2010年5月8日土曜日

俳諧武玉川 初篇

俳諧武玉川 初篇
(底本:日本名著全集 江戸文藝之部第廿六巻 川柳雑俳集 )

冬嶺之部(十五点)
1 納豆に抱れて寐たる梅の花 
2 夕立に思ひ切たる舟のうち 
3 嘘をつけとの大三十日来る 
4 祭が済でもとの明店    
5 冬籠独口利く唐本屋 
6 取分て鞠は男のよいが能 
7 雫の伝ふさほ鹿の角 
8 放れ馬跡の女に桜の香 
9 二人してたけた娘を打詠め 
10 四谷から目黒の間を歌枕 
11 犬張子二見にわかれ雲の峰 
12 取付安い顔へ相談  
13 夢で居る子を入れる誓文 
14 入もせぬ声の能く成る寒念仏 
15 取揚婆々をしらぬ追分  
16 物忘れあぢな所を横に見 

17 神輿洗つて辷る拝殿 
18 関二つ有ともしらず出来心  
19 目へ乳をさす引越の中 
20 夜は蛍にとぼされる草
21 正直に大工の通ふ寶寺 
22 舞台から飛ぶを傘屋は觸れ歩行き 
23 丈くらべ手を和らかに提て居る 
24 昼はたはげな陸奥の玉河 
25 宵の謡の通る寒聲  
26 皿砂鉢欲はなけれどあぶながり 
27 毛見の艸履に二人取つく  
28 説教の上手が島に生て居 
29 相図にするをしらぬ看経  
30 柏もらひの下手な木登リ  
31 智恵のない顔が揃うて扣き鉦 
32 家内の留守をねろう鶏飯 
33 売喰の丁子頭は無念なり
34 尋て歩行く穴蔵の声 
35 記念届けて元の奉公 
36 古骨買の辛崎へゆく 

37 低く言ひ高く笑ふはおもしろき
38 勘当させた挑灯の施主 
39 朝顔の思ひ直して二つ三つ
40 四月の紺屋立波にあく 
41 不食の給仕飛石を行く 
42 鳶までは見る浪人の夢 
43 貴人の方へ曲る罔両(かげぼし) 
44 鰒はいやかとたつた一筆 
45 六月しれる娶の身代 
46 恥かしい目に島台を能く覚え 
47 三めぐりは蛙の聲に煙立 
48 掃下を段々逃て棚の下 
49 合羽に尖る船の若党   
50 夜討の跡にけいせいの帯  
51 羽衣を鮮い手て皺にする(なまぐさい) 
52 雪駄では通りかねたる三日の原 
53 門松の穴も心の置所 
54 眼薬の貝も淋しき置どころ 
55 後家で目を突く今の角町 
56 夜のめかりに借金を逃 

57 利口になって飛ばぬ清水 
58 梟に昼中くらき十二神 
59 一日の機嫌も帯の締めごゝろ 
60 峠の宿の浅い居風呂 
61 をどりが済で人くさい風 
62 白鷺のひだるいうちは水鏡 
63 宿下の侭で雪駄は干からびる 
64 面打を呼ぶ一世一代  
65 台笠振つて這入る出女  
66 淋しい舟の五十嵐へ着く  
67 正直に独づゝ寝るたから船 
68 今出た海士のあらい鼻息  
69 能い頃を鶉の起す草枕 
70 間夫の命拾ふて蚊に喰れ 
71 棒を潜つて供へ茶を出す  
72 夜のしまひもはやい斎日 
73 草も輪に成て涼しき御祓川
74 旅衣脊中へ蝶を浴びて行き
75 松脂匂ふ清見寺前 
76 ちら〳〵と池の蛙のうしろ紐

77 子をまたぐらへはさむ中剃 
78 盃出して伯父をしづめる 
79 薮入の物あり貌な銭を買 
80 我一生とおもふ河越 
81 牡丹に馬鹿の狂ふ身代 
82 十九が過てやりぱなし也 
83 湯立をうめて通るむら雨 
84 順見のもたれ懸ればまつの風 
85 買人を突付て見るゐもり売  
86 四月八日ありがたい日は暮にけり 
87 鳴らして捨る葉に残る月 
88 黒木のうへの初雪を喰ふ 
89 飛騨の内匠もやはり切筆 
90 たばこ入家内へ隠す松の内 
91 柴の戸を大根で扣く霜の花 
92 足の淋しき下馬の六尺 
93 御端下までは行かぬからかさ(おはした)
94 呑喰も四十と言ふが先へ立 
95 雪ころばしへ登る垣間見 
96 うき世はあぢに着なす上下 

