2014年9月7日日曜日

【満尾】第五千句第三百韻『この道や』の巻


                      百韻『この道や』の巻   
                                                                                  2014.9.7〜10.14

発句  この道や行く人なしに秋の暮      芭蕉  秋
脇     森の奥より小牡鹿の声       野茨  秋  さおじか
第3  月影の茅舎にはかに輝いて       杜角  秋月
4     酒を土産に遠来の友        春蘭     みき
5   笊碁にて長考しても手は同じ      曙水
6     運を任せて引く阿弥陀籤      草栞
7   進級後初の席替へ盛り上がり       茨  春  
8     桜吹き入れ窓辺明るし       里代  春

9   四月馬鹿来賓祝辞次々と         水  春
10    ところえらばぬ居眠りもわざ     角       
11  ビル街の公園もこむ昼休み        蘭
12    今年の夏は晴れの少なし       茨  夏
13  狂言の舞台想はす蝸牛          栞  夏
14    てくてく句碑をめぐる鎌倉      角
15  切通抜けて日向に梅二輪         水  春  きりどおし ひなた
16    つなげばぬくし白ききみの掌     蘭  春恋
17  陽炎の身をひとすじに貫いて      真葛  春恋
18    ボーカロイドの歌姫の恋       代  恋
19  職人の技も終には見破られ        栞
20    忘れ花咲く聖堂の門         水  冬花
21  同窓会みな何かしら若づくり       茨
22    シェフの手元にしばし見惚るる    代
二オ
23  赤子抱くネイルアートにラメ光り     水
24    なびく幟の褪せし紺色        葛
25  名物のほうとう旨し甲州路       阿紗
26    落ち穂拾ひの人は何処に       栞  秋
27  やまもとに点る家の灯雁のこゑ      角  秋
28    子らの帰宅をせかすゆふ月      蘭  秋月
29  釣り堀によもや坊主はをらぬらん     茨
30    柳の下でする待ち惚け        水  春
31  空へ漕ぐ負けず嫌いの半仙戯       代  春
32    ひばりの名乗り耳鳴りのごと     角  春
33  行きずりのジャムセッションも興に入り  栞
34    無料のティッシュ受け取らぬ人    水
35  ともかくも買ひ出しに出る年の暮     蘭  冬
36    秘伝のたれで囲む鱈ちり       紗  冬
二ウ
37  パンドラの箱は今宵も閉ざされて     代
38    銀箔押しの抱一の櫛         水
39  芸術は眼とこころとの保養なり      茨
40    裸身眩き騎上のGODIVA       栞
41  貴婦人と呼ばれし樺に逢いにゆき     水
42    霧のヴェールにかすむみづうみ    角  秋
43  尾根に出て視界ひらけり秋の富士     蘭  秋
44    娘かたづき風の身に入む       茨  秋
45  望の月肩を寄せ合う道祖神        水  秋月
46    旅立つ前に外す表札         栞
47  みちのくに遊行詩人の跡追つて      蘭
48    蕎麦街道を吹きすさぶ東風      角  春
49  愛車駆り花の名所を見て回る       茨  春花
50    千社札買ふ春の夕暮         代  春
三オ
51  頃合を量りてそつと手をつなぎ      栞  恋
52    はまかぜ揺らす亜麻色の髪      蘭
53  名を馳せた陸サーファーも夢のあと    水     おか
54    孫に翻弄されてへとへと       角
55  就活の次は婚活春疾風          水  春
56    一段目だけ飾る雛壇         茨  春
57  納税期済まぬと他事は手に付かず     角  春
58    昼飯代はり二個の草餅        蘭  春
59  フランスに行きたき思ひ褪せぬまま    葛
60    マフラー巻いて通ふ名画座      栞  冬
61  そそくさと独りで済ます冬至粥      代  冬
62    視力あやしき目にも月冴ゆ      角  冬月
63  PCは2時間ごとに休むべし       茨
64    思わくはずれ今日の円高       水
三ウ
65  ケチ徹しハワイ旅行の旅費浮いて     蘭
66    人生はじめて食すスッポン      角
67  いつになく精気漲る夏の宵        栞  夏
68    仕立下ろしの浴衣嬉しき       代  夏
69  遠く聴く祭囃子に胸躍る         茨  夏
70    後家となりにし初恋のひと      角  恋
71  教科書に書いた相合い傘ばれて      水  恋
72    ピタゴラスでも解けぬ難題      葛
73  見上げても形わからぬ大宇宙       蘭
74    受賞の行方神のみぞ知る       栞
75  ねらふほどなかなか来ない本命よ     茨
76    嫦娥逃げゆく皆既月蝕        水  秋月
77  返杯を遠慮せぬ妻花灯籠         角  秋花
78    はららご飯に膝を崩して       葛  秋
名オ
79  出張の収支たいてい赤字なり       蘭
80    給湯室で淹れるブラック       茨
81  プレゼンは先手必勝リハーサル      代
82    弾む会話で決まる合コン       角
83  玉の輿ならよろこんで婿養子       茨
84    営業トーク職業病で         水
85  一族の多さ実感する法事         蘭
86    今ふた度の十三夜待つ        栞  秋月
87  触れもせでほろほろ落つる小紫      角  秋
88    細水指で風炉名残茶事        代  秋
89  松虫に足の痺れをからかはれ       水  秋
90    師匠めあてに小唄手習ひ       茨  恋
91  プロフィール写真内緒で壁紙に      栞  恋
92    ハートおねだりはまるツムツム    蘭
名ウ
93  禍をくぐり生きてるだけで儲けもん    角    か
94    それにつけてもはやき月日よ     茨
95  花粉症ひとより先に春を知り       角  春
96    君に留まりし蝶を羨む        水  春恋
97  畑を打つ嫁御はマキシワンピ着て     紗  春恋
98    命授かり心うららか         栞  春
99  ひま人と花の陣取り命じられ       蘭  春花
挙句    はや色に出るワンカップ酒      茨

経過は#jrenga
連歌懐紙版 PDF

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目
貞享式海印録
付け転じ方
写真借用はフォト蔵さん

2014年7月9日水曜日

【満尾】第五千句第二百韻『炎昼の』の巻


                      百韻『炎昼の』の巻   
                                                                                  2014.7.9〜8.8


発句  炎昼の女体のふかさはかられず     楸邨  夏 
脇     しぐさもゆかし路地の打ち水    春蘭  夏
第三  いつきても飽きることなき古都の旅   野茨
4     杉玉みれば試飲三昧        杜角
5   はいはいと医者の忠告聞き流し      蘭
6     徹夜の読書もはや有明        茨  秋月
7   虫時雨おのづとそなふハーモニー     角  秋
8     運動会の迷子呼び出す       里代  秋

9   道ばたに鼻をくすぐる露店出て      蘭
10    かすみ立ち籠む梅林の里       茨  春
11  早々と雛をしまふも縁遠く       曙水  春
12    春眠さめて二度寝する日々     真葛  春
13  弁当を持たせキッスで送る主       角  恋
14    鬼の居ぬ間の個人レッスン     草栞  恋
15  サッカーのプロにするのが親の夢     茨 
16    千手観音汗し眺むる         代  夏
17  帰省子を責めるが如く鳴く杜鵑      蘭  夏  
18    水場にかかる細き夏月        葛  夏月
19  ゆふさればさわさわ風にさやぐ葦     角
20    散歩も犬で様になりたり       茨
21  まっ盛り心は花に浮き立ちて       蘭  春花
22    都踊にそぞろ繰り出し        栞  春
二表
23  恋はさが身は老いぬれどいまだ春     角  春恋
24    抱かれし日々波のごとくに      代  恋
25  戦争を知らぬ孫子は勇ましく       葛
26    行進曲はAKBで          水
27  人生は明日へ続く長い道         茨
28    苦があってこそ深きよろこび     蘭
29  頂きは視界さえぎるものもなし      角
30    自分撮りして呟くが趣味       水
31  一番の美女探し出す魔法にて       栞
32    林檎を齧る口も可愛く        代  秋
33  ござ敷いて秋の野遊びはしゃぐ子ら    茨  秋
34    千草の花を冠に編む         角  秋
35  ふるさとをふと思はする眉の月      蘭  秋月
36    嫂と云ふ気にかかる人        葛
二裏
37  道ならぬ恋の話に盛り上がる       代
38    懲りずうはきの虫のうごめく     茨
39  道具屋に蚊遣りの豚を値引かせて     水  夏
40    一服がてら茶屋で白玉        角  夏  
41  かまくらや梅雨の合間の空を鳶      蘭  夏
42    あるかなきかの薄物の縞       代
43  黒髪のみだれつくろふ後朝に       茨  恋
44    金釘流の文の恥づかし        葛  恋
45  真贋の鑑定めぐり論争す         栞
46    遺産相続無いなりにもめ       角
47  銀行の窓あかあかと年の暮        代  冬
48    月に誘はれつっかけで出る      蘭  冬月
49  唐橋のたもとに揺れる花万朶       栞  春花
50    ふらここに乗り天に近寄る      水  春
三表
51  少女らのほつれ毛なでて風光る      茨  春
52    若さは特権今を悔ひなく       角
53  熱弁も正論もみな呑みしヤジ       葛
54    澄まし顔にて呉越同舟        栞
55  離婚すらできずに家庭内別居       蘭
56    そぞろ身に染む須磨の秋風      代  秋
57  遥かなる都や月は同じくも        角  秋月
58    隣街から秋祭りの音         水  秋
59  清貧の膳には贅か菊膾          茨  秋
60    つい過ごしがち旧友との酒      蘭
61  長ばなし相槌打つて聞き流し       角
62    手術中のランプ見守る        水
63  キューを出す頃合い計る助監督      栞
64    いつしか異名アメフラシとや     茨
三裏
65  デートには小雨はむしろ好ましき     蘭  恋
66    月さまと呼ぶ声も朧に        代  恋春
67  睡魔きてあことねころぶ花むしろ     角  花春
68    そつと近づく雀の子居て       栞  春
69  神ほとけ人をいざなふ慈悲の道      茨
70    標本箱に並ぶ斑猫          水  夏  はんみょう
71  夏休み自由研究親がやり         蘭  夏
72    新旧不問ゴジラ対決         葛
73  非日常こそ日常のカンフル剤       角
74    BGMはハリーポッター       代
75  コンピュータ相手のチェスで苦戦する   栞
76    地道に歩む出世街道         水
77  報・連・相休まず遅れず働かず      茨
78    民族移動盆の月見て         代  月秋
名表
79  幾山河つまとこえきし夏の果       蘭  秋
80    声をかぎりにひぐらしのなく     角  秋
81  子規庵の大鳥籠も露に濡れ        栞  秋
82    ぬしなき庭を飾る鶏頭        茨  秋
83  おもひ断ちタンスの肥やし捨てにけり   角
84    修道院になどかあくがる       代
85  ははこひしうきぐもひとつゆくみそら   蘭
86    残りめしにておかかおにぎり     角 
87  勉強は自立のためと心得て        茨
88    窓の雪見て穴ごもりする       栞  冬
89  榾の火にじつとみいれば時忘れ      蘭  冬
90    今さらながら不倫小説        葛
91  十六夜の月やちまたのさんざめき     角  秋月
92    光悦垣に紅葉散り敷く        代  秋
名裏
93  露の身をあたら死闘に明け暮れて     茨  秋
94    岨の枯木に何を孤鴉なく       蘭    こあ
95  故郷の塒を後に三度笠          栞
96    どうやら嵐去りししののめ      角
97  太公望間隔たもち並びをり        茨
98    池の土手には土筆群ら立つ      蘭  春
99  城あとに花爛漫と咲き匂ひ        角  春花
挙句    見立てをかしき山の雪形       茨  春


※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目
付け転じ方
写真借用はフォト蔵さん

2014年5月29日木曜日

夜の寝覚 末尾断簡発見される 翻刻トライ!




