2007年10月23日火曜日

思郷


『放浪の天才詩人 金笠』崔碩義

金笠(キムサッカ)1807ー1863 乞食詩人:ボヘミアン。朝鮮の山頭火とも呼ばれる。本名は炳淵(びょんよん)。号は蘭皐(なんご、らんこう *注)。

名門の生まれだが没落後、22才で妻子を残し出奔。24才で一時家に帰るが再び家出。57才で路傍に倒れるまで家に帰ることはなかった。

才気、機智に富み、諷刺とユーモアのある多くの漢詩を詠んだ。食や宿を乞い受け入れられないとすぐ相手をこけおろした憤懣の詩を残して立ち去るのはあまりに人間的だ。高僧や妓生との共吟詩、某女への誘いの詩などは自由奔放でもある。三教との関わり合いはどうだったのだろうか。

異郷にあっても心は常に故郷に向いていた、でも帰るに帰れない、かといって一カ所に留まれず、白髪になるまで路傍を彷徨してしまったと慨嘆する詩には心を揺さぶられる。

     
    可憐江浦望 明沙十里連 令人個個拾 共数父母年(贈還甲宴老人)

    人性本非無情物 莫惜今宵解汝裙 (贈某女)

    玉館孤燈応送歳 夢中能作故園遊 (思郷)

    心猶異域首丘狐 勢亦窮途触藩羊 (蘭皐平生詩)

    帰兮亦難イ至亦難 幾日彷徨中路傍 (蘭皐平生詩)

    
余談:

 青邱 自分の別の号であるが、朝鮮を意味するとは知らなかった。

 蘭皐 *注  
    歩余馬於蘭皐兮 馳椒丘且焉止息 (屈原『楚辞』離騒)

   (余が馬を蘭皐に歩ませ、椒丘に馳せてしばらくここに止息す
    蘭皐:蘭の香る沢  椒丘:山椒の匂う丘 )

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