2010年2月28日日曜日

萱草第六 雑連歌(六)




2007年05月25日10:31

京都大学附属図書館所蔵 古典籍 『萱草』(わすれぐさ)



 ひさかたの天地にしも生れきておもはざらめやことの葉のみち


 * * * * * *


 ちぎりても情のなくばいかがせん
わが山ざとをあらす松かぜ

 まどうつ雨も老の涙か
山ざとに身をうき雲の消わびて

 又いかならむ人のゆくすえ
老ぬればいまはと思ふ山里に

 かくれがとても住はさだめじ
しづかにとおもへばさびし山の奥

 物おもはでもすまし世中
うき事はありとも山の奥なれや

 むかしおもへばなみだこそあれ
しらざりき都にかかる山のおく

 水のみぢかき山もとのさと
大はらやのぼるをひえの嶺たかみ

 おもふことたちゐにつけて見えやせん
おほはら山の雲のした庵

 山路は水をゆくゆくぞみる
あけぬるかうへに鐘なるしがのうみ

 仏ともなるてふことのあるなるに
あはれくち木を三尾のそま山

  北畠大納言家に奉し百句に
 いる月にたれか心をつくしかた


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0070.html



木のまあけゆく箱ざきのまつ

 とをきみちこそ物語なれ
又いつかあこやの松を都人

 ありしむかしぞ見るばかりなる
  といふ句に
大よどや松ものこらぬ浦さびて

  北畠大納言家にあつめ給百句に
 やはらくるうたの詞もあるものを
玉のゆかとふまつ山のかげ

 なみだにわくる宮城ののはら
  といふ句に
松山をわがとしなみのすゑにみて

 けぶりをだにもたやすかなしさ
塩がまを名ある跡ぞとあまもしれ

 とを山もとぞ鐘にしらるる
難波がた紀のうみかけて明わたり

 さす河舟ぞ岸のまへなる
渡辺(わたのへ)やおほ江のにしの入日影

 人はむかしのことの葉もうし
水ならでこゑはながらの橋ばしら

 むかしをのこすさとのふる道
つくれなをながらの橋の跡もおし


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0071.html



 かかるうき身はいふかたぞなき
橋ばしらくずるもあるにながらへて

 のちにぞ法のこころをばえし
うらみうるをばすて山の月晴て

 雲ものこらぬ夕だちのあと
かげたかき天のかぐ山月すみて

 こふる都にうかぶうみ山
冨士の雪あかしの月もいつかみん

 いやしきも大君の代を初にて
まなべあさかのやまとことのは

 ひさかたの天地(あめつち)にしも生(れ)きて
おもはざらめやことの葉のみち

 しらぬ汀をたどりこそゆけ
和歌の浦あまにはとはん道ならで

 命あらばいかなる名をかのこさまし
またとしなみのわかのうら人

 てふれてかへす文もなつかし
なき親のいさめし道を学ぶ身に

 ほたるのかげの遠き別路
たらちねのをしへをうけし窓古(り)て

 すむ人は我を隣のかひあらじ
をろかなる身はたれををしへん


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0072.html

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