97 鴛の除け物になる雲のみね 
98 衣紋坂出家の提る土大根 
99 湯舟の煙黒い六月 
100 付ざしを渡すと直にあちら向  
101 夜の雪駄のひゞく木がらし   
102 秋風に山伏のうつ火がこぼれ 
103 薬にも毒にもならず年男 
104 情しらずの筑波見て居 
105 ぴつしやりと被つぶれる山颪 (かぶり)
106 三人寄れば毒な夕ぐれ (吉原、どんなところかしらw)
107 合点で居てもあぶない暖め鳥 (ぬくめどり) 
108 安弔ひの蓮の明ぼの
109 雀子の可愛がられて逃て行 
110 折ふしは棒も降る也さくら狩 
111 淋しい茶屋のしれるかやり火 
112 志賀は小言の種にぞ有ける 
113 捨ものにして抱ついて見る 
114 居風呂へ明てはかへる松の風 
115 銭ほどに盛あてがふさくら草 
116 うまい事書いた文見る鼠の巣

117 山帰来干す辻番のうら 
118 狐に恋を見せて化され 
119 鎧を着ると側の巻物 
120 千鳥をば鷺にして置遠めがね 
121 水かねを吝く振出す鏡研 (しわく:けちくさく)
122 前巾着に枕する猫 
123 蛍の先へ間に合ぬ傘 
124 湯立の通リはやる振出し 
125 声きいて笠を名残の檜原 
126 世はからくりの福寿草咲く 
127 凡夫さかむに猪牙へすばしり (ちょき:吉原行きの舟)
128 住居の智恵は越てから出る 
129 外科はその名も付けず別るゝ 
130 首さへ出れば窓の通い路 
131 暑き日に娘ひとりの置所 
132 青い葉は律儀にしらぬ立田姫
133 鐘つきに引はなさるゝうしろ神(吉原帰り、やはり吉原は文藝の中心地w)
134 張合のなき盃はさし向ひ 
135 土産の一駄前の日に着 
136 子を誉て居る船の真中 

137 師走の猪牙に裏白が舞 
138 雀へ酒のかゝる鳥さし 
139 夜着の栄花の眼が明て居る 
140 ひよんな字を問て家内に疑はれ 
141 廿ちの思案聞に及ばず 
142 わさびおろしに寒い袖口 
143 高く聞へる闇の口上 
144 麻刈の一鎌づゝに笠が鳴 
145 物書は寺中で憎む掛人   (かかりうど:居候) 
146 塔を見て思へば人も怖い物 (スカイツリーは驚くべき工法)
147 行水廻す根夫川のうへ 
148 切れ盃を供が見て居る (離縁)
149 取扱いも寒いから鮭 
150 悋気の屋根を廻る夕立 (夫婦喧嘩中)
151 面白く反る四ツ手引かな  
152 主のない扇を遣ふ渡し守
153 煩ふ馬を沢瀉へひく 
154 けぶいもの喰ふ木がらしの月 
155 仕送リをうまくだまして足拍子(仕分け人w)
156 泥のつく物とは見へぬ御所車

157 二階から心の人へ咳ばらい
158 若衆は声に出づるうら枯  
159 六月キはたらく霊山の柚子 
160 元結紙も粘の世の中  
161 湯女の情も一まわりづゝ  
162 をかしがらるゝ衛士の有明  
163 双六の戻る箱根に櫛が落ち 
164 白粉も袂につけばたゝかれる 
165 時鳥近く見られていとま乞 
166 柳と路次へ這入る節季候  
167 水ものにして田を質に取  
168 食傷は覚悟のまへの遣唐使 
169 蓋明てあいその尽る御菜籠 (ごさいかご)
170 三下リころせ〳〵と人通リ 
171 蒸籠の湯気を抱へて奥へ行 
172 馬の尾のふり負て居る水車 
173 廿日亥中に上を行うぞ  
174 足跡は親子と見へるかきつばた 
175 口留をしても忘れるめうがの子 
176 上り馬乗る寺の若党 