しらざりしやまぢの月をひとりみて
よになき身とや思ひいづらんとのみながめ
いりたまふに女三宮いとうつくしうもの
おもひしりおよすけ竹(?)つくははの女御の    
御ことおぼしいづるなめりおほどかにうちなが   
めいでてつゆけくなる御袖の気宮もいみ
じくらうたげなるにかくこそはたれも
おぼしいつしぬと思ひやるにさへいとどながめ
いづるにつけてもなつかしくうちかたらひ
かかる人もおはせざらましかはとおもふにも


およすけ   大人びる、老成する。
なめり    であるようだ。
おほどか   おおらかだ、おっとりしている。  
らうたげなる かわいらしい、いじらしい。

2014年1月7日火曜日

【満尾】第五千句第一百韻『松すぎの』の巻


                      百韻『松すぎの』の巻   
                                                                                  2014.1.7〜2.16

発句  松すぎのはやくも今日といふ日かな   万太郎 新年  
脇     ふくら雀の集ふ陽だまり      春蘭  冬
第3  待合の席和みたる大茶会        草栞
4     やゝ酒気帯びて口もなめらか    野茨
5   話すたび逃がした魚成長し       真葛
6     にはかに夕霧たち籠める川      蘭  秋  せきむ
7   月見んと駿馬を駆りて目指す丘      栞  秋月
8     世に打つて出る秋は今ぞや      茨  秋  とき

9   呟いてあっと言ふ間の流行語       葛
10    相変らずの御用新聞         栞
11  支持率の世論調査のうたがはし      蘭
12    嫌よ嫌よの空気読めずに      曙水
13  押せば引く引けば押し来る女波      茨  恋
13  自らの台詞に酔ひて愛捧ぐ        栞  恋  
14    目瞑りてさすルージュ完璧      葛  恋
15  プレゼンのイメリハ済ませ不安消え    蘭
16    営業ゑがお板につく頃        水
17  村おこし都市の祭りと交流し       蘭  夏
18    B級グルメ帰省土産に        栞  夏
19  駅ナカはコンビニ超えてモール化す    茨
20    目にまぶしきや春のよそほひ     蘭  春
21  いつの世も立ち去り難き花のもと    ね子  春花
22    蓬摘みつつしのぶ亡き人       茨  春
二オ
23  悪童の灸すえられし語り草        葛
24    詮なきことに波瀾万丈        栞
25  引退後即出版の手際良さ         水
26    次から次とアイドルユニット     茨
27  流行は追はず知らぬ間流されて      蘭
28    あなたに染まれ選ぶ白無垢      水  恋
29  ふたごころ隠し切れずになみだ色     葛  恋
30    いかにいくべき浮舟の身は      茨
31  清教徒海原を越え大陸へ         栞
32    家族は勇気出づる源泉        蘭
33  七五三母が一番写り良く         水
34    から風吹けば雲は離れて       栞  冬
35  ひとり寝の布団に差せる月の影      葛  冬月
36    くしゃみをしてももどる静寂     茨  冬
二ウ
37 「やっほー」の「ほー」の形の口のまま   ね
38    ムンクに会いに渡るこの橋      水
39  人形の家捨て去りし女あり        栞
40    だれも人生書けば小説        茨
41  忘却は過去の美化には都合よく      蘭
42    チーズと云ひてVサインする     葛
43  同窓会ビンゴゲームで大当たり      茨
44    注目される括弧旧姓         栞
45  マンネリに飽きて手書きで年賀状     蘭  新年
46    ヘタウマ御免豚に似た馬       葛
47  新妻の手料理すべて創作で        水
48    蓙に陣取る丘の若芝         茨  春
49  花開く時を謳歌の果てもなし       栞  春花
50    捲土重来期して春眠         葛  春
三オ
51  世を忍ぶ仮の姿は陶芸家         茨
52    茅葺き民家で手打ちそば店      蘭
53  わが夢に妻おいそれと乗つて来ず     茨
54    リケジョにレキジョ多忙女子増え   水
55  デートでは話題もネットで下調べ     蘭  恋
56    ハネムーンの地に思はざる危機    葛  恋
57  襲撃の疑惑は永遠に闇の中        栞
58    山葵ひそりと隠し味にて       水  春
59  だめ元で手はみな試す花粉症       茨  春
60    かすめる月や昼のねむたさ      蘭  春月
61  大戸より入りし物盗り誰も見ず      葛
62    拍子抜けするビフォア・アフター   栞
63  原作を変へて感動なき映画        茨
64    柳の下に二匹めは居ず        水  夏
三ウ
65  端居して財布重たき客を待つ       ね  夏恋
66    汗さえ見せぬ白きうなじに      水  夏恋
67  紫のゆかり想ひて涙する         栞  恋
68    古典熟読寿大学           茨
69  かはらない若さの秘訣好奇心       蘭
70    血気盛んな相棒の範         栞
71  キャッチャーのサイン通りに球しずみ   水  夏
72    無欲が招く巨額契約         葛
73  リニア線過疎地ばかりを縫つて敷き    茨
74    障害物越ゑスノーボーダー      水  冬
75  氷上で聴き初む曲に翳ありて       栞  冬
76    ラジオかけつつ日永釣する      蘭  春
77  みづどりの澪をひきゆく花筏       茨  春花
78    あの世へ向かふ遍路道なり      ね  春
ナオ
79  あん住を打ち破り出て草まくら      蘭
80    お任せツアーは実にお気楽      茨
81  懐メロについ釣り込まれ唱和して     蘭
82    思はず腕を組んで睨まれ       栞
83  心せよここはウォールストリート     葛
84    山出しなれば宵越しの銭       水
85  国産の木材の良さ見直され        茨
86   「手に職つけろ」親の口癖       蘭
87  代々の田に水張り終ゑて映る月      水  夏月
88    蒲の穂ゆれてサヨナラを言ふ     ね  夏
89  ハンカチをそつと渡して汽車に乗り    栞  夏恋
90    おぼつかなしや末の変心       茨  恋
91  余計なる選挙昨今はやりをり       蘭
92    威信かけるも受くる冷笑       栞
ナウ
93  野良犬が街の通りにたむろして      茨
94    育ちの良さは隠しおおせず      水
95  ゴミ出しに背筋のばして令夫人      蘭
96    遠く白富士風光る坂         茨  春
97  入日差す愛宕の山に奴凧         栞  春
98    故郷おもへば鐘朧なる        蘭  春
99  身を任し川面たゆたふ花見舟       茨  春花
挙句    畔の柳新芽美し           蘭  春

・・・経過は#jrenga

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目
付け転じ方
写真借用はフォト蔵さん

2013年11月7日木曜日

【満尾】第四千句第十百韻『つくづくと』の巻


                      百韻『つくづくと』の巻   
                                                                                  2013.11.7〜12.12

発句  つくづくともののはじまる火燵かな   鬼貫 冬
脇     時雨るるさきに街へ買出し     春蘭 冬
第3  山茶花の垣を曲れば散歩犬       草栞 冬
4     馴染みとなりて掛けるひと声    真葛
5   行列が行列を呼ぶラーメン屋      野茨
6     つるべ落しに迫る夕闇        栞 秋
7   月と酒どつちと言へぬ友にして      蘭 秋月
8     霧の向かうに独り身の家      ね子 秋

9   こりもせず一人相撲の片おもひ      茨 恋
10    消えかかる炎に反故の恋文      葛 恋
11  受験より大切なもの今はなし       ね 
12    スマホ世代も占いが好き      曙水
13  LINEして親子関係良好に       茨
14    げにむつかしき以心伝心       栞
15  噂して七十五日里の村          葛
16    風吹きやんでのぼる炊煙       蘭
17  ちり鍋を囲む奉行の睨み合ひ       栞 冬
18    勝ちし力士の肌に湯気立ち      水 冬
19  満場は総立ち拍手なりやまず       茨
20    記憶は春の雨の場所取り       ね 春
21  川沿ひの花のトンネル往き戻り      蘭 春花
22    雲雀囀るホワイトハウス       栞 春
二オ
23  とりにくさのりこえ有休消化して     茨
24    南の島でゴーギャンの真似      葛
25  探すなよこころの中にユートピア     茨
26    吾児の寝顔にゆるむ口もと      蘭
27  朝は妻昼は上司にどやされて       ね
28    満月の夜の変身願望         栞 秋月
29  長き夜に中島みゆき独り聴き       水 秋
30    山のやうなるピーナツの殻      葛 秋
31  老いて食細いながらも秋渇        蘭 秋
32    はかりに乗つて一喜一憂       茨
33  釣り宿に更新記録の魚拓貼る       水
34    目を見張ること多き旅先       ね
35  レートなどお構ひなしに爆買ひす     葛
36    おもへば遠しバブル時代よ      茨
二ウ
37  行く川の流れは絶えず浮葉舟       栞 夏
38    決められぬままふたまたの恋     蘭 恋
39  涙ぐみ悲劇の女演じ切る         葛 恋
40    輝く星となりし魂          栞(恋)
41  なきひとをふと思ひ出すゆふの鐘     茨
42    親の苦労を親となり知る       蘭
43  放蕩の末の棲処の有難き         栞
44    ことこと煮立つ芋粥の鍋       葛 秋
45  すさまじき山家のそらに澄める月     茨 秋月
46    庭の浅茅にすだく蟋蟀        蘭 秋
47  来客のなき日曜はワイン風呂       ね
48    ヨガで瞑想うららかな午後      栞 春
49  ひらりひら花びらひらりひらひらり    茨 春花
50    池に残りし鴨の水尾曳く       蘭 春
三オ
51  そぞろなり都踊りの近づきて       葛 春
52    本番備へ着付け練習         茨
53  撮影の合間に食べるカツサンド      栞
54    NGだけでスペシャル作り      水
54    メイク早いも売れっ子の技      水
55  呼び物は伊達の十役早変はり       蘭
56    一期一会の一世一代         栞
57  わが庵で茶会はじめて主催して      茨
58    すわ引っ越しと騒ぐ店子ら      水
59  恬として噂のぬしは頬被り        葛
60    邪魔されやすき色恋の道       茨 恋
61  野茨を手折りて気づく愛の不義      栞 夏恋
62    ゲーテとギョーテ和解せしとや    葛
63  悩むとも外にいでよと春の月       水 春月
64    田は水たたへ蛙鳴き初む       蘭 春
三ウ
65  名にし負ふ高嶺は雪や里桜        茨 春
66    世界遺産に挑む人びと        ね
67  とりあへずゆるキャラつくる町おこし   蘭
68    大志抱かずめざすB級        水
69  ながらへば埴生の宿もまた楽し      栞
70    ハモニカの音すこし上達       葛
71  一列に並んで歩く七五三         ね 冬
72    カルガモ親子フラッシュに慣れ    水 夏
73  緑陰がオアシスつくるオフィス街     茨 夏
74    手つき見事にワープロを打つ     葛
75  自分史をものせん履歴書まづ書いて    蘭
76    夜明け前より霞立ちたる       栞 春
77  三輪山の裾野をたどり花遍路       水 春花
78    八十のちまたに萌える若草      茨 春  やそ
ナオ
79  ロリータと名付く娘の稚けなさ      葛
80    あひあひ傘に描かれ赤らむ      蘭 恋
81  濡れ事を隠す暇なく広まりて       栞 恋
82    秘密保護法ねがふ面面        葛
83  せいじかのきょうみ利権と保身のみ    茨
84    庶民はいつも質素倹約        蘭
85  新聞は折込チラシがあんこにて      茨
86    食傷気味の父の説教         ね
87  なんやかや実家に帰り愚痴を言ひ     蘭
88    ふらりと出れば肌寒き野良      茨 秋
89  さやけくも木の間にのぞく十三夜     蘭 秋月
90    ひとり筆持ち染みる虫の音      水 秋
91  夢に見た文学賞は夢のまま        葛
92    遥けき希み神のまにまに       栞 
ナウ
93  堕ちてみて知ることもあり恋の淵     水 恋
94    またぞろもたぐ浮気ごころよ     茨 恋
95  会社ってそとみなかみは違ふもの     蘭
96    偽りのある是は早く朽ち       蛉
97  誤表示の白状をさまる気配なし      茨
98    やけに羽音の耳につく虻       蘭 春
99  喧噪をよそに天園花盛り         栞 春花
挙句    水平線の霞むわだつみ        茨 春

