2010年2月27日土曜日

謎句:月花や日本にまはる舌の先

2007年01月06日08:52

謎句が本句どりしたと見られる本句を見つけた。その本句は仲麿の歌を本歌どりしていた。
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第一章 本歌どり(表向きの意味)

○天の原ふりさけみれば春日なる三笠の山にいでし月かも 仲麿

 大空はるかに見渡すと今しも東の空に美しい月が出ているが、
 ああ、この月はかつて眺めた故郷奈良春日の三笠の山に出た
 あの月なのだなあ。(角川文庫「百人一首」)

 安倍仲麿(698-770) 717入唐。李白・王維と親交。753年
 清河らと帰国途上難破、安南に漂着。再び唐へ。歌は帰国途
 上、難破前、蘇州江上にて満月に望郷の念を詠んだもの。


  仲麿の畫讃
○月かげや舌を帆にまく三笠山   其角(五元集拾遺)

 其角は仲麿の歌とその画を観て本歌どりをした(いじくった)。
 仲麿の船は難破(帆をまく)して逆方向の安南に漂着するこ
 とを、舌で歌を詠むどころではない、舌をまいた(非常に驚
 いた)ろうと洒落た。


○月花や日本にまはる舌の先    畔石(俳諧桃桜)

 俳諧桃桜は、夜半亭宋阿編(元文四年跋、1739)による、其角
 嵐雪三十三回忌追善の選集である。

 畦石は、其角の句を本句どりをした(いじくった)。
 唐土で仲麿は月花を観ても日本の月花を思って歌を詠むんだ
 ろうな、くらいの意味か。

 だが、これでは其角の句をいじくったことになるだろうか。
 仲麿の歌に対する、本来の当たり前の感想になってしまう
 し、其角の句意をないがしろにしてしまう感もある。表向
 きの句意としては高尚で申し分ないが。


第二章 其角と傾城(裏の意味)

其角が月花、日本、傾城等を詠んだ句を五元集、五元集拾遺に
拾ってみた。

  傾城の賢なるは此柳かな
  闇の夜は吉原ばかり月夜哉
  十五から酒をのみ出てけふの月
  岡釣のうしろ姿や秋の暮
  日本の風呂吹といへ比叡山
  小傾城行てなぶらんとしの昏
   憶芭蕉翁
  月花や洛陽の寺社残りなく  
   怨閨誰
  傾城の小歌はかなし九月尽  

思ったほど数はなかったが、すごい句もまざり、其角が傾城に
傾倒している感じは読めるw 傾城も上級の太夫、花魁ともな
ると必修科目として俳諧の心得がありレベルは高かったという。
其角は傾城俳諧の宗匠だったとの記述を見たことがある。豪商
の紀文(紀伊国屋文左衛門)が吉原に行くときはお伴をしてい
たとか、吉原で俳諧興行をしていたのだろう。

これらを踏まえて、畦石は其角の追善に上の句を詠んだのでは
なかろうか。其角の思いを本句どりの形を借りて、裏の意味を
詠み込んだ。月花を愛でるときはやはり日本堤の方に思いが向
いてしまうと。



写真は、富岡鉄斎「阿倍仲麻呂明州望月図」の部分

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