2010年2月28日日曜日

万延元年春

2007年05月16日08:41

邦光史郎『坂本龍馬』、角川書店編『日本史探訪22 幕末の英傑たち』を読んだ。特に暗殺しようとやってきた龍馬の目を開かせる勝海舟との出会いのシーンは震えるような感動を覚える。これは司馬遼太郎『竜馬がゆく』でもそうだった。

日本を救ったとも言えるその運命の邂逅の二年前、万延元年(1860年)には、安政の大獄の首謀、大老井伊直弼が桜田門で暗殺されている。勤王と佐幕、攘夷と開国のクロスする座標の中で日本は風雲急を告げている。臥龍であった龍馬は飛龍奔馬となるべく、身を託すべき理念と行動目標をがむしゃらに探している頃だ。

そんな中、我関せずとのんびり大分の吉野の臥龍梅の花の下で俳諧を興行している人たちが居た(写真)。絵には芭蕉の句碑も見える。

 此梅に牛もはつ音と啼つべし はせを

歌仙
 ひともとをさながら梅の林かな 大虫
 藁屋まばらに冴かへる丘    石友
 軽袗の色あたらしく猿曳て   嶷北
 御箸のついたあとをいただく  翠々
 飛石に臼目をこのむ月儲    帯雲
 芭蕉のこらずさんざんになる  吟松

 寺家から放し鳥ふと未刻上り  清長
 阿闍梨を通す道のきびしさ   一簣
 着こなしに借羽織とは見えぬ也 梅柯
 最一度寝間ゑはべる別れ端   梅貫
 月のある内と納涼を契るらん  天外
 ぼちぼち咲は菱か田字草か   梅逸
 指の皮摺りむく駕の燧石    梅遜
 先ん手が勝になりし商ひ    凉枝
 流もなき文字の極った俵しるし 屋守
 あたらぬ棒に聲立る犬     芋禄
 着替の邪魔とむざむざ花折て  木甫
 冬から見れば倍も永き日    藍水

 今来よといふはたしかに試案  川和
 藪潜りたる髷が横むく     九山
 稽古矢の面目もなきそれ所   梅二
 西に成たり南風に成たり    半助
 生死もしらず海月のぶらぶら  蘭州
 こぼれかがづた腹で巡礼    圓哉
 人中で愚癡のありたけさらけ出し竹秀
 年わすれとは酒の名目     鴉青
 炭挽にこの鋸はをしいもの   巴律
 下部つかいもさとき検校    重翠
 月蝕をかくすは雲も憎からず  萱邨
 ここ二十日ほど稿の気遣い   為樵

 四手うつも若手まさりの九十九髪兔臼
 水張っておく雑炊のあと    喝石
 雨漏と鼠の尿のまぎらわし   雪曹
 腰折ひとつまとめ兼けり    白鳥
 もろこしの吉野も花の春なれや 呉石
 海部郡に霞む人聲       丘鳥


臥龍梅の下での俳諧の模様(古典籍と翻刻)
http://members.jcom.home.ne.jp/metrius/index.html

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