177 祭もなくて人近い神 
178 転んだ跡の青い淡雪 
179 出入座頭の誉る新道 
180 見しらぬものを拾ふ左義長 
181 常世が馬の畳まで喰ふ 
182 相談のしまらぬ所ひがし山 
183 かな谷泊の一日の運
184 人目の隙に妻の行水
185 緋おどしに惚れて戻リし白拍子
186 捨物にして遣る文に花が咲  
187 乳母が在所の赤蛙来る 
188 鑓が降ても武士の衣々 
189 小松曵あぶない所で手を握り
190 かぶろへ親の通ふ疱瘡 
191 蛍は空に闇は麓に 
192 紫蘇漬にして戻す引臼 
193 下戸一人恋の證拠に頼まれる
194 気違を見に物干が込む 
195 山伏も木の端ならず梳あぶら(すき)
196 牛一つ花野の中の沖の石 

197 醤油にと気侭はさせず杉の口
198 吉田を乗つた聟にくり言 
199 帰リには疝気の発るくすり掘 
200 入歯のぐあひかみしめて見る 
201 連歌師の江戸へ下れば花の春 
202 色茶屋はつぶれて寒き広小路 
203 助太刀は念者と中のよい男  
204 金剛杖に立並ぶうそ 
205 行平の寐所替る月二夜  
206 寐て出る智恵に世も捨リ行
207 後生気が出て極のつく女形 
208 命とはあたりまかせな言葉也 
209 這ふ子の口に人形の舟
210 草履取面白がらぬ数寄屋河岸 
211 隙かして拍子の揃ふ紙ぎぬた 
212 用に立たを聞かぬ突棒 
213 初鰹死だ隣でそつと呼ぶ
214 息杖のうち掃かけて待つ 
215 歌でいかねばべつたりと文 
216 御符もらいの行あたる駕 

217 貰いざかなのさがるうたゝ寐 
218 身のうちは眼斗り出して玉霰 
219 何かにつけてをとこ兄弟 
220 深くはいれば法の吉原 (吉原で悟りw) 
221 財布てぶつて直に勘当
222 安い薬のまわる木食 
223 傘をさす手は持ぬけいせい 
224 祈が利て宮芝居隙(雨ごいで雨、ひま) 
225 季吟にたかる人も月花 
226 小つゞみにぽつ〳〵降は淋しけれ 
227 此反リ橋にほしき牛若 
228 松茸も喰ぬ物なら小間物屋 
229 筏さし畳の上へ世をのがれ
230 牛に乗る日は遠い鎌くら 
231 駕から水を貰ふ六月 
232 海士の子の頬を舐れば塩はゆき
233 坊主と中のわるい煩ひ 
234 はげしい親の呵そこなひ(しかり) 
235 禁酒して何を頼の夕しぐれ
236 烏も二つ雪のぬり下駄 

237 かもじを抜てかゝる関の戸 
238 太神楽男日照の下へ来る 
239 婆々が昔は指折の海士 
240 主従が裸にされて雉子の聲 
241 みな仇事のぼた餅が来る 
242 ふり付の心の届く衣がへ 
243 長刀で腰元ぐるみ弟子に取
244 手を握られて顔は見ぬ物 
245 更け行く春に禿苦になる (かむろ) 
246 都のうつけ赤貝に泣く 
247 砂糖のやうな京へ縁組 
248 笠の雪崩れぬやうに脱いで見る 
249 そう笑つては辷る反り橋 
250 仕着の不足下に着て出る(しきせ)
251 朝寐する町は鳥居の右左 
252 母はとり込む雨の錦木 
253 時雨と雪と二度に逢ふ瀬田 
254 醫者の口から洩れる隠れ家 
255 金掘の佐渡へふり向天の川
256 のれんの外へ口上の尻 