・・・経過は#jrenga

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目
付け転じ方
写真借用はフォト蔵さん

2013年9月7日土曜日

【満尾】第四千句第九百韻『蕎麦はまだ』の巻


                      百韻『蕎麦はまだ』の巻   
                                                                                  2013.9.7〜10.21

発句  蕎麦はまだ花でもてなす山路かな    芭蕉  秋
脇     峡の朝霧かすむ富士ヶ嶺      春蘭  秋
第3  ありあけに浅きゆめからふと覚めて   野茨  秋月
4     重陽の菊まずは一献        曙水  秋
5   五輪書を紐解き初心忘れまじ      草栞
6     還暦を機に飛び回る妻        蘭
7   追ひかける亭主の財布羽根生えて    真葛
8     ぴくりと動く梟の耳         栞  冬

9   浮世床うはさ話に花が咲く        茨
10    つけっぱなしのテレビちらちら    蘭
11  灰燼に帰せるタワーの残像か       栞
12    西に東に奔る大国          葛
13  二十一世紀もすでに十余年        蘭
14    みんなうつむきスマホいぢくる    茨
15  通学の憧れ王子やや寝癖         水
16    想ひを込めて落とすハンカチ     栞  夏恋
17  過去の恋また蘇るクラス会        茨  恋
18    茶々入れられて縒れしスピーチ    蘭
19  花見とて上司が居れば仕事にて      茨  春花
20    抜き打ち監査終へる朧夜       栞  春
21  山独活を芥子きかせた酢味噌和へ     蘭  春
22    長途の墓参も食の楽しみ       茨
二オ
23  海上の都に眠る作曲家          栞
24    四季をりをりに魅せる趣き      茨
25  遠距離の逢瀬を京で重ね来て       蘭  恋
26    失楽園の露と散りぬる        栞  秋恋
27  夢見じと酔はじと知りて濁り酒      葛  秋
28    小町も勝てぬ老いの秋風       茨  秋
29  幾千年かはらず光る望の月        蘭  秋月
30    孵化する命そつと育む        栞
31  歩数計数字かせぎに回る池        茨
32    画架立ち並ぶ定番の場所       蘭
33  手離せぬ懐炉たよりに待つ日の出     栞  冬
34    白らんだ息のかき消ゆる森      蛉  冬
35  緋袴にバイトの巫女もまざるらん     茨
36    鈴の音高く齢寿ぎ          栞
二ウ    
37  おめかしの馬コ引く馬子晴れがまし    蘭  夏
38    古本で見るパリ・コレの記事     葛
39  チョコレート色した染みは新しき     栞
40    旦那ゐぬ間のひるのママ会      茨
41  円満は互いに干渉しないこと       蘭
42    かたりかけそな仏像の笑み      茨
43  行き着かば希み叶ふやガンダーラ     栞
44    苦心の歌は舌足らずにて       葛
45  うぐひすのぐぜりをかしき竹のやぶ    茨  春
46    師の温情で卒業となり        栞  春
47  雲を得て伏龍天に昇るとや        蘭  春
48    おぼろ月にも影の仄見ゆ       葛  春月
49  石割の花の命の長からん         栞  春花
50    老眼鏡をふたつ重ねて        葛
三オ
51  積読を一念発起でよみ崩し        茨
52    資金不如意の休暇いただき      蘭
53  任せ切る安楽を知るバスツアー      茨
54    稲穂色づく豊穣のとき        蘭  秋
55  待宵に団子供へて縁を拭く        栞  秋月
56    少し派手目の秋袷着て        葛  秋
57  審美眼鍛へに上野の森へゆく       茨
58    ザックひとつでカスバ界隈      葛
59  わすれえぬきみのおもかげみにそへて   蘭  恋
60    熱きくちづけ分つ風花        栞  冬恋
61  ひなびたる湯宿埋もれん雪あかり     茨  冬
62    トンネル長しリハビリの日々     葛
63  介護ロボせめて相槌打てたなら      栞
64    生を佛にあづけ老い楽        蘭
三ウ
65  とりあへずなんでもかじる趣味三昧    茨
66    小節きかせてアリア熱唱       葛
67  当落の線上辺りひしめきて        栞
68    総選挙とはオタク商法        蘭
69  しかしまぁなべて日本は平和かも     茨
70    もうボケたかと連れの突っ込み    栞
71  阿と吽の区別つかぬもご愛嬌       葛
72    七福めぐり祈る開運         茨  新年
73  今年こそこころ入れ替へ肉断つて     蘭
74    骨の密度はいかにとやせん      栞
75  鱧捌く修業も月の法善寺         葛  夏月
76    待つ身にすれば永き短夜       茨  夏恋
77  ふくらみし花の蕾の初々し        蘭  春花
78    稚児のうぶ毛もそよぐはるかぜ    茨  春
ナオ
79  若駒の眼差しいつか荒らかに       葛  春
80    所領安堵の報せ巡りて        栞
81  ころころとブレていくのも処世術     茨
82    深く潜行大同団結          蘭
83  伝はりし皿鉢料理に舌鼓         栞
84    洗濯するは全自動にて        葛
85  古き良き昭和の不便さなつかしく     茨
86    掻いた落葉で作る焼き芋       蘭  冬
86    秋刀魚のけむりのぼる七輪      蘭  秋
87  みちのくの海はや秋の色深み       葛  秋
88    島影縫つて寄する月光        栞  秋月
89  野分過ぐ空気澄みきり夕あかね      茨  秋
90    淹れたて珈琲ほっと一息       蘭
91  ジョコンダのほほゑみの謎誰も触れず   葛
92    学生気分でオープン・カレッジ    茨
ナウ
93  何となく見覚えのある迷い猫       栞
94    下町情緒もとめ谷根千        蘭
95  買ひ喰ひで腹きつくなり昼は抜き     茨
96    嗚呼ややこしや8パーセント     葛
97  たまるのは嵩張る小銭ばかりなり     茨
98    近場の花を愛でてほろ酔ひ      蘭  春花
99  郎女の佳き日を前に暮遅し        栞  春
挙句    夕風かすか揺れるぶらんこ      葛  春

・・・経過は#jrenga

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目
付け転じ方
写真借用は八ヶ岳山麓清里から~杏荘便りさん

離檀と観音像

離檀した。更地にする費用として請求されるまま40万円を払った。墓を開けてみると骨はなく、首の折れた観音像があった。父が創ったものだろう。気持ち悪いと家族は言うが修復し床の間の茶道具の箱に収めた。

※ 水瓶(すいびょう)が徳利のように見えるので俗称酒買い観音と呼ばれるようだ。水瓶は如意瓶とも言い、仏の命の水/慈悲の聖水/汚れを払う霊水が入っていると言われる。

2013年6月3日月曜日

【満尾】第四千句第八百韻『押しあひて』の巻


                      百韻『押しあひて』の巻   
                                                                                  2013.6.3 〜 7.8

発句  押しあひて生つてゐるなる実梅かな   青邨  夏
脇     しとど青葉をつたふ五月雨     春蘭  夏
第三  家二軒由緒有りげに並びゐて      真葛
4     通学の子に仔犬離れず       曙水
5   お気に入り散歩コースは苑池まで     蘭
6     少し急がん秋の夕暮れ       ね子  秋
7   月光に色濃くなりし蒼い影       草栞  秋月
8     仁王立ちする野良の藁塚       蘭  秋

