2006年02月15日14:16
 新古今和歌集の全体に目を通し百首を選ぶ。選ぶ観点は、一に 
 リズム、二にわかりやすく共感できるもの。 
 成立:1205年  1979首 (隠岐本:1576首) 
 撰者:後鳥羽院(○)藤原有家(ア)定家(サ)家隆(イ)雅経(マ) 
 部立:春,夏,秋,冬,賀 哀傷,離別,羇旅,恋,雑,神祇,釈教 
 参照:岩波文庫『新古今和歌集 佐佐木信綱校訂』昭和五十年 
春歌 
山ふかみ春とも知らぬ松の戸に たえだえかかる雪の玉水 
                  式子内親王  ○マ 
明日からは若菜摘まむとしめし野に 昨日も今日も雪は降りつつ  
                  赤人     ○マサイヤ 
若菜摘む袖とぞ身ゆるかすが野の 飛火の野辺の雪のむらぎえ   
                  教長     ○アマ 
今さらに雪降らめやも陽炎の もゆる春日となりにしものを    
                  よみ人知らず ○サ 
夕月夜しほ満ちくらし難波江の あしの若葉を越ゆるしらなみ   
                  藤原秀能   ○ 
岩そそぐたるみの上のさ蕨の 萌えいづる春になりにけるかな   
                  志貴皇子   ○アサイマ 
見わたせば山もとかすむ水無瀬川 夕べは秋となに思ひけむ    
                  後鳥羽上皇  ○ 
春の夜の夢のうき橋とだえして 峯にわかるるよこぐもの空    
                  定家     ○アイマ 
春雨の降りそめしよりあをやぎの 糸のみどりぞ色まさりける   
                  凡河内躬恒  ○イ 
薄く濃き野辺のみどりの若草に あとまで見ゆる雪のむらぎえ   
                  宮内卿    ○ 
吉野山去年のしをりの道かへて まだ見ぬかたの花を尋ねむ    
                  西行     ○サイマ 
はかなくて過ぎにしかたを数ふれば 花に物思ふ春ぞ経にける   
                  式子内親王  ○マ 
山里の春の夕ぐれ来て見れば 入相のかねに花ぞ散りける     
                  能因法師   ○サイマ 
花さそふ比良の山風吹きにけり 漕ぎゆく舟のあと見ゆるまで   
                  宮内卿    ○サイマ 
花さそふなごりを雲に吹きとめて しばしはにほへ春の山風    
                  雅経     ○アイ 
吉野山花のふるさとあとたへて むなしき枝にはるかぜぞ吹く   
                  良経     ○アサイマ 
暮れて行く春のみなとは知らねども 霞に落つる宇治のしば舟   
                  寂蓮     ○サイマ 
夏歌 
春過ぎて夏来にけらししろたへの ころもほすてふあまのかぐ山  
                  持統天皇   ○サイマ 
折ふしもうつればかへつ世の中の 人の心の花染の袖       
                  俊成女    ○サイマ 
郭公こゑ待つほどはかた岡の 森のしづくに立ちや濡れまし    
                  紫式部    ○サイ 
鵜飼舟あはれとぞ見るもののふの やそ宇治川の夕闇のそら    
                  慈圓     ○アサイマ 
いさり火の昔の光ほの見えて あしやの里に飛ぶほたるかな    
                  摂政太政大臣 ○イ 
秋歌 
おしなべて物をおもはぬ人にさへ 心をつくる秋のはつかぜ    
                  西行     ○サイ 
あはれいかに草葉の露のこほるらむ 秋風立ちぬ宮城野の原    
                  西行     ○アサイマ 
吹きむすぶ風はむかしの秋ながら ありしにも似ぬ袖の露かな   
                  小野小町   ○サイマ 
うらがるる浅茅が原のかるかやの 乱れて物を思ふころかな    
                  坂上是則   ○ 
をぐら山ふもとの野辺の花薄 ほのかに見ゆる秋のゆふぐれ    
                  よみ人知らず ○アサイ 
おしなべて思ひしことのかずかずに なお色まさる秋の夕暮    
                  摂政太政大臣 ○サマ 
心なき身にもあはれは知られけり しぎたつ沢の秋の夕ぐれ    
                  西行     ○サイマ 
見わたせば花も紅葉もなかりけり 浦のとまやの秋の夕ぐれ    
                  定家 
風わたる浅茅がすゑの露にだに やどりもはてぬ宵のいなづま   
                  有家     ○サイマ 
ながむればちぢにもの思ふ月にまた わが身一つの嶺の松かぜ   