257 正客をつぶす積リにずつと立
258 揚屋九軒で可愛がる馬鹿 
259 あわれ也狂ふ時には男声
260 琵琶がなるとは親類の花 
261 枡で喧嘩を分る住吉
262 むかし〳〵の聟に高札 
263 呑やうに水のなくなるちらし書 
264 日にやけた娘を誉る宇治の春 
265 異見の側を通るぬき足 
266 鳴子曵恋には売れぬをとこ也 
267 うらやまれたる山人の脈 
268 一日の奉公納に床をとり 
269 新造の恨に骨はなかり鳧(けり)
望楼之部(二十点) 
270 薮入の顔は濃くなり薄く成り 
271 三世相にも水はつめたき  
272 下闇に火の恩ふかきうつの山 
273 吉原に實が有て運の尽 
274 文が届て替る夕ぐれ 
275 から鮭の眼へ節分の豆 

276 弘法の惜しい事には細工過ぎ
277 うそつきに来た傾城は寄掛リ 
278 鰹売呼で家内の顔を見せ 
279 誓文に立る刀はまくら元 
280 西瓜の水も遠いたしなみ 
281 無理なまくらで大坂へ着く 
282 冬籠我も昔は尻しらず 
283 をとこの眼にも凄い子おろし 
284 ひよくの鳥も顔が見らるゝ 
285 世の誉事の晴天に死 
286 真四角に突出し物の神楽堂
287 幾度か盗まれ死なれ歌枕
288 孕む稲かはつた物を夫に持ち
289 ひよこの咽の乾く若竹 
290 呵られた夜の夜着はきせ捨 
291 二の替リ台所から口を利
292 踏れる恋もをおとこ一疋 
293 両隣娘の咎を知て居る
294 捨鐘聞いてあとは推量 
295 後の追人に二親の聲 

296 袖留て師走の闇に突放し
297 旦那の髪が出来て騒動 
298 気違もはやされてから藝が殖え
299 検校は手を敲く産聲 (たたく)
300 うき世の下卑に揚屋丁さび 
301 明る戸へつめたく障る氷室守
302 日頃の意趣をはらす芋虫 
303 散る花を乗物の戸へあふぎ込み
304 隣の耳へあたる言訳 
305 目いしやの顔が見えて手を打 
306 紅葉の中へ幅な入相 
307 土産買傘へ時雨の音がする
308 錦木立てゝ菜のうへを行 
309 命しらずの戻る岩はし 
310 持碁に作て顔の見合 
311 しのぶ草夜着を幾つか跨ぎ越
312 當させて心のうごく袴腰
313 高尾が出来てよみ売が出る 
314 様々な人が通つて日が暮る
315 子守のもたれかゝる裏門 

316 翌る日足の立ぬ池上  
317 異見した日の戸が早くたつ  
318 七つは人の耳につく鐘 
319 駿河の町の吝い初雪(しわい) 
320 関守の淋しい日には物とがめ 
321 その時を見事に武士の衣がへ 
322 ちといたはつて返す羽衣 
323 夜伽の客のかた付て居 
324 うそが溜て本堂がたつ 
325 我髪と思ふ時なき女がた 
326 四月八日は葬礼の花 
327 蜀漆の虫に親の霍乱(くさぎ) 
328 障子越引たい袖はかげぼうし 
329 時雨する出雲の空は表向 
330 松が岡男をしらぬ唐がらし 
331 舟岡を戻る薪屋も五十年  
332 不断桜は観音の伊達 
333 迄と云ふ心の反リの不奉公 
334 あみ笠の赤く成時おもひ知   
335 買水をうついやなやつ哉  

336 鬼門の方のふとん折込  
337 六月のつめたい物に損はなし 
338 道心者我も覚えてをとこ山 
339 反かへるのを見るやうに鐘の聲 
340 不破の大工の一生の恥  
341 雪折も千鳥も枕してのもの 
342 正直な方がやつるゝ飛鳥川 
343 かいどりに隠れて居たる不孝者 
344 歯の抜た子の屋根を見て居る 
345 黒雲の晴るゝ筑波は有の侭 
346 あぶない道で熊野節買ふ  
347 帳屋の笹に二度雪が降 
348 唐から渡る繻子も空解 
349 五月雨袂の下に付木の火 
350 寐起にわけて光る金屏 
351 けむい所へ這入る袖笠 
352 豆腐にむかひ是からの智恵 
353 胡葱は初奉公の新まくら(あさつき) 
354 晦日のうそに男ぎれなし 
355 なぶり殺すを居代てやる 