9   西へ行く臨時列車の客となる       ね
10    システム手帳チェックこまめに    葛
11  コーヒーで時間調整角のカフェ      蘭
12    思ひ乱れて「来る来ない来る」    ね  恋
13  夏薊思わず舐むる君の指        風牙  夏恋
14    高嶺を越えて雲の峰立つ       蘭  夏
15  ついすすりやはり噎せたり心太     野茨  夏
16    節介過ぎて煙たがられる       葛
17  鼻つまみ厄介者と扇がれて        蛉
18    所変はれば屑もアートに       栞
19  ひび割れも窪みもありて望の月      水  秋月
20    秋の夜空に花火儚し         ね  秋花
21  一人とて淋しからずや獺祭忌       栞  秋
22    コンビニで買ふ珍味いろいろ     葛   
二オ
23  嘘をつきコンパの誘ひ断つて       茨
24    首つたけなの年下の彼        栞  恋
25  アイドルが引退をせず卒業す       水
26    メディアに踊らされる民草      蘭
27  今でしょの株価は今日も乱高下      葛
28    明日への希望持つて生くべき     茨
29  健診で精密検査勧められ         ね
30    凩吹けば疼く古傷          栞  冬
31  なにもなき庭に趣が添ふ枯尾花      蘭  冬
32    壁の蓑笠ゆかし落柿舎        茨
33  熟年の婚活サイト覗き見る        ね
34    寝起きのまんまぬしテレビ漬け    蘭
35  朝ドラのヒロインともに泣き笑ひ     栞
36    喜怒哀楽が惚け防止なり       茨
二ウ
37  拾ひ来し子猫の世話に明け暮れて     蘭
38    野火の煙に季節知らさる       ね  春
39  残る雪駒形描く山の膚          茨  春
40    水も温んでどぜう顔出し       栞  春
41  雲ひとつない大空を鳶の笛        蘭
42    寝転びをれば浮かぶ楽想       葛
43  東軍に馳せ参じたる将もあり       栞
44    クラブのジャック切り札にして    水
45  カジノにて美女の気を引く技披露     茨  恋
46    澄ましカクテル作るバーテン     蘭
47  何ごとも甘さよろこぶ世を嘆き      葛
48    月に吼えれば朧なる顔        茨  春月
49  花よりと口遊みつつ松の陰        葛  春花
50    遍路の度に事件解決         栞  春
三オ
51  フェミニスト過ぎて未だに独り者     蘭
52    鏡に向かひおかめひょっとこ     葛
53  やれ茶会なんやかんやと妻出掛け     茨
54    二時間かけて探す爪切り       ね
55  徘徊の道に迷へば夜も更けて       栞
56    タクシー代はりに使ふパトカー    蘭
57  お隣の学歴偏重すさまじく        茨
58    名門塾に通ふ幼な児         蘭
59  投資とは資金を投げることなのか     茨
60    堂堂めぐり嫌気いや増す       葛
61  追うほどに葛きり逃げる箸の先      水  夏 
62    お忍びデート涼しげな月       栞  夏月恋
63  パパの恋ママに内緒にしてあげる     ね  恋
64    ただより高きものは無しとぞ     葛
三ウ
65  延命てふ清水はるばる汲みにゆく     蘭
66    定年待ってるキャンピングカー    水
67  憧れの風のガーデン眼の前に       栞
68    地に足着かぬ頼りなさあり      葛
69  襲名は興行を打つ名目よ         茨
70    慢心禁物日々の精進         蘭
71  後輩を育て仕事をぶん取られ       茨
72    単身赴任に惑ふ四十         蘭
73  音に聞く須磨の浦波月に映え       葛  秋月
74    芒の蔭に消ゆる落武者        栞  秋
75  大文字幾千万の魂鎮め          蘭  秋  
76    冷酒効いて蓙に大の字        茨     
77  ひさかたの天より受くる花万朶      栞  春花
78    みやこの跡はかすみ敷く野辺     蘭  春
ナオ
79  口あいて探せど見えぬ揚雲雀       茨  春
80    メール通話はすべて筒抜け      ね
81  情弱にスマホ機能は持ち腐れ       蘭
82    第一志望書くだけは書き       水
83  狭き門タカラジェンヌの夢遠く      栞
84    思ひ切る都度進む人生        蘭
85  出会ひざま0.1秒で恋をして       茨  恋
86    一万ボルトに痺れ悩殺        栞  恋
87  ライブ後のカラオケやたらハイテンション 蘭
88    DJポリスお手柄となる       水
89  ユーモアと機知は話の潤滑油       茨
90    一発芸に寿限無暗唱         蘭
91  後光差す阿弥陀如来を拝みをり      栞
92    沈む日輪追ふや月の出        茨  秋月
ナウ
93  背なの児も静かになりぬ夕紅葉      蘭  秋
94    刈田もやがて水を湛へん       ね  秋
95  秋霖をうらめし顔の捨て案山子      茨  秋
96    変身願望叶ふ日はいつ?       栞
97  みずみずと薄翠に染む蝉生るる      水  夏 あるる
98    風雅は四時を友としてこそ      蘭
99  黒髪にちらちらかゝる花の雪       茨  春花
挙句    毛氈延べる土手の若草        蘭  春

・・・経過は#jrenga

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目
付け転じ方
写真提供はフォト蔵さん

2013年5月8日水曜日

【満尾】第四千句第七百韻『すつと出て』の巻



                      百韻『すつと出て』の巻   
                                                                                  2013.5.8〜6.1

発句  すつと出て莟見ゆるや杜若       子規  夏
脇     片脚立ちて眠る青さぎ       草栞  夏
第三  日ざかりを鉄橋鳴らし汽車がゆく    春蘭  夏
4     一斉に鳴るシャッターの音     風牙
5   はきはきと夢語る子の頼もしさ     真葛
6     枕元には宇宙ロケット        牙
7   ジャズ聴けば飛び行けさうな望の月    栞  秋月
8     新酒かたむけ想ひいろいろ      葛  秋 

9   歌姫の噂は消ゑて秋深し        曙水  秋
10    肌寒にひと恋しかるらむ       蘭  秋恋
11  口下手はジンの濃いめにギムレット    牙  恋
12    待ち合わせには時計はずして     水
12    背中で語る昭和ヒトケタ      ね子
13  こりもせず妻の買ひ物つき合ひぬ     蘭    両句に
14    支離滅裂を斬新と褒め        葛
15  詠み人の正体実はプログラム       栞
16    親が結局こなす宿題         蘭
17  老いの目に矯めつ眇めつ凍てる月     葛  冬月
18    ぎしりぎしりと米を研ぐ音      水
19  田芹採り土筆を摘みて節約す       ね  春
20    高嶺は残る雪に際立つ        蘭  春
21  淡墨のごとく咲きにし花も散り      栞  春花
22    また来ん春とつぶやきてみる     葛
二オ
23  南仏風英国風と分譲地          水
24    懐乏し夢のあるとき         ね
25  平凡に生きてゐられるありがたさ     蘭
26    ひなたぼつこの猫の同胞       栞
26    ご飯炊けたの声に目覚める      牙
27  行く先はその日の気分旅衣        葛    両句に
28    発句でまづは亭主持ち上げ      蘭
29  一巻の終はりはいつも春の宵       ね  春恋
30    二人しとねに望む淡月        蘭  春月恋
31  菜の花も添へてオムレツふわふわに    葛  春
32    クチコミだけで伸びる行列      栞
33  予報ではことしの梅雨は長いとか     蘭  夏
34    はやりの服を美容師に聞く      水
35  カリスマに和すは易らぬ人の性      栞
36    選挙勝つには世論誘導        蘭
二ウ
37  若者よスマホを捨てよテレビ見よ     葛
38    俗事にうとく直に四十        蘭
39  室咲きの鉢に水やる塾講師        牙  冬
40    連獅子の夢果たし感慨        葛
41  三代目てて親よりも爺さん似       蘭
42    秘伝のたれの中身聞くまい      水
43  風に乗る匂ひ嗅ぎ分け秋渇        栞  秋
44    家路をせかす釣瓶落しよ       蘭  秋
45  今日の月誰かが住んでゐる気配      ね  秋月
46    憂さ晴らしする相手探して      栞
47  目指すのは世界遺産と山ガール      葛
48    背を追いかける息の切なさ      水
49  でおくれて樹下一面の花むしろ      蘭  春花
50    嵯峨念仏の舞台賑ふ         栞  春
三オ
51  風船に迷子やうやく泣きやみて      葛  春
52    日比谷公園昼寝天国         水  夏
53  新緑のまばゆし人もころもがへ      蘭  夏
54    見初めしよりもなほ麗しく      栞  恋
55  差し向かうプラットホームで手を振りて  水  恋
56    一期一会は旅の醍醐味        蘭
57  忘れゐし栞はらりと文庫本        葛
58    押し花造り姉に教わる        水
59  リタイアー正直ひまを持て余し      蘭
60    弱小チームならばレギュラー     牙
61  四股を踏む姿似合ふとおだてられ     栞
61  月影を相手に素振り百二百        蘭  秋月
62    腹一杯の茸飯喰ふ          栞  秋  両句に
63  爽涼に犬の散歩の距離延ばし       蘭  秋
64    手綱捌きはあなた任せで       葛
三ウ
65  何時の間に銀婚式も通り過ぎ       ね
66    へそくり投資ネット・トレード    蘭
67  喫煙所スマホ片手の美人秘書       牙
68    ミニスカートに動悸速まる      ね  恋
69  魔が差して嘆きの天使堕ち行けり     栞  恋
70    証拠写真は見つからぬまま      葛
71  知り合いは誰にもあたらぬ裁判員     水
72    初神籤引き末吉と出る        栞  新年
73  髪上げの晴れ着のひとを品定め      蘭  
74    辛口通し世間狭める         葛
75  花曇好みの酒は独り飲む         ね  春花
76    春の叙勲に並ぶ碁敵         水  春
77  縁側に広げし紙面みだす東風       蘭  春
78    ロイド眼鏡の行方訊ねる       牙
名オ
79  鼻濁音南部訛りのわざとめき       葛
80    ともの帰省に乗じ借るやど      蘭  夏
81  屋根裏のアパート照らす月涼し      栞  夏月
82    カルチェラタンのカフェで読書を   水
83  ツアーではフリータイムも魅力にて    蘭
84    時間差で出る駅の改札        ね
85  親どうし犬猿ゆゑに忍ぶ恋        蘭  恋
86    心中隠し告げる道行         栞  恋
87  飛びながら叱咤一声ほとゝぎす      蘭  夏
88    さみだれ縫つてめぐる鎌倉     野茨  夏
89  スタンプを集めて早くゴールへと     栞
90    カラコロ下駄のひゞく湯治場     蘭
91  おまけよとコロッケ一個加へられ     葛
92    無駄かも知れずトクホ飲料      水
名ウ
93  かそけくも生き永らへし冬の蝶      栞  冬
94    きのふの鍋に具を足して鍋      蘭  冬
95  書きさしの論文猶もまとまらず      葛
96    猫なで声で餌を催促         水
97  歌舞伎みて夫婦に会話もどる夕      茨
98    ちょろぎの酸味優しさ募り      蛉
99  てのひらに散れる花片うけとめて     蘭  春花
挙句    囀る鳥の仲間入りせん        葛  春

・・・経過は

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目
付け転じ方
写真提供はフォト蔵さん

2013年4月15日月曜日

『貞享式海印録』ー 正風復古の願ひを起して同じ流れに遊ばゝや


幕末に原田曲齋は芭蕉在世時の蕉門の式目作法を分析定義した。本書は正風の俳諧師を自認する人のための座右の書/虎の巻である。#jrenga 連歌 俳諧 連句   電子版が国立国会図書館の近代デジタルライブラリにアップされている。
所収:俳論作法集 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/39  
書籍は日本の古本屋  http://www.kosho.or.jp/servlet/bookselect.Kihon で俳論作法集を検索すれば数冊ヒットする。