                  鴨長明    ○アサイマ 
下紅葉かつ散る山の夕時雨 濡れてやひとり鹿の鳴くらむ     
                  家隆     ○ 
まどろまで眺めよとてのすさびかな 麻のさ衣月にうつ声     
                  宮内卿    ○アサイマ 
村雨の露もまだひぬまきの葉に 霧立ちのぼる秋の夕ぐれ     
                  寂蓮     ○アイマ 
秋ふけぬ鳴けや霜夜のきりぎりす やや影さむしよもぎふの月   
                  太上天皇   ○アイマ 
冬歌 
秋篠やとやまの里やしぐるらむ 生駒のたけに雲のかかれる    
                  西行     ○サイマ 
影とめし露のやどりを思ひ出でて 霜にあととふ浅茅生の月    
                  雅経     ○サイ 
しぐれつつ枯れゆく野辺の花なれど 霜のまがきに匂ふ色かな   
                  延喜御歌   ○イ 
寂しさに堪えたる人のまたもあれな 庵ならべむ冬の山里     
                  西行      サイ 
かつ氷かつはくだくる山河の 岩間にむすぶあかつきの声     
                  俊成     ○マ 
志賀の浦や遠ざかりゆく波間より 氷りて出づるありあけの月   
                  家隆     ○アサイ 
さざなみや志賀のから崎風さえて 比良の高嶺に霰降るなり    
                  法性寺入道  ○アイマ 
ふればかくうさのみまさる世を知らで 荒れたる庭に積る初雪   
                  紫式部    ○アイマ 
降り初むる今朝だに人の待たれつる み山の里の雪の夕暮     
                  寂蓮     ○アサイマ 
明けやらぬねざめの床に聞ゆなり まがきの竹の雪の下をれ    
                  刑部卿範兼  ○アサイマ 
降る雪にたく藻の煙かき絶えて さびしくもあるか塩がまの浦   
                  前関白太政大臣 ○アサイ 
田子の浦にうち出でてみれば白妙の 富士の高嶺に雪は降りつつ  
                  山部赤人   ○イマ 
日数ふる雪げにまさる炭竈の けぶりもさびしおほはらの里    
                  式子内親王  ○サ 
哀傷歌 
あはれなりわが身のはてやあさ緑 つひには野べの霞と思へば   
                  小野小町   ○サイマ 
誰もみな花のみやこに散りはてて ひとりしぐるる秋の山里    
                  左京大夫顕輔 ○ア 
玉ゆらの露もなみだもとどまらず 亡き人恋ふるやどの秋風    
                  定家     ○イ 
露をだに今はかたみの藤ごろも あだにも袖を吹くあらしかな   
                  秀能     ○ 
思ひ出づる折りたく柴の夕煙 むせぶもうれし忘れがたみに    
                  太上天皇   ○ 
離別歌 
思ひ出はおなじ空とは月を見よ ほどは雲居に廻りあふまで    
                  後三条院   ○ 
君いなば月待つとてもながめやらむ 東のかたの夕暮の空     
                  西行     ○アイマ 
羇旅歌 
あまざかる鄙のなが路を漕ぎくれば 明石のとよりやまと島見ゆ  
                  人麿     ○サイマ 
ささの葉はみ山もそよに乱るなり われは妹思ふ別れ来ぬれば   
                  人麿     ○サマ 
信濃なる浅間の嶽に立つけぶり をちこち人の見やはとがめぬ   
                  業平     ○アサイマ 
さ夜ふけて葦のすゑ越す浦風に あはれうちそふ波の音かな    
                  肥後     ○アイ 
年たけてまた越ゆべしと思ひきや いのちなりけりさ夜の中山   
                  西行     ○サイ 
  
恋歌 
春日野の若紫のすりごろも しのぶのみだれかぎり知られず    
                  業平     ○アサイマ 
かた岡の雪間にねざす若草の ほのかに見てし人ぞこひしき    
                  曽禰好忠   ○アサイ 
わが恋は松を時雨の染めかねて 真葛が原に風さわぐなり     
                  慈圓     ○アサイマ 
思あれば袖に蛍をつつみても いはばやものをとふ人はなし    
                  寂蓮     ○アサイマ 
みるめ刈るかたやいづくぞ棹さして われに教えよ海人の釣舟   
                  業平     ○アサイマ 