356 金にする聲はあはれな寒の内
357 拍子に乗て長崎の嘘 
358 仲人の及ぬ所へたすけ船
359 覗かれる気で瞽女は寐に行 
360 笛の上手に身を捨る鹿 
361 傘の初荷が着て郭公(からかさ、ほととぎす)
362 悪女へ早く届く手招き 
363 津浪の町の揃ふ命日 
364 涼しさは男に多き糺川(ただす) 
365 萌し物出て生る駒込 
366 内に居て顔の淋しき一月寺 
367 奈良漬の一舟残る病上り 
368 恨もなくて我畳む夜着 
369 幟が殖えてなぶられる妻 
370 銭金のおもしろく減る旅衣 
371 少しづゝ灯のふとく成る新枕 
372 御茶の水行く舟にからかさ 
373 舞も恨も初ては立膝 (しょて)
374 憎さうに手曳は日向通りけり 
375 子の手を曳いて姿崩れる 

376 我炭にかじけて歩行く八王子 
377 鷹の頭巾を拾ふ買出し 
378 煮えあがる湯をだます茶袋 
379 辛崎やあたりの松は気も付かず 
380 近星を佛御前は知らぬふり 
381 淋しい時に蔵を詠る (ながめる) 
382 油のはねる忠盛の袖  
383 落る事なくて淋しき牛の角 
384 百取うちに濡れくさる釈迦  
385 朝顔の開き仕舞へばほんの帯 
386 死だ妾に絵師の骨折  
387 勘当の長崎者に成かゝり 
388 一夜明ると馬鹿で目を突 
389 殿の禁酒に夜は捨り行(すたり) 
390 浪人は娘ひとりを智恵の奥 
391 後家しほ〳〵と青物の禮
392 明六ツわたる鵲のはし(かささぎ) 
393 鳥にさへ相言葉あるそとの濱 
394 顔で死ぬ蚊の兼て合點
395 節季の息子算盤に乗 

396 背中から寄る人の光陰 
397 百性の身に稀な手枕 
398 饂飩の誠初雪が降 
399 吉原の屋根かと聞て伸上リ
400 覚へる事は女房が勝 
401 ぬるい湯船へ這入る早乙女
402 編笠を着てほんの眼が覚め
403 口上も二人へあてゝ千団子
404 精出して売る顔でなし唐物屋 
405 逃ると聞て水がさしたい 
406 子どもの色のわるひ築しま 
407 浅間はもえて里の朝食 
408 十年まへは独をかしき 
409 袖笠はしのびに成らぬ紋所 
410 番神堂を廻る薙刀 
411 庭鳥の鳴ころが奉公 
412 子に持せても桔梗淋しき 
413 志賀の寺傘畳む音がする  
414 きりぎりす顔の重たき院の御所 
415 生酔の心は直に道を行 

416 さくらが咲て奥の前だれ 
417 寒の水棒の師匠に誉らるゝ 
418 杜若坊主の手から色がさめ 
419 雨雲の時々見世へ茶を運び 
420 名古屋からなぶられて来る干大根 
421 神無月仏の御代に成にけり 
422 台所から影ぼしに惚れ 
423 うらむ比丘尼の髪をほしがる 
424 闇を躍て帰る屋敷衆 
425 御神酒はあれど青い庚申 
426 白眼廻して妾の出代り(にらみ) 
427 宿下の土産に咄す紋所(やどおり)
428 奉幣のうち氷る侍 
429 度々智恵の戻る築島
430 葵が咲いてうぐひすは闇 
431 縫ふ人を空からなぶる時明リ
432 大工とさしに引越の椽(縁) 
433 旅人立てくらく成る家 
434 日本の裾は風ほどに明く 
435 桟敷へ坐る母の中垣 

