2006年04月21日09:40
堤中納言という人についての物語でもないし、作者の名
前でもないようだ。十編の短編集であり、全体として一
つの物語になっている訳でもない。印象に残ったもの。
花櫻折る少将
好き者の中将がある女からの帰り、荒れた家で美しい少
女を垣間見る。家臣が懇意にしているというので手引き
してもらった。衣をかぶって小さな人が臥していたので
少女と思ってかき抱き、車に乗せようとしたら、少女の
おばあさんであった。滑稽談。源氏物語の一部としてそ
っと挿入してもわからないかも知れない。
虫めづる姫君
虫が大好きな姫が居て、化粧もしない。眉は普通抜くの
に、生やしっぱなしで毛虫のよう。少年の君達が本物の
蛇とそっくりなものを作り手紙と共に送ったら、平静さ
を装ったがわなないた。顔立ちは美しいのに惜しいこと
だと君達は言った。滑稽談。
思はぬ方にとまりする少将
両親に先立たれてひっそり暮らす姉妹に、それぞれ別の
少将が通いだした。ある日少将を取り違えてそれぞれが
相手をしてしまった話。滑稽談。これは源氏物語の宇治
の橋姫姉妹と薫君と匂宮を連想させる。
はいずみ
零落しているが、好き者の男が女に通いだした。女の両
親は、引き取ってきちんとした夫婦になってくれという
ので、承諾してしまった。本妻は、泣く泣く身を引いて、
昔使っていた侍女を頼って遠く落ちる。残された男は、
本妻を愛していることに気づき、すぐ迎えに行く。女の
方には、本妻がちょっと体の具合が悪いのでそのうちに
と言う。女は男が通ってきたので、暗い中、あわてて化
粧する。白粉と眉墨をまちがえて、顔は真っ黒、気がつ
かない。男は不気味と逃げ出す。女の両親は倒れ臥す。
滑稽談。
よしなしごと
僧が山籠りするからと懇意の女に、あれくれ、これくれ
と長い手紙でむしんする。物に執着したあきれ果てた僧。
なんのための山籠りやら。山籠りは嘘で、別の女に貢ぐ
ためか。最後に本編に関係あるのかないのかわからない
謎の断片が付いていて、そう思わせる。
日本古典全書『堤中納言物語 落窪物語 所弘校注』朝日新聞社
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