2010年2月25日木曜日

新古今和歌集 百歌撰

2006年02月15日14:16

 新古今和歌集の全体に目を通し百首を選ぶ。選ぶ観点は、一に
 リズム、二にわかりやすく共感できるもの。

 成立:1205年  1979首 (隠岐本:1576首)
 撰者:後鳥羽院(○)藤原有家(ア)定家(サ)家隆(イ)雅経(マ)
 部立:春,夏,秋,冬,賀 哀傷,離別,羇旅,恋,雑,神祇,釈教
 参照:岩波文庫『新古今和歌集 佐佐木信綱校訂』昭和五十年

春歌

山ふかみ春とも知らぬ松の戸に たえだえかかる雪の玉水
                  式子内親王  ○マ

明日からは若菜摘まむとしめし野に 昨日も今日も雪は降りつつ 
                  赤人     ○マサイヤ

若菜摘む袖とぞ身ゆるかすが野の 飛火の野辺の雪のむらぎえ  
                  教長     ○アマ

今さらに雪降らめやも陽炎の もゆる春日となりにしものを   
                  よみ人知らず ○サ

夕月夜しほ満ちくらし難波江の あしの若葉を越ゆるしらなみ  
                  藤原秀能   ○

岩そそぐたるみの上のさ蕨の 萌えいづる春になりにけるかな  
                  志貴皇子   ○アサイマ

見わたせば山もとかすむ水無瀬川 夕べは秋となに思ひけむ   
                  後鳥羽上皇  ○

春の夜の夢のうき橋とだえして 峯にわかるるよこぐもの空   
                  定家     ○アイマ

春雨の降りそめしよりあをやぎの 糸のみどりぞ色まさりける  
                  凡河内躬恒  ○イ

薄く濃き野辺のみどりの若草に あとまで見ゆる雪のむらぎえ  
                  宮内卿    ○

吉野山去年のしをりの道かへて まだ見ぬかたの花を尋ねむ   
                  西行     ○サイマ

はかなくて過ぎにしかたを数ふれば 花に物思ふ春ぞ経にける  
                  式子内親王  ○マ

山里の春の夕ぐれ来て見れば 入相のかねに花ぞ散りける    
                  能因法師   ○サイマ

花さそふ比良の山風吹きにけり 漕ぎゆく舟のあと見ゆるまで  
                  宮内卿    ○サイマ

花さそふなごりを雲に吹きとめて しばしはにほへ春の山風   
                  雅経     ○アイ

吉野山花のふるさとあとたへて むなしき枝にはるかぜぞ吹く  
                  良経     ○アサイマ

暮れて行く春のみなとは知らねども 霞に落つる宇治のしば舟  
                  寂蓮     ○サイマ


夏歌

春過ぎて夏来にけらししろたへの ころもほすてふあまのかぐ山 
                  持統天皇   ○サイマ

折ふしもうつればかへつ世の中の 人の心の花染の袖      
                  俊成女    ○サイマ

郭公こゑ待つほどはかた岡の 森のしづくに立ちや濡れまし   
                  紫式部    ○サイ

鵜飼舟あはれとぞ見るもののふの やそ宇治川の夕闇のそら   
                  慈圓     ○アサイマ

いさり火の昔の光ほの見えて あしやの里に飛ぶほたるかな   
                  摂政太政大臣 ○イ


秋歌

おしなべて物をおもはぬ人にさへ 心をつくる秋のはつかぜ   
                  西行     ○サイ

あはれいかに草葉の露のこほるらむ 秋風立ちぬ宮城野の原   
                  西行     ○アサイマ

吹きむすぶ風はむかしの秋ながら ありしにも似ぬ袖の露かな  
                  小野小町   ○サイマ

うらがるる浅茅が原のかるかやの 乱れて物を思ふころかな   
                  坂上是則   ○

をぐら山ふもとの野辺の花薄 ほのかに見ゆる秋のゆふぐれ   
                  よみ人知らず ○アサイ

おしなべて思ひしことのかずかずに なお色まさる秋の夕暮   
                  摂政太政大臣 ○サマ

心なき身にもあはれは知られけり しぎたつ沢の秋の夕ぐれ   
                  西行     ○サイマ

見わたせば花も紅葉もなかりけり 浦のとまやの秋の夕ぐれ   
                  定家

風わたる浅茅がすゑの露にだに やどりもはてぬ宵のいなづま  
                  有家     ○サイマ

ながむればちぢにもの思ふ月にまた わが身一つの嶺の松かぜ  