436 腕をさすつて狸煮て居る 
437 生酔の後通れば寄かゝり(なまよい) 
438 榊の穴に鍬の投やり 
439 寐て居た前に合す稲妻 
440 女房は簾の内で直をこたへ(ね) 
441 垢離取の見ぬ振しても楼舟(こり、やかたぶね) 
442 浪人にまだ息の有る松囃子 
443 おもひ直して三弦を弾く 
444 手うつしの闇をいたゞく寒念仏(かんねぶつ) 
445 くぼみの家へ蚊遣り草売れ 
446 是迄と思ひ極めて総仕舞
447 都鳥けふはきのふの銭を売り 
448 先でわかるゝ判取の声 
449 返す時機嫌の悪い御鬮本(みくじぼん)
450 うき事のためにちび〳〵呑習ひ
451 又振袖へ戻る孝行  
452 一つでも義理の届いた蛍狩 
453 六郷ぎりで別る相傘 
454 中間の名のある甲斐もなし(ちゅうげん)
455 病ひ程療治尽して捨小舟 

456 鳥甲見て帰る弟子入 
457 恋が叶ふと分散に逢 
458 音頭が付て軽い言訳 
459 我からに招く気に成る蔵開キ 
460 かつらへも賀茂へも遣らぬ仏の日 
461 むかしも今も同じ本膳  
462 小野照崎をさしの弔ひ 
463 落着顔の堀で三味線  
464 約束倒れさらされて居る  
465 燈籠の売れた夢みる小道具屋 
466 五月雨や仕舞の日には横へ降り 
467 松風の和らかに来るひとへ物 
468 墨染のちからづくには写し物 
469 猫の二階へ上る晴天
470 此世も闇の鵜を連て出る  
471 棒を馳走に遣ふ神取
472 宇津の山捨たいやうな鑓に逢 
473 遠く日のさす横笛の肘  
474 六角堂を乳母がしこなし  
475 つまめば淋し金襴のうら  

476 惚たとは短い事の言にくき
477 ひよこの付て這入る灌佛 
478 烏の歩行く瀬多の元日 
479 閏五月のいたづらに降る 
480 火の入た酒出盛てほとゝぎす
481 西日の宿の目を細く呼 
482 鶯に突放されてほとゝぎす
483 中気に成て亭がつぶれる 
484 泊客最う隣から人の口 
485 涼しくも男を立る三つがなわ 
486 大屋に成りて負る六月 
487 蝶々の種を蒔せる貝わり菜 
488 窓明た大工を誉る丸はだか 
489 雪を喰ふ女の顔へ日のうつり 
490 硯の膝を廻るおし鳥 
491 取揚婆々の供も飛び〳〵
492 雪ころばしの盛かへが出る 
493 役者の草鞋葉の落る頃 
494 たけの揃はぬ加多の洗濯 
495 きんか天窓を撫る若君

496 紙燭して遣る恩のはじまり 
497 咡ばうしろの見たい駕の内(ささやけば) 
498 木枕を都から来て匂はせる 
499 半年の埃を見て居る硯箱 
500 捨子の棒のつくかひもなし 
501 子にゆるひ頭巾かぶせて網代守 
502 歯の若さ茶漬の中に石の音 
503 朝日を供のふさぐ干物 
504 娵入となしに抱取て行 
505 消炭を人と思はぬ八王子 
506 あはう拂の摂待へ来る 
507 取持顔でさかもりのめど 
508 蔵造夏の噺の怖しき 
509 二心内の淋しきゑびす講 
510 雀眼も欲にありく棚経(とりめ) 
511 一網づゝに亭へ挨拶 (ちん)
512 脱で女に戻る水干 
513 松の風少しかたまる置巨燵 
514 放馬抱た男に智恵はなし  
515 死たいと言ふた師走の恥しき 

516 先の家内をあてる進物 
517 不機嫌な日は音のない台所
518 青田に成つて乳の見える人 
519 何所へ行とも言はぬ雨性 
520 淀屋がたいこ長崎で死 
521 鳴戸を越て紅絵さめ行 
522 下々に見らるゝ顔も初幟
523 荘子の夢の山吹へ来る 
524 嘘をつく顔へ時雨の降かゝり 
525 飛ぶ傘はくらい買もの  
526 内に寐て独をかしき夜着ふとん 
527 死際は人形に似てきりぎりす  
528 浪人だけはすたる言伝  
529 願叶て怖しい町  
530 細工が成つてはやい還俗  
531 袴着させて乳母の大口 
532 傘に寐鳥のさはぐ切通し
533 勘当は蛙に水のかけ納め
534 腹のたつ時見るための海 
535 蛍から連に成たる恋の闇

