2008年3月23日日曜日

西行の連歌



西行が詠んだ連歌が数句、西行の家集『聞書集』と『聞書残集』の中に残っている。すべて短連歌で一首の和歌の上句と下句を親しい友人と唱和したものである。

『聞書集』

       上西門院にて、わかき殿上の人人、兵衛のつぼねにあひ申
       して、武者のことにまぎれてうたおもひいづる人なしとて、
       月のころうたよみ連歌つづけなむどせられけるに、武者の
       こといできたりけるつづきの連歌に
 228  いくさをてらすゆみはりの月

       伊せに人のまうできて、かかる連歌こそ兵衛殿のつぼねせ
       られたりしか、いひすさみてつくる人なかりきとかたりけ
       るをききて
 228  心きるてなるこほりのかげのみか


       かくてものがたり申しつつ連歌しけるに、あふぎにさくら
       をおきてさしやりたりけるをみて     家主顕広
 245  あづさゆみはるのまとゐに花ぞ見る

       とりわきつくべきよしありければ
 245  やさしきことになほひかれつつ


『聞書残集』
       かくて靜空・寂昭なんど侍りければ、もの語り申しつつ
       連歌しけり。秋のことにて肌寒かりければ、寂然までき
       てせなかをあはせてゐて、連歌にしけり
 14  思ふにもうしろあはせになりにけり

       この連歌こと人つくべからずと申しければ
 14  うらがへりつる人の心は

       後の世のものがたり各々申しけるに、人並々にその道に
       は入りながら思ふやうならぬよし申して    靜空
 15  人まねの熊野まうでのわが身かな

       と申しけるに
 15  そりといはるる名ばかりはして

       雨の降りければ、ひがさみのを着てまで來たりけるを、
       高欄にかけたりけるを見て          西住
 16  ひがさきるみのありさまぞ哀れなる  

       むごに人つけざりければ興なく覺えて
 16  雨しづくともなきぬばかりに

       大原にをはりの尼上と申す智者のもとにまかりて、兩三
       日物語申して歸りけるに、寂然庭に立ちいでて、名殘多
       かる由申しければ、やすらはれて
 18  歸る身にそはで心のとまるかな

       まことに今度の名殘はさおぼゆと申して    寂然
 18  おくる思ひにかふるなるべし

       いまだ世遁れざりけるそのかみ、西住具して法輪にまゐ
       りたりけるに、空仁法師經おぼゆとて庵室にこもりたり
       けるに、ものがたり申して歸りけるに、舟のわたりのと
       ころへ、空仁まで來て名殘惜しみけるに、筏のくだりけ
       るをみて                  空仁
 22  はやくいかだはここに來にけり 

       薄らかなる柿の衣着て、かく申して立ちたりける。優に
       覺えけり
 22  大井川かみに井堰やなかりつる

       かくてさし離れて渡りけるに、故ある聲のかれたるやう
       なるにて大智勇健、化度無量衆よみいだしたりける、
       いと尊く哀れなり
 23  大井川舟にのりえてわたるかな

       西住つけけり
 23  流にさををさすここちして

       かへりごと申さむと思ひけめども、井堰のせきにかかり
       て下りにければ、本意なく覺え侍りけむ。 京より手箱
       にとき料を入れて、中に文をこめて庵室にさし置かせた
       りける。返り事を連歌にして遣したりける    空仁
 26  むすびこめたる文とこそ見れ

       このかへりごと、法輪へまゐりける人に付けてさし置か
       せける
 26  さとくよむことをば人に聞かれじと


参考文献:聞書集 聞書残集

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