電子版『貞享式海印録』を活用できるように目次をURLリンク化した。

       頁 コマ番号      画像のURL          
貞享式海印録  56 39 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/39  
目録      58 40 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/40 
一の巻
 発句     72 47 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/47   
 脇 身柄の論 74 48 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/48  
 第三の節  119 70 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/70  
 三物    136 79 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/79   
 表物    138 80 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/80  
二の巻
 去嫌惣論  141 81 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/81 
 表の事   143 82 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/82   
 四句目   149 85 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/85 
 裡移り   150 86 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/86 
 匂花挙句  151 86 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/86 
 奉納    159 90 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/90 
 夢想    163 92 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/92 
 追善    165 93 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/93 
 人倫と噂の弁172 97 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/97 
 支体    195 108 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/108 
 病     199 110 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/110 
 述懐    200 111 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/111 
 山類    202 112 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/112 
 水辺    204 113 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/113 
 雑場    207 114 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/114 
 居所    212 117 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/117 
三の巻
 恋     217 119 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/119 
 旅     236 129 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/129 
 名所    237 129 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/129 
 神釈無常  242 132 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/132 
 乾坤門   252 137 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/137 
 時分    263 142 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/142 
 夜分    266 144 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/144 
 時節    267 144 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/144 
 四季    270 146 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/146 
 雑     285 153 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/153 
四の巻
 月     294 158 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/158 
 素秋    322 172 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/172 
 日     326 174 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/174 
 星     330 176 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/176 
 花     330 176 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/176 
 植物    350 186 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/186 
 生類    358 190 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/190 
五の巻
 填字    365 193 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/193 
 別吟    367 194 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/194 
 留字    369 195 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/195 
 辞てには  381 201 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/201 
 体言用言  395 208 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/208 
六の巻
 火体    457 239 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/239 
 色立    459 240 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/240 
 畳付    460 241 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/241 
 一字一点  463 242 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/242 
 准付    467 244 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/244 
 軍事地獄  470 246 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/246 
 死活    475 248 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/248 
 一句立   477 249 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/249 
 両体用   481 251 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/251 
 輪廻    483 252 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/252 
 内外    485 253 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/253 
 禁物並変格 487 254 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/254


参考:佐々醒雪の解題

 全編芭蕉の伝書といふ貞享式、一名二十五条を根拠として、許多の俳諧に例証を求め、蕉門俳諧の式目を帰納的に論断せんとしたるものなり。 

 かの二十五条が芭蕉より其角、去来に伝り、去来より支考に伝りたりといひ、又は支考の偽作なりといふ、その当否は今必しも定むるを要せず。 

 曲斎は芭蕉の出席せる俳諧の巻々を悉く調査し、その足らざるものを、直門の高足等が俳諧によって補ひて、実例を根拠としたる通則を発見し、これを二十五条及び貞徳風と比較したるものなれば、蕉門の式目としては、既に疑念を挿み難き断案を下したものといふべし。  

 引用せる俳書数百部、芭蕉とその高弟との著は成し得る限り渉猟せるものにして、天明期以前の俳諧の形式は殆どここに尽きたりといふべし。

2013年4月8日月曜日

【満尾】第四千句第六百韻『若草や』の巻



                      百韻『若草や』の巻   
                                                                                2013.4.8〜5.5

発句  若草や文庫で読みし資本論       風牙  春
脇     げんげ田かへす耕耘機の音     春蘭  春 
第3  春疾風聟取りの村華やぎて       曙水  春
4     日舞の稽古手取り足取り      草栞
5   顔に似ぬ厳しさが売り評判に      真葛
6     無垢の一枚板カウンター       牙
7   頬杖で眺むる今日の月明し       ね子  秋月
8     添い臥の稚児包む虫の音       水  秋  そいぶし

9   鬼の子と言はれ父恋ふ健気さよ      葛  秋
9   つりあはぬちぎりはかなくそでのつゆ   蘭  秋恋
10    面影慕ひ干せる中汲         栞  秋恋 両句に
11  長旅を終えて見下ろす滑走路       牙
12    リノリウムさへ匂ひ懐かし      蛉
13  若作りしてゆく孫の参観日        蘭
14    フォークダンスの足がよろける    葛
15  打ち上げはキャンプ・ファイアー缶ビール 蘭  夏
16    祭終ればむら冬支度         水  秋
17  最果ての海峡越えて鶴渡り        栞  秋
18    孤独身にしむ教室の窓        ね  秋
19  彫像の遠き眼差し月浴びて        葛  秋月
20    乙女らまとう春色の服        水  春
21  枝々に小鳥さへづる花大樹        蘭  春花
22    ランドマークの鐘は霞めり      葛  春
二オ
23  ツイートもメールも返信待ちの僕     水  恋
24    予約の取れぬ店で決戦        牙  恋
25  あかつきに羊羹めあての列のびて     蘭
26    ネズミいつしか寺に住みつく     葛
27  鍵つ子で街を彷徨ふローティーン     ね
28    亡き母想ふコゼットのごと      栞
29  成長の糧と不幸を乗り越えん       蘭
30    さざ波立てば揺れる満月       水  秋月
31  川霧のはれて顕はる舫い船        葛  秋
32    木犀薫る隠れ処の径         栞  秋
33  密造酒蔓延る街は風強し         牙     はびこる
34    ゴミに群がるからす艶よき      蘭
35  ばっさりと黒髪切るも二十の子      葛     はたち
36   「時分の花よ」乙女心は        水
二ウ
37  幽玄の風姿とどめよ今しばし       栞
38    烏賊に見立ててアロエベラ切る    牙
39  万能といふ触れ込みに騙されて      ね
40    うちの文化は包丁と鍋        水
41  母の日や筍めしの薄き味         蘭  夏
42    青嵐吹きて木々のざわめき      栞  夏
43  隣国に戦さ間近の噂あり         葛
44    スマホ出す度相場気になる      牙
45  鑑定は銀月錆びた大屏風         水  秋月
46    相続協議冷ややかに過ぐ       蘭  秋
47  藷掘りの続く道程一時間         牙  秋
48    二人で過ぐすときは短かく      ね  恋
49  めぐり逢ひて花の命を惜しみけり     栞  春花恋
50    山菜採りに入る奥山         蘭  春
三オ
51  穴を出て熊は行く手を見失ひ       葛  春
52    ダンプばかりとよくすれ違う     牙
53  立て看は頭を下げて「工事中」      水
54    忘れた頃に余震頻発         栞
55  飯いいと言はず帰りが遅くなり      蘭
56    これ見よがしにプラチナピアス    葛
57  昇降機五十階より降りてきて       牙
58    住まひ選びは実に難問        蘭
59  年の瀬のローンの重みいや増しぬ     栞  冬
60    子を叱りつつ先思いやる       水
61  ゆふぐれの植田ころころ啼く蛙      蘭  夏
62    打ち捨てられし緒の切れた下駄    葛
63  面影を思いきれずに春の宵        水  春恋
64    朧月にも著き恋やせ         葛  春月恋 しるき
三ウ
65  はらはらと散りて花びら埋む径      蘭  春花  うづむ
66    たゆたふ河の流れアダージョ     栞
67  悠久を求め私もインドへと        水
68    熱にうなされまた同じ夢       牙
69  猛暑日の予報うらめし蝉しぐれ      蘭  夏
70    草刈鎌は錆びる暇なし        葛  夏
71  下町の職人芸の活きてをり        栞
72    路地に並びし丹精の菊        水  秋
73  声掛けて声の戻らぬ月の夜        牙  秋月
74    新酒をあけて手向く一献       蘭  秋
75  様になる見よう見まねの太郎冠者     葛
76    村おこしにと舞台復活        蘭
77  奈落より脱出するも道険し        栞
78    百日紅とて落ちぬ空蝉        牙  夏
ナオ
79  うな重で上手くなりたる箸づかひ     蘭  夏
80    円安に乗りツアー賑はふ       葛
81  近くとも遠き国より使者来る       栞
82    スワンの息の白き寒靄        蘭  冬   かんあい
83  黄昏の枯野に独り佇みて         栞  冬
84    指折りてみる夢のあれこれ      葛
85  巷では景気良くなるてふ噂        牙
86    着飾つてゐる歌舞伎座の前      ね
87  背伸びしてメニューに迷ふ初デート    蘭  恋
88    告白タイム給仕目くばせ       栞  恋
89  転職の場にも刑事の名残出て       葛
90    あぶれ蚊あはれ打つ人もなし     蘭  秋
91  十五夜は戦国の世も丸き月        ね  秋月   まろき
92    古りにし城趾色変えぬ松       蘭  秋
ナウ
93  正宗は酒と限らぬ上戸殿         水
94    泣くも笑ふもこれが青春       葛
95  後知恵の先に立たずは道理なり      栞
96    末は議員と競う弁論         牙
97  茶と菓子を子が指図する春炬燵      蘭  春
98    雛の家にもランドセル増え      栞  春
99  二宮の像よ上見よ花の影         牙  春花
挙句    巣立ちの鳥の声のにぎやか      葛  春

・・・経過は

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目
付け転じ方
写真提供はフォト蔵さん

2013年3月9日土曜日

【満尾】第四千句第五百韻『径なくて』の巻



                      百韻『径なくて』の巻   
                                                                                2013.3.9〜4.2

発句  径なくて篁くづる菫かな       楸邨  春 たかむら:竹薮     
脇句    番ひの雉子の葎ゆく影      春蘭  春 つがひ
第三  座敷中雛道具など散らかして     ね子  春
4     下手な習字を見つけ赤面     草栞
5   初孫の授業参観いそいそと       蘭
6     高度成長時代駆け抜け      風牙
7   望くだり飲み友達はちりぢりに    真葛  秋月
8     夜長を過ごすアパートの鍵     ね  秋

