2006年05月16日14:15
白楽天、本名は白居易(772年〜846年)。集大成の白氏文集
は、源氏物語、枕草子、和漢朗詠集などに影響を与えていると言わ
れる。ちなみに、芭蕉の座右の書には白氏文集と源氏物語が入って
いる。白氏文集は大作、とりあえず『白楽天100選』を読む。特
に印象に残った句や聯(二句)だけを書き留める。( )内は作品名。
●新進官僚時代(29才〜44才)
○林間煖酒焼紅葉 (送王十八帰山寄題仙遊寺)
林間に酒を暖めて紅葉を焼く
○大都山属愛山人 (遊雲居寺贈穆三十六地主)
おおむね山は山を愛する人に属す
○三五夜中新月色 二千里外故人心
さんごやちゅう新月の色 にせんりがい故人の心
(八月十五日夜禁中独直対月憶元九)元九は同期で親友。
<源氏物語 須磨の巻で引用>
(長恨歌)
玄宗と楊貴妃の叙事長編詩。源氏物語を連想させる部分を<>で。
幸福な日々
○三千寵愛在一身 <桐壺帝の桐壺への寵愛>
三千の寵愛一身に在り
○不重生男重生女 <光源氏は娘を中宮にする>
男を生むを重んぜず女を生むを重んぜしむ
政情不安で長安を出て西に逃れる途上、楊貴妃死ぬ
○夜雨聞鈴腸断声 <紫の上に先立たれた光源氏の悲哀>
夜雨に鈴を聞けば腸断の声
政情回復し長安にもどるが愛しい人はいない
○春風桃李花開日 秋雨梧桐葉落時 <光源氏の憂愁の一年>
しゅんぷうとうり花開く日 しゅううごどう葉落つる時
楊貴妃の霊魂を探させる
○梨花一枝春帯雨 蓬莱宮の楊貴妃の霊の様子
りかいっし春雨を帯ぶ
○在天願作比翼鳥 在地願為連理枝 生前の誓いの言葉
天に在りては願わくは比翼の鳥となり地に在りては願わくは
連理の枝とならん
○独出門前望野田 月明蕎麦花如雪 (村夜)亡母の服喪中
独り門前に出でてやでんを望めば 月明らかにしてきょうばく
はな雪の如し
●左遷・草堂閑適時代(44才〜49才)
体制を批判する社会風刺の新楽府や秦中吟なども左遷の原因
となったとされている。廬山の香炉峰下に草堂を創る。
○遺愛寺鐘欹枕聴 香炉峰雪撥簾看
(香炉峰下新卜山居草堂初成偶題東壁)
いあいじの鐘は枕をそばだてて聴き こうろほうの雪は
簾をかかげて看る
枕草子で清少納言は、香炉峰の雪はどうかと問われて、簾を
揚げさせて才知のあるところを見せた。
○夜深知雪重 時聞折竹声 (夜雪)
夜深くして雪の重きを知る 時に聞くせっちくの声
○愛酒不愛名 憂醒不憂貧 (効陶潜体詩 並序)
酒を愛して名を愛さず 醒むるを憂えて貧を憂えず
草堂は陶淵明旧宅の近く。白楽天は昔から陶淵明に傾倒。
(琵琶行)
友人を港に送ったときどこからか、琵琶のおくゆかしい調べ
が聞こえる。その主はある舟の中らしい。幾艘もの舟が周り
を囲んだ。素性を尋ねると、元長安の歌妓で昔は時めいてい
たが今は容色も衰え落ちぶれて、舟がねぐらの商人の妻。夫
を待っているとのこと。もう一度演奏を請う。身の上話と魂
をゆさぶるような演奏に一同は涙を流す。白楽天ははじめて
流された悲しさが身に沁みたのであった。
<源氏物語の明石の巻で引用>
●花鳥諷詠・円熟時代(49才〜)
○鶯声誘引来花下 草色勾留坐水辺
鶯の声に誘引せられて花の下に来る 草の色に勾留せられ
て水辺に坐す 和漢朗詠集にも撰ばれている。
■『漢詩をよむ 白楽天100選』 石川忠久 NHKライブラリー
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