2008年12月19日金曜日
七夕しぐれ
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本
『七夕しぐれ』熊谷達也 (ネタばれ)
五年生の和也は宮城県の小さな町から大都会の仙台市に引っ越して来た。とは言っても市の中心から離れた広瀬川沿いの色あせた小さな家が新しい住まいだ。そのあたりは昔、穢多(えた)と呼ばれ差別されていた人たちが住んでいたという。同級生のヒロユキとナオミはそこに住んでいるためクラスで差別されていた。ヒロユキの父は元香具師で今はラーメンの屋台を引いている。ナオミの父は公務員だというが刑吏らしい。二人はいとこで母が姉妹だという。他の家には小指のない元香具師の沼倉のおんちゃんやストリッパーの安子ねえが住んでいる。
和也はユキヒロとナオミと仲良くしたい。しかし二人は自分たちが被差別民の子孫だと知り、和也は結局離れていくだろうと思い、和也を避けている。和也は安子ねえに悩みを打ち明ける。安子ねえは、ユキヒロとナオミがラーメン屋台を手伝っている所に和也を連れていき事情を教える。そして何が正義かあとは自分で考えなさいという。
三人は心を開いて友情を誓う。和也ははじめてナオミを見かけた瞬間から彼女を好きになっていた自分に気がつく。和也は二人と仲良くしているとクラスでいじめを受ける。あわやというところで、ユキヒロに助けられる。三人はこのままではいけないと力でいじめの仕返しをしようと画策するが、おんちゃんに止められる。それじゃやくざの出入りと変わらない、他の方法を考えろと。
ペンは剣よりも強し、と学校新聞を使って差別はいけない、いじめはいけないと訴えようとするが、寝た子を起こすなと先生に止められる。先生に失望した三人は、実力行使しかないと、原稿をビラとして印刷する。そして決行日、ユキヒロとナオミが放送室を占拠し檄を飛ばし、和也は屋上からビラをばら撒く。近隣の人も放送を聞きつけ生徒に混じりビラを拾う。その中に和也の父も居た。父は頭の上に両手で丸を描いて和也に示した。
三人は家庭訪問を受けるが大きなお咎めはなかった。和也の父は学習塾を経営していたがうまく行かずもとの田舎町の教師に戻ることになった。七夕の夜、広瀬川の川原でユキヒロ、ナオミ、おんちゃん、安子ねえが和也のためにささやかな送別会をしてくれた。流れ星が流れ、和也とナオミは願い事をした。和也はナオミの願い事が自分と同じだと直感した。
感想
重いテーマをよく少年少女向けの小説のようにわかりやすく、軽いタッチで書けたものだと感心する。沼倉のおんちゃんとストリッパーの安子ねえの存在は大きい。ふたりの何気なく押し付けがましくない言葉は小説の中で重く生きてくる。学校向けの推薦図書にしたいが、事なかれ主義の教師の対応に失望する場面もありそれは無理かもしれない。
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