2008年3月8日土曜日

芭蕉の新式とは(二)

芭蕉の遺品にある新式とは、連歌の式目で以下の三つのうちのどれかだろう。
 
1、二条良基『連歌新式』(応安新式)  1372年
2、一条兼良『連歌新式追加並新式今案』 1452年
  (1+表十句の禁則、連歌初学抄追加)
3、肖柏編『連歌新式追加並新式今案等』 1501年
  (2+和漢聯句の式目追加)

三冊子(しろさうし)によれば、
「俳諧の式の事は連歌の式より習て、先達の沙汰しける也。連歌に新式有り。追加ともに二条良基摂政之を作る。今案は一条禅閤の作。この三つを一部としたるは肖柏の作と也。連に三と数あるものは四とし、七句去ものは五句となし、万ず俳諧なれば事をやすく沙汰しけると也。今案の追加に漢和の法有り。是を大様俳諧の法とむかしよりする也。貞徳の差合の書その外その書世に多し。その事をとへば、師信
用しがたしと云り。」とある。

以上から、芭蕉の新式とは、3の肖柏『連歌新式追加並新式今案等』であり、芭蕉はこれを座右に置いて使っていたと思われる。新式書入とあるので注釈がびっしり書き入れられていたのだろう。

東明雅『連歌入門』に「俳諧の式目は連歌の一種である和漢聯句の式目を踏襲したもので、本式の連歌のそれにくらべて随分ゆるやかなものになっている。」とある。この和漢聯句の式目とは三冊子の言う漢和の法と同じものを指すと思われる。

○和漢聯句の式目
肖柏編『連歌新式追加並新式今案等』から抜粋する。(注:本来聯句とは中国発で漢詩句を連ねるもの。漢詩句と和歌の上句/下句(和句)を混在させたものを、発句が漢詩句なら漢和聯句、発句が和句なら和漢聯句と呼んだ。漢詩句の字数は五字が普通で七字などもある。)

 和漢篇
一 大概法可用連歌式目事
  (たいがい法は連歌の式目を用うべきこと。)

一 和漢共以五句為限 但至漢対句 可及六句事
  (和漢とも五句を以て限りと為す。ただし、漢を対句に至すは六句に及ぶべき
   こと。)

一 景物草木等員数 和漢可通用事 但 雨 嵐 昔 古 暁 老等之類 和漢各
  可用之
  (景物草木などの員数は和漢に通用すべきこと。ただし雨嵐昔古暁老などの類
   いは和漢おのおのこれを用うべし。)

一 同季 可隔七句
  (同季は七句隔つべし。) 

  同字並恋 述懐 可隔五句 同連歌式
  (同字ならびに恋、述懐は五句隔つべし。連歌式と同じ。)

  自餘隔七句之物 可隔五句 月与月之類也
  (自余(じよ:そのほか)七句隔つものは五句隔つべし。月と月の類いなり。)

  隔五句之物 可隔三句 山類与山類 水辺与水辺 木与木之類 日与日 風与
  風猶同字嫌物也 
  (五句隔つものは三句隔つべし。山類と山類、水辺と水辺、木と木の類い 日
   と日、風と風なお同字を嫌うものなり。)

  隔三句之物 可隔二句
  (三句隔つものは二句隔つべし。)

  嫌打越之物 同連歌式目
  (打越を嫌うものは連歌式目に同じ。)

一 山類 水辺 居所等 不可有躰用之分別事
  (山類、水辺、居所など体用の分別は有るべからず。)


同季の七句去りを五句去りに緩めれば、『連句入門』と『十七季』に記述されている去り嫌いとほぼ同じになる。芭蕉が蕉門としての式目を書き下ろさなかった理由の一端をみたような思いがする。芭蕉は俳諧の式目のベースとして、これで十分と思ったに違いない。そして運用上での違い等を注釈として書入れていったのだろう。それをこそ見てみたいものだが。

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