2007年04月03日12:33
『ヒストリアン』第2巻、エリザベス・コストヴァ著、高瀬素子訳、2006年、NHK出版
原題:The Historian, Elizabeth Kostova, 2005
あらすじ:まるごとねたばれ
*ロッシ教授失踪
竜の絵だけであとは空白という本の謎を追っていた歴史学者(ヒストリアン)のロッシ教授が失踪した。謎の竜(ドラゴン)はドラキュラを意味するらしい。ロッシ教授は、ドラキュラは今も生きていると教え子のポールにつぶやいていた。
ポールは、ロッシ教授の娘と名乗る人類学者のヘレン・ロッシと図書館で知り合いになり、ロッシ教授とドラキュラを追ってイスタンブール 、東欧諸国(ルーマニア、ハンガリー、ブルガリア)をめぐり探索の旅をする。
ドラキュラことヴラド・ツェペシュ(ヴラド3世1431.11.10 -1476)は実在の人物で、15世紀のルーマニアのトランシルヴァニア地方ワラキアの君主であった。オスマン帝国の侵略の阻止に身を挺したが、外敵や内敵の処刑の仕方が串刺し刑だったため串刺し公、ドラキュラ公とも呼ばれた。遺体はワラキアのスナゴフ湖の島の教会に埋葬されたらしい。しかしそこには遺体はなかった。
ヘレンの祖父はワラキアに住んでおり、先祖をさかのぼるとヴラド3世につながっているという。ヘレンはドラキュラの子孫だったのだ。ヘレンの伯母からヘレンの母は、ドラキュラを探索にルーマニアに来ていた若い頃のロッシ教授と恋仲になり子をはらんだが、伯母の手引きでブルガリアに逃れ女児(ヘレン)を生んだことを知る。ヘレンとポールはブルガリアのヘレンの生家に行く。ヘレンは母にポールを紹介する。母はポールをとても気に入った様子だ。清貧孤独な生活を苦としない母であったがつかの間の逢瀬、別れに涙する。
各地の歴史学者や修道院の助けを借りながら、ドラキュラ公の遺体はハンガリーー>イスタンブールー>ブルガリアへと運ばれたことをつきとめる。わざわざイスタンブールに行ったのはオスマン帝国のメフメト2世の下に運ばれた首を取り戻すためだったらしい。
ポールとヘレンは、ついにブルガリアのパチコヴォという村の修道院の階段に謎の竜の絵があることを発見する。その地下聖堂の石棺の中にはロッシ教授が横たわっていた。
ドラキュラは世界最大の図書館を地下に持っていた。図書館を維持するため蔵書目録を整備したいと思い、それができる優秀な歴史学者を求めていた。竜の絵の謎の本はドラキュラが出版したものでこれはと見込んだ歴史学者に配布したものだった。500年以上も世の中を見て、本を収集し歴史を勉強してきたドラキュラ自身が世界一のヒストリアンと言えるのかもしれない。
優秀な歴史学者であれば竜の絵の謎を解いて自分のところにたどりつくはずだとドラキュラは考えた。ロッシ教授はドラキュラに拉致されたが自力ではたどりつけなかったということか。ロッシ教授は死なざる者(バンパイア)になってまでドラキュラの図書館の維持に協力する気はないと拒否した。ロッシは三度首をかまれたようでこのままだとバンパイアになってしまう。ヘレンは自分は娘だと名乗る。ポールは泣く泣くロッシの心臓にとどめをさした。ドラキュラは逃げ出した後で彼の石棺は空であった。
*ヘレン失踪
ポールとヘレン・ロッシはボストンに帰り結婚し娘をもうける。娘が5才のとき三人でフランスに旅行にいく。サンチューデ・ピレネー・ゾリアンタル修道院に行ったときそこに一泊するがヘレンが失踪する。
*ポール失踪
娘が16才になったときポールは娘とオックスフォード大での学術会議に出かけるが今度はポールが失踪する。娘はジェイムズ学寮長が手配してくれた青年バーレイにアムステルダムの家に送ってもらったがすぐ父の後を追う。しばらく見張っていたバーレイは心配してついてきた。
*大団円
ポールは前に親子3人で行ったフランスのサンチューデ・ピレネー・ゾリアンタル修道院があやしいとにらむ。その地下聖堂には案の定ドラキュラが隠れていた。ドラキュラはポールに図書館維持の協力を求めるが拒否する。ジェイムズ学寮長が現れるがドラキュラに壁に打ちつけられて死ぬ。彼も謎の本を配布されたヒストリアンの一人だった。
そのとき銃が撃たれドラキュラの心臓に命中する。ドラキュラは土のようにしぼみ消滅する。銃を撃ったのはヘレンだった。ヘレンは父の仇を討つため失踪して、ドラキュラを探索し敵討ちの機会をうかがっていたのだった。そこに娘とバーレイも到着する。
*エピローグ
ヘレンが数年後になくなったとき、ポールは葬儀の翌日、ナイフをもって墓に出かけたらしい。ヘレンはドラキュラの子孫であり、バンパイアに首をかまれたこともある。ヘレンが死なざる者(バンパイア)にならないようにとどめをさすためらしい。
ポールとヘレンの一人娘(私)もやがて歴史学者になる。あの修道院でドラキュラの申し出をポールが拒否したとき、代わりに娘でもいいとドラキュラが言った。ドラキュラは人を見る目も抜群だったようだ。娘はヒストリアンの父の血とドラキュラの血を受け継いでいる。彼女がヒストリアンとして最強かもしれない。
感想
ジェイムズ学寮長とバーレイがかなりあやしくなってきた、と第一巻のとき言ったがはずれた(^^;)
歴史上実在したドラキュラ公がフィクションと思われる”死なざる者(吸血鬼:バンパイア)”であったのは予想外であった。吸血鬼伝説をくっつけた方が小説としてはおもしろいのであろうが、最後まで学術的な視点を期待している人にはどうだろうか。
ルーマニアの地元ではヴラド3世は英雄として知られていて、吸血鬼ドラキュラと結びつけられ半分迷惑顔ではあるが、観光のネタとなっているので半分薄笑いとか。
学者の男女が謎を追い、各地の教会などを探索するのはダビンチコードと似ている。でもあちらの方が学術的な感じがする。そのあとさらに独自に調べようという気になったが、こちらはバンパイアなのでそういう気にはならない。もともとホラー系は苦手だ。
年代の異なる3つの失踪と3つの捜索が織り込まれ同時並行で語られるのがこの本の売りであろう。読者は気を抜くと、今はいつで、だれがどこで話しているのかわからなくなる、こういうのも時空を超えるといえるのかもしれない(^^)
おわり
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