                  鴨長明    ○アサイマ

下紅葉かつ散る山の夕時雨 濡れてやひとり鹿の鳴くらむ    
                  家隆     ○

まどろまで眺めよとてのすさびかな 麻のさ衣月にうつ声    
                  宮内卿    ○アサイマ

村雨の露もまだひぬまきの葉に 霧立ちのぼる秋の夕ぐれ    
                  寂蓮     ○アイマ

秋ふけぬ鳴けや霜夜のきりぎりす やや影さむしよもぎふの月  
                  太上天皇   ○アイマ


冬歌

秋篠やとやまの里やしぐるらむ 生駒のたけに雲のかかれる   
                  西行     ○サイマ

影とめし露のやどりを思ひ出でて 霜にあととふ浅茅生の月   
                  雅経     ○サイ

しぐれつつ枯れゆく野辺の花なれど 霜のまがきに匂ふ色かな  
                  延喜御歌   ○イ

寂しさに堪えたる人のまたもあれな 庵ならべむ冬の山里    
                  西行      サイ

かつ氷かつはくだくる山河の 岩間にむすぶあかつきの声    
                  俊成     ○マ

志賀の浦や遠ざかりゆく波間より 氷りて出づるありあけの月  
                  家隆     ○アサイ

さざなみや志賀のから崎風さえて 比良の高嶺に霰降るなり   
                  法性寺入道  ○アイマ

ふればかくうさのみまさる世を知らで 荒れたる庭に積る初雪  
                  紫式部    ○アイマ

降り初むる今朝だに人の待たれつる み山の里の雪の夕暮    
                  寂蓮     ○アサイマ

明けやらぬねざめの床に聞ゆなり まがきの竹の雪の下をれ   
                  刑部卿範兼  ○アサイマ

降る雪にたく藻の煙かき絶えて さびしくもあるか塩がまの浦  
                  前関白太政大臣 ○アサイ

田子の浦にうち出でてみれば白妙の 富士の高嶺に雪は降りつつ 
                  山部赤人   ○イマ

日数ふる雪げにまさる炭竈の けぶりもさびしおほはらの里   
                  式子内親王  ○サ


哀傷歌

あはれなりわが身のはてやあさ緑 つひには野べの霞と思へば  
                  小野小町   ○サイマ

誰もみな花のみやこに散りはてて ひとりしぐるる秋の山里   
                  左京大夫顕輔 ○ア

玉ゆらの露もなみだもとどまらず 亡き人恋ふるやどの秋風   
                  定家     ○イ

露をだに今はかたみの藤ごろも あだにも袖を吹くあらしかな  
                  秀能     ○

思ひ出づる折りたく柴の夕煙 むせぶもうれし忘れがたみに   
                  太上天皇   ○


離別歌

思ひ出はおなじ空とは月を見よ ほどは雲居に廻りあふまで   
                  後三条院   ○

君いなば月待つとてもながめやらむ 東のかたの夕暮の空    
                  西行     ○アイマ


羇旅歌

あまざかる鄙のなが路を漕ぎくれば 明石のとよりやまと島見ゆ 
                  人麿     ○サイマ

ささの葉はみ山もそよに乱るなり われは妹思ふ別れ来ぬれば  
                  人麿     ○サマ

信濃なる浅間の嶽に立つけぶり をちこち人の見やはとがめぬ  
                  業平     ○アサイマ

さ夜ふけて葦のすゑ越す浦風に あはれうちそふ波の音かな   
                  肥後     ○アイ

年たけてまた越ゆべしと思ひきや いのちなりけりさ夜の中山  
                  西行     ○サイ
 

恋歌

春日野の若紫のすりごろも しのぶのみだれかぎり知られず   
                  業平     ○アサイマ

かた岡の雪間にねざす若草の ほのかに見てし人ぞこひしき   
                  曽禰好忠   ○アサイ

わが恋は松を時雨の染めかねて 真葛が原に風さわぐなり    
                  慈圓     ○アサイマ

思あれば袖に蛍をつつみても いはばやものをとふ人はなし   
                  寂蓮     ○アサイマ

みるめ刈るかたやいづくぞ棹さして われに教えよ海人の釣舟  
                  業平     ○アサイマ

