2007年03月07日18:26
宮部みゆき『名もなき毒』幻冬舎
(平成18年度 吉川英治文学賞)
ねたばれ
杉村三郎は、今多コンツェルンの社内報あおぞらを編集するグループ広報室に務めるサラリーマン。妻は会長の娘、菜穂子で一女桃子がいる。菜穂子は会長の妾の子であるが、会長は杉村に菜穂子との結婚を許す代わりに会長直属の広報室で勤務する条件を出した。杉村は出版社を辞めそれに従った。
広報室では、手に負えない女性と知らず原田いずみをバイトに雇ってしまった。履歴書はほとんど嘘、スキルはない、仕事を覚えようとしない、他人とうまくやっていけない、注意するとすぐとんがるということで、やめてもらった。しかし、いずみの会社への脅迫といやがらせが始まる。
杉村は会長からいい経験だからその処理にあたるよう指示を受ける。杉村は履歴書にある会社を訪問し、そこでも同じだったことを知る。その会社が身上調査を依頼した北見という私立探偵を尋ねる。
そこで仕事の依頼に来ていた女子高生の古屋美知子と知り合いになる。美知子は、大田区で起きた青酸カリ無差別殺人事件の被害者、古屋明俊の孫娘であった。さいたまで2件、横浜で1件、同様な事件が起きていた。大田区の事件では、美知子の母、暁子は警察から容疑者としてマークされていた。美知子は真犯人の調査を北見に頼みに来ていたのだ。
その後、さいたまの事件の犯人は自首、横浜の事件は自殺と断定され、ますます暁子への容疑が深まる。しかし、古屋明俊の愛人、奈良和子が飛び降り自殺し、ハンドバックから青酸カリの袋が見つかったこともあり彼女が犯人と思われた。
なにかひっかかる杉村は、真犯人がコンビニの店員、外立ケンジであることを突きとめる。外立は不幸な祖母と死のうとネットの自殺サイトから青酸カリを入手した。しかし気が変わり、自分たちが不幸なのは世の中のせいとウーロン茶に注射器で毒を注入し、コンビニに置いた。それを古屋明俊は買って飲んでしまったのだ。外立は奈良和子のハンドバックに青酸カリの袋を入れたことも自供した。
一件落着、外立に付き添い警察に向かうタクシーの中で携帯が鳴る。菜穂子から今、家に原田いずみが押し込んできて娘の桃子を人質にして立て籠っているという。
急遽タクシーは杉村の自宅へ。外立は原田いずみに向かい、自分は怒りを世間に向けて無差別に人を殺してしまった、そんなことをしても意味がないからやめろと諭す。秋山は桃子を救出、一瞬、原田いずみがひるんだすきに杉村が突入し、原田いずみの身柄を拘束しことなきを得る。
青酸カリは名前のついた毒だ。名前の付いていない人の毒はどこから来て、なんのために生じ、どんな風に広がり、世の毒となるのか。いじめ、虐待をはじめとする名のなき毒に対して、自分はその解毒剤になりうるか。
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