2010年2月28日日曜日

萱草第六 雑連歌(八)




2007年05月26日19:02


京都大学附属図書館所蔵 古典籍 『萱草』(わすれぐさ)


 はかなき夢の猶や見えまし
よのなかはよしあしともにとどまらで

 八十(やそぢ)ときくもただ夢のかす
まよひゆくちまたの塵の世中に

 かりのいほりのあるる程なさ
ながらへん物とおもはぬ世のなかに

 しづかにこもるいほりともしれ
人は身を世のさかへにや忘るらん

 などかこころの罪にひかるる
わたる世は賤(しづ)かうみをのあさましや

 人のわざこそみなあはれなれ
いくほどの身とて浮世をわたるらん

 わたる人なき雪のかけはし
たれもただ浮世の道にふりはてて

  独吟の百韻に
 よしやしばしはおもひなぐさめ
身にかぎるうき世なりともいかがせん

 いにしへなれし友ぞ恋しき
  という句に
うき世などみちなき人は残るらむ

 しられずよ猶いかさまにかはらまし
わがみるうちもあらぬ世中


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0076.html



 ゆくえさだめぬ身をいかがせん
ほどもなき一日のうちもかはる世に

 一日の夢の身をなたのみそ
世中はきのふもむなしあすもなし

 おもふ友ある日こそおしけれ
あすはたがなからん事もしらぬ世に

 いかがはせまし身を秋のかぜ
きえわびてうらやむ雲のあだし世に

 心ひとつになげくとし月
あらましや苔むすみちに成ぬらん

 したひとめつるこころくやしさ
捨よとは人をもいはむ世中に

 つらさくらぶる身ともなさばや
みな人のいとふはたぐひある世にて

 音にきくよしのの花をいつかみん
身はすてずとも心あれかし

 おもひもいでしつらきいにしへ
中々のたのみにをそく身を捨て

 かたらふ友もよしやおく山
すつる身は心ありてもなにかせむ

 むかしがたりをいかがつくさむ
身をすてしゆへをば人のとふもうし


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0077.html



 うきかすにのみなれるいにしへ
すつる身はもとのさかへも恨にて

 おもへばむかしただ夢ぞかし
さまざまのあらましつきて捨(つる)身に

  人々前句を十句して付侍し連歌の中に
 なをうき事はおく山もなし
鳥のねもきこへぬばかりかくす身に

  千句の連歌の侍しに
 いかがはすまむ冬のおく山
かくす身はしづが爪(つま)木のつてもなし

 秋は山にもすまれざりけり
松かぜは世のうきばかり身にしみて

 まどに瀧みる雲のした庵
世すて人かへらぬ水をこころにて

 捨はつる身を夢やとはまし
よのなかをおもひ返すな苔ごろも

 やつれぬる身のすがたはづかし
人になど命ながくて見えぬらん

 我身かりやにあるもいつまで
いのちをやしばしかたちのやどすらん

 絵にかくのみかもろこしの人
たれもただおもへば夢のかたちにて


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0078.html

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