9   虫すだくクロスワードのあと一語   曙水  秋
10    はぐらかされし愛の告白      蘭  恋
11  ドン・ファンはお手をどうぞと繰り返す 栞  恋
12    踊る阿呆は寂しからずや      ね
13  いざブログ牧水調の歌添へて      葛
14    本郷の坂息たへだへに       蛉
15  二人の子乗せる自転車母強し      牙
16    スケッチブックに素描描き留め   栞
17  復興の願ひ膨らむ遠花火        ね  夏花
18    祭囃子に惹かれ行く町       蘭  夏
19  そそくさと夕餉は残りごはんにて    〃
20    ドラマの録画溜まる一方      牙
21  山の端に見る人もなき冬の月      葛  冬月
22    湖面に降るる水鳥の群       ね  冬
二オ
23  故郷を持たぬ身軽さ頼りなさ      水
24    都市伝説の嘘も真に        栞
25  左手の小指の爪は桜色         牙  恋
26    春の恋なら春に終はらす      ね  春恋
27  ぬくもりをいざ断ち切らん巣立鳥    蘭  春
28    良きことあるや初虹の見ゆ     葛  春
29  名画より光と影の溢れ出で       栞
30    二時間待ちの札にげんなり     牙
31  拉麺は蘊蓄よりも食うが良し      水
32    つけつぱなしのテレビながら見   蘭
33  頷いて済ます会話も十年目       牙
34    強気の陰に透ける小心       葛
35  ミシュランを信じぬシェフの匙加減   栞
36    しかめっ面も弛む絵葉書      牙
二ウ
37  蜜月を終えてパンダ舎再開す      ね
38    うららに釣られぞろり出不精    蘭  春
39  見渡せば散るを厭わず花は咲く     水  春花
40    陽炎のごと去りし武士       栞  春  もののふ
41  待ち合わせ場所はSL広場にて     牙
42    腕絡ませる休日の午後       ね  恋
43  君がなほ辛き身なりと耐へる愛     葛  恋
44    溢るるばかりのビールごくごく   水  夏
45  いつかはと念ひし山を踏破して     蘭  夏
45  夏フェスを終えてバンドは舞台裏    牙  夏
46    ローカル局の取材厭はず      栞     両句に
47  落選の噂もありて元大臣        ね
48    我が世の春よ窓に望月       水  春月
49  桜咲く門の内にて八文字        牙  春  はちもんじ
50    軟東風吹きて揺れる簪       栞  春
三オ
51  卒業の旅で変身舞妓さん        蘭  春
52    慣れぬ手つきでシャッターを切る  牙
53  ツチノコを探すと友は西ひがし     ね
54    リタイアしたら俄然生き生き    蘭
55  蕎麦打ちに連歌の道を極めたる     栞
56    祭り上げられ親善大使       葛
57  尼寺の庵主しるせし本売れて      蘭
58    続き見るには有料となる      牙
59  三月ごと新聞替へて映画券       蘭     みつき
60    ミンク捲きたる顔の卑しき     葛  冬
61  狩人の道に迷えばレストラン      牙  冬
62    秘密のレシピ身体には毒      ね
63  ピアノの音漏るる洋館月赤し      牙  秋月
64    郵便受けに絡む蔦の葉       栞  秋
三ウ
65  待ちかねた嫁の里より新走り      水  秋
66    汲めど尽きせず古典逍遥      蘭
67  とくとくの清水流るる棲処にて     栞
68    お血脈札閻魔欲しがり       水
69  真打ちとなるには足らぬ色と艶     牙
70    憎まれ口をたたき気を引く     葛
71  こゝろとは逆に振る舞ふをさな恋    蘭  恋
72    フォークダンスの手に滲む汗    牙  夏恋
73  隊商の砂漠越えゆく月暑し       水  夏月
74    広場に響む物売りの声       栞     どよむ
75  真作のはずは無けれどガレの壺     牙
76    貸し借りなしの長き付き合ひ    葛
77  パッと咲きサッと散り行く花は友    ね  春花
78    千歳の松のみどり美し       蘭  春  うるはし
ナオ
79  恨み言一つ言わずに蜆汁        牙  春
80    絆絆とポスターを貼る       水
81  慕はしき名前何度も確かめて      栞  恋
82    相合傘は五月雨の中        ね  夏恋
83  籠り居る宿に想練る次回作       葛
84    伸ばしては剃るごま塩の髭     蘭
85  我が家にはサンタクロースは来ないのよ 水  冬
86    仏の煤を払ふ小坊主        蘭  冬
87  居酒屋に隠語で話す二人組       牙
88    ワインのコルク床に転がり     栞
89  難破船噂ありしがいつか消え      葛
90    店舗誘致で決まる集客       牙
91  廃屋と残土を照らす朧月        水  春月
92    風船飛ばす定年の人        ね  春
ナウ
93  花の香は古き枝にも蘇り        栞  春花
94    壁画の下の別の絵を知る      牙
95  講釈のおまけ付けられ吟醸酒      葛
96    木彫りの鼠張り扇で鳴き      水
97  江戸情緒探索〆に寄席へ行き      蘭
98    スカイツリーの消ゆる電飾     栞
99 「夜の梅」土産に貰ひ春の星       牙  春
挙句    鈴の音もあり遍路笠見ゆ      ね  春

・・・経過は

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目
付け転じ方
写真提供はフォト蔵さん

2013年2月6日水曜日

【満尾】第四千句第四百韻『さざ波は』の巻  


                      百韻『さざ波は』の巻   
                                                                                2013.2.6〜2.28

発句  さざ波は立春の譜をひろげたり  水巴  春     
脇句    東風に吹かるゝ堤のをとめら 春蘭  春  てい
第3  雉ほろろ玉追う子には罪もなし  風牙  春
4     無垢の小筥に仕舞ふ臍の緒  草栞
5   旅立ちの準備万端整ひて     真葛
6     無料アプリも割と役立つ    牙
7   待宵の今日の運勢占ひぬ     ね子  秋月
8     貴人挿頭す紅葉一枝     曙水  秋  あてびと かざす

9   初嵐芸妓のひとり路地急ぐ    玄碩  秋
10    ”妻”と記して君を待つ宿    蘭  恋
11  俳句でも一つ捻つて捧ぐ愛     栞  恋
12    声高にては云へぬ腰痛     葛
13  孫娘前にすべてをそっちのけ    蛉
14    パソコン慣れてネット通販   蘭
15  口コミの評判さへも金次第     ね
16    暇な隠居は地獄耳にて     栞
17  犬吠えて向かいの娘は朝帰り    碩
18    有明月をとどむ夏空      葛  夏月
19  大漁と烏賊釣船の旗なびく     牙  夏
20    白寿赤飯お裾分けきて     水
21  枯枝に花咲くごとく若返り     栞  春花
22    子供のお古似合ひ麗らか    蘭  春
二表
23  奪ふべき愛ふらここに託し漕ぐ   葛  春恋
24    四月馬鹿にも淡き初恋     ね  春恋
25  付け文に差出人の名の無くて    牙  恋
26    告白披露罰ゲームなり     蛉
27  振り返るわが青春は悔いに満ち   蘭
28    古い手帳にペンは走らず    碩
29  ブラインド・タッチ華麗な新世代  蘭
30    国会中継コンサートなみ    葛
31  冬ざれの日本経済上向いて     ね  冬
32    滑らぬやうに歩く雪道     栞  冬
33  学校は知育偏重試験漬け      蘭
34    やる気演技でみせる就活    〃
34    世にはざらなり答えなき問ひ  〃
34    可愛さ変わらずどれもどんぐり 水  秋
35  月よ月我ら等しく死に近し     ね  秋月 三句に
36    山海の幸並ぶ賢治忌      牙  秋
二裏  
37  猫の手も借りたいほどの芋煮会   栞  秋
38    本家争ひしばし休戦      葛
39  呼び込みの熱さで決めるあぶり餅  蘭
40    青空市は今日も賑やか     ね
41  アンティークグラス二脚のクリスマス 牙 冬
42    嘘かまことか王の血筋と    葛
43  山陵を越えて広がる青田波     碩  夏  みささぎ
44    不意に現る虹の架橋      栞  夏
45  ポケットの婚約指輪取り出せず   ね  恋
46    葡萄酒醸し刻む君の名     牙  秋恋
47  待たされて有明の月薄蒼く     水  秋月
48    花紅葉敷く寺の延べ段     蘭  秋花
49  千年の古都の誇りは今もなほ    葛
50    ゴンドラ漕ぎもベルカントにて 栞
三表
51  チップにと覗く財布に小銭無し   牙
52    唇赤き七五三の子       ね  冬
53  初時雨止みて手水に光満つ     栞  冬
54    人気作家の返本の山      葛
55  評判は良くも悪くもバズられる   蘭
56    重き扉を開くる躊躇ひ     牙
57  教会に憬れ抱く仏教徒       ね
58    バージンロード父は疎まし   水
59  身ごもりを服で隠せぬやうになり  蘭
60    ここが出番と鳩の飛び出す   葛
61  道化師の子等はやしたて辻舞台   蛉
62    夏草燃ゆる城の坂下      栞  夏
63  刀から蚊遣りまで売る骨董屋    水  夏
64    伏し目にかくす志しあり    葛
三裏
65  少年の夢は宇宙に植民地      ね
66    アニソンばかり歌うカラオケ  牙
67  オフ会やハンドル名のこそばゆさ  蘭
68    闇にまぎれて触れる君の手   葛  恋
69  ボエームを想ひ耳まで赤くなり   栞  恋
70    大気汚染で意識失ふ      ね
71  噂して曹操がくる四千年      水
72    歴史は知恵の宝庫なりとや   蘭
73  鷄か卵が先か気になりて      ね
74    食欲誘ふ三つ葉芹の香     牙  春
75  水音を空耳かとも月朧       葛  春月
76    日永過ごすに足りる狭筵    蘭  春
77  孫ひまご祖父母の家は花盛り    ね  春花
78    写真館にて記念撮影      栞
名表
79  星屑の落ちし北の地五稜郭     牙
80    出張ついでに市内観光     蘭
81  庭先の路面電車に菊ゆるゝ     蛉  秋
82    駅長のごと案山子佇む     ね  秋
83  瓢の笛誰ぞ吹きたる月の夜     牙  秋月
84    人さらひとや聞くも恐ろし   葛
85  韓流を追っかけ家事はそっちのけ  蘭
86    目が離せない字幕スーパー   水
87  顧て初めて気づく恋心       栞  恋
88    相合傘を書いてまた消し    葛  恋
89  放課後に一人残されドリル解く   牙
90    おやの渋面浮かぶゆふぐれ   蘭
91  ひと月に十三回の里帰り      ね
92    政策変わって弟妹ができ    水
名裏
93  口遊むいろはにほへとほろ酔ひて  葛
94    あさきゆめみてさめしあけぼの 蘭
95 「芝浜」のかみさんほどに芸もなく  水
96    付け払ひせでお後よろしく   栞
97  春風に列みだれなきラーメン屋   蘭  春
98    頑固一筋山も笑へり      ね  春
99  花守の留め置き事項また増えて   葛  春花
99  若松の堀を染めたる花鏡      牙  春花
挙句    筵で待つは新社員らし     牙  春  両句に 

・・・経過は

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目
付け転じ方
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2013年1月18日金曜日

発句考


1、 蔦の葉は残らず風のそよぎ哉 荷兮  発句はかくのごとく、くま
   ぐままでいひつくすものにあらずとなり。(去来抄 去来)

2、 下臥につかみわけばや糸ざくら 其角  いひ課(おほ)せて何か
   ある。(言い尽くして何があるか、何も残らない。)(去来抄)

3、 発句は物をとり合せすれば出来る物なり。それをよく取合せするを
   上手といひ、あしきを下手といふなり。(去来抄)

4、 発句の事は行って帰る心の味なり。たとえば、山里は万歳おそし梅
   の花 といふ類なり。(三冊子 土芳)

5、 句姿も高く位よろしきをすべしとむかしより言ひ侍る。先師は懐紙
   の発句かろきを好まれし也。時代にもよるべき事にや侍らん。(三冊子)

6、 切字なくては発句の姿にあらず、付句の体也。切字を加へても付句
   の姿ある句あり。誠に切れたる句にあらず。又切字なくても切れる
   句有り。(三冊子)

7、 発句はその座の風景、時節相応、賓主の挨拶による事常の習也。(俳諧
   無言抄 梅翁)

8、 発句案じ方の事 発句を案ずるには先づ題に結ばむと思ふものを、
   胸中に画きて見るべし。鏡花水月の案じ方といふなり。。。只句は
   言尽すまじきものなり。。。上手の画は画外に在り、上手の詩歌は、
   言外に風情を備ふ。(俳諧発句小鏡 蓼太)

9、 句に理屈を抜く事 発句は理屈より案ずべからず。(俳諧発句小鏡)

