2006年02月16日11:51
古今和歌集の全体に目を通し、百首を目処に和歌を選ぶ。選ぶ
観点は、新古今和歌集でのそれと同じ。一にリズム、二にわか
りやすく共感できるもの。古来有名でも、詞、姿がたくみでも、
内容が陳腐だったり感動を共感できないものは撰ばず。その結
果、百首に至らず、66首。
成立:905年 1111首
撰者:醍醐天皇 紀友則、紀貫之、凡河内躬恒、壬生忠岑
部立:春,夏,秋,冬,賀 離別,羇旅,物名,恋,哀傷,雑,雑体,他
参照:新潮日本古典集成『古今和歌集 奥村恆哉校注』1978年
春
袖ひちてむすびし水の凍れるを春たつ今日の風やとくらむ
貫之
雪のうちに春は来にけり鶯のこぼれる涙今やとくらむ
二条后
君がため春の野に出でて若葉摘むわが衣手に雪は降りつつ
光孝天皇
春日野の若菜摘みにや白妙の袖ふりはへて人のゆくらむ
貫之
人はいさ心も知らずふるさとは花ぞむかしの香ににほひける
貫之
世の中にたへて桜のなかりせば春の心はのどけからまし
業平
見わたせば柳桜をこきまぜてみやこぞ春の錦なりける
素性法師
見る人もなき山里の桜花ほかの散りなむ後ぞ咲かまし
伊勢
ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ
紀友則
春雨の降るは涙か桜花散るを惜しまぬ人しなければ
大伴黒主
ふる里となりにし奈良の都にも色はかはらず花は咲きけり
平城帝
花のいろは霞にこめて見せずとも香をだにぬすめ春の山風
良岑宗貞
三輪山をしかも隠すか春霞人に知られぬ花や咲くらむ
貫之
花の色はうつりにけるないたづらに我が身世にふるながめせしまに
小野小町
夏
夏の夜の臥すかとすれば時鳥鳴くひと声に明くるしののめ
貫之
蓮(はちす)葉のにごりにしまぬ心もてなにかは露を玉とあざむく
遍昭
夏の夜はまだよひながら明けぬるを雲のいづこに月やとるらむ
深養父
秋
秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる
藤原敏行
奥山にもみぢふみわけ鳴く鹿の声きくときぞ秋はかなしき
よみ人しらず
里はあれて人はふりにし宿なれば庭もまがきも秋の野らなる
遍昭
心あてに折らばや折らむはつ霜のおきまどはせる白菊の花
凡河内躬恒
恋しくは見てもしのばむもみぢ葉を吹きな散らしそ山おろしの風
よみ人しらず
ちはやぶる神代も聞かず龍田川からくれなゐに水くくるとは
業平
見る人もなくて散りぬるおく山のもみぢは夜の錦なりけり
貫之
冬
冬ごもり思ひかけぬを木の間より花と見るまで雪ぞ降りける
貫之
あさぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里に降れる白雪
坂上是則
賀
わがきみは千代に八千代にさざれ石の巌となりて苔のむすまで
よみ人しらず
桜花散りかひくもれ老ひらくの来むといふなる道まがふがに
業平
住の江の松を秋風吹くからにこゑうちそふる沖つ白波
躬恒
千鳥なく佐保の川霧立ちぬらし山の木の葉も色まさりゆく
忠岑
離別
むすぶ手の雫ににごる山の井の飽かでも人を別れぬるかな
貫之
羇旅
天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山にいでし月かも
安倍仲麿
わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと人にはつげよ海人の釣舟
小野篁
ほのぼのと明石の浦の朝霧に島隠れゆく船をしぞ思ふ
人麿
唐衣着つつなれにしつましあればはるばる来ぬる旅をしぞ思ふ
業平
名にし負はばいざ言問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと
業平
狩り暮らし織女(たなばたつめ)に宿からむ天の河原に我は来にけり
業平
恋
川の瀬になびく玉藻の水隠れて人に知られぬ恋もするかな
友則
東路の小夜の中山なかなかに何しか人を思ひそめけむ
友則
有明のつれなくみえし別れより暁ばかり憂きものはなし
忠岑
君や来しわれや行きけむおもほえず夢かうつつか寝てか覚めてか
よみ人しらず
さむしろに衣かたしきこよひもやわれを待つらむ宇治の橋姫
よみ人しらず
里人の言は夏野のしげくとも離(か)れゆく君に逢はざらめやは
よみ人しらず
須磨の海人の塩やく煙風をいたみおもはぬかたにたなびきにけり
よみ人しらず
紅のはつ花ぞめの色ふかくおもひし心われ忘れめや
よみ人しらず
陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れむと思ふわれならなくに
河原左大臣
月やあらぬ春やむかしの春ならぬわが身ひとつはもとの身にして
業平
色みえでうつろふものは世の中の人の心の花にぞありける
小町
哀傷
色の香も昔の濃さに匂へども植ゑけむ人のかげぞ恋しき
貫之
かずかずに我を忘れぬものならば山の霞をあはれとは見よ
よみ人しらず
もみぢ葉を風にまかせて見るよりもはかなきものは命なりけり
大江千里
つひにゆく道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを
業平
かりそめの行き甲斐路とぞ思ひ来し今はかぎりの門出なりけり
在原滋春
雑
むらさきの一本ゆゑに武蔵野の草は皆がらあはれとぞ見る
よみ人しらず
大原や小塩の山も今日こそは神代のこともおもひ出づらめ
業平
天つ風雲の通ひ路吹きとぢよをとめのすがたしばし止めむ
宗貞
かたちこそみ山がくれの朽木なれ心は花になさばなりなむ
兼芸法師
飽かなくにまだきも月のかくるるか山の端にげて入れずもあらなむ
業平
いにしへのしづのおだまき賤しきもよきも盛りもありしものなり
よみ人しらず
世の中はなにか常なる明日香川昨日の淵ぞ今日は瀬となる
よみ人しらず
わびぬれば身を浮き草の根をたえて誘ふ水あらばいなむとぞ思ふ
小町
あはれてふ言の葉ごとにおく露は昔を恋ふる涙なりけり
よみ人しらず
白雲のたえずたなびく峰にだに住めば住みぬる世にこそありけれ
惟喬親王
世を捨てて山に入る人山にてもなほ憂き時はいづち行くらむ
躬恒
忘れては夢かとぞ思ふ思ひきや雪ふみわけて君を見むとは
業平
わがいほは京(みやこ)の辰巳しかぞ住む世を宇治山と人はいふなり
喜撰法師
みち知らば摘みにも往かむ住の江の岸に生ふてふ恋忘れ草
貫之
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