2010年2月28日日曜日

萱草第六 雑連歌(五)




2007年05月24日14:30

京都大学附属図書館所蔵 古典籍 『萱草』(わすれぐさ)


 君が車のあとのこれなを
分いづる道に小松のかたよりて

 舟さしいたす春の水うみ
しづかなる時代(ときよ)をさるも心にて

 さてもにぬこころ言葉のおぼつかな
かしこき人はそふもはづかし

 こころにこめておほきいつはり
  といふ句に
おそろしやゑみのうちなる其(その)刀(つるぎ)

 あだの名のみに身をやながさん
かなしきはとがをたださぬ時代にて

 いはばやつつむことの葉ぞうき
すぐ(直ぐ)ならぬ道にもさすがしたがひて

 神と人ともただ心から
すぐならば世ををそるべき道もなし

 まことの色はしたにこそあれ
にごる世も民は中々すぐなれや

 浪よりかよふ袖のした風
ひく人やから琴の名を残すらん

 しる人なくてすめる故郷
緒(絃)をもはやたたばや老のひとり琴

 よへども舟はこたへざりけり
ひく琵琶はむせぶ涙に聲たえて


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0067.html



 一しきり竹ふきしほる風あらみ
梅さくかげは笛のねもうし

 聲のにほひをふくむ鶯
笛竹の鳥のまひ人うちむれて

 あそぶやいとのみだれたる色
灯に夜はの笛竹こゑふけて

 さえわたる夜ぞ橋に霜ふる
かささぎの嵐にまよふ聲わびて

 秋さはがしく時雨ふる空
からす鳴み山の雲に日は暮て

 ふりわけかみのあだのかたらひ
あげまきのさそふ牛の子帰(る)野に

 今はのときぞ罪ををそるる
いかり猪も矢によはれるは哀にて

 旅人さぞな雪のあかつき
さととをく犬ほふる夜の月さえて

 物かなしかるやどの秋かぜ
蛬(きりぎりす)なくよもぎふに月さえて

 わかれし人ぞ見るばかりなる
あさぢふやふるき都の月のもと

 いづくにすむも身はうかりけり
都にや数ならずともをくらまし


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0068.html



 身をかくすべき木のもともがな
都にもながらへんとはおもはぬに

 こころにさびし山の松かぜ
宿からに都も嶺のいほりにて

 心を見てはたのまれもせず
すまばやの山は松かぜ瀧の音

 庭あさくなる冬の木のもと
簷(のき)ちかき山に柴かる人見えて

 おくまで山をもしやとひこん
故郷の松風おもふ柴のいほ

 なれてもさびし山の松風
たれきてか心とどめんしばの庵

 松ふくかぜのすみわたる聲
庵むすぶみ山の苔に水落て

 やどりやとらんさくらかり人
すむ月を太山の庵のあるじにて

 雨ふりすさむ暮のさびしさ
山ざとは雲のかへるを軒にみて

 いそぐは人の又やこさらん
やま里に心とむべきゆへもがな

 詞をもかわずばかりにむつまじく
はやしの鳥のなるる山ざと


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0069.html

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