2013年1月15日火曜日

俳諧の本質的概論 (抄) 寺田寅彦


現代のいわゆる俳壇には事実上ただ発句があるばかりで連句はほとんどない。子規の一蹴いっしゅうによってこの固有芸術は影を消してしまったのである。しかし歴史的に見ても連俳あっての発句である。修業の上から言っても、連俳の自由な天地に遊んだ後にその獲物を発句に凝結させる人と、始めから十七字の繩張なわばりの中に跼蹐きょくせきしてもがいている人とでは比較にならない修辞上の幅員の差を示すであろう。鑑賞するほうの側から見ても連俳の妙味の複雑さは発句のそれと次序オーダーを異にする。発句がただ一枚の写真であれば連俳は一巻の映画である。実際、最も新しくして最も総合的な芸術としての映画芸術が、だんだんに、日本固有の、しかも現代日本でほとんど問題にもされない連俳芸術に接近する傾向を示すのは興味の深い現象であると言わなければならない。

参考文献:
(1) 青空文庫 俳諧の本質的概論 寺田寅彦
(2) うわづら文庫 連句藝術の性格 能勢朝次 
  第一章 連句研究の現代的意義 第一節 一対三十五において引用 

2013年1月10日木曜日

俳諧に迷ひて俳諧の連歌といふ事を忘れたり 

去来抄  日本名著全集 江戸文芸之部第二巻 芭蕉全集  

魯町曰。俳諧の基とはいかに。

  訳:魯町が言った。「俳諧の基(もとい:基礎・土台)とはなにか?」

去來曰。詞にいひがたし。凡吟詠するもの品あり。歌は其一なり。其中に品
あり。はいかいは其一なり。其品々をわかちしらるゝ時は、俳諧連歌はかく
のごときものなりと、おのづからしらるべし。

  訳:去来が言った。「一言では言いにくい。おおよそ吟詠する詩歌にも
    種類がある。和歌はその一つだ。その中にも種類がある。俳諧歌は
    その一つである。その種類を分けてそれぞれが理解できた時に、俳
    諧の連歌とはこういうものだと自然にわかるだろう。」

それをしらざる宗匠達はいかいをするとて、詩やら歌やら、旋頭・混本歌や
ら知らぬ事をいへり。是等は俳諧に迷ひて、俳諧連歌といふ事を忘れたり。

  訳:「それ(俳諧の連歌の詩歌における成り立ち・位置付け)を知らな
    い宗匠達は、俳諧をすると言って漢詩やら和歌やら、旋頭歌、混本
    歌やらわけのわからぬことを言っている。これらは俳諧という言葉
    に迷わされて、俳諧が俳諧の連歌だということを忘れてしまったの
    だ。」

俳諧をもて文を書ば俳諧文なり。歌をよまば俳諧歌なり。身に行はゞ俳諧の
人なり。唯いたづらに見を高くし、古をやぶり、人に違ふを手がらがほに、
あだ言いひちらしたるいと見苦し。

  訳:「俳諧の心(滑稽、おかしみ、戯れ)をもって文章を書くならば俳
    諧文である。俳諧の心をもって和歌を詠むならば俳諧歌である。俳
    諧の心をもって行動するならその人は俳諧の人である。ただ無駄に
    考え方を高慢にし昔からのやり方を破り、他人と違うことを自慢顔
    にいいかげんなことを言い散らしている輩がいるがとても見苦しい。」

かくばかり器量自慢あらば、はいかい連歌の名目をからず、はいかい鐵炮と
なりとも、亂聲となりとも、一家の風を立てらるべし。

  訳:「それほど自分の才能が自慢ならば、俳諧の連歌という名前を借り
    ずに、俳諧鉄砲とでも、乱声(らんじょう)とでも名付け、俳諧の
    軒を借りずに一家を立てるべきであろう。」

コメント:
『去来抄』の修業教の冒頭に不易流行と並んである一文である。芭蕉の在世
当時から本分を忘れたあやしい俳諧もどきが横行していたようだ。

●「俳諧は上下取り合わせて歌一首と心得べし。」支考『芭蕉翁二十五箇条』の第一条で心は去来抄の一文と同じである。以下の記述も同様である。

●「俳諧もさすがに和歌の一体なり。句にしをりの有るやうに作るべし。」(去来抄)

●「発句の脇は歌の上下(かみしも)也。是を連ねるを連歌といふと云。一句一句に切るは長くつらねんが為なり。」(去来抄)

●「俳諧は歌なり。。。和歌に連歌あり。俳諧あり。。。古今集にざれ歌を俳諧歌と定む。是になぞらへて連歌のただごとを世に俳諧の連歌といふ」(三冊子)

現代の連句界はとながめてみると、俳諧は俳諧の連歌で二句で短歌になるよ
うに詠むことを忘れた、温厚な去来が思わず怒りをこめて言った俳諧鉄砲や
乱声の輩の末流が跋扈している感がある。

参考: 連歌とは

2013年1月2日水曜日

【満尾】吉例新春顔見世興行 連歌百韻『初御空』の巻

第四千句第三百韻 #jrenga

      百韻『初御空』の巻   
                    2013.1.2〜1.13

発句  初御空鴉はいつも自在なり      真葛 新年 
脇句    淑気満ちたる白銀の富士     春蘭 新年 しろがね
第三  獅子頭蔵開けたれば陽を浴びる    ね子 新年
4     町おこしにと祭り復活       蘭
4     おぼえず酔ひの回るきき酒     〃
5   深更に正座して聴く秘伝あり     滋音    両句に
6     弓張月の行方追ひかけ      草栞 秋月
7   新蕎麦を粋にたぐりて寄席帰り    曙水 秋
8     店主こころ得秋袷褒む       葛 秋
8     扇忘れし客は二代目       風牙 秋

9   座敷より眺むる溪を紅葉染め     玄碩 秋  両句に
10    錦の帯締め秋の吉日        水 秋
11  松風の耳に清しく居を直し       蛉
12    しのぶ栄華は夢の城あと      蘭
13  定年後世界遺産に想い馳せ       牙
14    夏至のローマに二人落ち合ふ    ね 夏恋
15  ライバルもひしめき恋のさや当てか   栞 恋
16    君は知らじな桑田清原       水
17  蛮勇を部下に自慢のガード下      牙
18    思はぬ方に落し穴あり       葛
19  子が出来て構ってくれなくなった妻   蘭
20    ダイエットする決意固める     音
21  雲海に昇る朝日の花照らす       牙 春花
22    春嶺遥か八重に連なり       栞 春
二オ
23  通学の自転車のベル夏近し       碩 春
24    サンキュと云へばサンキューと云ふ 葛
25  円満の秘訣は笑顔と忍耐と       ね
26    月末に見るカード明細       牙
27  ケ・セラ・セラ江戸っ子気質はやせ我慢 蘭
28    掛け算九九は風呂で覚える     牙
29  あこがれの一人一部屋一戸建て     蘭
30    みかん食べつつテレビ三昧     葛 冬
31  未だ見ぬ寺より響く除夜の鐘      栞 冬
32    これも煩悩ねこを侍らす      ね
33  両の手に紙袋下げ入るカフェ      蘭
34    日当貰いシャワー使える      牙
35  夏の月リゾートバイトは海の家     蘭 夏月
35  洗い髪振り向く君が眩しくて      水 夏恋
36    虹を指しつつ初な告白       栞 夏恋
二ウ
37  ポケットに入れし詩集の紙魚の跡    牙 夏
38    話が弾む職務質問         ね
39  高跳びの自慢噺は封印し        葛
40    五輪招致につきまとう影      牙
41  好景気望まぬ人は居らぬらん      蘭
42    ジュリアナ世代今や美魔女に    水
43  若返りこそ人間の永遠の夢       蘭
44    iPSに賭けてみようか      栞
45  秘中の秘あなただけにと囁かれ     牙
46    春競馬にて狙ふ大穴        ね 春
47  風邪っ気も吹き飛ばしてや花吹雪    蘭 春花
48    ツンと抜けたる山山葵の香     牙 春
49  朧夜の回転寿司にトロを食ふ      ね 春
50    カネの話はひとに任せて      葛
三オ
51  腕利きの職人気質衰へず        栞
52    老舗と本家張り合いて居り     水
53  暖簾にはかからぬようにと水を打ち   碩 夏
54    小僧十三甘味恋しき        蛉
55  毘沙門天を右に折れれば石畳      牙    びしゃもん
56    ロケ地効果を皮算用し       水
57  リゾートに突如戦国館でき       蘭
58    フリーパス持ち西へ東へ      葛
59  枯菊を残して消えた男追ひ       ね 冬恋
60    待伏せ辛き寒の有明        栞 冬月恋
61  ひとげ無き氷湖に残る穴二つ      牙 冬
62    悪童まえにつづく怪談       葛
63  草廬出て大路日課の辻説法       蘭
64    荷駄も歩みを少し緩めて      碩
三ウ
65  少しだけ横顔見せた異邦人       栞
66    モロッコ革のカバー手擦れて    水
67  背伸びする父の書斎のウイスキー    牙
68    親の旅中に友と留守番       蘭
69  待ち受けの画面はなぜか猫ばかり    葛
70    ブログに綴る人気スイーツ     牙
71  結界を囃し虚ろになりにけり      蛉    はやし
72    見返り柳ゆれる後朝        蘭 恋
73  南風見せるうなじはか細くて      碩 夏恋
74    海霧に汽笛の咽び泣くとや     栞 夏  じり
75  六十路坂初クルーズに漕ぎ着けて    蘭
76    恐る恐るのタンゴステップ     葛
77  花形となりし片鱗窺はせ        栞 雑花
78    匠究めて深き眼の人        蛉
ナオ
79  泥沼流さわやか流とも呼ばれけり    ね
80    番狂わせと言えぬ風格       牙
81  勝越しに斗酒まだ辞せぬ午前二時    碩
82    手水の窓を中天の月        蘭 秋月 ちょうず
83  回廊を渡れば菊の馥郁と        牙 秋
84    春日の杜に鹿の群れなす      栞 秋
85  やはらかき煎餅好むばばと孫      葛
86    障子を透し届く小春日       碩 冬
87  川の字の天井躍る影絵かな       蛉
88    生謳歌する如く啼く蝉       蘭 夏
89  短夜をともに過せる終の刻       栞 夏恋
90    肩抱きくれし御手の恋しき     葛 恋
91  通学路メニュー変わらぬ喫茶店     牙
92    卒業写真ひとりわからず      水
ナウ
93  自分史で賞を狙ってネタ集め      蘭
94    こんぐらかりし編みかけの糸    葛
95  縁側に猫は寛ぎ毛づくろひ       蘭
96    苔むす石はやや陽溜まりに     蛉
97  水温む頃となりしや潦         栞 春 にわたずみ
98    逃げる蝌蚪追う子のはしゃぎ声   牙 春
99  早咲きの花を門出に栄転す       水 春花
挙句    ますます高く上がる風船      ね 春

・・・経過は

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目
付け転じ方

写真提供はフォト蔵さん

2012年12月6日木曜日

【満尾】第四千句第二百韻『荒星や』の巻


     百韻『荒星や』の巻   
                2012.12.6〜12.24

発句  荒星や黒塊となる屋敷林      曙水 冬
脇句    大根簾叩く幼子        風牙 冬
第三  喝采の受賞祝ひは炬燵にて     草栞 冬
4     けふもけふとて酒が飲めるぞ  春蘭
5   木の下にぽつねんと待つ新社員   玄碩 春
6     夜明けの花を慰めとして    ね子 春花
7   ふらここを立ち漕ぎすれば月近く   水 春月
8     良い子は帰宅せよと童謡     蘭