536 女にも心々の誉どころ
537 淋しい宮に穴一の音 
538 嵐の川に朝顔が咲く 
主壽昌之部
539 派の利く手代面白くなし 
540 撞が見えるで伽な入相 
541 百性は嵐にうその道が付き
542 死だ家老にしからるゝゆめ 
543 目につく乳母へ舞て来る獅子 
544 辛崎は商賣じみた雨が降
545 文珠の智恵も三人の分 
546 衣で礼に歩行く蜜夫(まおとこ) 
547 親指に折らるゝ人は手がら也
548 死だ手際を誉る棒突 
549 念者と人の知るを待かね 
550 二百十日の屋根に浪人 
551 そろ〳〵見える後家のからくり 
552 折山損をするも養生 
553 大つゞみとは公家の荒事 
554 我が田を取られた川で渡し守

555 賤しく老てあつい湯に入
556 夫の惚れた顔を見に行く  
557 師匠への旅の土産は物覚 
558 鳥辺山最う嘘のない人に成 
559 牛王の灰と聞て欠落 
560 女房の鏡見た迄で済 
561 口が辷つて二度起請書く 
562 氷室を開く鍬の手廻 
563 松戸の顔は雲やりの先 
564 国替の顔が降也かゞみ山 
565 物云へば柄杓を遣ふ水鏡 
566 追分へ来て下戸を育る 
567 遣り手の噺立波がひく 
568 赤子の声ののらぬ吉原 
569 楽屋みたがる翠簾の正客(みす) 
570 越後屋の灯を供がかぞへる 
571 あまつて足らぬ女房の知恵 
572 化物屋敷誉る虫うり 
573 いざよいは少しおどりて小紫 
574 要ばかりを下戸の言伝

575 丹誠に桃を咲せて追出され 
576 美しい娘の供の反り返り 
577 枝からこぼす琴の似せ物 
578 負公事の方へ娘は行たがり 
579 立並ぶ木々とは言ず松の風 
580 うこんがさめて井出の夏川 
581 振袖に薬の湯気を曵て行 
582 寒い噂に赤く成る笠  
583 今度の硯文にふさはず 
584 女房の望岸を漕せる 
585 遊行の供の口が利き過ぎ 
586 喰切て驚かれぬるとうがらし 
587 春のあさぢの飯粒を踏 
588 後家は嫌いと後家が言せる 
589 廿五の暁またぬ五間口 
590 馬の姿も出ると戻ると 
591 抹香とても爪はづれ物 
592 盗でくれた人を正客 
593 餞別貰ふ初の勘当 
594 妾がとつて廻す祝い日 

595 当座のがれの顔へ風呂敷 
596 あくらの側に上下の恥 
597 老のむかしを咄す台所 
598 婆々はわすれて仕舞ふ我顔 
599 従弟か連れて帰る桶伏 
600 紀の関守の猿にさすまた 
601 初會に先の見える七夕 
602 いかだ便りに帰る小舅 
603 鶴は龜より人をさわがし 
604 鰯がとれて闇の人声 
605 急ぐ小早の反かへるこゑ 
606 隣をば人と思はず年忘れ
607 追分へ出て薬まで分け 
608 奢尽して鶴龜を飼ふ (おごり)
609 気違の一日置に通りけり
610 浪人の編笠計むかし物(ばかり)
611 心に無理の残る道心 
612 よい男来る分散の礼 
613 恥かしい所を湯舟の摺はらひ 
614 暮にちらりと後家の積物 

615 五月五日も毒の玉川 
616 我分別のやうに薬湯 
617 踊る時には袖が魂 
618 雪の寒を止んで覚える 
619 新らし過て凄い売家 
620 橙一つなはしろへうく 
621 稲葉の雲の中を鑓持 
622 降初し日は遠い事五月雨 
623 町内の月額青き死光り 
624 箸の先から見える光陰 
625 まだ主の紋を着て居る草の庵 
626 曾我の泪を目黒でも泣く 
627 めでたい役は鶴の預リ 
628 氷のうへに外科の挑灯 
629 死ぬと忽ち人の金蔵  
630 肘枕我身代ははなれもの 
631 おこりの落ぬうちは丸腰 
632 三つ櫛のみつれば欠る十二月 
633 菊畑他人の蔵の雨雫 
634 寒声も何ぞに腹の立た時 