靡かぎなあまの藻塩火たき初めて 煙は空にくゆりわぶとも   
                  定家     ○イマ

逢ひ見てもかひなかりけりうば玉の はかなき夢におとる現は  
                  藤原興風   ○マサイマ

君待つと閨へも入らぬまきの戸に いたくな更けそ山の端の月  
                  式子内親王  ○マサイマ

言の葉の移ろふだにもあるものを いとど時雨の降りまさるらむ 
                  伊勢     ○サ

浅茅生ふる野辺やかるらむ山がつの 垣ほの草は色もかはらず  
                  よみ人知らず ○アサイマ

春雨の降りしくころは青柳の いと乱れつつ人ぞこひしき    
                  後朱雀院   ○サ

さらしなや姨捨山の有明の つきずもものをおもふころかな   
                  伊勢     ○アサイマ

面影のわすれぬ人によそへつつ 入るをぞ慕ふ秋の夜の月    
                  肥後     ○サ

いくめぐり空行く月もへだてきぬ 契りしなかはよその浮雲   
                  左衛門督通光 ○サイマ

あと絶えて浅茅がすゑになりにけり たのめし宿の庭の白露   
                  二条院讃岐  ○サイマ

消えわびぬうつろふ人の秋の色に 身をこがらしの森の下露   
                  定家     ○イマ

露はらふねざめは秋の昔にて 見はてぬ夢にのこるおもかげ   
                  俊成女    ○

心こそゆくへも知らね三輪の山 杉のこずゑのゆふぐれの空   
                  慈圓     ○アマ

かよひ来しやどの道芝かれがれに あとなき霜のむすぼほれつつ 
                  俊成女    ○アサイマ


雑歌

世の中を思へばなべて散る花の わが身をさてもいづちかもせむ 
                  西行     ○サイマ

すべらぎの木高き蔭にかくれても なほ春雨に濡れむとぞ思ふ  
                  八条前太政大臣 ア

ほととぎすそのかみ山の旅枕 ほのかたらひし空ぞわすれぬ   
                  式子内親王  ○マサイマ

五月雨はやまの軒端のあまそそぎ あまりなるまで漏るる袖かな 
                  俊成     ○アサイマ

思ひきや別れし秋にめぐりあひて またもこの世の月を見むとは 
                  俊成     ○サイマ

藻汐くむ袖の月影おのづから よそにあかさぬ須磨のうらびと  
                  定家     ○

葛の葉のうらみにかへる夢の世を 忘れがたみの野辺の秋風   
                  俊成女    ○

晴るる夜の星か河辺の蛍かも わが住む方に海人のたく火か   
                  業平     ○アサイマ

難波女の衣ほすとて刈りてたく 葦火の煙立たぬ日ぞなき    
                  貫之     ○サイマ

和歌の浦を松の葉ごしにながむれば 梢に寄する海人の釣舟   
                  寂蓮     ○アサイマ

鈴鹿山うき世をよそにふり捨てて いかになりゆくわが身なるらむ 
                  西行    ○アイ

吉野山やがて出でじと思ふ身を 花ちりなばと人や待つらむ   
                  西行     ○アサイマ

しきみ摘む山路の露にぬれにけり あかつきおきの墨染の袖   
                  小侍従    ○アサイマ

思ふことなど問ふ人のなかるらむ 仰げば空に月ぞさやけき   
                  慈圓     ○アサイマ

ねがはくは花のもとにて春死なむ その如月の望月のころ    
                  西行


神祇歌

やはらぐる光にあまる影なれや 五十鈴河原の秋の夜の月    
                  慈圓     ○


釈教歌

阿耨多羅三藐三菩提の佛たち わがたつ杣に冥加あらせたまへ  
                  伝教大師   ○アサイマ

願はくはしばし闇路にやすらひて かがげやせまし法の燈火   
                  慈圓     ○アサイ

これやこのうき世の外の春ならむ 花のとぼそのあけぼのの空  
                  寂蓮     ○アサイマ

道のべの蛍ばかりをしるべにて ひとりぞ出づる夕闇の空    
                  寂然     ○サイマ

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