2010年2月28日日曜日

萱草第六 雑連歌(七)




2007年05月26日10:39

京都大学附属図書館所蔵 古典籍 『萱草』(わすれぐさ)


 道あらはれて雪はきえけり
ともし火や文に光を残すらん

 ふみにつれなきほどもしられず
はかなきは今はの老のまなびにて

 いつまでうき身くだしはつべき
老てだにせめて名をえん道もがな

 たがあととしもみえぬふるさと
人はただ名をしらるるもある世にて

  独吟の連歌のうちに
 うることなにぞかりの世中
とどめてもなからん後の名はつらし

 かりなる身とは露やなからん
  といふ句に
生れこし天のみほこの末の代に

 はかなき夢はあともとどめず
物ごとに人とおなじくあらはれて

 しばしの宿や夢のなかみち
かかる身をいづくよりきて受ぬらん

 世をいとふ身の心とはばや
うき事のはじめと何か成つらん

 そなたはさても何をうらみそ
くらふればいにしへはうき事もなし


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0073.html



 秋もおもひの数とこそなれ
うき時やゆかぬ年さへつもるらん

 すまれぬ物と世をなうらみそ
うき事のなくば哀やしらざらむ

 法のこと葉ぞわすれがちなる
うきことをききしは耳にとどまりて

 きえもはてぬは命なりけり
いく千たび身はうき事にあひぬらん

 かしこきや民のうへをも祈(る)らむ
ひとりやすくと身をな思ひそ

 ゆくすゑおもふ子をぞいさむる
をろかなる我心より身をしりて

 あるもかひなしおもひきえばや
つれなきは人のためさへうき身にて

 いまのわかれをのちまでもとへ
又こすはけふを我身のなき日にて

 つま木のしづのうちわぶる暮
石の火の影に此身をわするなよ

 こころをすみにいつかそめまし
手ならひに身のうきふしを書すさみ

 もしやこなたをうらみはつらん
人ごとにわが身の科はわすられて


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0074.html



 くやしく過し涙こそあれ
捨ぬべき身をさりともと憑(たのみ)きて

 へだてはなをやおもひあからん
見し人の時をうるにも身をはぢて

 世にくらぶればうき事もなし
数ならぬ身をもうらやむ人ありて

 うらみむほどにある世ともがな
かずならぬ身はことはりも埋れて

 人にをくるるあらましぞうき
数ならぬ身とこそならめをろかにて

 ことはりしれば涙おちけん
中々の山がつならぬ身はつらし

 いはむとすればなみだおちけり
よしやただ名さへなき身と誰もみよ

 その事となく袖ぞしぼるる
しらず身のかきりやちかく成ぬらん

 ことしもとかくくらしこそゆけ
わびぬれといけるばかりとなぐさみて

 あはれをかけぬ人はうらめし
わびぬれば世をたのむこそならひなれ

 うき身はたのむかげも定めず
世になびき人にしたがふ袖ぬれて


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0075.html

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