走るいそしぎ
捨てらるる片破れ小舟朽ちやらで 長 うちかへり一葉捨て舟そこみせて
 木の下もみぢ尋ぬるもなし   祇  散らずて色のあせしもみぢば
露もはや置きわぶる庭の秋の暮  柏 ひとばなる我が屋前におく白露に
 虫の音細し霜をまつ頃     長  のぶる葎生いまだ虫の音
ねぬ夜半の心も知らず月すみて  祇 たかぶれば片敷く夜半の月すみて
 あやにくなれや思たえばや   柏  暮れゆくほどに恋にこがれて   竿
たのむことあれば猶うき世間に  長 君きませこの世にのぞむものもなし
 おいてや人は身をやすくせん  祇  我執捨てれば老いも楽しみ    蘭
こえじとの法もくるしき道にして 柏 こえたかと見るも果てなき法の道
 雪ふむ駒のあし引の山     長  雪をいただく神なびの山
袖さえてよるは時雨の朝戸出に  祇 身づくろふ夜来の時雨やむ朝に
 うらみがたしよ松風の声    柏  いつとも分かず松風のこゑ
三ウ
花をのみ思へばかすむ月のもと  長 川のべの花おひゆかば月出でて
 藤咲く頃のたそがれの空    祇  鐘聴く頃のかすむたそがれ
春ぞ行く心もえやはとめざらん  柏 春うららたまにたまたま物忘れ   竿
 み山にのこるうぐひすの声   長  小さき池に数多の蝌蚪が
うちつけの秋にさびしく霧立て  祇 むら雨にたちまち霧の涌き立ちて  蘭
 今朝や身にしむ天の川風    柏  真木の葉露に濡るる杣びと
衣うつ宿をかりふしおきわかれ  長 さ牡鹿の声や仮屋のうすけむり
 夢はあとなき野辺の露けさ   祇  旅の夢路にとほき稲妻
かげ白き月を枕のむらすすき   柏 月かげに白き狐の叢がくれ
 いつしか人になれつつも見む  長  いつしか人になれぬものかは
をちこちに成りて浅間の夕煙   祇 尽きぬ火の浅間を生のよすがにて
 きゆとも雲をそれとしらめや  柏  きゆとも歌に名は残るらん
はかなしやにしを心の柴の庵   長 心なき身こそあはれは知らされめ
 身のふりぬまは何おもひけん  祇  心はふるてふものにしあらねば
四オ
みるめにも耳にもすさび遠ざかり 柏 おのづから耳目の遠くおとろへて
 冬の林に水こほるこゑ     長  冬の林を風ゆらすこゑ
夕がらすねにゆく山は雪晴れて  祇 雪映えをからす塒にかへるころ
 いらかの上の月のさむけさ   柏  からの山畑さえる凍て月
たれとなくかねに音して深る夜に 長 あかつきの鐘にたれどき星いでて
 ふる人めきてうちぞしはぶく  祇  となりのかじんくさめつづける
蓬生やとふをたよりに喞つらん  柏 蓬生のゆゑにたのもし人とはん
 この頃しげさまさる道芝    長  刈ればまだらの目立つ道芝
あつき日はかげよわる露の秋風に 祇 あつき日の影をよわむる秋風に
 衣手うすしひぐらしの声    柏  ひぐらしむれてめぐるやまざと
色かはる山のしら雲打なびき   長 錦秋のみねはゆふひにきらめいて
 尾上の松も心みせけり     祇  ことばはいらぬ相生の松
憑めなほ契りし人を草の庵    柏 ともしらがつひとさだめし草庵に
 うときは何のゆかしげもある  長  ねびゆくさまもかつはゆかしき
四ウ                  
わりなしや勿来関の前わたり   祇 いくつもの関こえ成らん恋のみち
 誰れ呼小鳥啼きて過ぐらむ   柏  なけ呼ぶ子鳥われをみちびけ
思ひ立つ雲路にかすむ天つかり  長 見わたせば雲居とわかぬかすみ立ち
 さこそは花をあとの山ごえ   祇  さらば花見をあとの山越え
心をもそめにし物を世捨人    柏 思ひ果て旅をすみかの無用びと
 出でばかりなるやどりともなし 長  しばらく居てはうちやぶり出る
露のまもうき古里と思ふなよ   祇 露のまも心はなれぬふるさとに
 一村雨に月ぞいざよふ     柏  寄ればむらさめくもる月かな

  肖柏(四十九歳)三十四句       面白  十三句
  宗祇(七十一歳)三十三句       未竿  十三句
  宗長(四十四歳)三十三句       春蘭 七十四句

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