靡かぎなあまの藻塩火たき初めて 煙は空にくゆりわぶとも    
                  定家     ○イマ 
逢ひ見てもかひなかりけりうば玉の はかなき夢におとる現は   
                  藤原興風   ○マサイマ 
君待つと閨へも入らぬまきの戸に いたくな更けそ山の端の月   
                  式子内親王  ○マサイマ 
言の葉の移ろふだにもあるものを いとど時雨の降りまさるらむ  
                  伊勢     ○サ 
浅茅生ふる野辺やかるらむ山がつの 垣ほの草は色もかはらず   
                  よみ人知らず ○アサイマ 
春雨の降りしくころは青柳の いと乱れつつ人ぞこひしき     
                  後朱雀院   ○サ 
さらしなや姨捨山の有明の つきずもものをおもふころかな    
                  伊勢     ○アサイマ 
面影のわすれぬ人によそへつつ 入るをぞ慕ふ秋の夜の月     
                  肥後     ○サ 
いくめぐり空行く月もへだてきぬ 契りしなかはよその浮雲    
                  左衛門督通光 ○サイマ 
あと絶えて浅茅がすゑになりにけり たのめし宿の庭の白露    
                  二条院讃岐  ○サイマ 
消えわびぬうつろふ人の秋の色に 身をこがらしの森の下露    
                  定家     ○イマ 
露はらふねざめは秋の昔にて 見はてぬ夢にのこるおもかげ    
                  俊成女    ○ 
心こそゆくへも知らね三輪の山 杉のこずゑのゆふぐれの空    
                  慈圓     ○アマ 
かよひ来しやどの道芝かれがれに あとなき霜のむすぼほれつつ  
                  俊成女    ○アサイマ 
雑歌 
世の中を思へばなべて散る花の わが身をさてもいづちかもせむ  
                  西行     ○サイマ 
すべらぎの木高き蔭にかくれても なほ春雨に濡れむとぞ思ふ   
                  八条前太政大臣 ア 
ほととぎすそのかみ山の旅枕 ほのかたらひし空ぞわすれぬ    
                  式子内親王  ○マサイマ 
五月雨はやまの軒端のあまそそぎ あまりなるまで漏るる袖かな  
                  俊成     ○アサイマ 
思ひきや別れし秋にめぐりあひて またもこの世の月を見むとは  
                  俊成     ○サイマ 
藻汐くむ袖の月影おのづから よそにあかさぬ須磨のうらびと   
                  定家     ○ 
葛の葉のうらみにかへる夢の世を 忘れがたみの野辺の秋風    
                  俊成女    ○ 
晴るる夜の星か河辺の蛍かも わが住む方に海人のたく火か    
                  業平     ○アサイマ 
難波女の衣ほすとて刈りてたく 葦火の煙立たぬ日ぞなき     
                  貫之     ○サイマ 
和歌の浦を松の葉ごしにながむれば 梢に寄する海人の釣舟    
                  寂蓮     ○アサイマ 
鈴鹿山うき世をよそにふり捨てて いかになりゆくわが身なるらむ  
                  西行    ○アイ 
吉野山やがて出でじと思ふ身を 花ちりなばと人や待つらむ    
                  西行     ○アサイマ 
しきみ摘む山路の露にぬれにけり あかつきおきの墨染の袖    
                  小侍従    ○アサイマ 
思ふことなど問ふ人のなかるらむ 仰げば空に月ぞさやけき    
                  慈圓     ○アサイマ 
ねがはくは花のもとにて春死なむ その如月の望月のころ     
                  西行 
神祇歌 
やはらぐる光にあまる影なれや 五十鈴河原の秋の夜の月     
                  慈圓     ○ 
釈教歌 
阿耨多羅三藐三菩提の佛たち わがたつ杣に冥加あらせたまへ   
                  伝教大師   ○アサイマ 
願はくはしばし闇路にやすらひて かがげやせまし法の燈火    
                  慈圓     ○アサイ 
これやこのうき世の外の春ならむ 花のとぼそのあけぼのの空   
                  寂蓮     ○アサイマ 
道のべの蛍ばかりをしるべにて ひとりぞ出づる夕闇の空     
                  寂然     ○サイマ
 
 
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