2010年2月28日日曜日

天使と悪魔

2007年04月09日14:44

『天使と悪魔』上下、ダン・ブラウン、越前敏弥訳、角川書店、   
 2003  原題:ANGELS AND DEMONS, Dan Brown, 2000


本書はダ・ヴィンチ・コードの前作でロバート・ラングドン・シリーズの第一作である。テーマは宗教と科学の対立と融合。

あらすじ:まるごとねたばれ
CERN(セルン:欧州原子核研究機構)の科学者、レオナルド・ヴェトラと娘のヴィットリアは反物質の生成に成功した。反物質はエネルギー効率が100パーセントで未来の最強のエネルギー源とされるが、核と同様、凶悪兵器に使われる可能性もある。

網膜スキャンによるセキュリティなどで厳重に保管してあった1/4グラムの反物質のサンプルが盗まれた。これは5キロトンに相当し、小都市を破壊できる。レオナルドは片目をくりぬかれ胸にイルミナティの紋章の焼印を押されて殺害されていた。イルミナティは過去に存在した科学者の秘密結社でカトリック教会と対立していたという。今も存在するのか。

セルンの所長マクシミリアン・コーラーは、ハーバード大学教授の宗教象徴学の第一人者、ロバート・ラングトンをインターネットで検索し呼び寄せる。インターネットに載っていない居所をどうやってつきとめたのか。World Wide Webを発明したのはセルンであり、居所もわかるのだとコーラーはラングドンにいう。

レオナルドは、科学者であるが同時に司祭でもあった。科学と宗教は過去にことごとく対立してきたが、反物質により、今後は科学と宗教の融合が可能になると信じていた。宗教の創世記でははじめに神が光あれと言って無から有を生み出したとされる。科学ではビッグバンで宇宙が説明されるが、宇宙の創造の瞬間、時刻ゼロは未解明のままである。しかしレオナルドは反物質によってビッグバンの時刻ゼロも宗教の創世記も説明できると主張していた。

ヴィットリアはレオナルドが司祭をしていたときに孤児院で知り合った少女で、CERNに転出するときに養女として連れていった。父レオナルドは9才の娘ヴィットリアを不思議の国のわたしの小さなアインシュタインと呼んだ。父は娘の才能を見抜いていたのだ。

セルンの所長コーラーにヴァチカンから連絡が入る。イルミナティと名乗るものから脅しの電話があり、ヴァチカンの監視カメラの一つに奇妙な容器が映っていると。盗まれた反物質のサンプルらしい。反物質は容器の中に電磁力で浮かんでおり、24時間以内に充電しないと落下して容器(物質)に触れ大爆発を起こし、カトリック教会総本山のヴァチカン市国は吹っ飛んでしまう。

ラングドンとヴィットリアは、CERNの最新鋭飛行機X33でジュネーブからローマに飛ぶ。マッハ15で1時間しかかからない。

* * * * * * * * * * * * * * *

ヴァチカンでは前教皇が亡くなりコンクラーベがはじまるところであった。しかし次期教皇の有力候補の枢機卿4人が行方不明となる。犯人から4人を4つの教会で順次暗殺するとの予告があった。昔、4人の科学者が十字架の焼印を押され殺害された報復らしい。

ラングドンとヴィットリアはイルミナティ関連の資料から謎を解きつつ、ローマにある4つの教会を特定して現場に行くが、4人の枢機卿はそれぞれ胸に土(Earth)、空気(Air)、火(Fire)、水(Water)の焼印を押されて殺害されてしまう。

前教皇侍従のカメルレンゴは遅々として進まないコンクラーベの会場で事実を報告し演説を行い株を上げる。セルンのコーラー所長がやってくる。二人だけになった密室。カメルレンゴの悲鳴。コーラーが拳銃を持ってカメルレンゴをねらっている。カメルレンゴは胸にイルミナティの四つの要素が組合わさった紋章の焼印を押されもがいている。犯行グループの長(ヤヌス)はコーラーなのか。衛兵はコーラーを射殺する。

あと反物質の爆発まで20分になったとき、カメルレンゴは神から啓示があったと叫びながら、地下聖堂に走っていき、反物質の容器を見つける。そしてラングドンを連れてヘリコプターに乗り込みヴァチカンを離れ上昇していく。もう時間は少ししか残っていない。突然操縦していたカメルレンゴはパラシュートを付けて脱出する。

他にパラシュートはない、時間もない。ラングドンは窓を遮蔽するためのシートをパラシュート代わりにして脱出、奇跡の生還をする。上空に大きな光が現れる。反物質が爆発した。

何食わぬ顔でヴァチカンに戻ってきたカメルレンゴは、神の啓示を受けた英雄と讃えられ、次期、教皇はまちがいないと思われた。しかしそこにラングドンが現れ、カメルレンゴの自作自演がばれてしまう。

カメルレンゴは前教皇と母マリアとの間に生まれた人工受精の子であった。カメルレンゴはそれを知らず、科学に理解を示す前教皇を偽善者と考え毒殺した。そして自分が教皇になるため刺客ハサシンを使ってレオナルドと四人の枢機卿を殺したのだった。セルンの所長コーラーが射殺されるように仕向けたのもカメルレンゴの策謀だった。カメルレンゴはもはや逃れようがなくバルコニーで焼身自殺する。

死んだと思っていたラングドンを見てヴィットリアは歓喜する。二人はずっと前からお互いにかけがいのない人として思っていた。


感想
古来、正統派と称する側は相手を異端とか悪魔と呼ぶ。しかし本書では正統派のトップをめざす男が悪魔だった。物質にとって反物質は悪魔か、そうではないだろう。宗教にとって科学は悪魔ではないし、逆に科学にとって宗教は悪魔ではない。悪魔は人の心の中にある。どちらの陣営の人にも忍び込み得るものだろう。

本書は映画化の予定だという。アクション、緊迫感、ヒーロとヒロインの愛などは、ダ・ヴィンチ・コードよりも豊富でエンターティメントとしては上かもしれない。ダ・ヴィンチ・コードで最後にヒーローとヒロインはなにもなく静かに別れるのを物足りなく思っていたが理由がわかった。前作でもっと魅惑的な女性と恋仲になっていたのだw


反物質:
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