9   テーブルに一つ置かれしカップ麺   牙
10    なんだかんだと飛んでゐる妻   蘭
11  ”出張”の土産物とて水中花       ね 夏恋
12    禊を済ませ受け容れる愛     栞 夏恋
13  漸くに払い終えたる養育費      牙
14    血筋守りて女流家元       水
15  植木屋が入り清しき見越し松     蘭 
16    野球少年前をうろうろ      碩
17  ランニングコースはぐれて一休み   栞
18    寺深閑とつくつくし啼く     蘭 秋
19  置き去りのビニール傘に月明り    ね 秋月
20    枯れ葉舞い込むコンビニのドア  水 秋
21  止められぬ酒と煙草は人のせい    牙
22    ネオンまたゝく我が家への道   蘭
二オ
23  ツーショット撮られぬやうに手を離し 栞
24    CM場面あはや惨事に     夏木
25  山の午後天気急変ガスが出て     蘭
26    記憶に想像交へ描く絵      〃
27  次の世は鳥となりたし風うらら    牙 春
28    余寒か悪寒か総選挙前      ね 春
29  後出しのジャンケンで負ける新入生  水 春
30    尾鰭ばかりが幾重にもつき    木
31  判官へ贔屓が高じ諸伝説       蘭
32    青菜を並べ交わす冷や酒     碩 夏
33  短夜を連句仲間と過ごさまし     ね 夏
34    夏の霜降る露地を進みて     栞 夏月
35  誰何され初めて気づく己が影     木
36    忍んでつけるペアのウォッチ   水 恋
二ウ
37  既婚者もおもひを寄せる許嫁者    蘭 恋
38    朝まで語る白き息して      ね 冬恋
39  ぬけぬけと嘘吐く遅刻常連者     水
40    小エビで釣りし鯛は大味     木
41  豊饒の海隔て無き日は何処      栞
42    雲縹渺と東する空        蘭 ひょうびょう
43  少年の自転車速くも橋渡る      水
44    うれしい時はいつも口笛     木
45  アンティークグラス並べば巴里の色  牙
46    地上を走るメトロ懐かし     栞
47  どの街も似たよなビルや店ばかり   蘭
48    一家言士の供はつらいよ     木
48    土筆たんぽぽ残る一角      ね 春
49  茣蓙敷きて花見弁当広げたる     栞 春花 両句に
50    春颯吹きひらりスカート     水 春
三オ
51  やすみなし又候恋の季節にて     蘭 恋 またぞろ
52    更衣さへ上の空なる       木 夏恋
53  ヴェランダの下より聞こゆセレナーデ 栞 夏恋
54    ロミオに飽いたジュリエットゐて ね 恋
55  日替わりといいつつ変わらぬ定食屋  水
56    午後の講義はさぼり名画座    蘭
57  懐メロも交じりて偲ぶイケブクロ   木
58    ウーパールーパー飼っていた頃  牙
59  真四角の窓に異国の月が出て     ね 秋月
60    酔うた箸先衣かつぎ逃げ     水 秋
61  秋収めご相伴にと寄るすずめ     蘭 秋
62    温習会のはねて賑はふ      木
63  雪洞のあかり妖しき抜け小路     蘭
64    足速に行くキャリア官僚     ね
三ウ
65  外交の機密聞き出す暇もなく     栞
66    憶測で書く新聞の記事      牙
67  ノーベル賞とうとう賭けのネタになり 蘭
68    はずれのボクは飴ひとつだけ   木
68    似非科学者の野望はてなし    ね
69  ママごとも戦争ごっこもオンライン  ね 両句に
70    ランドサットはすべて見通し   水
71  此は如何に着地は釈迦の掌に     木
72    悟り開ける菩提樹の下      栞 夏
73  炎天に佇んでゐる人の顔       ね 夏
74    心霊写真プレミアがつき     水
75  彷徨へるオランダ船の噂して     栞
76    隠れ家となるフィヨルドの村   牙
77  亜麻色の髪の花嫁ばらの笑み     蘭 雑花恋
78    貧しき聖夜贈りしは愛      木 冬恋
名オ
79  影ふたつ暖炉の前に重なりぬ     ね 冬
80    推理ドラマの居間の豪華さ    水
81  バリスタで束の間気分リッチにて   蘭
82    掃除に邪魔と出され図書館    〃
83  宿酔いのあるじに懐く迷い猫     碩
84    今日人類の滅亡のとき      ね
85  週末を平和に過ごす有難さ      栞
86    涙もろきは齢の所為にや     木
87  オペラ座の幕間に列の化粧室     牙
88    きものがにあふやまとなでしこ  蘭
89  春の月女子力アップのマツゲ付け   水 春月
90    後はおぼろとアヴァンチュールへ 栞 春恋
91  君の影あは雪よりもはかなくて    木 春恋
92    きぎす鳴きそむ小野の下萌    蘭 春
名ウ
93  敗戦の将にもならず会社去る     ね
94    裏目となりし損得の計      木
95  土地買つて立ち消えとなる首都移転  蘭
96    草のいきれに二千円札      牙 夏
97  夏休み子には何でもやらせよう    蘭 夏
98    日本一周マラソンの旅      ね
99  見上げれば甍の波に花がすみ     碩 春花
99  ひとひらの潜む便りに花の時     牙 春花
挙句    気配はすれど見えぬ若鮎 青村豆十郎 春 両句に
挙句    城下を後に遍路再び       栞 春 両句に

・・・経過は

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目

写真提供はフォト蔵さん

2012年12月5日水曜日

芭蕉の仕損じ



          (『誹諧深川集』元禄六年)


#jrenga 所収:原田曲齋『貞享式海印録』

許六曰く。巻出来終りて師曰く。「此誰の字は全く前句の事也。これ仕損じ也」といへり。(『こ東問答』) 

    薄りと門の瓦に雪降て     許六 (うっすりと)
      高観音に辛崎を見る    洒堂
    今はやる単羽織を着連立ち   嵐蘭
      奉行の鑓に誰れも隠るゝ  芭蕉  

四句目の芭蕉の付句、別に問題ないんじゃないと思う人は連句は今一。アウト! 誰れは前句の人々のことで前句に縋っている。

「蕉門の付句は前句の情を引き来るを嫌ふ。ただ前句はこれいかなる場、いかなる人と、其事其位をよく見定め、前句を突き放して付くべし」と言っている張本人の失策である。

仕損じならば直し給えと弟子らは言わず、芭蕉本人も自ら直そうとしなかったらしい。悪い例も残せば後人の為になると考えたのだろうか。

2012年12月4日火曜日

蕉門の前句の意を転ずる妙法

見立・趣向・句作の定法十三条  所収:原田曲齋『七部婆心録』


俳諧の連歌において付句は、以下の三つのプロセスによって行われる。
(1)見立:前句の意を転ずる案じ方で前句をどういう場面と見立てるか、
決める。
(2)趣向:初念の見立に対し付句をいかなる場、人、体、用、情、趣意
の趣向(付けの物柄)とするか、前句に対しいかなる姿勢、重ー起
情、中ー会釈、軽ー遁句で付けるか、起情、会釈は曲節ありなしの
どちらでいくか決める。
(3)句作:見立と趣向を掛け合わせ、古語、俤取り、余情などを加味し 
て一句を仕立てる。
この三つを備えない句は大方、前句の註(説明)か一向に付かない句で
ある。

見立の五条
一、前句の上中下に言葉を添えて魂を替える法。

一、に留て留の句を見替えるには、に、ての後ろに言葉を添えること
定法なり。

一、何に対してかく言うと前句を咎める案じ方あり。

一、前句を虚(嘘)に言う言葉と見て、付句にその続きの戯言を付ける。
付句例 鼓手向くる弁慶の宮、麻刈といふ歌の集む

一、即体 其用や其情の句が並んだとき体ある物に見立てる。

趣向の五条
一、准(なぞらえ)付 人情をものに譬えた前句には其のものに対
して付ける。

一、逆付(後付) 前句より先に起こるべき事象を後から付ける。

巾に木槿を挟む琵琶打
牛の跡弔ふ草の夕暮に

一、裏付 前句の言葉の裏の意味を読み付ける。

道のべに立ち暮らしたる禰宜が麻
楽する頃と思ふ年延

一、それにつけてもの用 前句の内容であるが、それにつけてもと
案じる。

一、空撓め 前句とは何の付け筋もなくふと思い浮かんだ姿をもっ
て直感的に句を付ける。それでいながら無心所着(短歌として意
味不明)ではない。蕉門の秘法・妙法とも言われるが芭蕉自身も
直弟子にも具体的に説明し得ない絶妙の術と言う。支考は証句と
して以下を挙げたが、七部集を繙き付け筋はわからないが意味は
通じる付句を探して、自分で判断し学ぶしかないのかも知れない。

障子に影の夕日ちらつく
婿殿はどれぞと老の目を拭ひ

句作の三条
一、相係り(前句の見立に半ば係りの言葉があれば付句も前句に
半ば懸けて作る。)、係付(前句を平生ならず見立てるとき
は、見立ての中の言葉で前句にもたれるように作る。) 結
付(前句に情か用の言葉がありその意を転ずるときは、付句
は其場、其体をもって作る。)

一、不用の用 後句を付けやすくするために付句には不用な言葉を
付加する。

一、執中の法 前句の余情から中心となる一二三字の単語を連想し意
味的には直接関係のない句を付ける。

糊強き袴に秋を打うらみ
鬢の白髪を今朝見付けたり    老を連想

手紙を持ちて人の名を問ふ
本膳が出ればおのおのかしこまり   振舞を連想    

此の秋も門の板橋崩れけり
赦免にもれて独り見る月      左遷を連想

感想:
曲齋の『貞享式海印録』は、芭蕉俳諧の作法がどういうものだったか窺う
には最適な書である。芭蕉門には前句の意を転ずる妙法なるものがあるか
ら古式のような式目は不用なのだという記述が含まれている。

その妙法とは匂付け(余情付け)、執中の法、空撓め、見立て替えかと私
は見当を付けたが自信はない。評釈が嫌いできちんと読んだことがなかっ
た芭蕉七部集の評釈本『七部婆心録』の註釈の仕方を解説した中に上述の
コンパクトな記述を発見(^^)した。曲齋はこれを基に『附句見立鏡』という
書を構想していたらしい。実際に発刊したのかは今の所不明である。

曲齋が考える妙法には、私が見当を付けた四項目は含まれていたがそれば
かりではなかった。また、すべての付けは、前句の見立てなのだという考
えに立っており、連句は見立て替え(曲解)の文芸なのだという説の論拠
になり得そうである。難解で正しく咀嚼できたかは自信がない。今まで見
立、趣向、句作を一緒くたにしてきた自身の付け転じに光明となることを
祈る。

上述を踏まえて平易な短い言葉で芭蕉流の付け転じ方を縮めて言えば以下
のようになるだろうか。

【前句の言外に言ひ残したるもの・余情・曲解から見立て、趣向は遠く、
句作は近く(短歌になるように)付けるべし。】