635 凱陣済んで後家の捨売 
636 息で重りを付る羽子のこ 
637 ゆめの世ながら人は寐道具
638 顔を見て居る琵琶の始り 
639 敷金の礼も言たき新まくら 
640 玉手箱仕廻ふ時には皺だらけ 
641 九年の陣へ見廻ふ女房 
642 暦で尻を扣く仲人 
643 水干をのれんに掛る八重葎 
644 結納の済んだ迄の我せこ 
645 寐てか覚てか民の前帯 
646 枇杷柊花の寒を言ひ合 
647 不足を隠す娵の白粉 
648 立身をしてかるい履物 
649 夜着や枕は恋の下草
650 歌ぬす人は大がらな人 
651 あたつて銭の戻る三絃
652 伊達過て小町はもたぬ緋縮緬 
653 神楽のうらへ廻るさむらひ
654 葬礼の翌へ延して欲がしれ(あす) 

655 星二つ三つ雨もりの伊達 
656 傾城の遠い思案も遠からず 
657 うそ兀て後ろ合に夜か明け(はげて、あわせ) 
658 和尚の肝を咄す末の子 
659 かぐらをのこの細い衿元 
660 千鳥は立て残る赤椀 
661 埃リをはたく儒者の大声 
662 聟へ盃戻る横雲 
663 むかふ近江へ見せる稲妻 
664 道具屋に逢ふ若竹の道 
665 箪笥の多い鍛冶の六月 
666 明荷の馬へまわる金剛 
667 生延て子に呵らるゝつまみ喰
668 百日紅も通ひ路の数 
669 傾城に笑れに行く主おもひ
670 高尾が舌もまわる大年 
671 西の河原を親の足早 
672 頂戴したる若殿のうそ 
673 毒は廻りの早い借金 
674 地震の跡の箸も一本 

675 五人組から娵を見始め  
676 白禿計残る飯台  (しらくも、ばかり)  
677 我ほどの茂みの下に八から鉦  (やからがね) 
678 かな聾に蛇骨掘まけ  (つんぼう)
679 反から先へ習ふ鐘撞  
680 ぬすみおほせて初のきのえね  
681 御仕着の下駄を親父に盗れる   
682 鼻を大事にせいと遺言  
683 馬も立派に歩行く朔日 
684 二心ないと思へば足の跡 
685 十月の空を見て居る物貰 
686 影法師にも蔵はよいもの 
687 鮓桶のきのふにけふは投出され 
688 付ざしも七合入はちから業 
689 松明の手元でもえる山かづら 
690 あたりの飯のすゑるとぶらひ 
691 江戸の余波の山帰来呑む 
692 青山からも近いよしはら 
693 をとこの中にすたるうたゝ寐 
694 赤子の鼻を誉る座のしほ 

695 物にかゝりの突出しを買 
696 たいこの顔の残る墨染 
697 時あかり女心をよろこばせ
698 瘧あげくの損をした顔 (おこり)
699 垣間見に美し同士の湯がこぼれ 
700 妻の出立に余所目して居る 
701 兵庫の命室へ着く船 
702 稲妻にその気の付ぬ門田守 
703 焦るゝと云ふ人の夕ぐれ 
704 看板を見ても入歯の哀也 
705 仮名で書せる鴛の売上げ 
706 橘町に夜昼の顔 
707 国家老日は赤々と太夫買 
708 惣身を耳とおもふ当言
709 刈人の丈も五尺のあやめ草
710 湯屋の二階は侍の物
711 鯲を提て田の中を行 (どじょう)
712 蠅をうつして代る関守
713 冬の牡丹の魂で咲く
714 きのふけふ起請の指の冷えて居る

715 無い歯を鳴らす百日の行
716 あぶながらるゝ商人の衆
717 真向な顔の多い入舟

俳諧武玉川初篇 終

二篇

※推奨サイト:武玉川を歩むさん

0 件のコメント: